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第2章 幼年編
632 アリサのバースデー
しおりを挟む3の月の3日。アリサの誕生日だ。
俺が参加するこの家の最後の行事だろうな。そう思ったらなんとも言えない気持ちになったんだ。
最初は俺が近寄っただけで「あっち行け」って邪険に言ってたアリサ。でも今じゃ朝から晩まで、それこそ寝るときと風呂に入る以外はずっと一緒に過ごす大事な妹になったんだ。
たぶんアリサも最初みたく俺のことを嫌っていないって思ってるよ。たぶん?
だって俺はアリサとクロエの兄ちゃんだもん。だけど‥‥やっぱり変態って思ってるかな……。
デーツはいないけど、アリサもクロエもおやじもハブ婆ちゃんみんながいる。家族最後のバースデー食事会だ。
食事はアリサの好きなものばっかりにしたよ。
オーク肉のローストビーフ、水耕栽培で育てた自家製生野菜のサラダ、クリームシチュー。パンは乾燥させたブードの実をたっぷり入れた、やわらかいブードパン。
もちろんバースデーケーキも用意したよ。
そういやクロエの誕生日にウンディーネのメルティーちゃんがクロエに憑いてくれたんだよな。
今じゃ毎日を一緒に過ごしてる大親友の2人だもんな。
お誕生日プレゼントは姿見。それと俺が打った脇差。これはクロエにもあげたんだ。
姿見はヴァンさんの知り合いの木工職人のドワーフさん製。精緻な飾りもある、最高の逸品だよ。
「鏡!お兄ちゃん!覚えてくれてたの!」
「当たり前だろ。大事な妹の欲しいものくらい忘れるわけはないからな」
「ありがとう!アレクお兄ちゃん大好き!」
「ううっ。ずっと嫌われてたのに……。やっと言ってくれたよ、おやじ‥‥」
「よかったなーーアレク」
「なんでそんな気のない言い方するんだよ!?」
「お前は本当に‥‥」
なんでいつもいつも生暖かい目で見るんだよ!
姿見はおしゃれなアリサを毎朝ちゃんとチェックしてくれるんだろうな。
誕生日ケーキを食べて楽しく過ごしたよ。何気にアリサに聞いてみたんだ。将来の夢は何かって。
「アリサ、将来の夢はなんだ?」
【 アリサside 】
「アリサ将来の夢はなんだ?」
私のお誕生日会のとき、アレクお兄ちゃんからこう聞かれたの。
「えっ!?」
ドクン ドクン ドクンッ‥‥
今にも心臓が胸から飛び出そう。
だけど。
「‥‥」
私は言葉が出なかった。その言葉を言ったら、お兄ちゃんが困るってことがわかってたから。
「そりゃもちろん学園で1位だよなアリサ。
来月にはルシウスのおっさんも師匠になるから、間違いなく火魔法では帝都に敵はいなくなるからな」
「うん‥‥」
アレクお兄ちゃんはいつも私たち家族のことを最優先に考えてくれてた。
「学園の武闘祭。今王国に行ってるマルコには悪いけど来年はデーツが勝つ。再来年はアリサ、そしてクロエ。
この家から4人続けて首席なんてさすがにないよな。なぁおやじ?」
「ああそうだな‥‥」
「なんだよおやじ、うれしくないのかよ?!なんか微妙な顔しやがって!」
「フッ」
私の泣き出しそうな顔が父様に伝わったのかな。
「アリサ様‥‥」
バブーシュカも引き攣った顔をしてるし。
「師匠にしっかり教わってアレクお兄ちゃん、デーツお兄ちゃんのあとは絶対私が勝つからね」
「よく言ったアリサ!」
「うん‥‥」
私は‥‥
「本当の夢」は最後までお兄ちゃんに言えなかった。言葉にする勇気がなかったの。
せっかく家族みんなが1つになれたのに、私があと1歩踏みだしたら家族の和が崩れるような気がしたから。
家族の絆が途切れるような気がしたから。
私はアレクお兄ちゃんと本当の意味で家族になりたい。
でも‥‥この想いはずっと心に秘め続けよう。
「じゃあ私はもう寝るね」
「「「おやすみ」」」
アレクお兄ちゃんがプレゼントしてくれた姿見の前にぺたんと座りこむ。
そこに映るのは泣いている私。
「アリサ‥‥泣いてるの?」
コクコク
下の階からお兄ちゃんの声が聞こえてきた。
「アリサー明日も午後から煉瓦道を作るからなー」
「わかったお兄ちゃん!」
▼
おやじとも話をしたんだ。だってもう2人っきりで話をする機会はないからもしれないから。
「おやじはもう俺の本当の出自、知ってんだろ?」
「凡そはな」
「でこのあとは‥‥どうするんだ?」
「どうもしないよ。このままヴィヨルド学園に帰って6年まで過ごして、それから王都学園に行く」
「‥‥」
「まだまだ俺は弱い。金もまだまだ‥‥俺だけなら生きてけりゃ金は要らないんだよ」
「領民ってことか」
「うん。今の領主はすごい勢いで財を使い果たして、さらに今は増税しまくってるらしいからな」
「アザリア領と同じってことだな」
コクコク
「なあおやじ、毒殺で俺の父‥‥父ちゃんが殺されたのは知ってるよな。あと、その流れで俺も死んだってことも」
「そうみたいだな」
「じゃあさ、誰がやったのかは知ってるか?」
「家宰だろ。家宰の裏切りで毒を盛られたんだろ?」
コクコク
「じゃあさ、その毒はどこから来たか知ってるか?」
「海洋諸国だ。今はお前の兄貴分のキム・アイランドの関係だよな」
「さすが帝国だ。よく知ってるな」
「当たり前だろ。草も中原中を掌握してるのはロイズ帝国とダルク大国、あとは法国くらいなもんだ」
「でもなおやじ、アイランド一族とデグー一族っていうのは半分正解で半分外れなんだよ」
「ん?、どういうことだ」
「毒はたしかにデグー一族、今のアイランド一族だよ。だけど売る側は毒の売先は1国に1って決まってるんだよ」
「それは知らなかったな」
「だろ」
「まあだいたいロイズ帝国は毒殺を良しとせぬ風土があるからな」
「ああ。俺の好きな帝国の考えだよ。
父ちゃんと俺が死んだ事件の黒幕‥‥実はサンダー王国の王家絡みなんだよ」
「!」
「具体的には王弟のドクトル・サンダースなんだよ」
「そうか‥‥」
「だから今はなにもしない。てか、なにもできない。だって相手のことを知らなさすぎるからな」
「‥‥王弟ドクトル・サンダースは得体がしれんぞ。その腰巾着も、実働部隊の帝都騎士団の串刺公もな」
「ああ串刺公は夏休み、グランドに行くときに会ったよ。
デーツはおやじに言わなかったから俺も言わなかったけど、実はデーツは串刺公に殺されかけたんだ」
「なに!」
「絶対デーツに聞くなよ。デーツが言わない限りは」
「‥‥よくわかった」
「おやじ?」
「バカ息子2人が害されたんだ。帝国としては動けんが、親としては‥‥許せんな」
「おやじ‥‥」
思わず俺の目からブワっと涙が溢れたんだ。
だけど。だけど歯を食いしばって耐えたよ。だって泣くわけにはいかないからね。
「デーツの仇はいずれ俺が必ずとるよ」
「当たり前だ」
「何年かかるか知らんが、やることやって早く帰ってこい。妹も‥‥アリサもクロエも待ってるんだからな」
「ああ。おやじが老人ホームに入る前には帰ってくるよ」
「このバカが!」
「痛い痛い痛い‥‥」
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