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第2章 幼年編
594 理想郷
しおりを挟む3男ゴリラの皇帝陛下から土地をもらったんだ。
その日の夜、夜ごはん前にジオラマを作ってからミニチュアフィギュアもいっぱい作ったんだ。明日、目で見てもらって説明したらわかりやすいかなって。てか俺、やっぱり説明下手だし。
「アリサ明日みんなに説明する前に練習するから聞いててくれよ」
「うん。わかったお兄ちゃん。というか何をするの?りぞおとだっけ?」
「そんなんだよ。リゾートなんだよ」
「?」
「あのな、こんなのを作るんだって話をするからさ。俺説明下手くそじゃん。だから今から練習するから聞いてくれよ」
「お兄ちゃん字も下手くそだもんね。フフフ」
「くっ。いーんだよ。読めりゃ。じゃあわかんないとこあったら、わかんないって言ってくれよ」
「うん」
「まずな、もらった土地をこんなふうに改良するんだ」
「な、なにこれ?すごい‥‥」
ジオラマとフィギュアを使った説明したんだ。これなら字を書いて説明するよりいいよね。
「お兄ちゃん、これ何?」
「ああ、これはバス停だよ」
「バス停?」
オヤジは黙って俺とアリサがやってることを見てたよ。膝の上にクロエが乗ってることがうれしいんだろうな。
デーツは居ないけど、いつもどおり家族みんなの雰囲気は良いよ。平和な家庭そのものだよ。
バブ婆ちゃんは、最近ハマってる色鉛筆のお絵描きをやってた。
これ青雲館の子どもたちにもめちゃくちゃ好評なんだよね。
学園生の美術クラブの子たちが書いた動物や風景を描いた無地のイラストに絵をのせてくのが楽しいみたい。色鉛筆も20色ほどあるからね。
ポリポリ ポリポリ ポリポリ‥‥
「やっぱりこのポテチはうまいさね」
色鉛筆を動かしては口も動かしてるバブ婆ちゃん。
遅まきながらバブ婆ちゃんも2次元世界にハマりつつあるよ。
そして翌昼。
青雲館の3階会議室にみんな集まってもらったんだ。
狂犬団の学内組、学外組、成人組。それぞれの幹部連だ。
「あれ?今日キース君はダンジョン?」
「そうなんすよ団長。キースたち4人が帝都騎士団さんのポーターでダンジョンに潜ってます」
「帝都騎士団さん?」
「ええ。今話題の‥‥」
「蒼いダンジョンっすね!」
なぜか即答したのがハチだったんだ。
「さすがっすねハチさん」
「いえいえそんなことはありませんよ」
そう言ってニマニマしてる子狸にトンが聞いたんだ。
「ハチが反応するってことは金儲けの匂いがするダンジョンなんだな」
「もちろんそうっすよ!」
「お前ホントお金が好きな子狸だよな」
「当たり前っす!お金だけは僕を裏切らないっすから」
「「「ハチ‥‥」」」
大人がよく俺にやるあのヘンテコな顔をして、俺もハチを見たんだ。
「蒼いダンジョンは今年見つかった西の岩山にあるダンジョンなんすよ」
「ダンジョン中が蒼いんす。ダンジョンの中、蒼いのは岩だけじゃなくてコケも蒼いんすよ。それで蒼いダンジョンって呼ばれてて」
「変成岩でしょうね」
シルフィがそう言った。
「鉄級冒険者なら1人でも入れるくらい初心者向けのダンジョンなんですよ」
そう説明してくれたのが狂犬団成人組の幹部、ヤマジ君だった。
「なんでそんなところをお金大好き子狸が知ってるんだよ」
「実はハチさんの言うのにも意味がありまして‥‥」
「なんなのヤマジ君?」
「ええ、蒼いダンジョンに出てくる魔獣はチューラットやワーウルフなんかの最弱系中心なんですよ。
ただコイツらの魔石が稀にミスリルで覆われてるんっすよ」
「「「ミスリル!?」」」
「まあそんな魔石は滅多に見つからないんですけど。
そんでも見つけたら、小さな魔石でも1年は遊んで暮らせますからね」
「そうなんっす。ヤマジ先輩の言うとおりなんっす」
なぜか子狸が得意げになっていた。
ミスリルはめちゃくちゃ高価な金属で有名だよね。魔力を通しやすいから武器として重宝されてるんだ。ただ流通量も少なくて高額だから、よほどの資産家や超1流の剣士しか持っていないけど。
フリージアが持ってるのはローズ婆ちゃんが大金出してヴァンさんに打たせたものだよね。
俺もいつからミスリルソード持ってみたいな。
「で、その蒼いダンジョンで最近新しい穴が見つかったんですよ。ミスリル鉱の可能性もあるから騎士団さんの調査で一般には入山禁止ですけど」
「ああそれでキース君たちがいないんだ」
「はい。今回の調査は俺たち狂犬団の成人組が4人、ポーターで雇われてるんです。1日10,000Gの日当なんですよ」
「「10,000G!」」
「「ヒュー!」」
「毎度毎度テーラーさんのおかげなんです。俺たち狂犬団成人組はいつもテーラーさんが掲示板に貼る前にこっそり話をしてくれるんすよ」
「テーラーさんが?」
「はい。団長のおかげでテーラー顧問からはいつも貼り出させる前のおいしい情報をいただいてます」
そりゃ知らなかったよ。テーラーさんには今度お礼言っとかなきゃな。
「じゃあ、今日の話はあとからキース君たちにも伝えといてよ」
「わかりました団長」
▼
「そんじゃ団長からみんなに説明してもらう。その前に今回の話の計画から話すぞ」
ドンが話を始めてくれたんだ。
「昨日、武闘祭に優勝した褒美で皇帝陛下から団長がもらったのは貴族の爵位と土地なんだ」
「そうなんっす。団長のくせに団長は貴族になったんっす」
「なにがくせになんだよ!この口が言うのか子狸め!」
「痛い痛い痛い!団長口が裂けるっす」
「子狸は放っといて。団長がもらった土地がここだ。おギン」
「はいドン様」
おギンが大きな地図をテーブルに広げてくれたんだ。なんと赤ペンで囲ってあるからとってもわかりやすいよ。
「これが団長がもらった土地です」
「「「おおーっ!」」」
「学園が10個くらい入んねぇか」
「すげぇな」
「この土地を団長が好きにしていいって皇帝陛下がおっしゃいました。あと賢人会の皆さんからヒソヒソ‥‥〇〇〇〇万Gも寄付してもらいました」
「「「〇〇〇〇万G!?」」」
「「「すげえ‥‥」」」
「団長はそれを奴隷商バームの館が今の青雲館になったみたいに、また新しいことをやってくれるそうだ。りぞおとでしたよね団長?」
「うん。リゾート。それじゃあ説明するね」
「作るのはリゾート、理想郷なんだよ」
「「「りぞおと?」」」
「ああ。昔の文献から見つけたんだ」
「「「へぇー」」」
もうね、王国でもこっちの帝国でも俺が昔の文献で勉強してるのはみんな信じて疑わないんだよね。しかもさ、俺字が下手じゃん。だからどこに何が書いてあるのかもわかんないし。
「とりあえずざっくり説明するから聞いててよ、てか見ててよ」
「「「はぁ」」」
会議室のテーブルの上に巨大‥‥といっても畳2畳分くらいに仕立てたジオラマを発現したんだ。
「「「おぉー!」」」
「「「すげぇー!」」」
「「「さすが団長!」」」
このへんは土魔法様々だよな。俺プラ模型やフィギュア大好きだったから。けっこう精度のいいものが発現できたよ。
「おギン、こことこことここに水入れて」
「はい団長」
池や湖、プール、温泉には水を張ってもらったんだ。
「よしできた。じゃあ説明するよ。まず学園がこれ」
学園フィギュアを地図の上に置いたんだ。
「それとこれがバス停」
そう言って帝都の各区にバス停を置いたよ。
「「「ばすてい?」」」
「そうバス停。帝都のどの区からでも乗れるリゾート専用の馬車が停まるところ」
「「「馬車!?」」」
幹部連のみんなが息をのんでるよ。
さすがの学園生も馬車に乗ったことあるのはごく僅かだよね。
「学園からリゾートまでは20エルケくらいだから俺たち学園生は半日も歩けば着くよな。ドン、お前ならどう?」
「そうですね。今の俺なら1点鐘くらいかな」
「「「すげぇなドン!」」」
「ドン兄ちゃん、グランドの修行から魔力がすごいもんな」
「俺ら学園生は歩いて行けばいいけど、子どもやお爺ちゃんお婆ちゃんには無理じゃん。盗賊の心配もあるし」
「それで馬車ですか団長?」
「うん。リゾート専用に馬車を何台か作って御者も専用に雇う」
「「「はあ?!」」」
何人かは驚いてたけど、ふだんから俺と一緒にいるドンやトン、おギン、アリサたちは若干驚いたくらいだったよ。
「帝都を出てリゾートまでの道は俺が煉瓦道を発現する。焼き固めるのはアリサな」
「わかったわお兄ちゃん」
そこからは滞りなく説明できたよ。やっぱジオラマやフィギュアがあれば話は早いよな。
「池や湖を含めて敷地内の建屋から煉瓦道までは、春までに俺が責任もって作る。あとの中身はみんなに運営してもらうんだからな。春までに話を詰めて完成するのは来年の秋以降かな」
「そっか。団長は3月にいなくなるんだ‥‥」
おギンがぽつりと呟いたんだ。
「「「‥‥」」」
「ぼ、僕団長がいなくなるの嫌っす。
う、うっ、うわあああぁぁぁぁぁん!」
ハチがいきなり大声で泣き出したんだ。
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