アレク・プランタン

かえるまる

文字の大きさ
上 下
571 / 722
第2章 幼年編

572 最悪の結末②

しおりを挟む


 嫌な予感、あってほしくないことほどぴったり当たるんだ。メヒコにやられてカラス(人)は倒れた。

 開始と同時に。無手のメヒコは、その場でゆっくり両手を前に上げたんだ。

 2つの手のひらを重ねてぞうきんを絞るような仕草をした。

 ギュッッッ!

 魔法。それは目に見えない力で心臓を一掴みだった。

 即死のカラスに対して回復士たちは、躊躇なくエリクサーを使ったんだ。超高額なことは言うまでもなく、未成年者の武闘祭でエリクサーを躊躇なく使用する現実。そんな異常な状況に満員の客席ですら言葉を失くしていた……。
 
 エリクサーやハイポーションの使用は魔法使いや体力勝負の人には問題ないんだけど、剣士や弓士などの技巧派にはあまり良くないっていうんだよね。

 無理矢理蘇生させることになるから、神経の細かな部分がつながらないことも多いんだって。のちに後遺症に苦しむことが多いっていうよ。

 カラス(人)の主戦は魔法だからたぶん良いんじゃないかな。

 この闘いが終わったら見舞いに行かなきゃな。カラス(人)も友だちになったからさ。






 準決勝戦

 「アレク君フリージア大丈夫かな?」

 俺の横でジーンが心配そうにしている。

 「‥‥正直厳しいと思う」

 「うん‥‥」

 「正直、フリージアには今でも棄権してほしいよ。でもさすがにそれじゃあフリージアも納得しないだろ」

 「ええ‥‥」

 「だからさ、せめて胸あてさえ着けていれば最悪は免れるはずなんだよ」

 「ねえアレク君、フリージアは納得した?」

 「嫌だ嫌だって言ってたけど最後には着けるって言ってくれたよ?」

 「‥‥」

 「なんで黙るんだよジーン?」

 「私‥‥たった数日の付き合いだけど‥‥フリージアは‥‥うううん。なんでもない。
 フリージアならきっと大丈夫よ。あんな気色の悪いメヒコなんかレイピアの1突きよ」

 「だよな。フリージアだもんな」

 「ええそうよ。フリージアだもん!」

 そうは言いつつ、メヒコにフリージアが勝つ絵図はどうにも想像できなかったんだ。てか善戦する絵図さえもね……。悪い予感だよね。

 試合開始の直前。
 フリージアの背中をさすっているのはローズ婆ちゃんだ。

 オロオロしたローズ婆ちゃんは年齢相応のお婆さんに見えた。


 でもさ、制服姿のフリージアがまさか胸あてを着けてなかったなんて思ってもみなかったんだよ。だってフリージアは俺に胸あてを着けるって了承したんだから……。

 わーわーワーワー
 ワーワーわーわー

 「帝都騎士団養成校フリージアさん  対  東の辺境ティティカカのティティカカ学園メヒコ君。準決勝です」

 わーわーワーワー
 ワーワーわーわー

 「両者互いに礼」

 ペコリ
 
 ‥‥

 「始‥」

 スーーーッッ

 目にも魔力を纏ったフリージアでさえ、まともに追いきれないその瞬足の身のこなしで。メヒコがレイピアをフリージアに向けて突き立てたんだ。

 プスッッ!

 

 




















フリージアは対面で見守る俺を見たよ。
 フリージアはたしかに俺を見たんだ。薄らと微笑みを浮かべたんだ。

 つぅーーーっっ

 フリージアの唇の端から鮮血が流れた。

 「フリージア!」

 ダンッッ!

 頭からそのまま倒れるフリージアをゆっくりと支えながら地面に寝かさせた。




























 フリージアの左胸。胸ポケットの5本線の真ん中に小さな穴が貫通していたよ。胸あてを着けてなかったんだ。
 胸ポケットがじわじわと濃い紅色に染まっていったよ。

 即死。

 足下に臥すフリージアと俺を見てニヤッと笑ったメヒコがブツブツと呟いていたんだ。

 「悪魔よ立ち去れ、悪魔よ立ち去れ、悪魔よ立ち去れ、悪魔‥‥」


 「フリージアーーー!」

 ローズ婆ちゃんの悲鳴が円形闘技場に響いていた。



――――――――――


 いつもご覧いただき、ありがとうございます!
 「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
 どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

なんか黄金とかいう馬鹿みたいなスキルを得たのでダラダラ欲望のままに金稼いで人生を楽しもうと思う

ちょす氏
ファンタジー
 今の時代においてもっとも平凡な大学生の一人の俺。 卒業を間近に控え、周りの学生たちは冒険者としてのキャリアを選ぶ中、俺の夢はただひとつ、「悠々自適な生活」を送ること。 金も欲しいし、時間も欲しい。 程々に働いて程々に寝る……そんな生活だ。 しかし、それも容易ではなかった。100年前の事件によって。 そのせいで現代の世界は冒険者が主役の時代となっていた。 ある日、半ば興味本位で冒険者登録をしてみた俺は、予想外のスキル「黄金」を手に入れる。 「はぁ?」 俺が望んだのは平和な日常を送るためだが!? 悠々自適な生活とは程遠い、忙しない日々を送ることになる。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...