アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

662 カーマン再び

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 【  ヴァーリside  】

組合のやつらが全員まとまって逃げていきやがった。
 まあ、わしにはどうでもいいことじゃ。わしはわしで好きに生きるだけじゃなからな。
 組合のやつらは全員、殺されるか奴隷になったらいいんじゃ。




 【  キブチ・カスタム&ロブ・ジョンside  】

 「若‥‥今回の依頼は断ったほうがええじゃろうの」

 「馬鹿か爺!ここまできてやめられるわけないだろう!
 しかもここで王国に繋ぎをつけねぇとグランドへの足掛かりもできねぇだろうが!」

 「それでもの。ありゃ恐ろしいくらいの手練れであるぞ。
 しかもあの物言い‥‥余程彼我の実力差を知っておらねば言えん言葉じゃよ‥‥」

 「だまれ爺!生命が惜しいなら爺1人で逃げればいい!」

 「若‥‥」

 (ありゃ、わしよりもはるかに強い。しかも魔法も使う。
 さて‥‥‥‥どうするかの。せめてこの生命と引き換えになにかできぬものか。若を助けてやらねば)


――――――――――


 【  ヴィンサンダー領総督府side  】

 「それでお前たちは逃げ帰ってきたんだな」

 「「「すいやせん総督さま。ですがありゃ恐ろしく‥」」」

 「父上、冒険者なんてこんなもんだろ。しかもこいつらは野盗崩れ。
 てめーの生命第1で忠義もくそもねぇ奴らばっかじゃねぇか」

 「「「クッ‥‥」」」

 「ん?なんか文句あんのかよ?矢で刺されたくらいで騒ぐ弱虫の冒険者さんたちよお?」

 「い、いえカーマン様‥‥」

 「文句あるなら、今から俺がてめーらの相手をしてやろうか?
 このヴィヨルド学園で1番強い俺様が?」

 ゴオオォォォーッ!

 そう言ったカーマンが手の上に火球を発現させる。真っ赤に燃えるビーチボール大の火球を。

 「「「す、すいやせん‥‥」」」






 ギーーーイッッ

 「さすがでござりますなぁ若様は!こんな大きな炎弾、キルヒは初めて目にしましたぞ!」

 「おぉ!キルヒであるか。帰ってきたか!」

 大仰に。且つ上機嫌で父ホセが謁見室に入ってきた男に応えた。


 謁見室。
 本来ながらば、領主が他領他国の代表と会うために設けられた、文字どおり謁見のための部屋。

 今現在。その部屋で壇上の豪華な椅子に座るのは総督のホセ。隣に控えるのは息子のカーマンである。

 「先ほど帰領致しましたホセ総督様」

 「キルヒよ、大義である」

 「これはこれは、お褒めのお言葉。このキルヒ、旅の疲れも見事に消し飛びましたわい総督様!」






 「てめー‥‥誰だ?」

 訝しげに問うカーマン。

 「おおっ、これは失礼致しました。
 お目通りも叶い、恭悦至極にござります若様」

 待ってましたとばかり、揉み手の両手を忙しなく摩りながらその男が応えた。

 「私、お父上のホセ総督様より執政官の任を戴くキルヒ・ワイヤルと申します」

 自らをキルヒと名乗ったかなり太った男。
 身長180セルテ。体重は控えめに言っても200㎏超。

 胸元に大きなフリルの付いた真っ白な夜会用のドレスシャツ。
 昼間からこれを着る、違和感ありありの太った男。

 さらに首下や両手にはこれ見よがしに宝飾品を纏っている男。
 珍妙で胡散臭さを全身に醸し出している男である。

 その顔もまた然り。感情の起伏がまるで乏しい能面のような顔。

 それとは真逆に。
 上下の瞼から押しつぶされそうな細い目からは、鋭い眼孔が男の抜け目なさを如実に物語っていた。

 魔獣カエルが巨大化し、そのまま人族になったかのような容姿がキルヒであった。
 
 「フン。なんだてめーは?」

 「偉大な総督様のご嫡男がヴィヨルドからわざわざお越しくださる。
 王都から帰還する旅路で、私キルヒが何度も何度も民から聞いた言葉でございます。
 明日の生命も保証されぬ王都からの危険な旅路においてその言葉は、私キルヒには一条の救いの言葉でございました。

 偉大なるホセ総督様とそのご子息が我がヴィンサンダー領に揃われる。

 あゝなんと素晴らしい……。

 不肖私キルヒが主様のご嫡男のご帰還を今か今かと待ち望んでいたとは、さすがのカーマン様でもお気づきになりますまい」

 歯の浮くような口上。
 まったく、1ミリの真実味もない言葉。

 それは、一般的な思考回路を有した者ならば誰もがこう思っただろう。「口を聞くな、ペテン師め!あっちにいけ」と。

 だが‥‥総督のホセ、その息子のカーマンは別だった。
 自らが欺瞞の中で生きている親子。
 そんな親子に、キルヒの言葉は「忠臣が讃える真実」に映った。

 「よう言うたキルヒ!」

 「わかってるじゃねぇかキルヒよぉ」

 「当たり前でございます。臣たるもの、大恩あるご君主様にお仕えできるだけでも誉れでございますので」

 「そうだよ!そうなんだよなキルヒ!」

 「はい、そうでございます若様」

 ギャハハハハ
 ワハハハハハ
 わははははは

 (((なんたる茶番‥‥)))

 極少数が残る、従来からの領都騎士団員が心中で思った。

 「さて総督様、総督様1の家臣を自負しておりますキルヒより、今般のドワーフどもの脱走に関しましてご提案がございます」

 「申してみいキルヒ」

 「おおっ、お聞きいただけますか!
 愚策なれど賢王様に献策できるとは、なんたる幸せ。
 ゴホン。それでは‥‥」

 「我が領都から脱走した不埒なドワーフ並びに逃走の手助けをしたミカサ商会、サンデー商会の愚か者ども。

 総督様に仇すことの愚かさを天下に知らしめさねばなりませぬ」

 「よってただいまサウザニアにおります領都騎士団員全軍を以て鎮圧にあたらせるものと存じ上げます」

 「全軍でかキルヒ!?」

 「なに、非番の者どもを領都警備に充てれば問題などありますまい。たかが1日2日のことでありますので。
 騎士団も大恩ある総督様のお役に立てるのであれば喜んで働くというもの」

 「そ、そうなのか?」
 
 「はい総督様。騎士団全軍には、ご嫡男カーマン様を先頭にお据えしてのご出陣!
 これはまさに神話の世界の再現ではありますまいか!

 総督様1の家臣、執政官キルヒはこのような愚案をご提案致しますがいかがでしょうか?」

 「父上、キルヒの言うとおりだ。
 ドワーフどもは圧倒的な武力によって抹殺すべきだ。
 よし、俺が全軍率いて行く。いいよな?」

 「よう言った!我が息子カーマンよ。愚か者どもに天罰を下してこい」

 「よっしゃ。そうこなくっちゃな。じゃあ騎士団長‥‥お前なんていったっけ?」

 「マルスと申します。カーマン様」

 「じゃあマルス、すぐに準備させろ」

 「御意」







 「(総督様、まだ1人だけ我が領都に残っておるドワーフがおりますな)」

 「(ん?お主が使っておる裏切者のヴァーリか?)」

 「(はい。裏切者のヴァーリ。こ奴を使って‥‥)」


―――――――――


 【  鍵爪side  】

 「ジェイブ来たぞ!」

 「てかなんて数だはよ!?騎士団員全部で追ってきてんのかよ!?」

 「フランクリン、ゲイル。手筈どおりだ。すぐに馬車を外して離脱するぞ!」

 「「おおよ!」」





 「冒険者が逃げていきます!」

 「マルス騎士団長、追いますか?」

 「放っておけ。ドワーフのいる馬車さえ残ればよい」

 「「了解です!」」

 あっという間にアザリア方面に逃げ去る3騎を彼方に、馬車の周りを二重三重に囲むサウザニア騎士団とカーマン。

 「よーし、さっそく俺の剣の錆にしてくれる!お前ら、ドワーフどもを連れてこい!」

 「「「ははっ!」」」

 ヒヒーーーンッッ!
 ヒヒーーーンッッ!
 ヒヒーーーンッッ!

 馬車に近づこうとした騎士団の馬が皆、その歩みを止めた。

 まるでこの先には1歩も進みたくないと拒否するように。

 「おい!何やってんだよ!早く連れて来い!」

 「は、はいカーマン様。ですがなぜか馬が嫌がって‥‥」

 ヒヒーーーンッッ!

 「おい!どうした?進め!」

 ヒヒーーーンッッ!

 ついには背に乗る騎士団を振り落とそうとする馬まで現れた。

 ヒヒーーーンッッ!
 ヒヒーーーンッッ!
 ヒヒーーーンッッ!

 「何やってんだよ!ヘタレ騎士団が!
 もういい。俺が直接ドワーフを引っ張りだしてやる!」

 「ハッ!」

 そう言って馬の腹を蹴ったカーマンに。

 ヒヒーーーンッッ!

 馬車に近づくのを拒絶した馬が背のカーマンを振り落とした。

 「う、うわあああぁぁぁぁぁーー!」

 ドスンッ!


――――――――――


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