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第2章 幼年編
639 最後の武闘祭〜デーツの目覚め
しおりを挟む最後はドンとトンと闘ることになったんだ。
「‥‥吹き矢とクナイ。ともに毒を塗布してあるそうですよー」
芸術クラブのララちゃん先輩がアナウンスをしたんだ。
それに合わせて、ドンとトンの2人がニヤッと笑ったんだ。もちろん俺も笑い返したよ。
「楽しみだな」
「「ええ団長」」
2人はどんだけ成長したのかな。
腰に差すのは何本もある投擲用のクナイ。
口元には何かを含んだ感じ。これは間違いなく毒矢だよ。毒耐性もきっちりつけてきたんだろうな。
わーわーわー
ワーワーワー
わーわーわー
「それじゃあ始めるよー!3年1組ツインズ 対 団長の‥‥」
「『団長と闘ろう』最終戦 始めー!」
ドオオォォォーーーンッッ!
大きな銅鑼が鳴った。
「「よろしくお願いお願いします!」」
「よろしくお願いします!」
礼をして、さらには充分な時間を空けてから。ドンとトンが動き出したんだ。
シュッッ!
シュッッ!
シュッッ!
シュッッ!
2本のクナイが的確に俺の喉元を狙って高速で飛んでくる。
少し遅れて吹き矢も飛んできた。
これにはたまらず後退したんだ。
ササササッ!
「「「おぉ~!団長が下がったぞ!」」」
「「「初めてじゃないか!」」」
「「「ドンがんばれー!」」」
「「「トンがんばれー!」」」
わーわーわー
ワーワーワー
わーわーわー
「お前ら‥‥あれからいっぱい修練したんだな」
「「まだまだですよ団長」」
「「いきますよ」」
ダンッッ!
ダンッッ!
突貫で急速に迫ってくる2人。
ガンガーンッッ!
ガンガーンッッ!
トンのクナイと俺の刀が1合2合と交わされる。続いて、間髪入れずにドンが続いたんだ。
ガンガンガンガンガーンッッ!
ガンガンガンガンガーンッッ!
ドンとの剣戟はさらに3合4合と続いたんだ。そしてまたトンに切り替わった。
ガンガーンッッ!
ガンガーンッッ!
双子の片方と闘ってる間、もう片方は俺からみて死角の位置にいて、油断なく構えてるんだ。
それでも闘う2人の邪魔も加勢もせずに、ただ見守っていたんだ。
「ハハハハ。びっくりだよお前ら。成長したじゃん!」
2人とも伸びたな。
しかもまだまだ伸びしろも充分だ。
とくにドンはマル爺の指導もあって、すごく伸びたよ。
ひょっとして来年の武闘祭はデーツもヤバいかも。これは来年の首席候補に一気に名乗りを挙げたな。
いつも一緒にいるイメージだったドンとトンの2人。
今ではドンは外の狂犬団をまとめ、トンは学内の狂犬団をまとめている。
この2人が中心でいてくれたら、狂犬団も青雲館も福祉リゾート計画も安心だよ。
だったら。
ドンとトンのために俺ができることは、2人に更なる進化をみせることだな。
2人ともここまで上がって来いよって。
「土柱!」
ダンダンダンダンダンダンダンダンッッ!
「「「すげぇ‥‥」」」
等身大サイズの土柱を修練場一面に乱立させたんだ。
ドンとトンの2人を囲むようにして。
「(兄ちゃん!)」
「(トン!)」
「(来るぞ!)」
「ドン、トン。お前らは自分の武器をちゃんと理解してるよ。
その上で‥‥」
「索敵の基本はなんだ?」
拡声魔法器を通して2人に語りかけたんだ。
「索敵の基本は目で見る、視認」
「耳で聴く、聴覚」
「手足や肌で触る、触覚」
「鼻で嗅ぐ、嗅覚」
「舌で味わう、味覚だ」
「「はい団長。わかります!」」
「これに温度感、圧を感じる圧感、空気が震える振動感を加えろ。
そして最後は直感だ。
全身の感覚を研ぎ澄ませ。
先に敵を見つけることが同時に敵から見つからないことになる。いいな?」
「「はい団長!」」
そう言いながら、ドンとトンのふたりは互いに背中を預けて四方に目を配ったんだ。
フッッッ
俺は気配を完全に消したよ。
まだ冒険者のタムラさんにはぜんぜん及ばないけどね。
「タムラさん。あの完璧な気配の消し方はどうすれば身につくんですか?」
「アレクよ、ラーメン奢ってくれたお礼に教えといてやる。
自分の意思も魔力と共に俯瞰で見ろ。そんでもって相手の魔力にじんわり、ゆっくりと同調するんだよ。
そうしたら横にいても相手には見えねえよ」
「タムラさん、あざーす」
「消えた?」
「どこだ?」
「「団長はどこだ?」」
とんとん
「「アッ!」」
2人の肩を叩いて、そのまま2人と肩を組んだんだ。
「ドン、トン。お前らなら任せられる。あとは頼むな」
「はい!団長!」
「団長‥‥お、俺は‥」
「頼むぞドン。いつか必ず俺は帰ってくる。
だから俺の居場所、俺たちの居場所を守ってくれよドン」
「‥‥‥‥はい」
本当はドンに一緒に領都学園に来てくれ、学園ダンジョンに行こうぜ、それから俺の復讐も手伝ってくれって喉まで出かかったよ。
だけどそれは言えなかった。
だって俺の勝手な望みにドンを巻き込みたくなかったから。
でも。
何年かしたら。
俺たちが成人したら‥‥いつか同じ道を歩めたらいいな。
――――――――――
武闘祭最後の挨拶も無事にできたよ。
「帝都学園の、帝国の良いところは徹底した実力主義だ。
力もない奴が大きな顔はできない。私利私欲は恥ずべきことだ。
その上で上に立つ人たちが努力を惜しまないことだ。
俺たち学園生も努力を惜しまずに成長しよう。
ただ精一杯努力しても。それで結果が出なければ仕方ない。うまくいくときも、うまくいかないときもある。
もし。
周りにそんな仲間がいたら‥‥何も言わず、ただ支えてあげてくれ。
いつか自分が支えてもらえる側になるから。
誇りある帝都学園に来れて良かった。
学園の先生に、仲間に。
お、俺は‥‥う、うっ‥‥感謝している。
ありがとう。またな」
パチパチ‥‥
パチパチ パチパチ‥‥
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ‥‥
ウオオオォォーーッ!
うおおおぉぉーーっ!
3,000人を超える学園生。
最初は俺への反感しかなかった。
今はほとんどの学園生がイコール狂犬団員だ。
もちろん1割ほどの学園生は今も相容れない。
だけど、これは仕方ないと思う。
俺のやってること、やろうとしていることをすべての人が理解してはくれないからね。
「それでもアレク、アレクから歩み寄ることをやめちゃダメよ。
歩み寄ることをやめたらどこまでたっても平行線なんだからね」
「わかってるよシルフィ」
――――――――――
卒業した学園生には、わずかながらの祝金が匿名で贈られた。
もちろん狂犬団員、幹部団員にはこの1年の奉仕活動の度合に応じて。
祝金はハチやコウメたち1年生が卒業するまで贈られることになる。
――――――――――
るんるんるんるん♪‥‥
内股。両掌をピンと広げて。自ら口ずさみながら、港をスキップして駆けていく漢乙女……。
「あら?マリーじゃない。ひょっとしてあたしを迎えに‥」
「デーツ!」
パアアァァーーーンッッ!
そのままデーツの唇を奪ったマリアンヌ。
「目が覚めた?」
「お、俺は‥‥」
「デーツ。あなたは夢を見てたのよ。悪夢という名の夢をね」
コクコク コクコク ‥‥
「だ、だ、だよな」
「武闘祭は今日終わったわ。アレク君はたぶん明日の朝、帰るわ」
「そっか‥‥」
「デーツは今夜うちに泊まりなさい。その格好じゃアレク君はもちろん、おじさまもみんなびっくりするわ」
「あ、ありがとうマリー」
「さっ、帰るわよ」
「ああ」
「内股にならない!」
「はい‥‥」
――――――――――
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