663 / 722
第2章 幼年編
664 待ち構える敵
しおりを挟むシュッッ!
ザスッッ!
「グハッ!」
「なぜ闇の中で見えるんだ?!」
シュッッ!
ザスッッ!
「ガハッ!」
「「引け引けー!」」
「「逃げろ逃げろー!」」
結局、夜通し何度となく賊は襲ってきた。
といってもほとんどが堀に阻まれてたけど。
それでも。中には落ちた堀から這い上がって突っ込んできた賊も何人かいたんだ。
槍衾?
ううん、やっぱ人には使いたくなかったんだよね。だから弓矢で急所を外して射っただけ。鏃には魔法塗料が塗ってあるけどね。
朝ご飯を食べたあと。みんなに馬車に乗ってもらったよ。
「今日は俺が声をかける以外、絶対に何があっても開けたらダメだからね!」
こくこく
コクコク
こくこく
「このまま急ぐから、午後にはアザリアに着くからね」
こくこく
コクコク
こくこく
「頼んだぞアレク」
「もちろんだよヴァルカンさん」
「御者さん。じゃあお願いします」
「「「わかりましたアレク君」」」
ゴロゴロゴロゴロ‥‥
動き出してすぐだった。
「多いねーアレク」
「うん。今回で1番多くない?」
ウォーーッ ウォーーッ ウォーーッ‥
「さぁサクサクやるわよー!サンデーちゃんにも出てもらって」
「えーまた競争かよ!?」
「そうよ!リアルシューティングゲームよ!」
「サンデーさんちょっといい?」
「アレク君ひょっとしてシルフィさんのお誘い?」
「あははは‥‥」
てか、最初から弓持って出てきたよこの人!めっちゃ楽しそうだし。
「サンデーさんは右側、俺が左側だよ」
「わかったわ!よろしくねシルフィさん!」
シルフィが涼しい風をサンデーさんに送ったみたい。シルフィが人に気を許してるってなんだか新鮮だよな。
ワーワーワーワー‥
ウオオオォォーーッ
思い思いに雄叫びを上げながら。馬車を取り囲むように賊が襲ってきたんだ。
ほとんどが徒歩。だけど中に数騎、明らかに制服らしき服を着た男たちもいたんだ。
「こいつらって騎士団?制服が違うと思うけど?」
「アレク君この人たちはサウザニアの騎士団員よ」
「制服が違うよ?」
「ええ。総督の代になって制服を作り替えたのよ」
「えっ?なんで?」
「だって制服も新しくしたら、潤う人も出てくるでしょ。為政者が代わるとよく起こることなのよ」
「なるほどね。チッ‥‥馬鹿ばっかりだ‥‥」
「アレク君?」
「あははは……。な、なんでもないよ。シルフィ、サンデーさん勝負だ!」
「フフフ。シルフィさん、よろしくね!あっ、間違えたわ!勝負よアレク君!」
「あははは。勝負だ!」
(アレク‥‥あんた‥‥)
「引き分けね」
「あはははは。そうみたいだね」
総勢50人ほどを射ったよ。たぶん、2度め3度めの赤色、紫色が確定した奴も結構いると思う。
もちろん‥‥サウザニア騎士団員もね……。
結局奴らは蜘蛛の子を散らすように逃げていったんだ。
ただ1組だけ。
一般的な射程圏には入ってこなかったけど、様子を伺っている2人がいたんだ。
300メル離れて、目立たないように地面に伏せてるけどね。もちろん俺の索敵に引っかかってるし、シルフィの射程なら余裕すぎるくらいの距離だよ。
「シルフィ、若い男の頬を薄く切って」
「任しといて!」
シュッッッ!
シルフィの補正付きの矢が、若い男の頬を掠ったんだ。
「アウッッ!」
「若!」
若い男も爺さんもめちゃくちゃびっくりしてたよ。
「海洋諸国人。これが最後の警告だからな」
ダダダダダッッッ!
慌てて2人が後方に去っていったよ。
1人は俺よりやや年長。もう1人は老人。
2人とも小柄。
見るからに海洋諸国人らしさを醸していたよ。
海洋諸国人。
ドワーフやサンデーさんを害するためにいるってことは依頼主は総督か家宰だよな。
そんでもってこいつらは、間違ってもキム先輩のアイランド一族じゃない。
てことは反アイランド一族。ここで俺が2人を叩いても問題にはならないはず。
「若!いかん!こいつは次元が違う。しかも我らの身元も知っておる!
奴の温情があるうちに引くべきじゃ!」
「うるさい爺!引けねぇんだよ。せめてドワーフかサンデーの1人くらいは殺らねぇと」
「死ぬぞ若!」
「そんでもだよ!」
「若‥‥」
―――――――――――
ゴロゴロゴロゴロ‥‥
馬車はアザリアに向けて動き出したんだ。
あと半日でアザリアに着くだろうな。
「アレク‥‥」
「シルフィ‥‥俺の心、読めてんだろ。そのとおりだよ。警告って言ってるのは俺自身のためだよ。
警告したんだから、頼むから向かっこないでくれってことだよ。
そのくらい‥‥‥‥俺はこれから騎士団員を、彼らを殺すかもしれない自分を許せない‥‥」
「アレク、あんたお爺ちゃん師匠の言葉が響いてるんでしょ」
「そうだよ。だってさ‥」
ディル師匠は言ったんだ。
「手は2本しかないって」
ちゃんと物を掴むのには両手で1つ。そういうことを師匠は俺に教えたかったんだよな。
ドワーフ全員を助けるためには、悪い奴らを殺さないように「加減」なんてできないってことを……。
俺はそんな苦しい胸の内をシルフィに吐露しようとしてたんだ。
そしたらね。
スッとサンデーさんが俺の隣に座ったんだ。
「サンデーさん?」
サンデーさんは前を向いたまま、俺の手をそっと掴んで自分の膝の上に乗せたんだ。
「アレク君‥‥アレク君は悪くない。
悪いのは総督よ。今の家宰たちよ。
だからあなたが気に留めることはないわ」
やっぱりな。
昔からサンデーさんは何でも知ってたんだ。今俺が何を考えてるのかも。
あゝ、それととっくに俺の出自も知ってたんだ……。
シルフィがサンデーさんに心を許したのもそういうことなんだな。
「サンデーさん‥‥今まで言わなかったけど、ずっと昔から‥‥‥‥俺の、本当の出自を知ってたんだよね?」
「ええ‥‥」
「キツいことを言うわよアレク君」
「うん」
「冒険者のあなたが今回受けた依頼はドワーフさんたちを救うことよね」
「うん‥‥」
「だからその依頼の妨げになる人たちが、たとえヴィンサンダーの騎士団員であっても、排除しなければならないわ。
優しいあなたがどれだけ武力行使を避けようとしても、相手は理解してくれないわ。
だから、騎士団員がいようがいまいが、あなたが気に病む必要はまったくないのよ。
ましているのは正義の騎士団じゃないんだから」
きっぱりとサンデーさんが言ったんだ。
「サンデーさん。受けた依頼は必ずやり遂げるよ。
それでも‥‥もし今回俺が誰か騎士団員を殺したら‥‥俺は父上の後を継ぐ資格はないと思ってる‥‥」
「もしそうなっても、それはあなたのせいじゃない。あなたは悪くない!」
「それでもだよサンデーさん。
自領の民を殺すような男に領主は務まらない‥‥」
「アレク君‥‥」
「あーあ。こんな依頼早く終わらせて、サンデーさんに帝国で作った新しい料理を食ってもらい‥‥たかったな‥‥う、うっ‥‥」
俺は真っ直ぐ前だけを見ながらサンデーさんに話したんだ。
いつの間にか涙が止まらなかったんだけどね。
「アレク君‥‥」
「ありがとうねサンデーさん。やっぱ昔から、いつも俺のことをわかってくれるのはシルフィとサンデーさんだけだよ」
「「‥‥」」
流した涙と苦しい胸の内を吐き出せて、少しはスッキリしたんだ。
いつしか午後の12点鐘になっていた。
目の前に広がるのは広々とした平原。
この先には、1年ぶりのアネキアの領都アネッポがある。
「アレク、最後の関門よ。あいつらも手ぐすねひいて、あんたを待ってるわ」
「ああシルフィ。歓迎してくれるみたいだな」
「アレク君大丈夫?」
「もちろんだよサンデーさん。
奴らの歓迎に全力で応えるよ」
―――――――――――
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない
鐘成
ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン
都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。
今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上
レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。
危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。
そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。
妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-
haruhi8128
ファンタジー
受験を間近に控えた高3の正月。
過労により死んでしまった。
ところがある神様の手伝いがてら異世界に転生することに!?
とある商人のもとに生まれ変わったライヤは受験生時代に培った勉強法と、粘り強さを武器に王国でも屈指の人物へと成長する。
前世からの夢であった教師となるという夢を叶えたライヤだったが、周りは貴族出身のエリートばかりで平民であるライヤは煙たがられる。
そんな中、学生時代に築いた唯一のつながり、王国第一王女アンに振り回される日々を送る。
貴族出身のエリートしかいないS級の教師に命じられ、その中に第3王女もいたのだが生徒には舐められるばかり。
平民で、特別な才能もないライヤに彼らの教師が務まるのか……!?
努力型主人公を書いて見たくて挑戦してみました!
前作の「戦力より戦略。」よりは文章も見やすく、内容も統一できているのかなと感じます。
是非今後の励みにしたいのでお気に入り登録や感想もお願いします!
話ごとのちょっとしたものでも構いませんので!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる