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第2章 幼年編
631 セーラからの手紙
しおりを挟むアレク元気ですか?
私は学園ダンジョンから帰ってきた日にこの手紙を書いています。
今回は25階層まで行けましたよ。
アレクが発案した2年前の私たちの作戦。
先行する隊のあとに見える位置を後続の隊が付いていくというもの。今年もこの作戦がかなり上手くいきましたよ。
ボル隊はマルコ先輩とモーリスの2人が斥候兼前衛でした。2人にかかる負担はとても大きくなりましたが、結果的に25階層まで進めたのは、マルコ先輩とモーリス2人の力が大きいです。
言い出せばきりがありませんが、あのときは力も強くて水中戦に無敵のゲージ先輩にとっても助けられましたよね。今回は水辺に関しては逃げるばかりとなりました。
今年の学園ダンジョンの敗因は、やはりあの魔法をみんなで結べなかったことです。
それでも当初はみんなが意思の疎通を図り、意識的に円満に進めていましたが、だんだんダンジョンの難易度が上がるにつれてお互いに疑心暗鬼の心が芽生えていきました。
とくに6年の先輩たちと、私たち下級生の間がギスギスしだしました。マルコ先輩も5年生ですから、6年の先輩たちは面白くなかったようです。
父様が昔よく言っていました。
敵は内にいる。
内なる悪魔は見つけ難いと。
それに近い悪き思いが人にはあるのでしょうね。もちろん私たちにも。
だからこそ‥‥1年の経験と比べてしまう、心の狭い私です。
25階層で闘ったときの記憶はやっぱりありません。
ですが、あの魔法をちゃんとして臨んでいたらもっと先へ進めたと思います。
理由は言わなくてもアレクにはわかりますよね。
春には私たちも4年生ですね。
アレクは背が伸びましたか?
父様からの手紙やモーリスから聞こえてくるアレクの話に私たちはいつも笑わせてもらってます。
(ん?なんかおもしろいことしたかな?)
狂犬団?センスのない名前はやっぱりアレクですね。
(はうっ!やっぱり‥‥でも俺が付けた名前じゃねーし)
では春に会いましょう。 アレクの友 セーラ
―――――――――――――――
「おつかれセーラ」
「モーリスもお疲れ様です」
「結局25階層か。平凡っていえば平凡だよな」
「フフフ。そうですね」
「なぁセーラ。アレクがいたらもっと先に行けたかな?」
「どうでしょう。多分‥‥あまり変わらないと思いますよ」
「なんでだよ?マルコ先輩よりもさらに腕が立つアレクもいたらもっと先にいけるんじゃないのか?」
「フフフ。それは違いますよモーリス」
「どういうこと?」
「前にアレクが言ったことをモーリスは覚えてますか?
1組のみんなとダンジョンに潜るまでに何が必要だって言ったこと」
「たしか‥‥みんなが仲良く信頼関係を深めるだったっけ」
「はい。互いの信頼関係を高めることはダンジョンを深く登れば登るほど、大事になってきます」
コクコク
「2年前。アレクと私が1年のとき。
先輩たちと私たちには深い信頼関係が結ばれていました。その絆は今も変わりません。
あのときの10人は家族同然‥‥いいえ家族以上の信頼関係で結ばれていますから」
「セーラ、それはやっぱり契約魔法のことなのか?」
「‥‥どうでしょう」
「‥‥そうなんだな」
「ただ人には他人に知られたくない秘密や恥ずかしい記憶ってありますよね」
「ああ、俺にもそんなのはある」
「あのときのアレクと私、先輩たちには知られて困ることは何もなかった。だから心から仲間のために行動できました」
「そっか‥‥」
「はい‥‥」
「来年は頑張ろうな」
「ええ。モーリス」
「俺はアレクと十分仲がいい、親友だと思ってるんだかな」
「ええ。でもダンジョンを経たモーリスとアレクは、間違いなく生涯で1番の、最高の友だちになりますよ」
「そっか」
「ええ」
―――――――――――――――
「アリサ、火魔法の温度管理もうまくなってきたな」
「えへへ。地味なお仕事はお兄ちゃんと同じだもんね」
「地味言われた‥‥」
煉瓦道も着々とできている。煉瓦をアリサが焼き固める間、道のところどころにちょっとした休憩もできるようなベンチを発現してるんだ。
あと、マジックバッグ(極小)が結構いい仕事をしているんだ。
アリサが煉瓦を焼いている間に道路に等間隔で街路樹を植えているだよね。
街路樹 9/9って具合に。
「お兄ちゃんなんの木なの?」
「これは銀杏の木だよ。火にも強いし、秋には食べられる実がなるんだ。落ち葉は畑の養分にもなるしな」
「へぇー」
リゾート計画も順調に進んでるよ。
―――――――――――――――
カンカンカンカン‥‥
ゴーンゴーンゴーンゴーン♪
「「おっ。今日も終わりだ」」
「「親方お疲れーす」」
「お疲れさん」
「「アレクもお疲れー」」
「お疲れ様でーす」
鍛治はいいな。無心になれるから最高の気分転換だよ。
▼
「アレク、これか?」
「うんヴァンさん。これが水田を耕す農具と収穫したあとに使う米の実を取る農具だよ」
「ふむ。構造も簡単なものだな」
「あと馬車とタイヤ、ダンパーね」
「これはすごいもんだな」
「でしょ。これなら若いドワーフから年取ったドワーフまで鍛治に専念できるからね」
「リゾートで使う馬車は帝都のドワーフ組合の認定した職人しか作れないって規約にしたよ。アレク工房の規約を含めてギルド登録してあるからね」
「中原中この規約は絶対なんだな」
「うん。そこまで縛りをつけても戦争に使いたくなる国も出てくるかもしれないね。これは‥‥勝手なお願いだけどヴァンさんたちドワーフの人たちに託すしかないかな」
「‥‥わかったぞアレク。少なくともこの国で、わしの目の届く範囲では戦争には利用させんからな」
「頼むねヴァンさん」
「まぁ金属はなんとかなっても、ゴムは手に入らんからの」
「そうだよ。ゴムはグランドとアレク工房しか手に入らないから、模造品もできないしね」
「なにからなにまですまんのアレク」
「お互い様だよ」
「しかしアレクよ。お前の言うそのりぞおとはまるでこの帝都を小さくしたものだな」
「うん。考え方は間違いないと思う」
「ドワーフの組合にもちゃんと話をしておくからな。希望者はりぞおとに行けと」
「うん。頼むねヴァンさん」
――――――――――――――
王国に帰るまで。残された時間はあとわずか。この1年に出会った人たちのところに挨拶まわりにも行ったんだ。
裏社会のボス、ゼンジー一家のゼン爺さんのところにも遊びに行ったよ。お子さん、お孫さんの墓参りもしてね。
「そうか。王国へ帰るか」
「ああ。ゼン爺さんも元気でな」
「まだまだ現役だわい」
「そんでも‥‥本当に身体が動けなくなったら、絶対にカッコつけんなよ」
「アレクよ、まるで孫だな。クックック」
「いいんだよ。きっとお孫さんなら、俺と同じことを言ったはずだからな。俺が代わりに言ってやってんだよ」
「ふむ。心得た」
「絶対だぞ。いいなゼン爺さん」
「わかった、わかった」
「勝手だけど、番頭さんにいくつか仕事の話をしといたからな。あとは頼むね」
「ん?なにをだ?」
「中にはゼン爺さんの仕事にも向かない奴はでてくるじゃん。あと、中途半端な若いヤクザもんとか」
「そうだな‥‥」
「そいつらが食うに困らない屋台の仕事だよ」
タコ焼き(デビル焼き)や焼きそば、シナモン焼きの型から調理法、材料の購入法などを番頭さんに伝えといたよ。困ったらミカサ商会にお願いしといたって。
「ハチ君に相談します」
笑顔の番頭さんはなぜかハチと顔見知りになってたけど。なんでだろう?
「キュウにもよろしく。酷いことして悪かったって」
刺青モヒカン男のキュウは、今も浮浪児を見つけたら青雲館にまで送ってくれてるんだ。
「わかった。アレクよ、いつかこの国に帰ってくるんだな?」
「もちろん!もうここには俺の家もあるからな」
「そうか」
ニッコリと笑ったゼン爺さんは、俺の爺ちゃんと同じ穏やかな顔をしてたよ。
「じゃあお主が帰るまでは死ねんの」
「そうだぞゼン爺さん」
「「じゃあな」」
「あっ?」
ゼン爺さんと別れたあと。ゼンジー一家の門扉に刺青モヒカン男のキュウがいた。
こいつ、俺を待ってたんだな。
「「‥‥」」
コツっ
コツっ
お互い、なにも言わずに拳を合わせて別れたよ。
さて、俺がやることもあと少しだな。
――――――――――
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