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第2章 幼年編
646 用意周到
しおりを挟む【 カーマンside 】
くそっ!狂犬が帰ってきやがったか。
俺がヴィヨルドにいられるのもあと1年だ。
狂犬アレクにこれ以上邪魔されてたまるかよ!
去年から手駒を揃えてきたんだ。もっと考えろ考えろ!邪魔されずに確実に実行できる方法を。
――――――――――
「「アレクせんぱーい!」」
「「キャーーーッッ!」」
「「こっち向いてぇーーーっ!」」
「へっ?」
攻撃魔法を発現する新1年生上位3人との模擬戦に先立って。
アレクっていう人の声援が起こってるんだ。なにか知らんけど。だれ?
「な、な、なんだよアリシア?俺は知らねえぞ!だれのことだよキャロル?」
「あんたに決まってるじゃないアレク」
「そうよあんたよアレク」
「お、俺こんな子たち知らないぞ?てかなんなんだよ?」
「「あんたね‥‥」」
あー2人ともまたかわいそうな子どもを見る顔しやがって!
「いい?去年の未成年者武闘祭の優勝。それから帝国留学。
こっちにきたマルコ先輩が武闘祭で圧倒的に強かったこともあるわ。そのマルコ先輩よりも強かったあんた。
もちろん1年からの10傑入り。さらには帝国から聞こえてくる噂話まで。
あんたのことを知らない学園生は1人もいないわ。だからこの声援もそういうことなのよ」
「でもまさかあんたが変態だなんて1年生は知らないでしょうけどね」
フフフフフ
アハハハハ
「‥‥し、知らねぇよ、そんなの!」
「まっ、照れちゃって!」
「「かわいいーアレクぅー」」
「やめろアリシア、キャロル!」
フフフフフ
アハハハハ
「アレク、虚構のアイドルと同じってこと、わかってるわね?」
「ああシルフィ。もちろんだよ」
そう。この子たちが見てるのは噂話のアレク。虚構の上のアレクなんだ。アイドルと同じ。生身の俺じゃない。
「そうよ。だからわかるでしょ。あそこにもあっちにも‥‥ね?」
「うん‥‥」
熱い視線を送る新1年生の中にも、試験補助にあたる5、6年生の中にも。はっきりとわかる敵意を持った視線を感じたんだ。
虚構の熱狂の中、現実を教えてくれるこの刺すような視線……。
ある意味、逆に心地よいな。
「ずっと推し活やってくれる子もいればすぐに飽きる子もいる。もちろん意味もなくずっとディスる子、アンチの子もいるのは変わらないわ」
「‥‥だねシルフィ」
「‥‥」
「わかったかフレッド?」
「お前が猫族の里にいる間。領都学園にはアレク先輩っていう英雄が現れたんだよ」
「‥‥」
――――――――――
【 再びカーマンside 】
新1年生のクラス分け試験に遡ること、10日ほど前。
ヴィヨルド領 領都学園の入学試験会場にて。
「そんじゃあ約束どおり頼むぞ。お前らには永いこと大金を払い続けたんだからな」
「「「わかったよ。やりゃいいんだろカーマン」」」
「ああ。バレたってお前らが困ることはなんもねぇ。
だいたい口止めの金払ってた俺がチクることはねぇんだからな」
「しかしお前は変わってるよな。なんで毎年毎年下級生の受験に加担なんかするんだよ?」
「いいんだよ。俺の手足になる学園生が増えりゃな。
奴らにしても学園生って肩書きが手に入るから互いがwin-winだろ」
「「「違いねぇ」」」
「‥‥なんか知んねぇけど。俺らもお前から金もらえりゃwin-winってやつよ」
「だろ」
わはははは
ワハハハハ
ギャハハハ
――――――――――
「おはよ寮長」
「おはようアレク君。どうしたの?」
「ハイルは?
ひょっとしてあいつ春休みに田舎に帰ってまだ帰って来てないの?困ったやつだね」
そうなんだ。同室のハイルが昨夜いなかったんだ。てっきり寝てると思ったのにさ。
「あらアレク君誰かに聞いてなかった?」
「ん?なにを?」
「ハイル君は寮を出たわ。友だちの家から通うんだって」
「なにそれ?聞いてないよ!てかなんだよあいつ!冷たいよな」
ハイルのやつ、置き手紙ってか挨拶なしかよ!同室だったのに!
結局、新学期に入ってからハイルに会う機会はなかったんだ。元々あいつは10組で教室も離れてたしね。俺は俺でいろいろ忙しかったし。
俺の中でもだんだんハイルのことを忘れていったんだ。
同室だったけど、元々が早く寝るあいつとは挨拶程度になってたから。
帝国留学をする前。
ディル師匠が俺に言った言葉を思い出したんだ。
「よいかアレク。お前に手はいくつある?」
「えっ?2本です」
「2本の手で持てるものは2つしかないからの。忘れるでないぞ」
最初なに言ってるだろうって思ったんだ。
でもそのときの師匠の顔がすごく優しい顔をしてたから。
きっと何か深い意味があるんだろうなって思ったんだ。
まさかこんなふうになるなんて。あいつが俺をこんなふうに思ってたなんて。
このときは思いもしなかったんだ。
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