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第2章 幼年編
638 最後の武闘祭 ⑤
しおりを挟むそれはアレクが帝国を去る前のこと。
サンダー王国王都サンディアゴ
ロナウ河河口の港にて
るんるんるんるん♪‥‥
内股。両掌をピンと広げて。自ら口ずさみながらスキップして駆けてくる漢乙女……。
「「ま、まさかデーツ(デーツ君)?」」
「お待たせぇー。待ったぁ?」
「「デ、デーツ(デーツ君)?‥‥」」
「いやあぁん。デーツ君じゃないわ。あたしはデーツちゃわぁんっ」
「「‥‥」」
「ほら言ってリリアーナちゃん、ベック君。デーツちゃわんって」
「ほら早くぅ♪」
「言えよゴラア」
「「デ、デ、デ、デーツちゃわん‥‥」」
「えへっ。なぁーにぃリリアーナちゃん?ベック君?」
「「‥‥」」
――――――――――
「それじゃあ今日も始めるよー! 4年1組‥‥ 対 団長の‥‥」
「『団長と闘ろう』第59戦 始めー!」
毎日10戦をやってるよ。1人、2人。もしくは数人と。
拡声魔法器片手に観客席にいる全員に説明しながら闘ってるんだ。
自分で言うのもなんだけどこの1年で俺は強くなった。
それは中原屈指の帝国の強者を見てきたし、手合わせもしてもらったから。
背が伸びたのも大きいな。特に体術は大きいほうが断然いい。今175セルテ。まだ伸び続けてるよ。
武闘祭後の模擬戦?
学園生相手にもちろん全勝してるよ。大差でね。
「うそつけ変態!」
「酷いシルフィさん!」
「お前そのうち、ホントに死ぬぞ。しかもハニトラで。ダッサ!」
「あはははは。気をつけマス‥‥」
それは中日の33戦めくらいだったかな。
アリサとおギンの
2人組と闘ったときなんだ。
アリサもおギンも、2人ともよく作戦を練ってきたよ。
アリサが放つ長距離砲、高火力の火魔法の中におギンのクナイを同期させて攻撃してきたりしたからね。
しかもアリサの遠距離の攻撃魔法に頼りきらずに、尚且つ2人も武器を片手に挟撃してきたから。
油断していない2人の姿に俺はとっても安心したんだ。
「ファイアボール!」
「土柱!」
ズズッ!ズズッ!
ズズッ!ズズッ!
アリサの火魔法には当然防御も完璧にしたよ。だってもう青白い高熱の火魔法だからね。
被弾しないように、俺の前後左右に土柱を建てたんだ。
でもさ。
アリサが土柱に突っ込んできて激突したんだ。
ドーンッッ!
「うっ!痛い‥‥」
「アリサちゃん!」
蹲ったアリサに駆け寄るおギン。
そんなおギンにつられて俺も土柱を解除してアリサに駆け寄ったよ。
だって大事な妹のアリサが倒れたんだから。
「大丈夫かアリサ!」
ひしっっ!
「えっ、アリサ?!」
ひしっっ!
「えっ、おギン?!」
正面からアリサに抱きつかれたんだ。背中からはおギンにも抱きつかれた。
「え~~~~~っ?!」
2人の手には短刀とクナイがあったんだ。
「お兄ちゃん油断しちゃダメなんだよ」
「団長抱きつかれたからって喜んでたらダメですよ」
「はい‥‥すいません‥‥」
ワハハハハハ
ギャハハハハ
アハハハハハ
「「団長の変態ー!」」
「「ハニトラ堕ちだー!」」
「「団長の負けー!」」
ワハハハハハ
ギャハハハハ
アハハハハハ
「面目ない‥‥」
「それじゃあ最後も始めるよー!『3年1組双子』対 団長の‥‥」
「『団長と闘ろう』最終第60戦 始めー!」
いよいよこれで最後。本当に終わりだな。
――――――――――
船が帝都の港に就いた。デーツも港に降り立つ。
「あたし、みんなにお礼の挨拶もしてないわリリアーナちゃん?
あと艦長にお金も借りたのよぉ?
みんなも悪寒がするってまともにあたしと口もきいてくれないしぃ」
「「あははは‥‥」」
「あ、あのね、ペイズリー艦長はずっと具合が悪いから失礼するって言ってたわよ。
あとお金は気にしなくていいって」
「あらそうなのぉ。でもダメなのよぉ。借りた恩はちゃんと返さないと、真っ当な乙女じゃないのよぉ。
じゃあリリアーナちゃんからこのお金を艦長さんに返しておいてね。はいっ」
「わ、わかったわ‥‥‥‥!」
(なにこの手!?内はゴツゴツなのに指先は私よりきれいじゃない!しかも爪まで‥‥)
「あらリリアーナちゃん、あたしの爪が気になるのぉ?」
「ええ。デーツちゃんすごくきれいね?!」
「これはねぇ、ネイルなのよぉ。グランドのお姉さまから教わったの。
あのね爪を磨いてからね‥‥」
そおーーっ‥‥
「なによぉベック君。あんたどこ行こうとしてるのよぉ!?まさか‥‥あたしから‥‥」
「め、め、め、めっそうもない!いや‥‥その‥‥あの‥‥だから‥‥」
その後、熱心にネイルの説明と実演をするデーツと、リリアーナの隣で固まるベックだった。
もちろん船上からその様子をこっそりと見守るペイズリー艦長以下のクルーたち……。
▼
「あらいけないっ!あたし早く帰らなきゃ!
アレクお兄ちゃんが待ってるわ!
じゃあ2人ともまたねぇー」
バチコーンとウィンクをしてスキップをしながら去っていくデーツを見送る2人。
「おいリリアーナ‥‥」
「なにベック‥‥」
「こんなのアレクに知られたら俺らが怒られるぞ。なんでデーツの目を覚まさせなかったって」
「そうだわ!どうしようベック‥‥」
「「あゝ‥‥」」
――――――――――
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