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第2章 幼年編
658 ヴァルカン(前)
しおりを挟む「ヴァルカン!ついてきてくれるのか!」
「はいお館様」
「ありがとう、ありがとうヴァルカン!
お前がいてくれたら我が領の武具も格段に良くなる。魔物や敵にやられる民も確実に減るからな!
ありがとう、ありがとう!」
バンバンバン‥‥
お館様はわしの背中を叩き、わしの汚い手を握ってブンブン振るくらい強く握手されたんじゃ。
「お館様、お手が汚れますぞ」
「なにを言いやがる!
この手は飽きず1つことをやり続けた男の勲章だろうが!
わしは皺だらけのお前の手が大好きだ」
「お館様‥‥」
「ああヴァルカン。
好きとはいってもわしは妻一筋じゃからな。ワハハハハハ」
「‥‥親方、ヴァルカン親方みてくだせぇ」
「あ、ああビンス。かしてみろ」
(夢を見てたわい。なんと懐かしい夢じゃ。
お館様‥‥‥‥申し訳ねぇ。わしらはもうこれ以上ヴィンサンダーには居られねぇんだよ)
【 王国会議side 】
「最後に王からお言葉を賜わる」
「皆と考えを共有しておきたい」
「「「はは」」」
「ヴィヨルド、帝国が言うまでもなく、我がサンダー王国は中原の法を遵守し、国を挙げてドワーフの虐待になど手を染めたりはせぬ。
結果、自領を離れるドワーフがいてもだ。
よいのヴィンサンダー?」
「は、は、はひっ!」
「皆の者もよいの?」
「「「ははー」」」
▼
わいわい
がやがや
わいわい
「待たれよシリウス殿」
「ヒッ!な、な、なんでしょうかヘンリー様?」
「先の続きだが‥‥
今の王の言葉を違えることはないだろうな?
よもや同じ辺境である我らに喧嘩を売ってはいまいな?」
「め、め、め、滅相もありません」
「まあ喧嘩なら俺は喜んで買うがな。
だいたい去年はアザリア領にも喧嘩を売られたからな」
「ヘンリー殿。あまりいじめてくれますな」
「おお、アネキア殿。ご健勝でなによりだ」
「ジェイル殿もな」
「みてみいヘンリー。アネキア殿も困っておられるわ」
「はは父上。言葉が過ぎ申し訳ございませぬアネキア様」
「いやいや‥」
「アザリアはなんも悪くない。奸計を巡らせた鎮台ジャビーなんちゃらのせいだからな。
今のアザリア領とヴィヨルド領は互いに背中を預け合う仲ですからな。なぁアネキア殿」
「うむ」
「父ジェイルの申すとおりですアネキア様。
貴領都騎士団と我がヴィンランド騎士団の交流も恙なく行われておりますし」
「若き天才ヘンリー殿に感化された我が領都騎士団員もぬるま湯から激変しましたぞ。
今や日夜修練に励んでおりますぞ」
「いやいや私は天才などではありませんが重畳にございます」
「なんのなんの貴公は紛うことなき天才よ」
「ワハハハハ」
「よかったのぉヘンリー、わはははは」
「シリウス殿」
「は、は、は、はひっ!」
「ヴィヨルドを長男に、我がアザリアと貴ヴィンサンダーは互いに支えあい、この世を生き抜いていかねばなりませんぞ」
「は、はひっ‥‥」
「家宰殿、貴領の騎士団も1度ヴィヨルドの騎士団と交流をもたれてはいかがか?」
「ありがたいお言葉。1度持ちかえり検討したいと思います‥‥」
「ふむ……。老婆心ながら家宰殿、我がアザリアは奸臣により大きく力を削がれた。
どうか貴領はそうならぬよう祈念致しますぞ」
「ご忠言痛み入ります。それではこれにて」
「し、し、し、失礼致しますぅ」
足早に去っていくヴィンサンダー領主一党を見送るアザリア領主とヴィヨルド領主であった。
「アダム大丈夫なんだろうな?」
「今となっては‥‥正直神に祈るしかございませぬ。
どうかホセの企みが潰えますようにと」
――――――――――
舞台は再びヴィンサンダー領領都サウザニアの商業ギルドに戻る。
「ありがとうピーナさん」
「(アレク君いい?
鍛冶屋街にはできるだけバレないようにね。変装でもして行ったらいいわ。
鍛冶屋街は特にしっかり見張られてるからね)」
「(うん。ありがとうピーナさん)」
ギーーーッッ バタンッ
「なんだ?風で扉が開きやがったのかよ」
「当たり前だろ。
この期に及んで誰が鍛冶屋街に来るもんか。
ましてヴァルカンの武器屋になんかな。捕まって奴隷になるか殺されるだけのドワーフのとこなんかに客も来ねぇぞ」
「違いねぇ」
ギャハハハハ
ガハハハハハ
鍛冶屋街に来て驚いたんだよね。
あちこちに不穏な気を垂れ流している輩がいるのには驚かなかったよ。
俺が驚いたのはトカゲやノームを1人も見なかったからなんだ。
いつもなら鍛冶屋街のそこかしこで日光浴してるトカゲや小さなおっさんがいるはずなのに……。
それはヴァルカンさんの工房でも同じだったんだ。
たぶんさ、みんな心配で心配で自分が憑いてる人のそばにいるんだろうな。
「ヴァルカンさんただいま!」
ガタッ!
「お前!?」
ヴァルカンさんが驚いた顔で俺を見ていたよ。こんな顔初めて見るな。
「‥‥アレクなのか‥‥?」
「うん、俺だよ。そんなに見違えた?
ワハハハハ。背伸びただろ。ようやくヴァルカンさんを見下ろせられるくらいに高くなったよ。ワハハハハ」
ヴァルカンの武器屋でさえ、雰囲気もどんよりしてたからね。
だからせめて明るくヴァルカンさんの工房の中に入ったんだ。
――――――――――
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