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第2章 幼年編
574 進化の覚悟
しおりを挟む「ジンさん」
「おおアレク君、ローズの孫娘はどうじゃった?」
「うん、生き返らせたからもう大丈夫だよ」
「エリクサーかの?」
「内緒だけど俺の雷魔法で蘇生させたよ。今はコウメが回復魔法を発現してるよ」
「なんと!それはすごいがの‥‥ただのぉシルフィちゃんや‥‥」
「ええ。ローズにはコウメから伝えてあるわ。もちろん人には言わないでねって」
「ふむ。それが賢明じゃよ。ローズにも契約魔法を交わしても良いの。ああもちろんわしもコウメもじゃがな」
「そうね‥‥」
「いいよジンさん。俺ジンさんと同じくらいローズの婆ちゃんも信頼してるからさ。だいたいコウメはかわいい後輩だからさ」
「‥‥そうかい。でもよかったのぉ。孫娘も死なんで。わしら年寄りは若いもんに先立たれるとどうもいかん。不憫でならんのじゃよ」
「あははは。
それよりさジンさん、やっぱカラスは3羽いたよね」
「いたのぉ。たしかに嘴でカチッカチッとやるのがメヒコ君から魔力が溢れる契機じゃったの」
「うん。あの魔力はやっぱ闇堕ちのもの?」
「それはそうなんじゃがな。わしの知る闇堕ちの魔力とは少し違うんじゃよ」
「ん?」
「本来ならばメヒコ君の悪しき魔力が溢れるから闇堕ちなんじゃよ。
じゃがの‥‥メヒコ君のあの魔力にはメヒコ君以外の魔力も感じられたんじゃよ。どうかのシルフィちゃん?」
「さすが帝国きっての知恵の泉ジンね。
そうね、たしかにあのメヒコって子には別の魂が組み込まれているわ。
ジンは卵って聞いたことある?」
「文献では見たことはあるがの。まさかこの帝国で卵の孵化かの?!」
「シルフィなにそれ?」
「あのねアレク、ふつうの闇堕ちはその人の悪しき心を増大させるから闇堕ちでしょ」
「うん」
「だけど闇堕ちしても元々の魔力自体が弱い人は湧きでる魔力量自体も大したことないのよ。
だけど悪意に染まった人の魂を別の素体に埋め込む。つまり卵を植えつければ‥‥その魔力量は従来の闇堕ちの2倍にも3倍にもなるの」
「そうなんじゃがなシルフィちゃん。
帝国で卵の記録はないんじゃよシルフィちゃん」
「ジン、帝国での悪魔の記録は500年ぶりでしょ?」
「そうじゃよ」
「その前の記録は?」
「たしかにのぉ‥‥」
「でしょ。だから帝国にいる悪魔は500年ずっと研究してたって考えるほうが適当でしょうね」
「そうじゃの‥‥」
重い空気が流れたんだ。
「まぁ今はじゃ。明日のアレク君との決勝戦。このカラス(鳥)が降りてきたら即座に確保じゃの。さすれば当座はメヒコ君が闇堕ちするのも防げるはずじゃ」
「でもさジンさん‥‥仮にだよ?仮に明日カラス(鳥)を確保して嘴鳴らすのを1時的に抑えたとするよすね」
「ふむ」
「そのあとあのメヒコはどうなるの?」
「して……。かわいそうじゃが拘束するしかあるまいて。どこぞで本格的に闇堕ちしてもいかんからの」
「拘束が続いたら闇堕ちは解ける?」
「いや‥‥残念じゃが無理じゃ。遅くとも数年のうち、急速に年老いて悪魔との契約に従い魂を奪られるじゃろうな」
「やっぱり‥‥。
てことはメヒコは生涯を監視下、あるいは牢屋‥‥」
「仕方あるまいて。じゃがアレク君が気にすることではないぞ。こればかりはな」
――――――――――
「いたぞ。あの死骸だ」
「ひでぇな。どうしたらああなる?」
「何かに吸われたか砂漠で乾涸びたようだな」
円形闘技場で未成年者武闘祭が行われている最中。
元騎士団員だった若い男の死骸が見つかった。
ビックス。胸に穴の空いたその男はまるで甲殻類が脱皮をしたような抜け殻状態であったという。
――――――――――
「うん……。それでさジンさん、明日の決勝戦。カラス(鳥)にカチッと鳴かせてメヒコを闇堕ちさせてから闘ってもいいかな?」
「なにを言うておる!さすがにそればかりは許せぬぞ!」
「闇堕ちのまま魔力が尽きて、尚且つメヒコが目を覚ませばいいんだよね。そしたらあいつの心も身体も元どおり、この世界にいられるよね?」
「理屈はわかるぞ、理屈は。じゃがな闇堕ちしたあのメヒコ君の尋常じゃない力はアレク君も見たじゃろう!
あれはシルフィちゃんの言う卵であるのならば‥‥‥‥。
さすがに悪魔本体の気配は去ったが、未だ何が起こるのかもわからん。
みすみす生命を奪られるのを看過はできぬわ!わしもテンプルに対して顔向けできなくなるわい!」
烈火のように怒るジンさんに向けて言ったんだ。
「違うんだよジンさん。闇堕ちしたメヒコと俺が対等以上に闘りあって、あいつの悪い魔力が枯渇するまで吐き出さすんだよ。そしたらメヒコも目が覚めるじゃん」
「言っている意味はわかるぞアレク君。しかしそれは理想論というものじゃよ」
「じゃあさジンさん、改めて俺の魔力を見て判断してよ。これが今の俺の全力だよ」
「ふむ‥‥」
ぎゅっ
ギュッ
ジンさんと握手したんだ。隠しごとのない、今の俺のすべて。3歳から蓄えた魔力のすべてを見せたんだ。そしてそれはジンさんに憑くシェールにも伝わったんだ。
「「なんと!(なによこれ!)」」
目を見開いて驚くジンさんとシェールを前にシルフィが微笑んで言ったんだ。
「どうジン、シェール?」
「「信じられん(信じられないわ)‥‥」」
「シルフィ‥‥あのメヒコって子くらいじゃアレクの足下にも及ばないわ」
「たしかにのぉシェール‥‥してアレク君。これだけの魔力を保持して‥‥今さらじゃがなぜ君は帝国に来たんじゃ?」
「なぜって。わかんねぇよ。あははは。誰かに呼ばれたのかな。
でもね俺‥‥帝国に来て本当によかったよ。ジンさん始めいい人にもいっぱい会えたしさ。
魔力の正しい使い方も含めて、あらためて俺自身の生き方を問うこともできたからさ」
「シルフィちゃんや、まさかアレク君は、その‥‥」
「‥‥ええ。たぶんジンの思ってるとおりよ。だからメヒコとかいう子ごときではアレクには勝てない。それはこの世の真理よ」
「それと‥‥アレク君はひょっとして‥‥シルフィちゃんもまさか‥‥」
「今はいいじゃない、そんなこと。
それより、明日はアレクに好きなように闘ってもらいましょ。
それとね、あの3羽のカラス。始まったらすぐに私たちで捕まえましょうよ。映像を観てる誰かさんが慌てるようにね。準備はこっちもしてるんだよってね」
「そうじゃの。帝国では500年ぶりじゃが決して油断なぞしておらんぞとなるわの」
「明日カラスが嘴を鳴らしたと同時にジンとシェールと私の3人でカラスを捕まえましょ。寝転がってアニメ観てる誰かさんを追い詰めてやりましょ」
「あにめ?」
「フフフ。なんでもないわ。今なら悪魔の本体でも私たちだけでなんとか勝てるでしょ」
「カッカッカッ。これはこれは。痛快この上ないの!
して、どう‥‥」
それからシルフィとジンさん、シェールがなんか作戦会議をしてたよ。俺?意味わかんなかったけど。
「アレク君、民にもしものことがあるといかんからの、明日は帝都内の武人だけには円形闘技場内の警護をさせるからの。よいかな?」
「ジンさん、もちろんです。じゃあ俺フリージアとローズの婆ちゃん送ってから帰りますから」
「ふむ。では明日の」
「じゃあねシルフィ」
「じゃあねシェール」
――――――――――
「アレク坊‥‥ありがとう、ありがとう、本当にありがとう‥‥」
「気にすんなよ婆ちゃん」
ローズ婆ちゃん、腰も曲がってすっかり婆ちゃんになっちゃったよ。
「しっかりしろよ!ローズ婆ちゃんはいつもみたく背筋伸ばして前向いてたほうがカッコいいよ」
「アレク坊、うっうっうっ‥‥」
「あーもうやめてくれよローズ婆ちゃん。フリージアも元気になったんだからなんの問題もねぇじゃん」
俺にしがみついて泣くローズ婆ちゃんの背中をさすって宥めたよ。
「ア、ア、アレク坊、お礼の代わりにせめてフリージアをもらっておくれ。妾でも奴隷でもなんでもいいわ。アレク坊はフリージアの生命の恩人なんだから」
「なんだよそれ!奴隷なんてできるかよ!冗談が過ぎるぞローズ婆ちゃん!」
でも奴隷かぁ。せ、せ、性奴隷?あんなにきれいなフリージアにあんなことやこんなこと‥‥えへへへっ。
ダメだダメだ!思ってるだけで鼻血が出る!てかそんなことしようもんならアリサに殺されるわ!変態兄ちゃんって!
「「アレク声漏れてんぞ!(アレク君私でよか‥‥)」」
シルフィの言葉とフリージアの言葉が被ったんだ。一気に目が覚めたよ。
「フリージア、明日の俺とメヒコの決勝戦。
婆ちゃんと2人で観るか?それとも1人で円形闘技場の入口、闘う俺らの近くで観るか?どうする?」
「えっ‥‥」
「メヒコの動きを客観的に見ればお前はもっと強くなる。しかも婆ちゃんの側なら安全だろ?」
「‥‥」
「それとも1人で。俺らが闘う側で観るか?それなら、またメヒコが何かしてくるかもしれないぞ。
でもその恐怖に打ち勝ったお前は格段に強くなる。どうするフリージア?」
「わ、わ、私‥‥」
そしたらね、ジーンが声を上げてくれたんだ。ジーンはフリージアの手をしっかりと握っていたんだ。
「アレク君、私もフリージアと一緒に‥‥あなたの闘う側で観たい。とっても怖いけど‥‥私ももっと、フリージアと2人でもっと強くなりたいから」
「ジーン‥‥」
「フリージア‥‥」
コクコク
こくこく
「わかった。明日は2人とも俺の側で見てろ。なに心配しなくていいぞ。フリージアの仇は俺がとってやるからな」
「「うん‥‥」」
フリージアにジーン。2人ともめちゃくちゃきれいだよな。2人並ぶとさらにすげぇよ。美人の2倍マシじゃん!
「お兄ちゃん、声漏れてるわよ!この変態!」
バチーンッッ!
「えっ!?アリサ!す、すいません‥‥」
「馬鹿なこと言ってないで早く帰るわよ!」
「は、はい‥‥」
いつのまにかアリサがいたんだよな!
――――――――――
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