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第2章 幼年編
619 お約束の流れ(前)
しおりを挟む【 晩餐会side 】
最後にデザートを出したんだ。
メイプルシロップがかかったクレープ。
カウカウの粉ミルクから作ったなんちゃってアイスクリームを添えてね。
「「「これは?」」」
「クレープです」
「「「くれえぷ?」」」
バンダルスコーピオン尽くしの粉もん料理が続いたから、さすがにみんなお腹いっぱいかなって思ったけど‥‥。
「甘いものは別腹よねー」
「「「ねぇー♪」」」
いつのまにか「別腹」って言葉が帝都にも広まってるみたい。
「「美味し~い!」」
「うまいでごわす!」
「「クレープ、サイコー!」」
「「これは男でもおいしいね!」」
「アレクよ、マヨ‥」
「もうねぇわ!」
【 アリサ・おギン・フリージアside 】
アリサと会う機会がめっきり増えたフリージアがおギンとも親しくなるのに時間はかからなかった。
「ねえアリサちゃん、おギンちゃん、今度の休養日に蒼いダンジョンに行こうと思うんだけど‥‥一緒に行かない?」
「うん。私も行きたいわフリージアさん」
「もちろん私も」
休養日。アリサ、おギン、フリージアの3人が蒼いダンジョンにまで行くことになった。
もちろんアレクを迎えにいくためである。
1日待って還ってこなければ仕方がない。
ただ、3人にはそれぞれアレクが自分の下に還ってくるという確たる予感と自信と夢想
があった。(もちろんそのことは他の2人には秘密である)
◎ アリサの脳内
お兄ちゃんが還ってきたら私が1番にお兄ちゃんに抱きつくの。
「お兄ちゃんお帰り。早くお家に帰ろうって」
「疲れたよアリサ」
「おつかれさまお兄ちゃん」
「今日は風呂で背中を流してくれよ」
「うん、喜んで!」
キャー!
◎ フリージアの脳内
アレク君が還ってきたら私が1番にアレク君に抱きつくの。
「お帰りなさいアレク君」
「ただいまフリージア」
「今日は家に来る?」
「ああ。一緒に風呂に入るか」
「ええ」
そしてそのままチ、チューをするのよ。
キャー!
◎ ギンの脳内
団長が還ってきたら私が1番に団長に抱きつくのよ。団長に胸を押しつけてそのままキスをするの。
「おギンあんなことやそんなこと‥‥教えてくれよ」
「もちろんよ団長」
キャー!
夢想するのは各自の自由である……。
まだ暗いうちに騎士団本部に到着した3人。厩舎は休養日とあって、馬に乗る者も少ない。
自由に使える馬がいることをフリージアは認識済みである。フリージアはもちろん、美貌のアリサとおギンの願いを断らない騎士団員がいることは百も承知である。
▼
そんな3人が蒼いダンジョン前の天幕に着いたのは午後の12点鐘前のことである。
ちなみに道中、3人には会話がほとんどなかった。それはもちろんそれぞれが脳内の夢想を構築するのに忙しかったから。
天幕ではいつ戻るとも知れぬ仲間を待つ騎士団員たちが詰めていた。
「おっフリージアも来たんだな。おやっさんが心配だもんな」
「は、はい‥‥」
「君たちは?」
「帝都学園の狂犬団員です」
「そうかい。君たちの団長‥‥アレク君と言ったか」
「「はい」」
「彼はすごいな。メイズ団長やジャック副長ともふつうに話しながらダンジョンの中に入っていったよ」
ニヤッ × 3
3人が下を向きながら口角を上げていた。
◎ フリージアの脳内
先輩ちゃんたちがいる目の前でアレク君に抱きついたらそれが既成事実になるわ。
先輩ちゃんたちは私を応援してくれるだろし。これならアリサちゃんもおギンちゃんも私には勝てないはずよ!
「ただいまフリージア」
「お帰りなさいアレク君」
「ダンジョンの中でずーっとフリージアの話ばかり聞かされたわ」
「「「ねー」」」
「えへへ」
◎ アリサの脳内
おギン先輩にもフリージアさんにも負けないんだから。
このままお兄ちゃんと馬に乗って帰れる私が1番有利よ!馬に乗って後ろからお兄ちゃんをギュッってするんだから!
「アリサ早く帰ろうな。帰ったらは俺がお前をギュッとするからな」
「うん!」
◎ ギンの脳内
フリージアさんの主戦場だから場所は不利だわ。団長はアリサちゃんと一緒に帰るだろうし。
でもダンジョン還りの団長はきっと疲れ果ててるはずよ。だからこの天幕で仮眠をとるはず。そのときがチャンスよ!
私がは、裸になって‥‥
「ハッ!おギン、俺がおギンを‥‥」
「ええ団長。痛かったけどうれしかった」
「責任とるからなおギン」
「うん!」
えへへ~ × 3
夢想するのは各自の自由である……。
3人の夢想と決意はだんだんと高まっていく。
【 晩餐会side 】
「すまんかったなメイズ」
「えっ?!」
「わしもまだまだだということがよくわかったわい。
良い機会じゃ。わしもこれを機に魔法軍を去ろうと思う」
「シリウスさん‥‥」
「後進を育てるためにはわしがいつまでも口を出しててはいかんからの。
わしも賢人会に入ろうと思うわい」
「そうですか‥‥」
「それとな、アレクに頼まれてな。前帝陛下の長女を弟子に取ることにした。
それもこれもアレクのおかげだ」
「はい‥‥」
「なぁメイズ、ジャック。あのバカはどこまで昇るか楽しみじゃの」
「ええ、見当もつきませんね」
「私もそう思います」
「そうじゃの」
わはははは
ワハハハハ
ガハハハハ
そんな話がされているとはまったく知らない俺は、なぜか第2分隊のお姉さんたちに囲まれていた。
「あーシャワーはいいわねぇ。さっぱりしたわ」
「よかったです。すーはーすーはー」
お風呂上がりのお姉さんたちって‥‥なんていい匂いがするんだろう。頭がクラクラするよ。
「おい、変態!鼻血出しても助けてやらないからな」
「やだなぁシルフィ。そう何度も何度も鼻血なんて出さないよ僕は」
(僕だって!ケッ!こいつ出血多量確定だな)
後日談となるけど今回亡くなった7人の家族には保険金が支払われたんだ。
カール君は狂犬団初の死亡保険のケースとなった。カール君が亡くなった保険金は残された兄弟たちに有効に使われたんだ。
――――――――――
魔法陣はキザエモンの言ってたとおりだったみたい。
蒼いダンジョンのすぐ目と鼻の先。天幕のすぐ近くに魔法陣があったんだって。
現れた俺たちを見た騎士団員さんたちはめちゃくちゃ驚いたんだって。だって蒼いダンジョン前の天幕のすぐそばだったから。
後日。ルシウスのおっさんも言ってた。
「アレクよ。新しいダンジョンの本来のルートはまだまだわからぬからな」
「へぇー。じゃあどうなるの?」
「ということはこの先、この辺りは驚くほどに栄えるぞ。町ができるだろう。
なにせ初心者に毛の生えた程度の鉄級から銀級以上の上級者まで、2種類のダンジョンがあるからの」
【 第2分隊side 】
「アレク君本当にありがとう。おやっさんを助けてくれて」
「これで第2分隊はフリージアとおやっさんに私たち。みんな助けてもらったわね」
「私ダンジョンで身体の汚れが落とせるなんて知らなかったわ。
てか今度からのダンジョンがキツいわ」
「シャワー、あれ宿舎にも設置してくれないかしら」
(そうか、住宅設備部門も作ろう!シャワーなら作れるな)
「よかったら青雲館にでも遊びに来てください。温泉もありますから」
「ええ、ぜひ寄らさせてもらうわね」
「はい」
きれいなお姉さんたちと話ができただけで俺は幸せだよ。俺こそ感謝だよ。
「あれ?バリー君は?」
「さっきまでは無心になって食べてたわよ」
「もう寝てるんじゃない?」
「あの子も‥‥ね」
「「そうね‥‥」」
最後のときが、刻一刻と近づいていたんだ……。
「おめーのな」
「酷い!シルフィさん‥‥」
――――――――――
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