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第2章 幼年編
576 史上最強の未成年者
しおりを挟む「「がんばれー!」」
「「団長ー!」」
「「変態ー!」」
ワーワーわーわー
わーわーワーワー
メヒコが待つ闘技場の中央に向けてゆっくりと歩みを進める。
ときどきね、わけのわからない声援も聞こえてくるよ。心が折れそうになるんだけどね。
「じゃあアレク。私は先にカラス片付けてくるわね」
「うんシルフィ」
カーカーカー
カーカーカー
カーカーカー
頭上を舞う3羽のカラスが予想どおりメヒコの近くに降りてきた。
ちょうど相撲でいう土俵の俵の距離と位置に同等。正面と向こう正面、メヒコの右手辺り。三角形で挟むような形でカラスがそれぞれ留まったんだ。
ブルブルブルブル‥
ただ震えるばかりのメヒコからはやっぱり凶々しい魔力の雰囲気なんか皆無。それは元の世界の俺と同じ。ただのひ弱なモブ少年にしか見えなかったんだよ。だけどね……。
カチッ!
カチッ!
カチッ!
カラスの嘴を鳴らす音が聞こえた途端。
ゴオオオォォォーーーーーッッ!
スイッチが入ったようにメヒコが豹変したんだ。
「アクマヨタチサレ、悪魔よ立ち去れ、悪魔よ立ち去れ、悪魔‥‥」
最初は呟くような声がだんだんと大きく、はっきりと聞こえてきたんだ。
ゴオオオォォォーーーーーッッ!
体内から噴出しだした凶々しい魔力はあっという間にメヒコそのものを包み込んだ。
ちょうど冬のお風呂上がり。身体中から湯気が沸き立つみたいな感じ。そんな感じで、黒くて濃い紫色の魔力が湧き出てきたんだ。
「ウウゥゥッッ‥‥」
メヒコの目も真っ赤に充血した魔獣のようになった。そしてそんな魔獣みたいな目で瞬きもせずにじっと俺を睨みつけている。
「悪魔、悪魔、悪魔、悪魔‥‥」
「それでは未成年者武闘祭決勝戦。
メヒコ君 対 アレクの闘いを始めます。両者互いに礼!」
ぺこり
「‥‥」
「審判さんいいですか?」
「は、はいアレク君?」
「メヒコが開始のお辞儀をしない限り、俺は闘いませんよ」
そう言って俺は降参するように両手を上げたんだ。
「えっ?そ、それはたしかにそのとおりだな。メヒコ君お辞儀は?」
「‥‥」
そこにやることをやって戻ってきたシルフィが声をかける。
「いいわよアレク。どんどん話して。あの子の中にいる本物の子が気付くようにね」
「どうしますか審判さん。勝負の基本、礼儀を守れないような奴とは俺闘えませんよ。そんな奴から勝ってもなんの自慢にもならないし」
「あ、ああ。メヒコ君お辞儀をしなさい!」
「‥‥」
「メヒコ君」
「‥‥」
「なんだったら俺を試合放棄で負けにしてもらってもいいですけど?」
「そ、それじゃあ困るんだよね‥‥。たしかに君の言うとおりでもあるからね。メヒコ君お辞儀をしなさい」
「‥‥」
「お辞儀だよお辞儀」
「‥‥」
ざわざわざわざわ
ザワザワザワザワ
いいぞ。会場内の雰囲気も変わってきたし本人も少しだけ困ってるぞ。
――――――――――
一方。シルフィ、ジン、シェールの3人はカラスが嘴を鳴らした直後に。
「「「ブリザード!」」」
瞬時の氷点下の寒風でカラスを拘束したんだ。仮死状態。
あとはシェールが仮死状態のカラス3羽を風魔法で円形闘技場の地下へ運ぶ。
が、円形闘技場内の熱狂する群衆はそんなことには誰もまったく気づかなかったんだ。
――――――――――
「んっ!?」
ザーザーザーザー‥‥
映像が突然途切れた画面を前に。
「やられたでおじゃる!やはりまだ時期尚早でおじゃったかの‥‥」
――――――――――
「メヒコ君、お辞儀をしないようではこの勝負自体を無効にするよ。いいんだね?」
「‥‥」
「そうか。それでは本日の決勝戦は‥」
ペコリ
「審判さん!?」
「ああ。たしかに今お辞儀をしたね。よし、それでは決勝戦はじ‥」
スーーーッッ
やはり。開始の宣言を審判が最後まで言う前に飛び出していたメヒコ。
刀の俺に合わせて片手劍を選択したみたいなんだ。その片手剣を真っ直ぐ刺突の構えで俺の胸元一直線に突いてきた。
スーーッッ‥
シュッ!
観客席から悲鳴が上がる。
「「「キャーーー!」」」
――――――――――
「老師、ア、ア、アレク坊は大丈夫かしら?フリージアみたいに一撃で屠られない?」
「クックック。どうじゃろうなぁ。
して。そんなことにでもなれば、このわしも旧友に対して立つ瀬がないのぉ。カッカッカッ」
「どう言う意味なの老師?なぜ笑ってるの?」
「なにローズ。仮に全盛期のブロンドの戦姫と誰からも恐れられた主がアレク君と相対してもおもしろいことになっておったじゃろうな。未成年のアレク君にの。ワハハハハ」
それはその日、同じ貴賓席に座る新旧皇帝の耳にも入っていた。
((あの馬鹿が負けるわけはねぇとは思うが‥‥勝ち筋も負け筋も見えねぇな‥‥なのになぜ老師は笑う?))
――――――――――
シュッ!
目にも止まらぬ速さの刺突がアレクの心臓を貫いた。
たしかに。誰の目にもたしかにそう見えた。
「メヒコ、その程度で俺に勝てると思ってるのかよ?」
メヒコの背後に立ち、背中越しにその心臓をツンツンと突く真似をした俺。
「?!」
「「「なに?!」」」
メヒコのあの驚いた顔ったらなかったよ。
その驚きは観戦してるローズ婆ちゃんたちも変わらなかったよ。だってたしかに俺の胸元を突いたように見えたからね。
「うーんまだまだねアレク」
「そうだねシルフィ。まだ残像程度しか出せないよなぁ」
「まぁでも今はこの程度でいいわよ。ホントの分身ができたら人に知られちゃうもんね」
「そうだよね」
「必殺技は人が知らないほうがカッコいいんだよ」
「だよねシルフィ」
「フフフ」
(本物の分身ができて。さらに進化した先、アレクは‥‥‥‥そのときまでアレク頑張りなさい)
「「「何が起こった?」」」
「「「たしかに貫いていなかったのか?!」」」
そうなんだ。春休み、ホーク師匠から教わった魔力で生み出す俺の分身。分身はまだまだ完成しないけど、残像程度には発現できるようになったんだよね。
だからメヒコも周りの人も当然錯覚してるわけで……。
それプラス俺は速さを、過去1のものを手に入れたんだ。大人にも負けない他を圧倒する速さを。
「ほら、かかってこいよメヒコ」
再び俺に向けて瞬時に近寄ったつもりのメヒコ。
スーーッッ‥
シュッ!
「!?」
その驚愕は観客席でも。
「「「なに!?」」」
メヒコの背後にまわった俺は、またその背から心臓をツンツンする。
ツンツンっ
「遅いってメヒコ」
驚愕。困惑。
いいね。メヒコが戸惑ってるぞ。
「ほら違うだろ?こっちだよ」
スーーッッ‥
シュッ!
「ハズレ!」
スーーッッ‥
シュッ!
「またハズレ!」
その都度メヒコの背後にまわった俺が背中をツンツンしてやる。
「じゃあ魔法でもいいぞ」
そう言った俺は今度は刀を背に戻して両手をぷらぷらさせる。
「シルフィお願い」
「ええ。任せなさい」
刀を仕舞ったメヒコはカラスと対戦したときみたく、両手を前に手のひらを合わせ、何かを握りつぶすような仕草を見せたんだ。
ギュッギュッ!
「‥‥」
ギュッギュッ!
「!?」
ギュッギュッ!
「??」
「なにやってんだ?それなんかのおまじないか?」
バンザイのように両手を挙げてヒラヒラとメヒコに問う俺。
狐につままれたようなメヒコは自身の手のひらをじっと眺めては俺を睨むのを繰り返している。
レジスト。
魔法耐性。今の俺にはまったくできないそれもシルフィにかかれば問題などあろうはずもない。
メヒコの心臓を握りつぶそうとする魔法攻撃もまるで無効なんだ。
「お茶の子さいさい、朝飯前よー!」
ふんすと胸を張るシルフィ。
「さすがシルフィ!」
「ったりめぇよ!」
「でた!謎の江戸っ子シルフィだ」
ワハハハハ
フフフフフ
「次はなにする?体術か」
担いだ刀も脇差も下ろしてクイクイと指先でメヒコを体術に誘う。
スーーーッッ
バターーーンッッ!
メヒコが仕掛ける間もなく俺はメヒコを倒して腕を取り、そのまま腕ひしぎへと持ち込む。
「クッ‥‥」
若干苦痛に顔を歪めているのはメヒコの内にいる、本来のメヒコ。
「‥‥」
まるで苦痛を感じず無表情なのはメヒコに憑依した別人格の魂。
「落としていいわよアレク」
「わかった」
ブチッ!
靭帯が切れる音が聞こえた。
半分顔を歪め、半分平然としているメヒコが立ち上がる。
「んじゃ今度は俺からいくぞ」
「ファイアボール!」
ゴオオォォーーーッッ!
ソフトボールほどの火の玉を投げつける。
即座に同等以上、青みがかったバレーボール大の火の玉をぶつけてくるメヒコ。2つの火の玉が正面衝突する。
ゴオオォォーーーッッ!
ゴオオオォォォーーーーーッッ!
ガーーンッッ!
ソフトボールとバレーボール。しかも低温と高温だもんな。これはやられるわ。
ゴオオオォォォーーーーーッッ!
勢いそのままに俺に向かってくる火の玉。ニヤニヤと笑みと自信を取り戻したメヒコ。
「んじゃこれならどうだ?」
ゴゴゴオオオォォォォォーーーーーッッ!
今度は白いまでに薄ら青い超高温の火の玉を発現してぶつける。
ジュッッ!
メヒコの火の玉が俺の火の玉に吸収される。
「ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!」
連呼して火の玉を3つ立て続けに発現するメヒコだが‥‥
ジュッッ!
ジュッッ!
ジュッッ!
「もう終わりかよ?!こんなもんかメヒコ?」
「クッ‥‥」
「ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!‥‥」
10ほどの火の玉を発現させるメヒコだが。
「火の玉ならこんくらいのものをだせよ」
ゴオオォォォーーーッ!
大玉転がしサイズの火の玉を発現させて、そのすべてを吸収させていく俺。
ジュッッ!
ジュッッ!
ジュッッ!
ジュッッ!
ジュッッ!
ジュッッ!
ジュッッ!
ジュッッ!
くいっ↑
ドカァァァンッッッ!
メヒコにぶつかる前にわざと大玉を空中にあげて花火のように炸裂させる俺。
誰が見ても大人と子ども。歴然たる力の差
を見せつける。
ハァハァハァハァ‥
ゼーゼーぜーぜー‥
メヒコが肩で息をしだしたな。もうちょいだ。
「じゃあこれはどうだ?」
ズズズーーッッ!
去年ヴィヨルドで高所恐怖症のリゼに放ったものと同じ。
地中からいきなり出現する塔に乗せて20メルの高さまで急上昇させる。
「どうするよ?降りれるか?」
塔の上で戸惑うメヒコに問う俺。
「こんなもんじゃ終わらせねぇぞ。早く目を覚ませよメヒコ‥‥」
「油断してないわねアレク?」
「もちろんさシルフィ!」
「そろそろ出てくるわよ」
「植えつけられた卵がね」
―――――――――
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