640 / 722
第2章 幼年編
641 ヴィヨルドへの帰還
しおりを挟む帰りの船。
やっぱり異世界あるあるは何ひとつなかった。
海賊船もこなかったし、巨大タコも魚人族も攻めてこなかった。
もちろん嵐もこなかった。
揺れのない快適な船旅。
ただただイーゼル艦長のありがたくも長々とした講義を毎日毎日聞かされ続けたんだ。
「クックック。最後まで災難だったなアレク」
「くそー!ベックとリリアーナも参加すりゃよかったんだよ!」
「「嫌だ!(嫌よ!)」」
「即答しやがって!」
ワハハハハハ
フフフフフフ
わははははは
▼
「じゃあまた会おうな」
「「おお(ええ)」」
王都ではミカサ会長に会いにご自宅に行ったんだけど、残念ながら不在だった。
だからお土産だけ置いてきたんだ。
お土産はマジックバック(極小)に入れた帝国土産が入ったクーラーボックス。
いろいろ試行錯誤した結果、こんな感じでマジックバックに9箱収納できたんだ。
◎ マジックバック(極小) 容量9/9
◯ お土産セット9箱(魔力をこめて作った金属箱入)
・ ウイスキー 1本
・ 赤ワイン 5本
・ 白ワイン 4本
・ 焼酎 1本
・ 瓶麦酒 9本
・ 醤油 1本
・ 麦味噌 1袋
・ 豆味噌 1袋
・ ソース 1本
容量が9ということはわかるけど、お酒や調味料を1つにまとめたお土産セットを金属箱にしたら、なんと9箱入ったんだ。
なぜだか謎だったのは、1つの金属箱に赤ワインと白ワインは合計として9本入ったし、瓶麦酒は9本入ったんだ。なんで?
わけわかんないよ。
そんでもさ、小っちゃながま口にこんだけのものが入るんだからね。やっぱマジックバックはすごいよね。
そうそう、アーカイブからウイスキーや焼酎も作れるようになったし、ワインも既存のワインより断然良質なものができたんだ。
ただ俺は酒が飲めないからよくわかんないんだけどね。
お酒を入れる硝子製品も製造できるようになったよ。
それもあって、アレク工房は帝国内にいくつもできたんだ。
アレクウイスキー工房、アレクワイン工房、アレク焼酎工房、アレク麦酒工房、アレク醤油工房、アレク味噌工房、アレクソース工房、アレク硝子工房などなど。
なんかすごくない?
まあいつものように名前だけで俺はなにもやってないんだけどね。製造元がアレク工房で発売元がミカサ商会って感じかな。
そんなわけで食に関しては順調に再現できてるよ。
俺的にほしいのは、あとは野菜のトマトかな。トマトケチャップがあればさらに美味しい料理ができるからね。
――――――――――
「ピーちゃーん!」
「シャーーーッッ!」
(お待たせー狐ちゃん!)
グランドまではピーちゃんタクシーがあっという間に連れてってくれたよ。
「ピーちゃん、デーツも乗せてってくれたんだよね。ありがとう」
「シャーーーッッ!」
(帰り、デーツ君が怖くなってたのよ!)
「へぇーデーツが強くなったんだね」
「シャーーーッッ!」
(だから怖くなってたのよ!)」
「そっかー。レベたゃんみたく強くなったんだ!」
「シャーーーッッ!」
(だーかーらー怖いのよ!)
「そんなに強くなったんだね。これはレベちゃんに感謝しなきゃね」
「シャーーーッッ!」
(レベちゃんと同じくらい怖いのよ!?)」
「レベちゃん並に強くなったんだね!」
「シャッッッ!」
(もういいわよ。狐ちゃんの言うとおりよ!)
ガリガリガリッッッ!
「痛い痛い痛い。ピーちゃんあたま噛まないで!」
「そうだピーちゃん、帝都にはカラスをティムしてるやつがいたんだよね。
俺も動物や魔獣をティムできるかな」
「シャーーーッッ!」
(簡単よ。ティムしたい相手と仲良くなればいいだけよ)
「そっか」
(うーん。やっぱりわかんないなぁ。梟や烏ってやっぱティムだと思うんだけどな)
▼
半年ぶりのグランドはさらに大きく変わっていたんだ。
帝国、法国、自治領エルフォニアの領事館もできてたし、ヴィヨルド領の領事館も帝国内大使館に間借りしてあった。
仕事は主にゴムを主体の貿易交渉みたいだね。
対して王国の領事館はやっぱりなかったよ。
あとグランドとしては断ってるんだけど、今も戦闘靴と引き替えに領事館を設置したいって国々からの話がたくさんきてるんだって。
神父様とシスターが常駐の新しい教会もできてたし、ダルク大国が作った子どものための魔法学校もあったよ。
戦闘靴を手に入れたいという、利権絡みって考え方はいかにも大人的でいやらしいけど、結果的にグランドの人々が平和に過ごせられるのならいいのかもしれないな。
大国の領事館の存在が犯罪の抑止力として機能するのならいいんだろうね。
打算もあるだろうけど、帝国、大国、法国、エルフォニア、ヴィヨルドからのグランドへの支援はありがたいなって思ってるよ。
まあガキの勝手な思い込みだけどね。
――――――――――
「き、狐ちゃんごめんね」
「わ、悪かったアレク」
「す、すまんかったアレク君」
「ん?なんで?」
なぜか姫、コジローさん、マル爺から謝られたんだ。でもさ……
「あのねー私に妹ができたのよおぉぉ。るんるん♪」
なぜかレベちゃんだけハイテンションだった。
「あのさー‥‥みんなの話が見えないんだけど‥‥?」
スルーしていいのかな?なんとなくみんなもスルーして欲しそうだったんだ。
だからさ、なんか知らないけどスルーしたんだ。
「じゃあその件はナシってことで。
お前どんどん背も高くなってるな」
「「本当だ!」」
「でしょー。ようやく175セルテまで伸びたよ」
「私より低かったのにねー。成長期よね。
それはそうと狐ちゃん、この沢山の金属は何なの?
キムが手紙で知らせてきた、いとでんわ?」
「まさか‥‥アレク、この金属はひょっとして‥‥」
「そうじゃの‥‥」
「そう。ミスリルなんだ。さすがコジローさんにマル爺だね」
「てかお前、ミスリルはとんでもなく高いんだぞ!?」
「あー大丈夫大丈夫。タダだから」
「「「はあ?」」」
「帝国に新しくできたダンジョンがあってね。ミスリル鉱のダンジョンで出てくる魔獣にはぜんぶミスリルが含まれてたんだよ」
「「「ミスリル魔獣!?」」」
「うん。で蜘蛛も糸がミスリルだったんだよ。
だから俺が採ってきたこの蜘蛛の糸はタダだからね」
「「「なるほど!」」」
「あとね、この糸電話は帝国の商業ギルドで登録も済ませてあるからね。
材料もミスリルだから、これだけ大量には帝国の騎士団からしか手に入らないしね。
俺以外の人が敷設するのはたぶん時間もお金もめちゃくちゃかかるからできないと思うよ。
だからこれはタダ!」
「「「‥‥」」」
「グランド中のどこからでも使用できる糸電話を敷設するからさ。
これからは警らは2人1組で行けるよ。悪い奴らを見つけたら詰所で待機してた人に応援要請をすればいいんだよ。だから警らも楽になるよ」
「「「??」」」
「あははは。わかんないよね。とにかく早速敷設するからさ、明日1日待ってよ」
俺が糸電話として敷設したのはグランド中の外縁をぐるっと1周電話線(ミスリル蜘蛛の糸)を敷設したもの。
2、300メル単位である電話ボックスはグランドの警ら隊しか利用できない鍵式のもの。
電話ボックスから詰所の警ら隊に応援要請ができる仕組みなんだ。
「じゃあアレク、今夜は俺の家に来るか?」
「いくいく!ジャネットちゃんに会いに行く!」
「あら狐ちゃん、妹のリアーナはもう飽きた?」
「違うよ。本当は2人揃うと最高なんだけどなぁー」
子ども2人のお腹の匂いか‥‥たまらんなぁ。えへへっ。
「「「(やっぱり変態だ‥‥)」」」
「ジャネットちゃんアレクお兄ちゃんでちゅよー。元気にしてまちたかー?」
キャッキャキャ‥‥
すーはーすーはー‥
この日はコジローさんの家で1泊泊めてもらってから、翌朝から1日かけて糸電話を敷設したよ。いたずらされないように地中深くに埋めて、電話も鍵付きの箱入式。
「じゃあ実験するよ。そろそろかかってくるかな?」
チリーン チリーン チリーン‥‥
呼び出し音は鈴にしたよ。受話器はレトロタイプで受信機は小さな土製スピーカースタイル。
「しもしもー」
「しもしもー」
ウオオオォォーーッ!
「「「なんだこれ!」」」
「「「すげぇ!」」」
これで24時間、ゴームの不法伐採も防ぐことができるよね。
グランドでは大人気となったゴームの木。
主要産業の原材料を刈りすぎないように厳重な管理をしているんだ。
今の生産性を維持しながら刈りすぎないようにきちんと管理をしていくこと。そしたら今後10年20年は大丈夫だよ。
「ゴーム。次はこのタイヤも控えてるからね」
ゴムタイヤも中原全土から注文が殺到するだろうな。
――――――――――
グランドで糸電話の敷設をしたあとは、慌ただしくヴィヨルドに帰ってきたよ。だってもう新学期だからね。
領都ヴィンランドの東門の前で。
領都騎士団員さんから入場許可をもらったんだ。
俺、領都民だし冒険者でもあるからね。ほぼスルーかな?
「ヴィンランド学園生で冒険者のアレクです」
「ちょっとまってくれよ‥‥‥‥ああアレク君だね。
早速だが、ご領主様のところまで寄ってくれるかい?」
「えっ?!ご領主様‥‥ジェイル様ですか?」
「そうなんだよ。各門を守護する我々に、君が帰ってきたら、そう告げるように指令がでてるんだよ」
「お、俺‥‥なんか悪いことしました?」
「ハハハハ。それはないと思うぞ。だいたい悪いことをした犯罪者なら手枷足枷つけてもらうことになるからね」
「あはははは。ビビったー」
「まあそういうわけだ。速やかにジェイル様のところに行ってくれたまえ」
「は、はい‥‥」
なんだろう?
俺なんかしたかな?
「やったじゃねぇか!お前前皇帝の末娘の腹の匂いを嗅いだ変態だろうが!」
「ううっ‥‥ど、ど、どうしよう‥‥」
留学時の不祥事でまさかのお咎めか。変態として捕まるのか俺?!どうしよう……。
――――――――――
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる