アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

605 白目のシルフィ

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 ザアァァァーーッッ

 天井から吊るされたモノを下ろして。
 熱めのお湯を流しながら、慎重に巻きついた蜘蛛の糸を解いていったんだ。
 ただのお湯じゃないよ。俺だけのオリジナル、ヒール水だよ。

 少しずつ少しずつミイラの包帯みたいな糸を剥いでみたら、やっぱり‥‥

 それは見知った狂犬団成人部の団員、メンディー君とケント君の2人だった。
 2人とも生きてるよ。メンディー君は足が1本欠損して出血量も多いけどなんとか無事。ケント君は大きな外傷はなく、失神してるだけかな。


 「アレク君この2人は‥‥」

 「うちの狂犬団員です」

 「残念だけどもう彼らは‥‥」

 「いえ大丈夫です。生きてます」

 「「「ええっ?」」」

 「「「おぉー!」」」

 「「「よかった‥‥」」」

 そうなんだ。蜘蛛は食餌用のエサを捕獲しても殺したりはしないんだよね。活きのいいままで喰いたいから弱らせても殺さずに仮死状態にしてるんだ。

 でも運が良かったよ。だってもし食餌タイムになってたら骨さえ残らなかったからね。

 ぐるぐる巻きのミイラを解いていくように。ヒール水を2人にかけていったよ。
 そしたら2人の青白い顔も紅潮してきたんだ。だんだん血の気も戻ってきたんだね。

 「メイズさん。ハイポーションを1つ貸してください」

 「ん?貸すだなんて。もちろん気にせず使ってくれ。お金なんか取るわけないだろう」

 「‥‥ありがとうございます(帰ったら返さなきゃ)」

 片脚欠損。まだ意識も戻ってないメンディー君にハイポーションを飲ませたんだ。すると‥‥1分も待たずに。

 シユユユュュュ‥‥

 膝下あたりから足が生えてきたよ。地中から出てくる筍の早送りかよ!

 部位欠損が元に戻る絵図はいつ見てもすげえ光景だったよ。これでメンディー君も戦闘靴もまた履けるよ。

 「「「よかった。ほんとうによかった」」」

 これには騎士団のみんなもホッとしたんだ。すっかり安堵感が漂ったんだよね。




 



 でもそこにメイズ騎士団長が俺が心に思ったのと同じ疑問を呈したんだ。

 「アレク君、おかしいと思わないか?」

 「はい、俺もそう思います」

 「蜘蛛とはいえこれだけ多数の魔獣が襲ってきたら、闘わずに入口まで逃げ戻るという選択もあったはずだ」

 「ええ。俺もそう思います」

 「それなのに‥‥」

 「たぶん‥‥後ろから蜘蛛に追われたのでは?だから奥へ奥へ逃げた‥‥」

 「うん。そうかもしれないね」















 「ちょっと待ってアレク」

 「ん?どうしたのシルフィ」

 「カラスもいないし。かと言って蜘蛛が喋ったらキショいでしょ」

 「うん‥‥」

 「うーん、どうしようかしら。‥‥仕方ないわね」























 「聞きなさいヒューマンたち」

 あっ!シルフィがバリーさんの口を使って話し出したよ。
 寝転がるバリーさんが白目を剥いて真面目に喋る‥‥とってもシュールな絵図だな。


 「「シルフィ殿!!」」

 メイズさん(騎士団長)とジャックさん(副団長)が返事をするや否や、白目のバリーさんに向けて即座に直立不動、最敬礼の姿勢をとったんだ。

 「「!」」
 「「!」」
 「「!」」

 これには20人あまりの騎士団員さんたちでさえ、只事じゃないなって思ったんだろうね。
 右へ倣えとばかり、寝転がる白目のバリーさんの周りで傾聴となったんだ。

 「(アレク関、これはいったい何がどうなっているでごわす?)」

 「(あははは。俺に憑いてくれてる精霊のシルフィがバリーさんの身体を使って喋ってんだよ)」

 「(そうなのでごわすな)」

 あのバリーさんだよ。しかも白目剥いた。
 恐山のイタコの婆ちゃんより怖いわ!

 俺は見られていけないものを人に見られてるみたいな恥ずかしさがあったんだ。だってバリーさんだよ。白目剥いた……。

 「アレク、私も嫌なんだからね!こんなヘタレ使って喋るのなんか!」

 「「「プッ」」」

 変なヨガやってる人みたいな格好をしたバリーさんを見た女子たちが噴き出したよ。

 「あんたたちならわかってくれるわよね!同じ女の子なんだから」

 「わかりますぅ」

 「私もー!」

 「私もー!」

 「こんなヘタレ使って喋るのって屈辱ですよねシルフィさん」

 「「ホントよね!」」



















 「ありがとね、あんたたち!白目剥いてるけど」

 プッ

 あははははは
 フフフフフフ
 わははははは

 シルフィが女子を中心に騎士団員さんたちみんなの心を掴んだ瞬間だったよ。

 「じゃあ説明するわよ」

 「「「はい!」」」

 「いい?このダンジョンは王国の学園ダンジョンに近い性質があるわ」

 「というと、どういう性質ですかシルフィ殿?」

 「それはね、探索に入った人の強さと人数に比例した魔獣が出現することよ」

 「まさか!?」

 「ええ。たぶん間違ってないわ」

 「王国の学園ダンジョン。アレクが1年で入ったときの仲間はエルフも含めて歴代最強クラスだったわ。もちろんアレクがいたことが1番の理由だけど」

 「アレク君どんな強い魔獣に会ったんだい?」

 「あははは。バブルスライムとかサスカッチとか金のゴーレムとか」

 「「「バブルスライム!?」」」

 「「「サスカッチ!?」」」

 「「「金のゴーレム!?」」」

 みんなが息を飲んでいたよ。だって3体とも最強クラスやら絶滅危惧種クラスの魔獣だから。

 「だからね、今行方不明の子たちとあんたたちの力量を考えたら‥‥当然納得できるわよね?」

 こくこく
 コクコク
 こくこく

 「シルフィ殿。ではこれからどうしたら良いのですか?」

 「そうね。隊を2つに分けるべきね。先発隊と本隊にするのよ」

 「どういうことだよシルフィ?」

 「カンタンなことよ。先発隊の強さでダンジョンに誤認識させるのよ。

 この白目のヘタレ君。あとアレクのとこの狂犬団員の2人。この子たち3人ならもう強い魔獣は現れないし、襲ってもこないわよ」

 「「なるほど!」」

 「ただ注意することを言うわよ。
 これからは魔獣が襲ってきても騎士団長の子と副長の子、魔法士の子の3人は手を出しちゃダメ。あんたたち3人が手を出していいのは救助対象の子どもたちが見つかってからよ」

 「「はは。シルフィ殿」」

 「なんじゃ子どもって!?わしも入るのか!」

 「当たり前じゃない火魔法の子。ああ、あとあんた少し飛べるわね」

 「(な、なぜわかった?!)」

 「そんなの当たり前じゃない。だいたいあんたのお爺ちゃんのお爺ちゃんのお爺ちゃんのお爺ちゃんが生まれる遥か前から私はこの世界で生きてるのよ!」

 「し、失礼したシルフィ殿!」

 (これが老師が言う大精霊の力か!)

 白目剥いたバリーさんに頭を下げてるおっさんだったよ。

 「団長の子、今回のことが終わったら新しく騎士団に人を採用するときはちゃんと人物を見なさい。心に穢れが無く、真面目に努力をする子を選ぶのよ。
 でないと前の子みたく‥‥。

 まぁいいわ。とにかくこのヘタレ白目を隊長にして3人を先発隊にして急ぎ行動しなさい。

 本隊は先発隊の後方50メルを離れて着いて行くこと。あとは先発隊が危ないときはアレクが矢で援護すること。矢尻をミスリルにすればいいわ」

 「あとからついてくるあなたたちはアレクが射た魔獣のミスリル魔石を常に蓄えなさい。アレクが矢尻にどんどん使うから」

 「「「了解しました。シルフィ殿!」」」

 「じゃあアレクは狂犬団の子たちを起こしなさい」

 「わかった」

 「それとこのヘタレ白目もね」

 「「「プッ」」」







 「「あっ!?団長‥‥」」

 「もう大丈夫だからねメンディー君、ケント君」

 「団長、俺の足も‥‥」

 「うん、ハイポーション使ったよ」

 「‥‥ありがとうございます」

 「さっ、立って。キース君とカール君も救いに行こう」

 「「はい!」」
 

――――――――――


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