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第2章 幼年編
584 歴代皇帝口伝の秘
しおりを挟む「この広い帝国の中、今現在悪魔を実在するものとして認識しているのはわしと歴代の皇帝だけなんじゃよ」
「そ、そうなんだ‥」
「して‥‥歴代の皇帝が口伝によってのみ受け継ぐ言葉がある。
アーサー言うてみい」
「おお」
3男ゴリラが誦じたんだ。
『悪魔来たりしとき
帝国人民 心を1つとせよ
それただ1つの救いの道
たとい皆の涙が枯れ果てても
皇帝たる者鼓舞し続けるべし』
「どうじゃなアレク君。なんぞ思うところはあるかの?」
「俺魔法の師匠がエルフなんです」
「ホークじゃのアレク君」
「はい」
「ホークってあのエルフ第1の強者か」
「うん」
「お前人にはめちゃくちゃ恵まれてるな」
「そう思うよ」
「縁、輪廻じゃのぉ」
「ジンさんと同じこと、テンプル先生もよく言ってました」
「ワハハハ」
「帝国に留学する前の修行。
そこで俺、ホーク師匠にヴィンサンダー領のずっと先にある砂漠に連れてってもらったんです」
一瞬ジンさんの眉毛がぴくってしたような気がしたよ。
「ホーク師匠はそのときに、『悪魔は実在する』と教えてくれました」
「ふむ」
「正直あんまり実感もなかったけど‥‥‥俺1年のヴィヨルド学園のダンジョンで、メヒコのように闇堕ちしかけたんです。しかけたというかほとんど闇堕ちしたんだと思います」
「ふむ。その経験からメヒコ君を助けることに繋がったわけじゃな」
「メヒコ君と同じように急に力がついたかのアレク君?」
「はい。でも俺の場合はその前に空から鼓笛隊みたいなのが降りてきましたけど」
「なに?!シルフィちゃん?!」
「ええ。だから今回の帝国の事件はアレクに比べればまだぜんぜん大したことないわ」
俺やオヤジたちの疑問の言葉が浮かぶ前に。ジンさんとシルフィが鼓笛隊のことを意図的にスルーしたんだと思う。もちろんオヤジたちがシルフィを見えないこともあるけど。きっとそうだ。
「悪魔は実在するよ。ただ彼奴らは数が非常に少ない。
その上、彼奴らは1度消滅すれば2度と輪廻の輪に戻ることはできぬ。悪魔の王が復活せぬかぎりな」
「そうなんだ」
「それゆえ奴等はとてつもなく行動が慎重なのじゃよ。1つの事を成就させるのに100年をかけることもまったく厭いはせぬ」
「なんて遠大な‥‥」
「それでも老師が俺らに最大限の警戒体制を告げるんだな」
「そうじゃよ。早ければ明日にでも。まぁさすがにそれはないと思うがの。じゃが遅くとも今より10年のうちには‥‥」
「そりゃ100年に比べればあっという間だな」
「そうじゃよ。悪魔にとってはすぐ明日のことじゃな」
コクコク
こくこく
コクコク
「今のアーサーが帝位にあるうち。彼奴らは必ず仕掛けてくるわ」
「「「‥‥」」」
なんとも言えない空気感が流れたんだ。
「アレク君彼奴らが好むものは何か知っとるかの?」
「好むもの‥‥‥‥人の憎悪ですか?」
「そうじゃな。奴等が好むのは人の憎しみ、絶望なんじゃよ」
そうだよな。俺の闇落ちの原点も憎しみだもん。
「そうなんじゃよ。人の憎しみが深ければ深いほど奴等にとって人は甘美な杯となる」
「それはわかるよジンさん。だって闇堕ちした俺自身がそうだったから。
憎くて憎くてたまらなかったから‥‥」
「そうじゃのアレク君。じゃがそこに悪魔を撃ち破る答えがあるんじゃよ」
「ジン・マッカーシー、さすが帝国1の知恵の泉よね」
シルフィが呟いた。
「奴等が好きなものは人の憎しみで嫌うものは人の希望。
つまりの、二律背反なんじゃよ。
それゆえ、帝国人民の頂点に立つ皇帝が何があろうが率先して守るのが希望なんじゃよ」
「「「希望‥‥」」」
「希望こそがこの国、この世界を救うただ1つの道。つまりは人民の心を1つにすることじゃからの」
コクコク
こくこく
コクコク
先代と現在。2人の皇帝も深く頷きあっていたよ。
「さてそれでは全体会議の席に移るかの」
「あのジンさん、なんでさっきの‥‥皇帝しか口伝で伝えないんですか?」
「悪魔というのは狡猾じゃろ?仲間と思わせるのも得意じゃからの。じゃから最後に人の希望だけは失えないんじゃよ」
「そっか‥‥」
このあと、全体会議に俺も参加したんだ。俺、留学中の、しかも未成年者だよ。でもこのときは、俺自身こんなことさえ当然あるんだって思ってたんだ。
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