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第2章 幼年編
596 アリサとおギン
しおりを挟む【 アリサ、おギンside 】
俺が家でオヤジと話をしてるとき。
アリサとおギンは女子会のあと、内密の話をしてたんだって。
「ねぇアリサちゃん、このままだと団長は春に王国に帰っちゃうわよ!なんとかならないの?」
「おギン先輩、それは私も聞きたいわ。なんとかならないの?!」
「だからそれを聞いてるのよ!」
「ねぇおギン先輩‥‥」
「なによ」
「おギン先輩はお兄ちゃんのことが‥‥す、す、好き?」
「‥‥あ、あ、当たり前じゃない!
だって狂犬団の団長よ!学園どころか帝国で1番強いのよ!」
「ち、違うの。そ、そ、その‥‥男の人としてお兄ちゃんがす、好きなの?」
「えっ?!」
かあーっと耳まで紅潮したギンの顔を見れば答えは要らなかった。
「そういうアリサちゃんはどうなのよ?」
「えっ?!」
「アリサちゃんは団長のことがす、す、好きなの?」
「‥‥」
みるみるうちに顔を紅潮させるアリサ。
それはおギンもアリサも互いが同じだった。
耳まで紅潮して向き合う2人に、互いの疑問の答えなど聞く必要もなかった。
「ねぇおギン先輩」
「なにアリサちゃん」
「おギン先輩は海洋諸国の出身なんでしょ」
「ええ」
「海洋諸国の女の人はそ、そ、そういうことに長けてるって聞いたけど‥‥」
「そうよ」
「ホントは嫌だけど、ハニートラップっていうの?
おギン先輩がお兄ちゃんに仕掛けてくれたら‥‥いいかなって。そしたらお兄ちゃんはずっとここにいてくれると思うの」
「そうね‥‥」
そうは言いつつ、ギンもまた大いに戸惑っていた。
後輩としても可愛がっているアリサを悲しませたくはない。それは事実だ。だけど自分のほしいのは‥‥‥‥
しかもギン自身が自分の感情の置き場所に戸惑っていた。
どうすればターゲットの男性を骨抜きにできるのか、手練手管は十二分に身についている。しかし、そんなことをやろうとしている自分自身を許せない自分がいる。そんなことをして彼の前に立てるのだろうかと。
そんなことを自覚することさえ初めての経験だった。
「私がそんなことをするよりもアリサちゃんがやればいいじゃん!
だってアリサちゃんは毎日団長と同じ家で暮らしてるのに!」
羨ましい。
それは悔しいほどに羨ましいと思うギンである。
「最初のころは私もお兄ちゃんはチョロいって思ったの。だって私の背中を触るくらいで顔が真っ赤になってたから」
「うん‥‥」
「だけど今は修練で魔力移動がどうとか言いながら私のお腹や肩をべたべた触っても平然としてるの」
(なんて羨ましいの‥‥)
「お風呂上がりには妹のクロエと一緒にお兄ちゃんが髪を乾かしてくれるけどまったく普通にしてるわ。逆に私が照れるくらいなのに‥‥」
「団長にとってアリサちゃんは本当に妹、家族なんだね」
こくこく
「アリサちゃん。なるようにしかならないわよ」
「えっ?!」
「だってこの1年、学園生活がこんなふうになるなんて思いもしなかったもん。アリサちゃんなんかもっとそうでしょ?」
「うん」
「だからね、なるようにしかならないわよ。きっとそうよ!
だいたい団長ったら騎士団のフリージアさんやアブルサムのビリージーンさん見て鼻膨らませて変態みたいな顔してるんだもの」
「そうよおギン先輩!お兄ちゃんフリージアさん見て鼻血噴いてたもん!絶対変態よ!」
「そうよ変態よ!」
「ええ変態よ!」
ふふふふふ
フフフフフ
【 碧のダンジョンside 】
「あれを押せ!」
「いいんですか隊長!?」
「早くしろ!でなきゃ全滅するぞ!」
それはスマートフォンを思わせる外観。漆黒の金属は無骨そのもの。特徴といえばただ一つ。真ん中にある赤い突起物。
「隊長!?」
「早く押せ!」
「はい!押します!」
―――――――――――――――
【 帝都騎士団本部side 】
ブーーーーーーーーッッッ!
午後の6点鍾を過ぎた午後8時ごろ。
それは騎士団本部の一室にて、けたたましく鳴り響いた。
スマートフォンサイズの無骨な黒い外観。そう2対、その1方から発せられる警報。
「早く団長を呼べ!」
「はい!」
▼
「どういうことだい?」
「わかりません。ただドロップ品がこのように鳴るということは‥‥そういうことかと」
重低音を響かせるドロップ品を前に騎士団長メイズと副騎士団長ジャックが頭を抱える。
ジャックがその心にある怒りを隠しもせずに叫ぶ。
「20人だぞ!いくら若手中心とはいえ帝都騎士団員が20人‥‥あり得ぬわ!そうでしょうメイズ団長」
「あり得ぬことでさえもあると想定して動かないでどうしますか?そうでしょう君たち」
「「「は、はい‥‥」」」
「君たちは常在戦場の心構えで帝都を守護いるんじゃないのかい?」
「そのとおりです!」
穏やかな口ぶり。思慮深いメイズ騎士団長ならではの語り口に、居並ぶ団員たちの目つきが変わってきた。
「経緯、そして具体的な人数を教えてくれるかい?」
「はい。2週間ほど前、蒼いダンジョンで採掘をしていたドワーフが新しい坑道‥‥というかダンジョンを見つけました」
「うん。それで」
「ドワーフならではの目線でミスリル鉱の可能性もあるのことですぐにダンジョンの入山を禁止。
調査団として帝都騎士団員20数名プラス冒険者ギルドからポーター4人を編成して入山したのがこの10日前です。ダンジョンを進むこと3日。最初の2人が帰還しました」
註) 帝国では新規のダンジョンが発見された場合、ミスリル鉱等の調査には3日毎に2人を帰すことを規約としている
「その後さらに3日後2人を帰らせた直後になんらかの事態に陥ったものと考えられます。ドロップ品からアラート(警報)が鳴りました。2人が下山したのはこの1点鐘前のことです」
「その2人はなんと言ってるんだい?」
「第1陣の2名とほぼ同じ返答をしております。たまに現れる魔獣は敵足り得なかったと」
「それが現在の状況なんだね」
「はい団長」
「調査に出てるのは?」
「第7分隊と第8分隊、それと回復士として第2分隊から1名出しています」
「第2分隊‥‥おやっさんかい?」
「はい。おやっさんもです」
「それは困ったね。第8分隊にはラースの爺さんもいるだろ。2人とも来春を以って退官だよね」
「はい‥‥」
「よし、わかった。僕が行く。副長20人ほど選抜してくれるかい」
「団長が行くほどでは‥‥」
「いや。若手とはいえ帝都騎士団員だ。しかも回復士にはおやっさんとラースの爺さんがついてるんだ。この布陣が破れるのはよほどの事態とみるべきだろうね」
「はい‥‥」
「選抜組にプラスして冒険者からもポーターを2人頼んでくれるかい。鉄級以上のベテランのみ。自分の身は自分で守れるレベルだ」
「わかりましたメイズ団長」
「メイズ団長お願いがあります」
第2分隊長のケルティが言った。
「団長私の隊も参加させてください。お願いします」
「うん、いいよ。君らはみんなおやっさんを慕ってるからね」
「はい。団長、フリージアも連れて行きたいのですが」
「ダメだよ。フリージアはまだまだ経験が浅い。ましてダンジョンはさらに環境が特殊だからね」
「‥‥わかりました」
「ん‥‥そうだ!」
「どうしましたかメイズ団長?」
「急ぎ冒険者ギルドのテーラー顧問に使いをだしてくれないか」
「はい。なんと?」
「アレク君を指名依頼でお願いできないかとね」
「アレク君とは?」
「まさか‥‥メイズ団長?」
「そうだよケルティ。フリージアを負かして、さらには先日僕の生命も救ってくれた学園生のアレク君だよ」
「メイズ団長、アレク君とはそれほどに‥‥?」
「副長はわかるね」
「はい。彼ならば」
「剣はフリージアを余裕で上回る。魔法は‥‥帝国1だろうね」
「そんな子が!?なぜ知られていないんですか?」
「ハハハ。彼の本業は学園生だからね。しかも狂犬団の団長だから」
「ですな」
わははははは
ワハハハハハ
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