アレク・プランタン

かえるまる

文字の大きさ
上 下
653 / 722
第2章 幼年編

654 モンデール神父

しおりを挟む


 人知れず、門扉を抜けて領都サウザニアの中に入った。

 開門時の西門付近にいる騎士団員も商人も冒険者も。誰も俺に気づいてない。

 タタタタタッッッ‥‥

 そのまま朝早い領都サウザニアの中に入ったよ。

 「チッ!つまんねぇ!」

 「シルフィ!言い方!」

 「アハハハハ~」


 帝都冒険者タムラさんアドバイスの潜入法もだんだん板についてきたよ。

 さて。
 ゆっくりそのまま歩いていこう。





















 「‥‥変わったわねアレク」

 「そうだねシルフィ‥‥」

 たった1、2年離れただけなのに。しかもまだ朝の爽やかな時間帯なのに。

 このどんよりとした空気感はなんだろう。
 これじゃあまるでアザリアの場末の雰囲気だよ。

 「アーあーアーあー‥」

朝から奇声を上げて座ってる人もいるし、路上で座り込んでいる人もいる。この人たち、家のない人だよな。
 これじゃあまるで帝都港区のスラム街の1歩手前だよ!

 まあそれでもうちの領は、さすがにあそこまでは汚くも臭いもないけど。

 「シルフィあそこに似てるよね」

 「そうねアレク」

 てかやっぱりこれ、アザリアに近い雰囲気だよな。鎮台のジャビー伯爵支配下のアザリア領都ネッポみたいだ……。


 教会前の広場に来た。

 ここは俺が3歳のころ、メイドのタマと手をつないで休養日の礼拝に毎週きていた所だ。

 辛いことしかなかった領主の館で。

 唯一気が安まるのがこの休養日だった。

 タマに肉串を買ってもらって2人で食べていた懐かしい場所。

 あの頃のここは朝からずっと賑わってたのになぁ。

 なのに……。
 爽やかな朝の雰囲気は1つもない。

 てか屋台が1軒もないよ。これもあの家宰たちに因る圧政の影響なんだな。

 「くそっ……」

 「悲観してても仕方ないでしょアレク。あんたは今のあんたにできることをやるだけじゃないの?」

 「そうだったねシルフィ」

 よし。冒険者ギルドに行く前に。せっかくだから先にモンデール神父様のところに寄っていこう。お土産も渡したいし。


 ササササッッ‥‥

 気配を消したまま領都学園内併設の教会に向かったんだ。モンデール神父様ならここにいるだろうから。


 ササササッッ‥‥

 「すごいわねアレクの先生は」

 「うん!」

 俺的にはけっこう意識して気配(魔力)を消して歩いてるつもりなんだよ。そりゃまだまだだけどさ。

 西門にいた領都騎士団員さんや商人や冒険者たちは誰も俺に気づかなかった。

 だけど……。

 ああやっぱりモンデール神父様はすごいな。まだ200メルは離れてるんだよ?

 ドクンッ  ドクンッ  ドクンッ  ドクンッ‥‥

 穏やかに刻む心音にのせてモンデール神父様の懐かしい魔力が伝わってきたんだ。

 ここだよって。

 きっと俺が気付くはるか前からモンデール神父様は気付いてたんだろうな。「ここにいるよ」って。

 人気もない朝の学園内教会の扉を開ける俺。

 ギギギギギーーーーーッッ

 モンデール神父様がいた。

 そこには女神様の木像の前で、俺に背を向けたまま祈りを捧げる神父様がいたんだ。

 「アレク君お帰り」

 「モンデール神父様。ただいま帰りました」

 ここで初めて振り返った神父様が俺を見て目を見張ったんだ。
 
 「大きくなったね!」

 「はい!ようやく成長期みたいです!」

 俺にとって最大の恩人がモンデール神父様なんだ。

 ディル師匠は厳しくも優しい俺の爺ちゃん。シスターナターシャはやや歳の離れた博学なお姉さん。そしてモンデール神父様は尊敬しかない俺の父親なんだ。

 「まだ皆が来るにはしばらく時間もある。部屋で朝食でもいただこうか?」
 
 「はい。ごちそうになります」







 「今日も女神様のお導き‥‥いただきます」

 「いただきます」

 冒険者でも辟易するような堅いパンと薄い塩味の野菜スープ。

 モンデール神父様はずっとこの朝食を摂ってるんだろうな。

 「アレク君にはちょっぴり厳しい食事かな?」

 「あはははは」

 「でも神父様。昔‥‥養父母との食事はこれが当たり前でした。それでもおいしかったし、毎日が楽しかったです」

 「うんうん」






 「神父様、帝国のお土産です」

 「ありがとうアレク君。いつもすまないね」

 そう言ったモンデール神父様はお土産を取り出した俺のマジックバックをみて驚いてたよ。

 「マジックバックだね」

 「はい。帰る前に帝都騎士団さんから餞別にもらいました」

 「それはよかったね」

 「はい!」

 そこからはグランド経由で帝国に入ったことから、最後のリゾート計画までを聞いてもらったんだ。

 「うんうん!」

 「なんとまた!」

 「それはそれは!」







 「実によかった。それもこれも女神様のおかげだね」

 モンデール神父様は俺がする話の1つ1つに頷いたり、感心したりしてくれたんだ。

 「いい出会いをしたねアレク君」

 「はい!帝都にも新しい家族ができました」

 「うんうん」

 俺からの報告もひととおり済んだあと。

 「それにしてもずいぶん早く帰ってこれたね。ヴィンランドからどのくらいかかったんだい?」

 「はい。途中休憩しながら2日とちょっとです」

 「ワハハハハハ、なんとまあ!
 懐かしいね、昔君を背負ってご両親の下に走ったのがつい昨日のことのようだよ」

 「あはははは。教会学校では神父様に手紙屋さんもやらせてもらいましたし」

 「そうだったね。アレク君‥‥背も高くなってますます‥‥君は亡きご両親に似てきた‥‥」

 そう言ったモンデール神父様の目に光るものが見えたんだ。

 「神父様。お、俺はあの日のご恩を‥‥忘れたことはひと時もありません。

 神父様を始め、俺なんかのために生命をかけて守ってくれた‥‥

 俺は神父様たちを失望させちゃいけないと思って今も真面目に生きています。

 だからヴァルカンさんたちの窮状もおれにはまったく他人事じゃないんです」

 「‥‥そうだね」







 「では本題に移ろうか?」

 「はい」

 モンデール神父様から語られたのは俺の想定以上の圧政をする現領主たちだった。

 「昨年起きた未曾有の干ばつでヴィンサンダー領の国力は大いに落ちたんだよ」

 「はい‥‥」

 「領内の農産物は軒並み凶作となったんだよ。
 ああアレク君が手助けしてくれた3村だけは別だったがね」

 「あははは」

 「基本は人頭税の増税。
 それに輪をかけて横行しているのが税金を徴収する騎士団員と悪徳商人からの領民の被害なんだ。

 その被害は枚挙にいとまがないんだよ。
 
 わずか1年でこのサウザニアも目に見えて荒れだした」

 「沈みゆく船から飛び降りれる体力のある者、真っ当な商人たちはどんどんこの領から離れていってるよ」

 「神父様、俺、領都教会前の広場で寝てる人や奇声を上げてる人も見ました。
 酔って幸せそうな人なんかじゃなかった‥‥」

 「恥ずかしいことだね」
 
 「はい‥‥」

 「それでドワーフの件はどういったことなんですか?」

 「それはね、人頭税とは別に『ドワーフ税』ができたんだよ」

 「ドワーフ税ですか?」

 「中原でもそんな馬鹿な税制を採る国はどこもないだろうね」

 「俺も初めて聞きました。だってどこの国も領もドワーフには来てもらいたいですよね?」

 「そうだね。だけどね‥‥」

 ここでモンデール神父様がさらに眉を顰めて話し始めたんだ。

 「今のサウザニアの総督は‥‥」

 「総督?」

 「あのご領主様一家は相変わらず1度も領内に来たことがないからね」

 マジか!?なんという怠慢なんだよ!そのくせ税金という名の遊興費は使い放題かよ!

 「総督はご領主様から領都サウザニアのすべての権限を得た、そうだね‥‥アザリアの鎮台だったジャビー伯爵と同じようなものだね」

 「なんですかそれ‥‥」

 「総督は‥‥‥‥アレク君、君もよく知ってる子の親だよ」

 「誰ですか?」

 こくこく

 
























 「まさか‥‥」

 「そう。カーマン君の父親、ヴィンサンダー領領都サウザニア総督はホセ・シュナウゼン子爵だよ」

 「えっ!?」


――――――――――


 いつもご覧いただき、ありがとうございます!
 「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
 どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

なんか黄金とかいう馬鹿みたいなスキルを得たのでダラダラ欲望のままに金稼いで人生を楽しもうと思う

ちょす氏
ファンタジー
 今の時代においてもっとも平凡な大学生の一人の俺。 卒業を間近に控え、周りの学生たちは冒険者としてのキャリアを選ぶ中、俺の夢はただひとつ、「悠々自適な生活」を送ること。 金も欲しいし、時間も欲しい。 程々に働いて程々に寝る……そんな生活だ。 しかし、それも容易ではなかった。100年前の事件によって。 そのせいで現代の世界は冒険者が主役の時代となっていた。 ある日、半ば興味本位で冒険者登録をしてみた俺は、予想外のスキル「黄金」を手に入れる。 「はぁ?」 俺が望んだのは平和な日常を送るためだが!? 悠々自適な生活とは程遠い、忙しない日々を送ることになる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...