アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

597 念願のクエスト

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 【  冒険者ギルドside  】

 「顧問どうしますか?まさか未成年者にクエストは‥‥」

 「未成年だが実力は疑うまでもないわ。下手な成人より抜きんでておるからの。
 もう1人はギルド長で探してくれ。彼にはわしが直接依頼に行く」

 (この時間なら家におるだろう。事実を伝えるしかあるまい。彼なら、アレク君なら、たとえ嫌でも承諾してくれる‥‥だろう)



 【  アレクside  】

 「ほらクロエ、風邪ひくぞ。こんなとこで寝ちゃダメだ」

 「もうアリサも寝るなよー」

 湯上がりのアリサとクロエの髪にハンドドライヤーをあてて乾かしながら、家族みんながまったり過ごしてたんだ。

 デーツは居ないけど、強くなって帰ってくるってみんな信じているからね。
 だから。
 平凡な毎日に幸せを感じるんだ。
 そんな夜に。


 「夜分遅くにすいませんの」

 それはどこかで聞いたことのある声だった。

 「えっ?!テーラーさん!」

 「こんばんわアレク君。夜遅くにすまんの」

 「こんばんわ?オヤジなら‥」

 「いやアレク君、君に会いに来たんじゃよ」

 「えっ、俺?!なんかしました?」

 こんな遅くになんだろう?

 「本当にこんな遅くにすまんね」

 「いえ‥‥」

 「実は緊急クエストの依頼で来たんじゃよ」

 「えっ、緊急クエスト?!」

 マジか!
 キタキタキターーーーーッ!
 ついに来たよダンジョンあるある!

 いつしか周りには家族みんなも来てたんだ。

 「アレク君は蒼いダンジョンを知ってるかの?」

 「あーそれ、団員から聞きました。てかテーラーさんには狂犬団成人組がいつも便宜図ってもらってるって聞きました。お礼言うのが遅くなったけどありがとうございます」

 (ん?なぜだ?なぜ彼は嬉しそうなんじゃ?それとも‥‥‥‥そうか!そこまでわしを気遣ってくれるのか!なんと心の優しい子だ)

 「いや‥‥」

 帝都冒険者ギルドの顧問 テーラーさんがとっても難しそうな顔をしたんだ。

 「申し訳ない!」

 いきなりそう言ったテーラーさんが深々と頭を下げたんだ。

 「?」

 「つい先ほど‥‥蒼いダンジョンの調査に赴いた騎士団員とポーターが行方不明になったと知らせが入ったんじゃ。持参したドロップ品から警告音が鳴っての‥‥」

 「テーラーさん。蒼いダンジョン、あそこは鉄級冒険者なら1人でも大丈夫だっていう」

 オヤジも会話に加わったんだ。

 「そうじゃよ皇帝。その鉄級ご用達のダンジョンでの、採掘中のドワーフがたまさか新しい坑道を見つけたんじゃよ」

 「ふむ」

 「ドワーフは鉱石への目が肥えておるじゃろ。それで見つけたその坑道がミスリル鉱じゃろうとすぐに騎士団に通報した。それが発端じゃった」

 「坑道ではなくダンジョンだったというわけか‥‥」

 「そうなんじゃよ皇帝。ミスリル鉱ならば国の管轄内となるでの」

 「ふむ」

 「テーラーさん、ドロップ品って?」

 「帝国が有する国宝級のドロップ品が帝都騎士団の持つものなんじゃよ」

 「対の箱の一方を鳴らせば、どれだけ離れていようが再度もう一方と合わせるまでは鳴り止まぬというからくりでの」

 「へぇー」

 「調査団は若手中心の帝都騎士団20数名。
 ポーターには狂犬団の成人が4人。
 今現在、行方不明じゃ。中で何があったのかはわからぬ。ただ一刻を争う事態なんじゃよ。

 若いとはいえ、蒼いダンジョンごときに遅れをとるとは考えられんとは騎士団長のメイズの考えじゃ。
 そしてその考えにわしも強く同意する」

 「「「‥‥」」」

 「メイズからは冒険者ギルドに緊急クエストとしてアレク君に指名依頼が入った。ポーターでの参加要請じゃ。自分の身を自分で守れるポーター2名の内、1名としての。

 その要請にわしも同じなんじゃ。冒険者ギルドからもアレク君に緊急クエストを依頼したい。

 君の狂犬団成人組も行方不明の有様……。
 学園生かつ未成年のアレク君にこのようなことを頼むわしはどれだけアレク君を‥」

 「テーラーさん、もちろん行きますよ俺」

 「えっ?!」
 「「お兄ちゃん!?」」

 呆気にとられるテーラーさんと心配する妹たちの声が重なったんだ。

 「ダンジョンである以上、危険はつきまとうのは仕方ないですよ。それは狂犬団員も同じ、自己責任です」

 ダンジョンの危険性の認識。それはポーターであっても同じことなんだよ。誰に強制されたわけでもないからさ。

 「アリサもクロエも心配してくれてありがとうな。ただな‥‥お兄ちゃんが行くのはダンジョンだろ」

 「ダンジョンなら。はっきり言って騎士団さんにだって俺は負けない」

 「「フッ」」

 オヤジとテーラーさんが笑った。

 「「そ、そうだけどお兄ちゃん‥‥」」

 「なんも心配しなくていいよ2人とも」

 てか緊急クエストだよ!ダンジョンの緊急クエストなんておいしいあるある。誰がなんと言おうと行かなきゃ!おいしすぎるじゃん!

 (やはりそうか!アレク君はわしを気遣ってわざと明るく振舞ってくれておるわ!)

 「でいつ行けばいいんですか?」

 「今すぐにじゃ。準備でき次第、騎士団本部から救助隊が出発。明日の早朝には蒼いダンジョンの入り口におるはずじゃ」

 「わかりました。では俺もすぐに向かいます」

 「アリサ、明日からのみんなの食事当番頼むな。冷凍したものがいっぱいあるから」

 「うん‥‥」

 「1週間程度だよアリサ。俺が帰ったときみんなが元気なのかどうかはお前にかかってんだからな。絶対オヤジを厨房に立たすなよ。オヤジもかわいい娘を殺すなよ。ワハハハハ」

 わざと明るく言ったんだ。だってアリサとクロエはまだ心配そうな顔をしてたから。

 「アレク、わかってると思うが引き際を間違えんなよ。いいな」

 こくこく

 もちろんオヤジの言ってる意味もわかってるよ。

 悪魔の眷属との闘いもそう。おそらく戦場もそうなんだろうな。引き際を間違えない。生命を最優先に。勇気ある撤退も辞さない。オヤジの言ってることはそんなことなんだろう。

 「じゃあ行ってきます」

 「「「いってらっしゃい」」」

 「頼んだよアレク君」

 慌ただしく家を出発したんだ。







 騎士団本部は蜂の巣を突いたような騒ぎになっていたよ。

 「アレク君!来てくれたか」

 「はい。えーっとジャック副長さん」

 それは悪魔の眷属との闘いのときにメイズ騎士団長と一緒に来ていたジャック副騎士団長さんだった。門扉の前にいたから、ひょっとして俺を待っててくれたのかな。

 「ありがとう。早速だがこっちに来てくれるかい」

 「はい」

 ヒソヒソヒソヒソ
 ひそひそひそひそ

 騎士団本部ですれ違う騎士団の人たちがみんな興味津々俺を見て話してたよ。
 そりゃ未成年の学園生が精鋭揃いの騎士団本部にいるんだもんな。もうチビじゃないけどさ。

 ギーーーイッッ

 「失礼します。団長、アレク君が来てくれました」

 「間に合ったか!」

 そんな安堵の声と同時にメイズ騎士団長が笑顔で俺を迎え入れてくれたんだ。
 ん?
 部屋の隅に魔法衣を着たおっさんが2人いるな。

 「ありがとうアレク君。例の件に続いてまた君の力を借りることになるよ」

 「いえメイズさん。俺こそ狂犬団の連中が皆さんの足を引っ張ってないか、ご迷惑をかけてないかと心配しています」

 「いやいや。なにぶん状況が一切わからないからね。とにかく大急ぎで救助に向かうことにしたんだよ」

 「はい」

 「予定では救助に往復10日程度をつかうことになるよ。大丈夫かい?」

 「あはは。学園の授業にでなくていいからぜんぜん大丈夫です。
 でもメイズさん、帰ったら学園長にうまいこと話してくださいね」

 「わはははは。君ってやつは。そんなことくらい当たり前だよ」

 そんな話をしつつ、俺からも質問というか要望をしたんだ。

 「メイズさん。道中救助隊の皆さんのメシは俺が作りますから、それ用に人を割く必要はありません。
 あと回復薬さえ持ってもらえば魔法士も、盾役も必要ありません。代わりに剣士さんを増やしてください」

 「ワハハハハ。やはりそうきたか!ありがたい!」

 「団長、アレク君の回答は予想どおりでしたね」

 「うんうん」

 「?」

 「「チッ!」」

 部屋の隅にいる魔法衣を着たおっさん2人が舌打ちしたんだ。

 「メイズ、なんだこのガキは?!
 それと聞き捨てならんことをほざいておるように聞こえたが?」

 「ルシウスさんなんでもありませんよ。ただお話させてもらったように魔法団からの援助は不要です。お気遣いありがとうございました」

 「では準備もでき次第出発するよ。
 朝には蒼いダンジョンに入れるから」

 「はい」

 「ちょっ、メイズ!?」

 なんか言いたそうにしている魔法衣のおっさん2人を無視して、メイズさんとジャック副長の2人が、俺の肩にいるだろうシルフィに向かって一礼したんだ。

 「シルフィ殿また迷惑をおかけする。どうかご加護をいただきたい」

 「お願い申し上げる」

 その様子が魔法衣の2人には奇異に見えた。

 「(なにをガキに頭を下げる!?)」

 「(ルシウス団長の仰るとおりです。なんなんですか!?)」




 「アレク、騎士団の2人に言ってあげてよ。あのアホジジイどもうるさいって」

 「(やめろよシルフィ!)」

 「ほら早く!」

 「うっうっ‥‥」

 「(メイズさん、ジャックさん。今から言うのは俺じゃないですからね!ホントにホントに俺が言ってませんからね!)」

 「「?」」

 「(クソの足しにもならないヘタレ魔法士に用なんてないわ。
 カラスがいないから、なんならそこのヘタレ魔法士の口を使って話しましょうか)」
























 「「‥‥」」

 わははははは
 ワハハハハハ

 「なにを笑っておる!?」

 「ルシウス様に失礼じゃないかメイズ騎士団長!」

 「いやいやすまんね。なにぶん慌てているからね。では話はこれまで。では我々は行くとするか。アレク君も行くぞ」

 「は、はい」

 「メイズ!」

 「ちょっ!待たれよメイズ殿」


 

 なんだったんだ?あのおっさんたち。

 でもさ。不謹慎だけど。やっぱりダンジョンが楽しみでしかないよ!


――――――――――


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