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第2章 幼年編
577 潜航
しおりを挟むズズズーーーッッ!
ヴィヨルドの未成年者武闘祭。高所恐怖症のリゼに放ったものと同じように。
地中からいきなり出現させた塔にメヒコを乗せて20メルの高さまで急上昇させる。
「メヒコどうよ?降りれるか?」
塔の上で戸惑ってるであろうメヒコに問いかけたつもりだったんだけど、よく考えりゃ闇落ちしてるんだからこんなくらい戸惑うわけないよな。
とんっ
ビユュュューーーンッッ!
真下に俺の顔が見えるや否や。剣を抱えて頭から俺に突っ込んでくるメヒコ。
「だよな。こんなの闇堕ち前の絶望と怒りに比べりゃ怖くもねぇな」
刀ごと俺に突き刺すつもりのメヒコを。
サッと直前で身体を交わす。もちろんメヒコが地面に激突するわけでもなく、さらにそのまま真下に開けた穴に真っ逆さま。そう落とし穴なんだ。
地面からの深さも、高さと同じ20メルの落し穴。実は上の塔よりこっちの下の落とし穴のほうが俺の狙い。だって穴から地上に上がるには魔力を使わざるを得ないからね。
プラス、かなりの魔力を消費して着地したな。
「ほらメヒコ。どうした?早く上がってこいよ?」
真っ赤な目で上にいる俺を睨みつけるメヒコ。地底から脚にいっぱいの魔力を貯めて一気にジャンプのつもりが‥‥‥‥。
グッ!
カクンッ!
「上がれねぇだろ。そんなに簡単に上げさすもんかよ」
グッ!
カクンッ!
グッ!
カクンッ!
グッ!
カクンッ!
グッ!
カクンッ!
グッ!
カクンッ!
何度も何度も飛び上がろうと脚に魔力をこめるメヒコだけど、穴の底は貯めた魔力を逃すように泥土にしてあるからね。ちょっとやそっとくらいじゃ上がれないよ。
ざわざわざわざわ
ザワザワザワザワ
「「「なにが起こってる?」」」
「「「なにやってるのよ?」」」
ざわざわざわざわ
ザワザワザワザワ
魔力の枯渇。
俺の目途を理解してるのはジンさんやオヤジ、現皇帝をはじめとしたこの闘技場内にいる本当の強者10人足らずだろうな。
「ハァハァハァハァ‥‥」
メヒコから視認できる魔力がほぼ空になった。
「アレク。そろそろ来るわよ」
「わかってるよ」
ブワワヮヮッッッ!
ブワッとこれまで以上に黒い霧がメヒコを包んだ。
とんっ
何事もないかのように地上に浮上してきたメヒコ。さっきまでの魔力とはまるで違うさらに凶々しい魔力。
「ホントだシルフィ。さっきとぜんぜん違う‥‥」
明らかに雰囲気‥‥いや人格そのものが変わった感があるな。
「これが卵が孵化した状態よ。本来の宿主たる人格に成り代わったものが支配する悪魔の実験結果よ」
「実験ってことは?」
「ええ、逆に宿主が卵を食べてさらに強くなる場合もあるわ」
「うそ?!」
「嘘じゃないわ。元々悪意のある強い人間が卵を食べたら単純に倍強くなるでしょ?」
「じゃあ卵を3個も4個も食べたら3倍や4倍になったりして。さすがにそれはないか。わはははは」
「‥‥」
「えー、まさかあんの?」
「ない‥‥とは思うわ」
(わからないけど‥‥あれから1,000年。あっても不思議じゃないわね)
「でもさ、こんなの何人もいたらたいへんじゃん」
「ええ。だから過去には幾つもの大国が滅びてるわ」
「でもそれって悪魔本体じゃなくて卵‥‥」
「ええ。あくまでも実験で生まれた卵よ。それでさえ昔、中原の幾つもの大国は滅んでるわ」
「マジか‥‥」
「マジ。でも今はそんなことを考える前に、目の前の卵を止めなきゃね」
「うん」
すっ。
俺の前にメヒコが、いや違うな、メヒコの容姿をした明らかに別の人間が立っていた。
片手剣を右手で握り、青眼に構えて俺と相対するメヒコ。
人が変わっている。強いな。この構えは帝都騎士団‥‥そうだ!師匠の王都騎士団の源流、帝都騎士団流、正統派の構えだ。
「「誰が堕ちた?」」
メヒコを見つめる現(前)皇帝の呟きはフリージアにも重なった。
「あれ?なぜ?あの構えはビックス先輩?」
「来るわよアレク」
ダンッッ!
ガンガンガンガンガンガンガン‥‥
左右からの連撃。さらには逆目線を交えて。
ノンストップで刀をふるうメヒコ。
「重いな‥」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン‥‥
「マ、マ、マジかよ‥‥」
重さのある刀の連撃は止めるだけで精一杯。息つく暇もないどころか、こ、こ、このままじゃ息がもたない!
「くっ!」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン‥‥
「もうヘタレねアレクは。ちょっとだけ休憩させてあげる」
ビユユユユュュューーーンッ!
シルフィからのアゲインストの風でメヒコの連撃が止まった。
「助かるシルフィ!」
ガーーンッッ!
大きく刀を合わせて少し距離をとる。
「ハァーーッッ ハァーーッッ ハァーーッッ‥‥」
あ~ヤバかった。息もつけなかったよ!
「もっと潜れるって昔お爺ちゃんが言ってなかったアレク?」
「あっ!そうだ!」
海女をやってた婆ちゃんが息継ぎなしに5分近くも潜れるって聞いて昔びっくりしたんだよね。
爺ちゃんもふだんから練習してたらお前も潜れるぞって。
普段から胸いっぱいに空気を吸って潜れば深く長く潜れるようになるって。
「よーし」
すうううぅぅーーーーーっ‥‥
「かかって来いメヒコ!」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン‥‥
右へ左へ。丁寧にいなしていく。よし、これならもう大丈夫。
アレクのその姿を観戦するジンは率直な疑問を、自らに憑く風の精霊に問うた。
「シェールなぜシルフィちゃんはアレク君を助けん?」
「ホントにヤバくなったら助けるわよ」
「ん?ではなぜ‥‥あゝそういうことか!」
「ええ。アレクは‥‥あの子はもっともっと強くなるわ。シルフィの願いに応えるくらいにね」
「カッカッカッ!それはおもしろい!中原最強の、伝説の精霊が認める人族か!」
「ええ」
雰囲気もまるで変わったメヒコは帝都騎士団ばりの剣技を繰り出してきたんだ。連撃、連撃、ひたすら連撃。
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン‥‥
大丈夫。いける!
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