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第2章 幼年編
621 電話網構築
しおりを挟む「すいません。やっぱり俺には受け取れません」
メイズさんにはマジックバックを受け取れって言われたけど、マジックバックの受け取りを断ったんだ。
「ダンジョンでは出現したドロップ品は、階層主を倒した者に権利を有する。
それは帝国であっても変わらない中原の基本ルールだよアレク君」
「メイズさん、俺は王国からの留学生です。まして未成年者のガキです。
騎士団の皆さんみたいに人を守るという崇高な思いはありません。自分が強くなりたいっていう我欲だけなんです。
だからやっぱりマジックバックは受け取れません」
「‥‥」
「帝国はヴィヨルドと変わらぬ実力優先主義の国だよ。違うかい?」
メイズさんにあわせてジャックさんも言ってくれる。
「違いません。俺はこの国に来れて良かったと心から思ってますから」
「アレク君、君は先の武闘祭で爵位を得、名誉帝国民ともなった。それは現皇帝陛下もお認めのことだよ。だから誰からも文句を言われることはない。我欲でいいじゃないか。堂々と受けとるべきなんだよ」
「‥‥」
正直言うとね、一瞬ぐらっときたのも事実なんだ。
だけど‥‥やっぱりこのマジックバックは受け取れない。
マジックバックの(小)とはいえ、これがあれば何人もの騎士団員さんたちの生命が救われるのも事実だから。
俺はこの帝国という国に来てから、海軍の人たちも陸軍の仲間もも騎士団の人たちとも知り合いになった。
みんなが帝国民を思い、日々研鑽してることを知っている。他国への征服欲なんて3男ゴリラを筆頭に誰ももってないんだ。
ただ強くなりたいと努力するのは俺と変わらない。
だから。
「メイズさん、すいません。やっぱり俺はこれを受け取れません」
「どうしてもかい?」
「はい。すいません」
「わかった。くどくどとすまなかったね」
「いえ。ダンジョンに誘っていただき感謝しています。
団員さんが亡くなったのに不謹慎なんですが、とても楽しかったです。
メイズさんやジャックさん、騎士団の皆さん、ルシウスさんにも感謝しています」
「君ってやつは‥‥」
「あははは」
「そうそう、ルシウスさんから魔法軍に来てくれと伝言を預かっているよ。
前陛下の娘さん、アリサちゃんだったかな。彼女の魔法指導をやってくれるってさ」
「やった!」
「良かったね」
「はい」
「君からみてルシウスさんの火魔法はどうだい?」
「はい。高熱の火魔法を何発も発現できる力はさすがに帝国魔法軍第1の実力者だと思いました。ヘンクツナジジイダケド」
「「わはははは」」
「それにしてはずいぶん仲良くなったね」
「はい。俺ルシウスのおっさんはメイズさんやジャックさんと同じくらいに好きです」
「そうかい」
メイズさんたちとはそのあともいろいろと話をしたよ。
今にして思えば貧血で倒れた俺の体力が戻るまで待っててくれたんだと思うよ。たぶんだけど。
「例の電話の件もよろしくお願いするね」
「はい。蜘蛛の糸もたくさん持ってきましたからすぐにでもとりかかりますね」
「かかる費用は遠慮なく請求してくれよ」
「かかりませんよ。だって蜘蛛の糸もとってきましたからあとは現物で鉄をもらえれば、電話器本体は俺が発現しますからお金もかかりません。大丈夫です」
「「君ってやつは‥‥」」
結論から言うとミスリル製の有線電話で帝都中の諸官庁を繋いだんだ。
景観を考えて地中にミスリル電話線を埋めたよ。
俺は忘れてたんだけど、この有線電話はアレク商会発案として商業ギルドに登録されてたんだ。メイズさんが働きかけてくれたんだって。
後から聞いたんだけど、ハチもハチの父ちゃんもウハウハ喜んでたらしいよ。
ハチの父ちゃんならミカサ商会さんやサンデー商会さんとも上手く連携してやってくれるはずだしね。
今後、帝都以外の都市や他国で電話を設置するには加盟金やらなんやらと敷設までに結構な工事が要るんだって。
なにより電話線にはミスリルの糸も必要だから本当はさらに巨額な費用が必要……。
今後必要になる大量のミスリル糸は騎士団さんが定期的に蜘蛛を狩ってくるんだって。
だから材料費はほぼかからない。ある種、メイプルシロップと同じ構図だね。
アレク商会はミスリルの糸を破格値で、かつ独占的に仕入れられるようにメイズさんが図ってくれたらしい……。
結果、帝国とアレク商会(って俺のらしいけど)のWin-Winの関係らしいよ。
「毎度『らしい』ってお前なんもしてねぇじゃねぇか!?」
「やだなシルフィ‥‥そのとおりだよ」
「プッ」
わはははは
フフフフフ
▼
「団長この糸電話、中原中に広まるっす。だからますますウハウハっす」
「そっか」
「団長、父ちゃんが言ってたっすけど、たぶんもうサンデー商会さんよりお金持ってるっすよ。この糸電話でミカサ商会さんよりも大金持ちになるらしいっすよ」
「知らねぇよ。てかお前の父ちゃんやミカサ会長やサンデーさんに任せとけば上手くいくんだよ」
「団長は僕に任せてくれないんすか?」
「えー子狸だろ。子狸じゃなぁ。子狸だもんなぁ」
「酷い!団長酷いっす!」
「じゃあハチ、もしコウメがお金ほしいって言ったらどうするよ?」
「そりゃ当然貢ぐっす!団長のお金を全部コウメに貢ぐっす!」
「だからお前は子狸なんだよ!オラオラオラ!」
「痛い痛い痛い!頭ぐりぐりしないで!」
いつか中原のどこに行っても離れた家族や仲間と話せるようになったらいいな。
――――――――――
やがて春となるころ。
帝都宮殿執務室、騎士団本部、陸軍本部、海軍本部、魔法軍本部、帝都冒険者ギルド、各官庁等を繋いで。
ミスリル製の電話網が構築されていったんだ。
もちろん、帝都学園職員室も青雲館事務室も繋いであるよ。
早くも各国から購入依頼があるんだって。
受話器を取っての第1声は「しもしもー」だよ。だってお約束じゃん。
ヴィヨルドの学園長はぜったい腹抱えて笑ってるだろうな。
帰ったらヴィヨルドでも作らなきゃ。
アレク商会(アレク工房)から販売する形は、これまでどおりにミカサ商会やサンデー商会経由なんだ。
ただメイプルシロップはヴィヨルド領の庇護下にあることはちょっと調べれば誰もがわかる。だからおかしな人が絡んでくることはないんだよね。
同じように、電話網に関してはアレク商会帝国店が発売元なんだって。
この帝国店って名前から、ロイズ帝国の庇護下にあることは誰もが知るらしいよ。
ヴィヨルドと帝国、どっちもイケイケの武闘派ってイメージがあるからさ。変な人には絡まれないってハチの父ちゃんが喜んで話してたよ。
――――――――――
チリンチリーンッ♪
「しもしもー。青雲館です。‥‥はい‥‥了解しました」
「団長、騎士団のメイズ団長が本部に来てくれって電話がありました。団長1人で来てほしいって」
「ん。、わかったよ」
なんだろう。またどっか行く話かな。
▼
「メイズさん来ました」
「ああアレク君。電話は早くていいね。先触れとかややこしいことも要らないから」
「あははは」
ミスリル製電話は黒電話をイメージして作ったんだ。本体は黒電話。
受話器に切替スイッチがあって人に聞かせたくない内緒話をするときは受話器のみ、みんなに聞かせたいときは本体のスピーカーモードになってるんだ。
ダイヤルは要らないよ。だってみんなごく微量の魔力は持ってるから、受話器を持ってかけたい相手を念ずるだけでいいんだからね。距離の問題はさすがのミスリル糸が解消してくれるし。
チリンチリンと本体の中に内蔵した鈴が鳴るのが電話がかかってきた合図だよ。
「もうすぐアレク君も王国に帰るんだよね」
「はいメイズさん。帝都騎士団さんにはとてもお世話になりました。後日あらためて挨拶にきます」
「わかったよ。ジャック」
そう言ったメイズさんがジャック副長さんに目配せしたんだ。
「アレク君、帝都騎士団からの餞別だ」
「えっ?」
そこには小さなスマホサイズの木箱を手にしたジャックさんがいた。
――――――――――
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