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第2章 幼年編
659 ヴァルカン(後)
しおりを挟む「ヴァルカンさんただいま!」
元気いっぱいに飛び込んだヴァルカンさんの武器屋。中では、ヴァルカンさんと1番弟子のヴォーグさんがいつもと変わらず、鍛冶仕事をしてたよ。
そして、いつもなら2人を手伝ってるビンスさんだけは工房の掃除やら荷物の片付けをしてたんだ。
うん、引越し準備だな。
(よし。やっぱ明るく話さなきゃな)
「うおぉー!汚かった工房が初めてきれいになったじゃん!
ヴォーグさん、ビンスさん、こんなにきれいにしたって初めてじゃないの?
トカゲ、お前らも初めてだろ?」
「当たり前だろアレク、ギャッギャッギャッ」
「どうだ!きれいになっただろアレク、ギャッギャッギャッ」
ギャッギャッギャッ‥‥
ギャッギャッギャッ‥‥
ヴァルカンさんたちに憑くトカゲたちも笑って応えてくれたんだ。
「アレク君の言うとおりだよ。きれいになるもんだ」
ヴォーグさんも笑って応えてくれた。
「俺も初めてまともな掃除をしたよ、アレク君」
ビンスさんも笑ってた。
そんな中、ヴァルカンさんだけが驚いた顔で俺を見ていたよ。
俺の顔になんか付いてるのかな?
【 ヴァルカンside 】
「ただいま」と言って工房に入ってきたアレクの顔と漂う雰囲気。
そりゃたまげたぞ。
あいつは辺境のヴィヨルドでも、最も貧しいデニーホッパー村出身の農民の倅のはずなんだ。
なのに。
わしは一瞬、あの愛すべきお館様が入ってきたかと思ったのさ。
ちょうど懐かしいお館様の夢を見てたからなんだろう。
お館様が女神様の下に旅立ってもう10年近く経つのにな。
あいつはなぜかお館様に顔が似てきやがった。まあ、他人のそら似なんだろうがな。
というか‥‥わしは懐かしいあの頃に戻りたいと思ってたんじゃろうな。
わしたちサウザニアに住むドワーフはお館様の男気に惚れてこんな辺境にやってきたのにな。
どうしてこうなった?
わしらがいかんのか?
「じゃあ親方、夏越しの祭りの準備と例の件の話合いもあるから、わしらは組合に行ってきます。
アレク君ゆっくりしていってくれよ」
「ありがとうヴォーグさん。
ああビンスさん、あとで若手のドワーフさんみんなに相談があるんだ。
俺もあとで組合に行くからみんなで待っててよ」
「うん?いいよアレク君?」
「詳しくは後で話すからさ」
「?」
「ヴォーグさん。夏越しの祭りはいつだっけ?」
「明後日の夕方からだよ」
「そっか。じゃあサウザニア最後の夜だから楽しまなきゃね」
「そうなんだよ‥‥」
ヴォーグさんがまた泣きそうになるくらい暗い顔をしたんだ。
「ヴォーグさん。出発は夏越しの祭りあと。明々後日の朝だからね。
俺が責任を持ってみんなを帝国に連れて行くから」
「「アレク君‥‥ 」」
俺が護衛して脱出するって話は伝わっているんだな。
そんな話をしている間中、ヴァルカンさんはずっと黙って聞いていたんだ。
ヴォーグさんとビンスさんが出て行ったあと。静まり返った工房の中で。
2人向き合ったんだ。
「アレク‥‥お前‥‥顔が‥‥いやなんでもねぇ。ずいぶん早かったじゃねぇか」
「そりゃそうだよ。帝国から帰ってミューレさんとこに行ったんだよ。そしたら今回の話を聞いてさ。
その足でテンプル先生に相談しようとしたらタイラーのおっさんとロジャーのおっさんたちから早くサウザニアに行けって。
それて慌てて帰って来たんだよ。
あとね、さっきグレンさんにもサンデーさんにも会ってきたよ」
「そうか‥‥」
ざっくりと帝国留学の話もしたよ。
カンカン カンカン カンカン‥‥
「なんだよヴァルカンさん。まだ仕事やってさ」
「当たり前だろうが。請けた仕事はなにがあろうがやり遂げるんもんだ」
「クックック。ヴァルカンさんらしいね」
「すまんなアレク。急なことになって」
「なに言ってんの。水くさい」
「すべてグレンとお前に任せたんだ。わしからは何も言うことはない」
そうきっぱりと言い切ったヴァルカンさん。
「ただなアレク、組合にはお前を知らん他のもんも、女子供もいる。
すまんがお前の口から説明してやってくれんか?」
「もちろんだよ」
▼
鍛冶屋街の真ん中にある組合に行ったんだ。
組合には今回脱出するドワーフさんたちが70人ほど。大人の女性から子どもまで、全員いたよ。
「まずはサウザニアを脱出してアザリアに向かいます。
アザリアからは船で王都に向かいます。王都の港には帝国の船が待ってますから、アザリアまで辿り着けば問題はまったくなくなります」
「「「‥‥」」」
みんなしーんとしてたよ。てか、猜疑心と虚な目が交互に表れてるよ。そりゃよく知らない人族のガキだもんな、俺。
そんな雰囲気を察したのか、ヴァルカンさんがみんなに語り出したんだ。
「よいかお前たち。
ここにいる年長のわしらは、先代のお館様に誘われてサウザニアに来た。その男気に惚れてな。
わしはアレクに‥‥こいつにわしらの未来すべてを託す」
ざわざわ
ザワザワ
(ヴァルカンのところにいた人族のガキだろ?)
(なぜ人族なのに肩に風の精霊がいる?)
ざわざわ
ザワザワ
(大丈夫なのか?)
(わしんとこは子どもを盾に脅されたんだぞ)
(わしんとこもだ。じっとしてたら生命だけは助けてやるが、生涯奴隷だとな)
ざわざわ
ザワザワ
ざわざわ
「アレク、背の刀を少し貸せ」
「ん?いいけど?」
ヴァルカンさんが俺の刀をドワーフさんたちにまわしたんだ。
「この刀をみろ。これはアレクが自分で打った刀だ。そうだなビンス」
「はい親方。アレク君はドワーフの俺よりもはるかに鍛治が上手いです」
「親方の1番弟子の俺もアレク君を認めてるぞ」
「「(マジか‥‥)」」
「「(すごい‥‥)」」
「今不安を覚えたやつ。不安は当然だ。
じゃがわしらドワーフは、その仕事で相手の力量がわかる。
そいつを信頼していいのかどうかもな」
「「「‥‥」」」」
「この刀を見てまだ信じられないやつはいるか?」
「「「‥‥」」」
「アレクは人族だ。
だが、お前たちの中でこれより良い刀を打てる者は何人いる?」
「「「‥‥」」」
「こいつはヴィヨルドではマーレの下、帝国ではヴァンの下で鍛治を認められている。
それと、こいつは永くエルフのホークの弟子だ。
留学していた帝都学園では実力で武闘1位。
あと冒険者ギルドでは未成年者唯一の銀級だ」
「それでもまだこいつを信じられないか?」
「よしアレクなんか話せ」
「えっ!?ど、ど、どうしようシルフィ‥‥」
「もう!仕方ないわね。ヘタレのあんたを助けてあげるわ」
そういったシルフィが集まったドワーフさんたちに向けて何かを告げたんだ。
「@#4$#/!v8!」
「「ギャッギャッギャッギャッ‥‥」」
「「ギャッギャッギャッギャッ‥‥」」
「「ギャッギャッギャッギャッ‥‥」」
ふだんはだらだらしているサラマンダーたちが、思いもかけないくらいのスピードで即座に駆け寄ってきたんだ。
そしてみんながシルフィの前に平伏したんだ。
それはノームも同様だった。
「「おいさおいさおいさ!」」
「「こりゃたまげた!おいさおいさ!」」
土中からわらわらと湧き出たノームたちがサラマンダーと並んでで片膝をついたんだ。
うそ!シルフィさんまた俺の知らない姿を見せてる!
「この場にいる70余のドワーフ、それと憑く者たち‥‥アレクの話を聞きなさい」
「(ま、まさか‥‥)」
「(そんなこと‥‥神話じゃないのか‥‥)」
「(精霊王様の使徒なのか‥‥?)」
「さ、アレク話しなさい」
「う、うん」
「明々後日の朝旅立ちます。
行程はサンデー商会さんの馬車でアザリアまで3日です。
帝国に向けて誰一人欠けることなく俺が責任をもってお連れします」
うおーーーっっ!
ウオーーーッッ!
うおーーーっっ!
「明々後日。わしらは新しい土地に向けて旅立つ。
明後日がヴィンサンダー最後の夏越し祭りだ。せいぜい飲んで楽しもうぞ。
アレク、わしらは寝てりゃいいんだろ?」
「もちろんだよ!
ただちょっぴり狭いのには我慢してよ」
「3日だろ。そんくらい我慢できらぁ」
ウオオオォォーーッッ!
▼
「アレク君、若い衆を連れてきたよ」
「ありがとうビンスさん」
「みなさんに帝国でやってもらいたい仕事を言いますね」
その場で、鉄からダンパーを発現して、その説明をしたんだ。
「「なんじやこりゃ!」」
「「すごいのぉ!」」
「「これは作ってみたいの!」」
さすがは物作りに長けたドワーフさんたちだ。
みんな目の色を変えていたよ。
―――――――――――――――
ドワーフ伝統の夏越し祭りは例年以上の盛り上がりを見せたという。
サウザニアの鍛冶屋街からは、1晩中ドワーフたちの歓声が聞こえていたという。
「あいつら明日には死ぬと知ってて騒いでるんだろうな」
「「「哀れだな」」」
【 鉤爪side 】
「いよいよ明日だなジェイブ」
「おおよフランクリン、ゲイル」
「今回は狐の兄貴には会えないから残念だな」
「「そうだな」」
【 ミリアside 】
「父様、母様。ドワーフさんたちは大丈夫かしら?良くない話ばかりを聞くわ」
「ええ。でも、きっと大丈夫よ。うまくいく」
「そうさミリア。きっと大丈夫さ。
女神様はかならず彼らも助けてくれるよ」
――――――――――
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