アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

657 脱出作戦概要

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 サンデーさんが語ったサウザニアからのドワーフ脱出作戦はこんなのだった。

 サウザニアの西門から堂々と出ていくのが、幌にミカサ商会と描かれた馬車3台。
 これがアザリアに向かうダミー。

 領都から外に出ていく人や物は検閲しないからね。

 「御者さんはサンデーさんとこの人なの?」

 「いいえ。あのときの冒険者さんたちよ。たしか‥‥鉤爪さん?」

 「あー鉤爪ね」

 あいつら、まだ狐の仮面した俺を兄貴だって思ってるんだろうな。

 「総督たちの狙いは馬車の中にいるはずのドワーフさんたちなのよね。賊が来たら鉤爪さんの3人は馬車を捨てて馬に乗ったまま離脱すれば逃げられるわ」

 「なるほどね。でもさ、サンデーさん。総督?あいつらはドワーフさんたちを本当に危害を加える気なの?」

 「ええ。残念ながら奴隷もないでしょうね。
 信頼できる知り合いの商人からの話では夜盗まがいのゴロツキや輩を集めてるらしいわよ」

 「そっか‥‥」

 「鉤爪さんたちの手配や出発のあれこれの手筈はグレンフラーギルド長がやってくれるの」

 「うんうん」

 ここからが本命だと言ってサンデーさんが計画を教えてくれたんだ。

 「それでね、私たちが乗る本命の馬車には、ミカサ商会ともサンデー商会とも書かれてないのよ。
 まあ多少くらいは誤魔化せる‥ってところでしょうけど。
 でもね、ミカサ商会でも3台しかない大型の馬車なのよ。普通の馬車の倍くらいの容量があるわ。もちろん馬も強い子ばかりを集めたわ」

 「へえー」

 「間もなく到着するか、もう着いてるはずよ」

 「どこに来るのサンデーさん?」

 「サウザニアの隣。のんのん村よ。あそこは村中が反総督派っていうかアレク君の味方だから、馬車も隠せるの」

 「あははは‥‥」

 なにそれ俺の味方って!
 でもなるほどな。のんのん村なら、たしかにみんなが俺たちに近い考え方だろうから協力も惜しまないだろうな。

 「だからね、こっちの馬車は合図があるまでノッカ村で待機なのよ」

 「そっか。じゃあその大型馬車にドワーフさんたちが乗ってもらうんだね」

 「ええ。大型だから‥‥ドワーフさんは70人かしら?
 積荷も含めて3台でなんとか乗れるはずよ」

 「じゃあこっちの御者さんがサンデーさんとこの熟練さんなんだね」

 「ええ。しかもそれなりに闘えるうちのベテラン御者が3人よ。
 といっても出番はないんでしょアレク君?」

 「あははは。まあ頑張ります」

 「ただねアレク君、大型馬車とはいっても無理やり座ってもらうことになるわ。
 だから揺れるし、ドワーフさんたちにはハードな3日間になるでしょうね‥‥」

 「あのねサンデーさん。その点は大丈夫だよ」

 「大丈夫?なぜなのアレク君?」

 「うん。今回のことはちょうどいい機会なんだよ」

 「ちょうどいい機会?」

 「うん。現物に乗ってもらったほうがわかりやすいかな。
 じゃあ俺、ヴァルカンさんに会ってから、先にのんのん村に行ってその馬車を改造してくるよ」

 「改造?さっきから話がぜんぜんみえないわ」

 なにかわからないサンデーさんはキョトンとしてたよ。
 キョトン顔もかわいいなサンデーさんは。

 「あのね、本当はこんなことがなければ、最初にこの話をサンデーさんにしたかったんだよ。
 改造するのは、馬車用の揺れない装置なんだ。びっくりするくらい揺れないからね。
 だから楽しみにしててよ」

 従来の馬車は悪路の揺れをもろに拾うけど、ダンパーが衝撃を吸収するからね。この世界の人たちなら間違いなく、みんな驚くだろう。ゆくゆく軍事利用はしてほしくないけどさ、リゾートの爺ちゃん婆ちゃんたちにも揺れない馬車に乗ってもらいたいからさ。

 「そうなのね。よくわからないけど、アレク君には何度も何度も驚かされてきたから‥‥楽しみにしてるわ」

 「うん!期待しててよ」

 「フフフ」

 そう、ものは考えようなんだよ。
 この機会を使って例の帝国バスの運航計画を進めるんだ。
 帝国に移住するようになヴァルカンさんたちドワーフさんが改造した大型乗合バス(馬車)を走行させてもらったら万事上手くいくと思うんだよね。

 これなら元々の帝国のヴァンさんたちドワーフ組合とも競合しないし、俺がいなくてもリゾート計画も進展するんだよね。

 ダンパーの実物を理解したドワーフさんたちがそのまま帝国でバスを再現すればいいし。
 当面の何年かはその仕事だけで充分儲かるはずなんだよね。



 「今回はテンプル先生がいないから2人きりよ。いっぱいお話をしましょうね」

 フフフと笑うサンデーさん。う、う、うれしい!

 「お、俺もめちゃくちゃ楽しみ‥‥あっ、楽しんだらダメなんだね!不謹慎だ!」

 フフフフ
 あははは

 それからは今回の経緯に至った話から最近のヴィンサンダー領の動向などを教えてもらったんだ。

 予想通り、というかやっぱり予想以上に酷いな。

 「総督はね、ドワーフにドワーフ税を作ったの」

 「なにそれ!?」

 「人頭税の10倍の税金よ」

 「うそ!?」

 「取れるところから取ろうとする酷い考えよね。しかもね‥‥」

 総督は現金で払えなければ、武具の現物納付をさせてるというんだ。

 ドワーフの作った武具は高値で売れるからな。単純に人族が作る同製品の数倍から10倍以上の値がつくだろうし。

 「徴収に来るのが商人だって話も聞いてるわ。『こんなものを作れ』って逆に指示をつけてるあり様なんだって」

 「‥‥」

 こういうのを濡れ手に粟って言うんだよな。

 「やりたい放題だねサンデーさん」

 「ええ‥‥」

 「そうそう、またアレク君と旅をする機会があるかもしれないからって、テンプル先生からこれを預かってるわ」

 そう言ったサンデーさんが小さな瓶を俺に手渡したんだ。

 「あっ、魔法塗料だ」

 魔法塗料。
 これが身体につけば、その人の全身がピンク→赤→紫と、3段階に変わるんだよね。学園の武闘祭でも使ってるやつだ。

 テンプル先生が作ったのは付いた色が1年以上続くやつなんだ。怖いよね。

 最終形態の紫色になんかなろうもんなら、リアルゾンビだよ!

 「じゃあサンデーさん。俺バルカンさんとこに寄ってくるよ。後から店に行くから」

 「ええわかったわ」

 「ごめんねサンデーさん。忙しいのに変なことに付き合わせて」

 「ぜんぜん平気よ。むしろ楽しみなくらいよ」

 「あははは。ありがとう。じゃあまたあとで」




























 (私、本当に楽しみにしてるのよアレク君。
 アレク君は知らないでしょうけど、あなたのアレク商会とアレク工房はもうサンデー商会よりもずっとずっと大きくなったんだから)


――――――――――


 アレクと前後するように。
 緊急招集となった王国会議にて。

 ざわざわ

 (緊急招集だと?)

 ザワザワ

 (大戦以来じゃないか?)

 「では緊急議題だ」

 シーーーンッ‥‥

 「ロイズ帝国から質問状が届いている」

 ざわざわ
 ザワザワ

 (なんの質問状だ?)

 「帝国からドワーフの救命要請についての質問状だ」

 (ドワーフだと?)

    (どこぞの馬鹿領の非合法奴隷でも見つかったか?)

 (ドワーフとエルフには特に気をつけないとだめなんだよ)

 「宰相様よろしいでしょうか?」

 王国中の諸侯が集まる会議の席上で。
 そう切り出したのはヴィヨルド領の現当主ジェイル・フォン・ヴィヨルドの長男ヘンリーだった。

 「構わん。申してみよヘンリー」

 「感謝致します、宰相殿。
 その件に関してヴィヨルド領からも話があります」

 凛とした若者の声量ある声が議上に響き渡る。

 「ドワーフ組合からの救命要請は我がヴィヨルド領にもきています」

 ざわざわ
 ザワザワ

 発声と同時。
 当初穏やかな笑顔にも見えたヘンリーの顔が見る間に引き締まった。

 「この件に関して、ヴィンサンダー領主殿に問いたい!」

 「(まさか‥‥)」

 「(ヴィンサンダーはドワーフにまで手を出したのか?)」

 「(あの若造‥‥)」
 
 「(やはりバカなのか?)」

 ざわざわ
 ザワザワ
 ざわざわ

 「ヴィンサンダーの若きご領主よ。返答や如何に?」

 「ヘンリー様、その件に関しまして‥」

 「だまれ!家宰殿には聞いてはおらん!シリウス殿にだ!」

 シーーーンッッ

 「わ、わ、わた、わた、私は‥‥」

 ガタガタガタ‥‥

 闘気を隠そうともしないヘンリーの声が響いた。

 「うちの領にもサウザニアのドワーフ組合からの救命要請がきてんだぞ。
 シリウス殿。
 貴公、まさか人種の平等を重んじる帝国に喧嘩を売っているのか?」

 「い、い、い、いえ‥‥」

 「ではその前に我らヴィヨルドなら勝てるとでも思ったか?
 闘るならこの場で返答しろ!
 10日も要らん。貴公らの領都サウザニアを火の海にしてやる!」

 シーーーンッ

 「ついでながら一応聞いておくが、我らヴィヨルドを羊の如く飼い馴らせると思っておる領はおらんだろうな?
 辺境に住まう我ら、若造の俺を筆頭に言葉より前に手が出るからな」

 シーーーンッッ

 「やめいヘンリー!」

 「すまんな皆の衆。 
 我が息子はまだまだ青く血の気も多い故にな」

 「「「‥‥」」」

























 「(父上、このくらいでいいですかね?)」

 「(上出来だヘンリー。お前、我が領が潰れたら役者になれるぞ)」

 「(ワハハハハ。まあこれで、少しは弟の親友に援護となりましたかね父上?)」

 「(クックック。そうだな)」


――――――――――


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