アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

664 待ち構える敵

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 シュッッ!

 ザスッッ!

 「グハッ!」

 「なぜ闇の中で見えるんだ?!」

 シュッッ!

 ザスッッ!

 「ガハッ!」

 「「引け引けー!」」

 「「逃げろ逃げろー!」」

 結局、夜通し何度となく賊は襲ってきた。
 といってもほとんどが堀に阻まれてたけど。

 それでも。中には落ちた堀から這い上がって突っ込んできた賊も何人かいたんだ。

 槍衾?
 ううん、やっぱ人には使いたくなかったんだよね。だから弓矢で急所を外して射っただけ。鏃には魔法塗料が塗ってあるけどね。

 朝ご飯を食べたあと。みんなに馬車に乗ってもらったよ。

 「今日は俺が声をかける以外、絶対に何があっても開けたらダメだからね!」

 こくこく
 コクコク
 こくこく
 
 「このまま急ぐから、午後にはアザリアに着くからね」

 こくこく
 コクコク
 こくこく

 「頼んだぞアレク」

 「もちろんだよヴァルカンさん」

 「御者さん。じゃあお願いします」

 「「「わかりましたアレク君」」」

 ゴロゴロゴロゴロ‥‥


 動き出してすぐだった。

 「多いねーアレク」

 「うん。今回で1番多くない?」

 ウォーーッ ウォーーッ ウォーーッ‥

 「さぁサクサクやるわよー!サンデーちゃんにも出てもらって」

 「えーまた競争かよ!?」

 「そうよ!リアルシューティングゲームよ!」

 「サンデーさんちょっといい?」

 「アレク君ひょっとしてシルフィさんのお誘い?」

 「あははは‥‥」

 てか、最初から弓持って出てきたよこの人!めっちゃ楽しそうだし。

 「サンデーさんは右側、俺が左側だよ」

 「わかったわ!よろしくねシルフィさん!」

 シルフィが涼しい風をサンデーさんに送ったみたい。シルフィが人に気を許してるってなんだか新鮮だよな。

 ワーワーワーワー‥
 ウオオオォォーーッ

 思い思いに雄叫びを上げながら。馬車を取り囲むように賊が襲ってきたんだ。

 ほとんどが徒歩。だけど中に数騎、明らかに制服らしき服を着た男たちもいたんだ。

 「こいつらって騎士団?制服が違うと思うけど?」

 「アレク君この人たちはサウザニアの騎士団員よ」

 「制服が違うよ?」

 「ええ。総督の代になって制服を作り替えたのよ」

 「えっ?なんで?」

 「だって制服も新しくしたら、潤う人も出てくるでしょ。為政者が代わるとよく起こることなのよ」

 「なるほどね。チッ‥‥馬鹿ばっかりだ‥‥」

 「アレク君?」

 「あははは……。な、なんでもないよ。シルフィ、サンデーさん勝負だ!」

 「フフフ。シルフィさん、よろしくね!あっ、間違えたわ!勝負よアレク君!」

 「あははは。勝負だ!」

 (アレク‥‥あんた‥‥)
























 「引き分けね」

 「あはははは。そうみたいだね」

 総勢50人ほどを射ったよ。たぶん、2度め3度めの赤色、紫色が確定した奴も結構いると思う。
 もちろん‥‥サウザニア騎士団員もね……。

 結局奴らは蜘蛛の子を散らすように逃げていったんだ。

 ただ1組だけ。
 一般的な射程圏には入ってこなかったけど、様子を伺っている2人がいたんだ。
 
 300メル離れて、目立たないように地面に伏せてるけどね。もちろん俺の索敵に引っかかってるし、シルフィの射程なら余裕すぎるくらいの距離だよ。

 「シルフィ、若い男の頬を薄く切って」

 「任しといて!」






 シュッッッ!

 シルフィの補正付きの矢が、若い男の頬を掠ったんだ。

 「アウッッ!」

 「若!」

 若い男も爺さんもめちゃくちゃびっくりしてたよ。

 「海洋諸国人。これが最後の警告だからな」

 ダダダダダッッッ!

 慌てて2人が後方に去っていったよ。

 1人は俺よりやや年長。もう1人は老人。
 2人とも小柄。
 見るからに海洋諸国人らしさを醸していたよ。

 海洋諸国人。
 ドワーフやサンデーさんを害するためにいるってことは依頼主は総督か家宰だよな。

 そんでもってこいつらは、間違ってもキム先輩のアイランド一族じゃない。

 てことは反アイランド一族。ここで俺が2人を叩いても問題にはならないはず。





 「若!いかん!こいつは次元が違う。しかも我らの身元も知っておる!
 奴の温情があるうちに引くべきじゃ!」

 「うるさい爺!引けねぇんだよ。せめてドワーフかサンデーの1人くらいは殺らねぇと」

 「死ぬぞ若!」

 「そんでもだよ!」

 「若‥‥」


―――――――――――


 ゴロゴロゴロゴロ‥‥

 馬車はアザリアに向けて動き出したんだ。
 あと半日でアザリアに着くだろうな。





























 「アレク‥‥」

 「シルフィ‥‥俺の心、読めてんだろ。そのとおりだよ。警告って言ってるのは俺自身のためだよ。
 警告したんだから、頼むから向かっこないでくれってことだよ。

 そのくらい‥‥‥‥俺はこれから騎士団員を、彼らを殺すかもしれない自分を許せない‥‥」

 「アレク、あんたお爺ちゃん師匠の言葉が響いてるんでしょ」

 「そうだよ。だってさ‥」

 ディル師匠は言ったんだ。

 「手は2本しかないって」

 ちゃんと物を掴むのには両手で1つ。そういうことを師匠は俺に教えたかったんだよな。

 ドワーフ全員を助けるためには、悪い奴らを殺さないように「加減」なんてできないってことを……。

 俺はそんな苦しい胸の内をシルフィに吐露しようとしてたんだ。

 そしたらね。

 スッとサンデーさんが俺の隣に座ったんだ。

 「サンデーさん?」

 サンデーさんは前を向いたまま、俺の手をそっと掴んで自分の膝の上に乗せたんだ。

 「アレク君‥‥アレク君は悪くない。
 悪いのは総督よ。今の家宰たちよ。
 だからあなたが気に留めることはないわ」


 やっぱりな。

 昔からサンデーさんは何でも知ってたんだ。今俺が何を考えてるのかも。
 あゝ、それととっくに俺の出自も知ってたんだ……。

 シルフィがサンデーさんに心を許したのもそういうことなんだな。

 「サンデーさん‥‥今まで言わなかったけど、ずっと昔から‥‥‥‥俺の、本当の出自を知ってたんだよね?」

 「ええ‥‥」




























 「キツいことを言うわよアレク君」

 「うん」

 「冒険者のあなたが今回受けた依頼はドワーフさんたちを救うことよね」

 「うん‥‥」

 「だからその依頼の妨げになる人たちが、たとえヴィンサンダーの騎士団員であっても、排除しなければならないわ。

 優しいあなたがどれだけ武力行使を避けようとしても、相手は理解してくれないわ。

 だから、騎士団員がいようがいまいが、あなたが気に病む必要はまったくないのよ。
 
 ましているのは正義の騎士団じゃないんだから」

 きっぱりとサンデーさんが言ったんだ。





















 「サンデーさん。受けた依頼は必ずやり遂げるよ。
 それでも‥‥もし今回俺が誰か騎士団員を殺したら‥‥俺は父上の後を継ぐ資格はないと思ってる‥‥」

 「もしそうなっても、それはあなたのせいじゃない。あなたは悪くない!」

 「それでもだよサンデーさん。
 自領の民を殺すような男に領主は務まらない‥‥」

 「アレク君‥‥」

 「あーあ。こんな依頼早く終わらせて、サンデーさんに帝国で作った新しい料理を食ってもらい‥‥たかったな‥‥う、うっ‥‥」

 俺は真っ直ぐ前だけを見ながらサンデーさんに話したんだ。
 いつの間にか涙が止まらなかったんだけどね。

 「アレク君‥‥」

 「ありがとうねサンデーさん。やっぱ昔から、いつも俺のことをわかってくれるのはシルフィとサンデーさんだけだよ」

 「「‥‥」」

 流した涙と苦しい胸の内を吐き出せて、少しはスッキリしたんだ。






























 いつしか午後の12点鐘になっていた。

 目の前に広がるのは広々とした平原。
 この先には、1年ぶりのアネキアの領都アネッポがある。

 「アレク、最後の関門よ。あいつらも手ぐすねひいて、あんたを待ってるわ」

 「ああシルフィ。歓迎してくれるみたいだな」

 「アレク君大丈夫?」

 「もちろんだよサンデーさん。
 奴らの歓迎に全力で応えるよ」



―――――――――――


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