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第2章 幼年編
691 勘違い
しおりを挟む新貴族組との模擬戦の様子もサミュエル学園長にちゃんと報告したよ。
だってほうれん草だっけ?
報告・連絡・相談はコミュニケーションを円滑にするって言ってたもん。
「権利を主張する、それはいい。人として当たり前にね。
だが本来なら勝ち得ない世襲の特権的な優位を主張する‥‥これはいただけないな。
ヴィヨルドは尚武優先の新興国ゆえに、他所よりはまだ少ないがね。
やはり貴族という輩は‥‥‥‥フッ」
そう言ったサミュエル学園長がお手上げのポーズをとったんだ。
「だから帝国でさえ貴族は1代限りにしてるんですよね」
「それを成し得るだけの強国、失敗に学べる歴史がある強国だからね、帝国は」
「はい」
「学園長、武闘祭にアイツらまた魔法衣を着てくる可能性がありますよ」
「ん。それじゃ真面目に努力してきた生徒が報われないからね。今1度、先生方に周知徹底させよう」
「はい。俺もそれがいいと思います」
このときはこれで魔法衣を使う生徒はいなくなるだろうって思ってたんだ。だけど‥‥あいつらがあんなふうにしかけてくるなんて……。
【 ハイルside 】
「おっさん、今日もごっっつおーさん」
もう何度めだろうか。元寮生のハイルが人族初老の紳士に食事をご馳走してもらうのは。そして帰途に魔石をもらうのも何個めになったろう……。
初老の男は、相も変わらず特徴のないところが逆に特徴的な紳士。
事実、ハイルはいまだにこの男の名前も覚えてはいなかった。
「おっさんのおかげで俺も何倍も強うなったわ。おおきにな。
でもなぁ、俺なんもお礼してへんしなぁ。さすがに気になってきたわ」
「クックック。ハイル君、君はいずれ我が郷里の誇る英雄になるんだからね。食事や魔石の提供なんて取るに足らないことなのさ」
「英雄‥‥ホンマかな」
「ああ、もちろん本当だよ。いずれ君は間違いなく英雄になる。だから今は何も気にしなくていい」
「そう言ってくれると気が楽やわ。そうや!おっさんに聞きたかったことがあったんや」
「なんだいハイル君?」
「魔石のおかげで魔力はついてきてんねんけど、俺はふだん何の練習やるのがええのかな聞こうと思っててん」
「クックック。さすがは未来の英雄様だね。それじゃあ僕からとっておきのことを教えよう」
「なんやなんや?とっておきのことって?」
「ハイル君。君はもう、僕があげた魔石でわかるだろ。僕の言う助言がいかに君を強くするのかを」
こくこく こくこく
紳士の言葉に強く頷くハイルだった。
「君がさらに強くなるにはね‥‥」
「さらに強くなるには‥‥」
ごくんっ……。
【 屋台ギルドのプレゼン 】
屋台、調理具、箱庭の公園などなど。すべてをミニチュアフィギュアにして発現したんだ。目で見て話をすれば、俺のような口下手でもプレゼンはバッチリだからね!
「ミョクマルさん、サンデーさん。屋台に特化したギルドを作るんだよ」
「「屋台に特化?」」
「うん。例えばね、屋台をやりたい人は、屋台の購入資金がない。あるいはあっても高額な費用をかけて失敗したくないよね」
「「そりゃそうだね(そうね)」」
「そこで帝国で成功したラーメン屋さん育成の構図をギルド式にするんだ」
こくこく
コクコク
「帝国のカサンドラに聞いたよ。ラーメン屋さんは毎日すごいことになってるんだって?」
「うん。どの店も毎日お客さんで繁盛してたよ」
「店主には貧民街出身者や獣人もいるんだって?そんな彼らでも成功できるんだって、帝都の若者から中年、年配の人に夢も作ってるんだってカサンドラも自慢してたよ」
「うん。カサンドラさんが調理から接客、お金の管理まで細かく教えてくれたからね。
今回はそのやり方を踏襲するんだ。誰がやっても成功するやり方をね。
屋台をやるのは1人。1人親方だよねミョクマルさん?」
「そうだね」
「まず屋台ギルドを作るんだ。これはこれまでに信頼と実績のある冒険者や騎士団のお年寄りや身体の不自由な人たちで。
帳簿や接客も冒険者ギルドや騎士団に関わってた年配の人たちが組合員に教えてあげるんだ」
「そりゃいいな。わしもギルドを辞めたら雇ってもらうかな」
「うん、そんな感じなんだよ。まだまだ働ける年配の人たちの力を借りるんだよ」
「なるほどね。それから?」
「ギルドは屋台をやりたい組合員に代わって屋台を購入。売りっぱなしじゃないよ。
1人親方がやり易いように屋台運営全般を助言指導して運営していくんだよ」
こくこく
コクコク
「もし上手くいかない人がいたら、その都度ギルドから指導してあげれば失敗は限りなく防げるからね。何が売れない原因なのかって」
「「なるほど‥‥」」
そう、俺が考えたのはフライチャイズチェーン。FC展開なんだ。
「組合員は月々少額ずつ無理のない範囲で屋台などの初期費用を返済していくんだ。
結果、最終的には数年で自分の屋台になるよね。中には人を使って2台め、3台めの屋台運営をする人まで現れるかもしれないでしょ。ああ、もちろん契約書を交わしてもらうよ」
「「ほぉ(なるほどね)」」
「ギルド式にするからギルド本部は幅広く運営できるんだよ。
屋台にしても10台20台100台と同じものを作れば鍛冶屋にも安く発注が可能になるよね。
食材にしても小麦粉を屋台100台分を発注したら安く購入できるし」
こくこく
コクコク
ミョクマルさんもサンデーさんも頭をフル回転して聞いててくれてる。
「肉串の屋台でも1台じゃなくて10台20台なら。肉を刺す串を作る人は寡婦でもできるよ。肉を狩る人はもちろん冒険者。解体する人はごギルドとは別に雇えると思う。
そんな感じで炭火の炭を作る人、解体して残った骨はラーメン屋台のダシ用に回せれるよね。さらにダシをとったあとの骨もギルドの提携先の農場の肥料にするんだよ。
そうしたらかなりのものが入口から出口までギルドで賄える。ギルドが回れば領都の経済も回るでしょ」
「「‥‥」」
「屋台ギルドだけじゃないよ。今狂犬団でやってるソーセージハム工房やパン工房もそれぞれギルド形式にするんだよ。そんな屋台ギルド、ハムギルド、パンギルドなんかを総まとめにしてミョクマルさんとこの商業ギルドが代表してくれたら、保険の問題も解決できるし,長い目でみてうちのサンアレ商会もヴィヨルドの商業ギルドもとてつもない利益を生む集団になるよ。てかいずれはヴィヨルド商業ギルドも帝都の商業ギルドも、商売の上では合併すると思う。中原中の主だった国すべてに販路を持つ最大の組織になると思う‥‥‥‥」
「「‥‥」」
「とまあ、ちょっぴり大きな話かもしんないけど、まずは屋台ギルドから始めるんだよ。
ここから始めて、治安維持だけじゃなくって大資本を持つ王都の商会や貴族にも対抗できる組織にするんだよ。どうかな?」
「「アレク君!」」
【 ハイルside 】
「ハイル君。君が今よりさらに強くなるには、気持ちの持ち様が1番重要なんだよ」
「気持ちの持ち様?なんやそれ?」
「なに単純なことさ。強い思いを持つだけのことなんだよ」
「強い思い?俺アホやからなんやようわからへんわ」
「何を言ってるんだい!そこまで魔力が上がったハイル君がアホなんかあるわけがない!
君はただ、自分自身の能力の高さを知らないだけなんだよ」
「なんやおっさんに言われるたびに俺、自分自身を信じてまうわ」
「信じなくてどうするんだい!君はまごうことない英雄なんだよ」
「俺が英雄‥‥そうか‥‥俺は英雄なんや!」
「そうだよ。君は英雄だ」
「英雄だから何をやっても許されるんだよ。それが英雄なんだからね」
「何をやっても?」
「そう。例えばね、目の前にハイル君が欲しいものがある。でもそこに同じものを欲しがる友だちがいる。じゃあどうする?」
「えっと‥‥」
「答えは単純だよ。欲しいものを手にできるのはハイル君だけだ。友だちにだって譲る必要はない。
なぜなら君は英雄だから。
君が欲しいものは君が手に入れる。それが正義、それが気の持ち様なんだよ」
「‥‥わかったよ。おっさん!俺は俺の欲しいものを手にする」
「そうだ。ハイル君、君は君の欲しいものを1番に手に入れる。それだけを考えて行動する。
それが強くなる最短の考え方だよ」
こくこく こくこく こくこく
「わかったよ、おっさん!」
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