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第2章 幼年編
572 最悪の結末②
しおりを挟む嫌な予感、あってほしくないことほどぴったり当たるんだ。メヒコにやられてカラス(人)は倒れた。
開始と同時に。無手のメヒコは、その場でゆっくり両手を前に上げたんだ。
2つの手のひらを重ねてぞうきんを絞るような仕草をした。
ギュッッッ!
魔法。それは目に見えない力で心臓を一掴みだった。
即死のカラスに対して回復士たちは、躊躇なくエリクサーを使ったんだ。超高額なことは言うまでもなく、未成年者の武闘祭でエリクサーを躊躇なく使用する現実。そんな異常な状況に満員の客席ですら言葉を失くしていた……。
エリクサーやハイポーションの使用は魔法使いや体力勝負の人には問題ないんだけど、剣士や弓士などの技巧派にはあまり良くないっていうんだよね。
無理矢理蘇生させることになるから、神経の細かな部分がつながらないことも多いんだって。のちに後遺症に苦しむことが多いっていうよ。
カラス(人)の主戦は魔法だからたぶん良いんじゃないかな。
この闘いが終わったら見舞いに行かなきゃな。カラス(人)も友だちになったからさ。
準決勝戦
「アレク君フリージア大丈夫かな?」
俺の横でジーンが心配そうにしている。
「‥‥正直厳しいと思う」
「うん‥‥」
「正直、フリージアには今でも棄権してほしいよ。でもさすがにそれじゃあフリージアも納得しないだろ」
「ええ‥‥」
「だからさ、せめて胸あてさえ着けていれば最悪は免れるはずなんだよ」
「ねえアレク君、フリージアは納得した?」
「嫌だ嫌だって言ってたけど最後には着けるって言ってくれたよ?」
「‥‥」
「なんで黙るんだよジーン?」
「私‥‥たった数日の付き合いだけど‥‥フリージアは‥‥うううん。なんでもない。
フリージアならきっと大丈夫よ。あんな気色の悪いメヒコなんかレイピアの1突きよ」
「だよな。フリージアだもんな」
「ええそうよ。フリージアだもん!」
そうは言いつつ、メヒコにフリージアが勝つ絵図はどうにも想像できなかったんだ。てか善戦する絵図さえもね……。悪い予感だよね。
試合開始の直前。
フリージアの背中をさすっているのはローズ婆ちゃんだ。
オロオロしたローズ婆ちゃんは年齢相応のお婆さんに見えた。
でもさ、制服姿のフリージアがまさか胸あてを着けてなかったなんて思ってもみなかったんだよ。だってフリージアは俺に胸あてを着けるって了承したんだから……。
わーわーワーワー
ワーワーわーわー
「帝都騎士団養成校フリージアさん 対 東の辺境ティティカカのティティカカ学園メヒコ君。準決勝です」
わーわーワーワー
ワーワーわーわー
「両者互いに礼」
ペコリ
‥‥
「始‥」
スーーーッッ
目にも魔力を纏ったフリージアでさえ、まともに追いきれないその瞬足の身のこなしで。メヒコがレイピアをフリージアに向けて突き立てたんだ。
プスッッ!
フリージアは対面で見守る俺を見たよ。
フリージアはたしかに俺を見たんだ。薄らと微笑みを浮かべたんだ。
つぅーーーっっ
フリージアの唇の端から鮮血が流れた。
「フリージア!」
ダンッッ!
頭からそのまま倒れるフリージアをゆっくりと支えながら地面に寝かさせた。
フリージアの左胸。胸ポケットの5本線の真ん中に小さな穴が貫通していたよ。胸あてを着けてなかったんだ。
胸ポケットがじわじわと濃い紅色に染まっていったよ。
即死。
足下に臥すフリージアと俺を見てニヤッと笑ったメヒコがブツブツと呟いていたんだ。
「悪魔よ立ち去れ、悪魔よ立ち去れ、悪魔よ立ち去れ、悪魔‥‥」
「フリージアーーー!」
ローズ婆ちゃんの悲鳴が円形闘技場に響いていた。
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