アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

654 モンデール神父

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 人知れず、門扉を抜けて領都サウザニアの中に入った。

 開門時の西門付近にいる騎士団員も商人も冒険者も。誰も俺に気づいてない。

 タタタタタッッッ‥‥

 そのまま朝早い領都サウザニアの中に入ったよ。

 「チッ!つまんねぇ!」

 「シルフィ!言い方!」

 「アハハハハ~」


 帝都冒険者タムラさんアドバイスの潜入法もだんだん板についてきたよ。

 さて。
 ゆっくりそのまま歩いていこう。





















 「‥‥変わったわねアレク」

 「そうだねシルフィ‥‥」

 たった1、2年離れただけなのに。しかもまだ朝の爽やかな時間帯なのに。

 このどんよりとした空気感はなんだろう。
 これじゃあまるでアザリアの場末の雰囲気だよ。

 「アーあーアーあー‥」

朝から奇声を上げて座ってる人もいるし、路上で座り込んでいる人もいる。この人たち、家のない人だよな。
 これじゃあまるで帝都港区のスラム街の1歩手前だよ!

 まあそれでもうちの領は、さすがにあそこまでは汚くも臭いもないけど。

 「シルフィあそこに似てるよね」

 「そうねアレク」

 てかやっぱりこれ、アザリアに近い雰囲気だよな。鎮台のジャビー伯爵支配下のアザリア領都ネッポみたいだ……。


 教会前の広場に来た。

 ここは俺が3歳のころ、メイドのタマと手をつないで休養日の礼拝に毎週きていた所だ。

 辛いことしかなかった領主の館で。

 唯一気が安まるのがこの休養日だった。

 タマに肉串を買ってもらって2人で食べていた懐かしい場所。

 あの頃のここは朝からずっと賑わってたのになぁ。

 なのに……。
 爽やかな朝の雰囲気は1つもない。

 てか屋台が1軒もないよ。これもあの家宰たちに因る圧政の影響なんだな。

 「くそっ……」

 「悲観してても仕方ないでしょアレク。あんたは今のあんたにできることをやるだけじゃないの?」

 「そうだったねシルフィ」

 よし。冒険者ギルドに行く前に。せっかくだから先にモンデール神父様のところに寄っていこう。お土産も渡したいし。


 ササササッッ‥‥

 気配を消したまま領都学園内併設の教会に向かったんだ。モンデール神父様ならここにいるだろうから。


 ササササッッ‥‥

 「すごいわねアレクの先生は」

 「うん!」

 俺的にはけっこう意識して気配(魔力)を消して歩いてるつもりなんだよ。そりゃまだまだだけどさ。

 西門にいた領都騎士団員さんや商人や冒険者たちは誰も俺に気づかなかった。

 だけど……。

 ああやっぱりモンデール神父様はすごいな。まだ200メルは離れてるんだよ?

 ドクンッ  ドクンッ  ドクンッ  ドクンッ‥‥

 穏やかに刻む心音にのせてモンデール神父様の懐かしい魔力が伝わってきたんだ。

 ここだよって。

 きっと俺が気付くはるか前からモンデール神父様は気付いてたんだろうな。「ここにいるよ」って。

 人気もない朝の学園内教会の扉を開ける俺。

 ギギギギギーーーーーッッ

 モンデール神父様がいた。

 そこには女神様の木像の前で、俺に背を向けたまま祈りを捧げる神父様がいたんだ。

 「アレク君お帰り」

 「モンデール神父様。ただいま帰りました」

 ここで初めて振り返った神父様が俺を見て目を見張ったんだ。
 
 「大きくなったね!」

 「はい!ようやく成長期みたいです!」

 俺にとって最大の恩人がモンデール神父様なんだ。

 ディル師匠は厳しくも優しい俺の爺ちゃん。シスターナターシャはやや歳の離れた博学なお姉さん。そしてモンデール神父様は尊敬しかない俺の父親なんだ。

 「まだ皆が来るにはしばらく時間もある。部屋で朝食でもいただこうか?」
 
 「はい。ごちそうになります」







 「今日も女神様のお導き‥‥いただきます」

 「いただきます」

 冒険者でも辟易するような堅いパンと薄い塩味の野菜スープ。

 モンデール神父様はずっとこの朝食を摂ってるんだろうな。

 「アレク君にはちょっぴり厳しい食事かな?」

 「あはははは」

 「でも神父様。昔‥‥養父母との食事はこれが当たり前でした。それでもおいしかったし、毎日が楽しかったです」

 「うんうん」






 「神父様、帝国のお土産です」

 「ありがとうアレク君。いつもすまないね」

 そう言ったモンデール神父様はお土産を取り出した俺のマジックバックをみて驚いてたよ。

 「マジックバックだね」

 「はい。帰る前に帝都騎士団さんから餞別にもらいました」

 「それはよかったね」

 「はい!」

 そこからはグランド経由で帝国に入ったことから、最後のリゾート計画までを聞いてもらったんだ。

 「うんうん!」

 「なんとまた!」

 「それはそれは!」







 「実によかった。それもこれも女神様のおかげだね」

 モンデール神父様は俺がする話の1つ1つに頷いたり、感心したりしてくれたんだ。

 「いい出会いをしたねアレク君」

 「はい!帝都にも新しい家族ができました」

 「うんうん」

 俺からの報告もひととおり済んだあと。

 「それにしてもずいぶん早く帰ってこれたね。ヴィンランドからどのくらいかかったんだい?」

 「はい。途中休憩しながら2日とちょっとです」

 「ワハハハハハ、なんとまあ!
 懐かしいね、昔君を背負ってご両親の下に走ったのがつい昨日のことのようだよ」

 「あはははは。教会学校では神父様に手紙屋さんもやらせてもらいましたし」

 「そうだったね。アレク君‥‥背も高くなってますます‥‥君は亡きご両親に似てきた‥‥」

 そう言ったモンデール神父様の目に光るものが見えたんだ。

 「神父様。お、俺はあの日のご恩を‥‥忘れたことはひと時もありません。

 神父様を始め、俺なんかのために生命をかけて守ってくれた‥‥

 俺は神父様たちを失望させちゃいけないと思って今も真面目に生きています。

 だからヴァルカンさんたちの窮状もおれにはまったく他人事じゃないんです」

 「‥‥そうだね」







 「では本題に移ろうか?」

 「はい」

 モンデール神父様から語られたのは俺の想定以上の圧政をする現領主たちだった。

 「昨年起きた未曾有の干ばつでヴィンサンダー領の国力は大いに落ちたんだよ」

 「はい‥‥」

 「領内の農産物は軒並み凶作となったんだよ。
 ああアレク君が手助けしてくれた3村だけは別だったがね」

 「あははは」

 「基本は人頭税の増税。
 それに輪をかけて横行しているのが税金を徴収する騎士団員と悪徳商人からの領民の被害なんだ。

 その被害は枚挙にいとまがないんだよ。
 
 わずか1年でこのサウザニアも目に見えて荒れだした」

 「沈みゆく船から飛び降りれる体力のある者、真っ当な商人たちはどんどんこの領から離れていってるよ」

 「神父様、俺、領都教会前の広場で寝てる人や奇声を上げてる人も見ました。
 酔って幸せそうな人なんかじゃなかった‥‥」

 「恥ずかしいことだね」
 
 「はい‥‥」

 「それでドワーフの件はどういったことなんですか?」

 「それはね、人頭税とは別に『ドワーフ税』ができたんだよ」

 「ドワーフ税ですか?」

 「中原でもそんな馬鹿な税制を採る国はどこもないだろうね」

 「俺も初めて聞きました。だってどこの国も領もドワーフには来てもらいたいですよね?」

 「そうだね。だけどね‥‥」

 ここでモンデール神父様がさらに眉を顰めて話し始めたんだ。

 「今のサウザニアの総督は‥‥」

 「総督?」

 「あのご領主様一家は相変わらず1度も領内に来たことがないからね」

 マジか!?なんという怠慢なんだよ!そのくせ税金という名の遊興費は使い放題かよ!

 「総督はご領主様から領都サウザニアのすべての権限を得た、そうだね‥‥アザリアの鎮台だったジャビー伯爵と同じようなものだね」

 「なんですかそれ‥‥」

 「総督は‥‥‥‥アレク君、君もよく知ってる子の親だよ」

 「誰ですか?」

 こくこく

 
























 「まさか‥‥」

 「そう。カーマン君の父親、ヴィンサンダー領領都サウザニア総督はホセ・シュナウゼン子爵だよ」

 「えっ!?」


――――――――――


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