アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

601 ダンジョン飯

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 ゴーン  ゴーン  ゴーン  ゴーン‥‥

 あっという間に午後の6点鍾になったんだ。ダンジョンの中は時間の経過がわからない。だから時計を載せてきて正解だったね。


 「順調だねジャック副長」

 「はいメイズ団長。時計があることがダンジョンでこんなにも役に立つとは思ってもいませんでしたよ」

 「そうだね。時間感覚が狂わないからね。
 このままいけばさして疲労もないままに新しいダンジョンに入れるんじゃないかな」

 「はい」

 「じゃあ今から9点鐘まで食事休憩と仮眠とするよ。じゃあアレク
君頼めるかな」

 「はいメイズさん」

 「では‥‥」
















 「内堀さん、外堀さん。いらっしゃーい」

 ズズズーーッッ!

 ズズズーーッッ!

 野営食堂みたく2段の堀にしたんだ。堀は何度も何度も発現してるから魔力量の消費も少ないし簡単だからね。

 「ねぇアレク、やっぱりあんたネーミングセンスが最悪よね。字も下手だし、緊張しいだし‥‥」

 「やめてくれよ!そんなこと‥‥言われなくてもわかってるから!」

 たしかにな。もうちょっといいネーミングセンスもほしいな。
 てか発現するときにカッコいい掛け声がほしいよ。でもさ、ぜんぜん浮かばないし……。


 「長テーブルさんと長椅子さんもいらっしゃーい」

 ズズズーーッッ!

 ズズズーーッッ!


 「ウォーターサーバーさんも湯茶サーバーさんもいらっしゃー
い」

 ズズズーーッッ!

 ズズズーーッッ!


 お昼と同じように冷水のウォーターサーバーを2台、夜ごはん用には温かいお茶サーバーも1台設置したよ。

 水魔法で温度の違うお水を出すのはとっても簡単なんだ。
 初めてのときは指先なら水が出るのに感動したよな。

 温かいお湯はね‥‥

 「コンテナボックスさん、いらっしゃーい」

 ズズズーーッッ!

 ズズズーーッッ!

 2つコンテナボックスを発現したんだ。上にお湯を溜めるウォーターサーバーみたいなのを付けたやつ。


 「「な、な、な、今度はなんだ?」」

 「「2つ?なんの部屋だ!?」」

 「夜ごはんまでちょっとだけ待っててください。夜だから温かいお茶も用意しました。
 それと‥‥」

 なになに?って女性団員さんたちが俺を見たんだ。
 女性団員さんは第2分隊の3人の他に、あと4人の女性がいたんだ。7人だから毎日交代で大丈夫かな。

 「男女2室のシャワー室を発現しました」

 「「シャワー室?」」

 「はい。部屋の奥に蛇口がありますから、コックをひねると上からお湯がでてきます」

 「「「えっ!?なにそれ!?」」」

 「すいません。シャワーだけだから石鹸もシャンプーもありませんけど、汗は落とせます」

 「(石鹸とシャンプーって、ミカド商会さんで飛ぶように売れてるものでしょ?)」

 「(そうよね?)」

 「(あっ!それもアレク君、アレク商会だわ!)」

 「「「(‥‥)」」」

 「シャワー室は毎晩発現しますから。男性団員さんは1日交代で使ってください」

 シャワー室。お湯のタンクを上に設置したんだ。蛇口をひねればシャワーヘッドの細かな穴からお湯が出てくるからね。やっぱ鉄は持ってきといて大正解だよ。

 「お湯の温度は変えられませんからね。熱くても温くても我慢してくださいね」

 「「キャー!」」

 「「すごいわー!」」

 「「宿舎よりもいいわ!」」

 女性団員さんたちの喜びようったらないな。
 この世界での洗髪洗体は、ほとんど桶の水で身体を拭くくらいなんだよね。
 ましてダンジョンは10日も20日もそのままが当たり前なんだ。
 だから女性7人は大喜びだったよ。

 「ねえアレク君、フリージアの家にお風呂を発現したって聞いたけど本当?」

 フリージアの先輩ジュディさんが質問してきたんだ。

 「はい。本当ですよ。家と同じ温泉です」

 「おんせん‥‥」

 「家って前皇帝陛下のお家よね?」

 「はい、そうですけど?」

 他の女性隊員さんも聞いてきたんだ。

 「私聞いたわよ。私の妹が学園生なんだけど、狂犬団のせいうんなんとかっていう校舎にも温泉があるんだって?」

 「はいありますよ。地下から温かいお湯が出てくるのが温泉なんです。
 温泉は1日の終わりに汗を流せて気持ちいいですからね。
 ああ、よかったら1度青雲館に遊びに来てください。歓迎しますから」

 「ええ、ありがとうねアレク君!」










 「(やはり規格外ですな団長)」

 「(フッ。いずれ‥‥彼は歴史に名を残すに違いないね)」

 「(ええ)」


 女子7人はワイワイ言いながらシャワー室に向かったよ。さすがに7人じゃ狭いだろうに。






 「このお茶もおいしいわね!」

 「ええ。私もこんなお茶初めて飲んだわ」

 「良かったです」

 紅茶も作ったんだよね。リンゴーの皮を刻んだフレーバーティー。まだティーパックはうまくできてないけど。

 そんなわけで騎士団員さんたちにはシャワーで汗を流してもらったり、湯茶を楽しんでもらったりしたよ。


 「アレク関、野菜はこれでいいでごわすな」

 手伝ってくれたキザエモンの調理には文句のつけようがなかったんだ。

 「さすがだよキザエモン。言うことなしだ」

 「おいは村でもちゃんこ番をやってるでごわすよ」

 なんだよ、ちゃんこ番って!絶対ティンギュー村には昔、転生者がいたよな。それも相撲取りの。

 「アレク関、塩味でないのでごわすな」

 「そうだよ。今日は醤油味」

 「しょうゆ?でごわすか?」

 「うん。キザエモン、醤油はめちゃくちゃうまいよ。
 リアカーずっと引っ張ってもらったから、腹いっぱい食ってくれよ!」

 「ごっつあんです!」

 



 「なにかいい匂いがするわ!ねぇ?」

 「「そうね!」」

 「「ホントね!」」

 普段はあまりつきあいのない、てかライバル関係でもある騎士団の他分隊同士なんだけど、女子はシャワーを通して親しくなったみたいなんだ。

 「うちの妹が言ってたわ。『アレク団長が作ったお料理を食べたら人生が変わるって。
 逆に食べなかったら人生損する』って!」

 「「「うんうん」」」

 「私もそんなバカなって思ってたけど‥‥
 今は仲間の救援隊だから、こう言っちゃ怒られるからみんなには言わないでね」

 こくこく
 コクコク
 こくこく

 「アレク君に来てもらって良かったわ」

 こくこく
 コクコク
 こくこく

 「うちのフリージアもね、『もしヤバくなったらアレク君に頼れば助けてくれる』って」

 「帝都学園では敵なしなんでしょ」

 そんな女子の声が聞こえてくる中。

 ルシウス魔法軍軍団長とバリー第2分隊員の2人だけは違う感情を露わにしていた。

 「「くそっ!そんなバカなことがあるか!」」






 大鍋にちゃんこを作ったんだ。醤油にアクセントのごま油。たっぷりお肉とたっぷり野菜。
 バッチリ美味くできたよ。もちろんちゃんこ番のキザエモンもいてくれたからね。

 「お待たせしました。今日の夜ごはんはキザエモンのティンギュー村名物のちゃんこ鍋です」

 「「「ちゃんこ鍋?」」」

 「はい。お肉をたくさんのお野菜と炊いたものです。
 一角うさぎの肉団子からも良いダシがでるんですよ。

 味つけは醤油。この醤油は肉串の味つけにも使ってます」

 ダシは一角うさぎの骨とつくね。あと持参してきた和風だし顆粒からとったんだ。

 このスープをベースにたっぷりの野菜とオーク肉、一角うさぎの肉団子が味に奥行きを加味してくれてるんだよね。


 「はい、どうぞ」

 「お待たせでごわす」

 「熱いですよ」

 大鍋の横でキザエモンと俺で給仕。騎士団員さんたちに並んでもらう。
 さすがにセルフサービスに文句は誰も言わないよ。

 「お代わりはご自分で自由にお願いします」

 ごくんっ
 ゴクンッ
 ごくんっ

 みんな興味津々だな。ずっと走り通してたからお腹も空いたしね。

 「「「いただきます」」」

 「熱いから火傷しないでくださいよ!」

 ふーふー
 フーフー
 ふーふー
 
 





















 「「ウマッ‥‥」」

 「「なんて優しい‥‥」」

 「「「おいしい‥‥」」」

 ウマーーッ!って叫ぶ絶叫型じゃないんだよ。温かい鍋はね。だけどっていうか、だからこそ心にじんわり滲み入るおいしさなんだ。

 だんだんちゃんこの熱さにも慣れてきたのかな。
 時間差で絶叫型も増えてきたよ。

 「ウマーッ!」

 「なにこれ?!」

 「なんだよヤバい旨さだ!」

 それはキザエモンも同じだったよ。

 「アレク関、旨すぎるでごわす!しょうゆはヨコヅナに違いないでごわす!」

 だろうね。ちゃんこを食べ慣れてるであろうキザエモンならではの感想だな。

 焼いたオーク肉串も、ただの塩味じゃなくて最後に醤油を1垂らししてるから香りもいいんだよね。

 「肉串もくってみろよ!」

 「今まで食ってた同じ肉串とは思えん!」

 「香ばしい香りがいいな」

 「初めて食べる味だわ!」

 モグモグモグ‥‥
 もぐもぐもぐ‥‥
 モグモグモグ‥‥

 みんな黙々と食べてくれたよ。さてと……。

 「では〆にうどんを入れましたからお代わりしてくださいね」

 隠し味にごま油を少々。
 今回はごま油、オリーブオイル、ニンニクオイルを持ってきたよ。調理は使う油でさらにおいしくなるからね。

 お昼から寝かしておいたうどん種。
 もちもちで歯ごたえもいい讃岐うどん系。

 モグモグモグ‥‥

 「「「なんじゃこりゃ!」」」

 「「「うま~い!」」」

 みんな初のうどんだからね。〆にも最高のおいしさだよ!


――――――――――


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