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第2章 幼年編
648 メロンちゃん
しおりを挟む帝国でも、グランドでも、ヴィヨルドでも。もちろんデニーホッパー村でも。
当時積極的に幼児と触れあっていたのは、実はシルフィなりの考えがあったからなんだよね。なにかわからないけど。
ただ俺は、小さな子をくんかくんかできる喜びしか考えてなかったんだ……。
「あらアレク君おかえりなさい。背が伸びたわね!」
「ただいまミランダさん。えへへ。
これ帝国のお土産」
「ありがとう。なに?」
「お酒だよ。帝国で俺が作ったんだ」
「まあお酒!うれしいわ!しかもそのバックはマジックバックなの?」
「うん」
「あなたは‥‥」
ミランダさんが目を見開いているが、それ以上はなにも言わなかった。さすがだよな。
「お酒、お酒、お酒♪」
即興でなにやら口ずさむミランダさん。
実はロジャーのおっさんよりミランダさんのほうが酒豪なんだ。
2人で飲んだらいつも先に潰れるのがロジャーのおっさんなんだって。
「あなたーアレク君がきてくれたわよー」
階上からおっさんの声が響く。
「チッ!嫌なんだよ。あのガキがくるとメロンが俺に懐かなくなるから‥‥‥アレク!お前‥‥背が伸びたなあ」
「へへへっ」
「メロンちゃんは?」
「あーやっぱりか。メロンはお前に懐くから嫌なんだよ!」
そう言って階段を降りてきたロジャーのおっさんは肩にメロンちゃんを抱きかかえていた。
「キャッキャ。パーパー‥‥」
メロンちゃんはご機嫌だったんだ。
「お前が居なくなってようやく俺に懐いてくれてたのに‥‥」
「まあまあおっさん。早く俺にも抱かせてくれよ」
「チッ!ちょっとだけだぞ!」
「メロンちゃん久しぶりでちゅねー。元気にしてまちたかー。毎日毎日ゴリラに抱かれて怖かったでちゅねー」
「アレクてめー!」
「さっ、アレクお兄
ちゃんでちゅよー」
「うっ、うっ‥‥ギャーーーッッ!」
「えっ!?なんでだよ?メロンちゃん?」
「ギャーーーッッ!」
「メロンちゃんアレクお兄ちゃんでちゅよー?」
「ギャーーーーッッ!」
必死になってあやしてみるがメロンちゃんはけたたましく泣くばかり。
「うそ‥‥」
「ざまあみろ!お前もこないだまでの俺と同じなんだよ!」
「もう!アレク君かして」
なんでだよ?
メロンちゃんはミランダさんの腕に抱かれるとすぐに泣き止んでキャッキャと笑いだしたんだ。しかも「ママ、ママ」と言いながら。
くっ!俺はゴリラじやねぇぞ!?なんでだよ。
「そんなの当然じゃん。赤ちゃんはまだ弱いのよ。だから魔力にも敏感なの。
アレク、あんたは帝国に行ってから魔力も一層強くなったのよ。だから赤ちゃんには怖いのよ」
「えーーっ!じゃあどうすれば‥‥」
「双子の子と模擬戦やったでしょ。あのとき相手の魔力に自分の魔力を浸透させることをやったでしょ?」
「うん」
「それと同じよ。赤ちゃんのか細い魔力に自分の魔力をゆっくりと浸透させるのよ。
赤ちゃんが心地よい魔力空間を作ってあげるの。安心だよって。
母親はそれが無意識にできてるのよ」
「そっか!じゃあやってみる!」
魔力を意識してカット。さらには薄ーく薄ーく魔力をゆっくりと這わせていく。メロンちゃんが安心できるようにそーっとそーっと。
「キャッキャッ‥‥アレク、アレク!」
「やった!やった!」
「くそっ!なんでだよ!」
「やっぱりメロンちゃんはかわいいでちゅねー。ゴリラは怖かったでちゅよねー」
「てめー!」
「2人とも‥‥」
「メロンちゃんは人間がいいでちゅよねー」
「てめー!このクソガキ!」
「キャーー!怖いゴリラが来ましたよー」
「2人とも!」
「「メロン‥」」
バンッッッ!
「聞こえないの!!」
ミランダさんが足踏みしたんだ。コワッ!
「「はい。ごめんなさい」」
▼
「あなた、アレク君にお酒のお土産もらったのよ」
「フン。ありがとな。お前、それマジックバックか!?」
「うん」
「どうしたんだ?」
「帝国に新しいダンジョンができてさ。そこからドロップ品でマジックバックが出たんだよ。
だけど俺がもらうわけにはいかないじゃん」
「お前は‥‥」
「そしたらさ、ヴィヨルドに帰る前に帝都騎士団さんから餞別にってもらったんだよ。このマジックバック(極小)を」
「お前よくもらったな。それは小さいとはいってもとんでもなく価値のあるものだからな」
「うん。大事にするよ」
「そんで?」
ロジャーのおっさんにもこの1年の話をしたんだ。ミランダさんもいるから「あのこと」は伏せてね。
ロジャーのおっさんからは明日冒険者ギルドで詳しく話を聞くって言われたから、翌日の放課後にあらためて話したんだ。
冒険者ギルドにはタイランドのおっさんもテンプル先生もいたよ。
「そうか。眷属でさえそれほどの力かあるのか‥‥」
「皇帝、メイズやサム、タムラクラスでないと勝てんのか‥‥」
「うん。俺のシルフィが言ってた」
同じ話はご領主様のところでもしたんだけどね。もう1度タイランドのおっさんやロジャーのおっさん、それとテンプル先生も含めて話をしたんだ。
「それとお前、銀級になれたみたいだな」
「うん」
「未成年者とはいえ銀級だからな。ないとは思うが、これからは緊急召集がかかったらお前にも働いてもらうからな」
「なにそれ!?緊急召集!」
スタンピードみたいなやつだな。ダンジョンから溢れ出し魔獣の群れ。
それを必死で食い止める冒険者の仲間たち。
ヤバい!
街に魔獣が解き放たれる‥‥‥‥
そのとき颯爽と現れる俺……。かっけー!!
「おーい馬鹿アレク!」
「おーいくそガキアレク!」
「アレク君!戻ってこい!」
「「阿呆め!」」
ゴツンッ!
「痛いっ!はっ!」
「あはははは‥‥」
「まあスタンピードみたいなもんは一生に1度出くわすくらいだな。それも奇跡みたいなもんだ」
「ああ、ひたすらにはずれくじをひいたみたいなもんだからな」
「おっさんたちもないの?」
「「あるわけないだろ!」」
即答するゴリラ兄弟。
「テンプル先生は?」
「見聞きはしたが実際に自分が会ったことはないのぉ」
へぇー。そんなもんなんだ。スタンピードって。
「まあスタンピードはさておき、武力の底上げは早急に考えねばならんの」
「冒険者、騎士団‥‥狭い領内だからやることは多いな」
「アレク、お前は学園生全体を強くしておけよ。いざというのき、大人も子どももないんだからな」
「「そうだぞ(そうじゃよ)」」
そうだよな……。
やっぱ狂犬団だよな。
――――――――――
「ヘンリー」
「なんでしょう父上?」
「例の悪魔の件だがな。いざというときのためにわが領都でも新たに領都騎士団養成校を作る必要があろうなモーリス」
「それは父上どういう狙いが?」
「なに。単純に領都騎士団のレベルアップよ。
それと領都学園に対抗できる未成年者組織を作れば学園生にも刺激となろう。ひいては未成年者から武力の嵩上げになろう」
「なるほど。それとなヘンリー、アレク君が学園で帝国と同じ狂犬団を‥‥」
「クックック。それはおもしろいですな。モーリスを呼んでよく言い聞かせておきます」
「頼む」
「私の代では平和のまま民の安寧は保たれるがおそらくはヘンリー、お主の代では難敵が立ち塞がろうからな。それも2つも」
「大丈夫ですよ父上。いざとなればヘンリーもおります。民の安寧のためには私も粉骨砕身‥‥」
――――――――――
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