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第2章 幼年編
570 持久戦
しおりを挟む「明日の準決勝はキキさん、メヒコ君、フリージアさん、カラス君によって争われます。
アレク君は不戦勝につき、登場は明後日の決勝戦となります‥‥」
探したけどキキとメヒコはこの場にいなかったよ。
「カラス、明日あたっても負けないわよ」
「俺も負けないぞフリージア」
フリージアとカラスが軽く拳をぶつけあって互いの健闘を誓いあったんだ。
――――――――――
「あなたたち、キキはどこ行ったの?」
「「「知らなーい。たぶん勝手に帰ったんじゃなーい?」」」
「ちっ。相変わらずね。まったくもう、協調性の欠片もない子だわ‥‥」
――――――――――
「大丈夫、大丈夫だからねメヒコ君、大丈夫‥‥」
ガタガタガタガタガタガタ‥‥
引率の教師に背中をさすられながら、ただガタガタと身体を震わせ続けるメヒコ。そんな彼に、今日の試合の記憶などまるでなかった。
――――――――――
「ジンさん」
「おおアレク君待っとったよ」
「あのね、カラスがさっき教えてくれたんだよ」
「カラス?」
「ああ武闘祭に出場してる北の辺境コート学園のカラスだよ。
話がごちゃごちゃになるからカラス(人)、カラス(鳥)に分けるね」
「あ、ああ」
「でね、そのカラス(人)が言うには、メヒコの試合開始に合わせて円形闘技場にカラス(鳥)が3羽現れるそうなんだよ」
「それじゃ!カラス(鳥)が契機じゃわい。
なるほどの。ようやくカラクリがわかったわい」
「うん。それでその3羽のカラス(鳥)は、ティムができるカラス(人)でも言うことを聞かないらしいんだ」
「カラス(人)君にはティムの才があるのかい!」
「うん。すごいよね!でね、カラス(人)が言うには3羽のカラス(鳥)は誰かに使役されてるんだろうって」
「やはりの。使役ということは隷属魔法かの」
「そうみたいだね」
「でもジンさん。人だけじななくって動物も隷属できるんだ?」
「魔獣も動物も隷属できるよ。ただやはり頭が良くない動物や魔獣では無理じゃがの」
「へぇー」
「アレク君いいことを聞いてきてくれたわい!
明日の試合前、そこを踏まえてもう1度じっくりと見るかの」
――――――――――
「お兄ちゃん!どこ行ってたのよ?早く帰ろうよ」
アリサが待っててくれたんだ。なんか怒ってる?
「ごめんごめん。観戦に来てたコウメの爺ちゃんと話しててさ」
「そうなのね」
(よかった。フリージアさんにもう1人も綺麗な人が現れたから心配だったのよ)
――――――――――
――――――――――
翌日の準決勝。
フリージアは魔法軍学校のキキと対戦したんだ。
俺?俺はメヒコじゃなくって正直ホッとしたんだ。あのメヒコじゃフリージアでも一瞬で敗れること必至だから。
わーわーワーワー
ワーワーわーわー
「がんばれーフリージア!」
「なんでまだあんたがそこにいるのよ!」
「フリージアの応援に決まってるじゃない。ねぇアレク君」
「そ、そ、そうだぞ」
なぜか俺の左横にくっついて腕を絡めているのはジーンだ。腕を絡めてくるのはやっぱアブルサムの風習なのかな。
チャイナドレスの綺麗な子が横にいて腕を絡めてくる。こんな経験2度とないよ絶対。正直‥‥めっちゃ嬉しい!
「互いに礼」
ペコリ
このキキって子も礼をしないな。喧嘩じゃないんだから、試合前後には相手を敬えよな。
「始め!」
予想どおりの試合展開になったんだ。
ふわっ
杖に跨り、宙を舞うキキと地上からキキを見上げるフリージア。
安全な空中から攻撃を仕掛けるキキとそれを地上から迎撃するフリージアの構図。
「ファイアボール!」
赤い火の玉がフリージアを襲う。
赤い威力の弱い炎弾といえど、空中から襲ってくるからフリージアにとっては厄介なんだよね。
でもこれまでの対戦相手とは違いフリージアも魔力移動ができるようになったんだ。
しかも魔力を通すことのできるレイピアだから、襲ってくる何発かはレイピアの剣先で軌道を変えてるよ。
「キキって子の魔力が尽きるまで待てばいいじゃん。ねえアレク君?」
「ジーンが言うのは正解だと思うよ」
「でしょ!」
「でもさ、フリージアの魔力操作。まだまだやらなきゃならない修行の目標が見つかったじゃん」
「てことはどういうこと?」
「まずは向かってくる魔法攻撃を100%消滅させること。あとはやっぱりレイピアの先から魔力を放って敵を撃ち落とすことかな」
「そ、そんなことまでできるの?」
「できる。ジーンもだぞ。魔力移動をもっと修行すれば鞭杆の攻撃バリエーションが広がるからもっともっと強くなるぞ」
「そ、そうなのね‥‥」
いつのまにか。
鼻を膨らませて紅潮していたアレクはそこにはいなかった。若くとも紛うことない武人。
「ハァハァ ハァハァ ハァハァ‥‥」
レイピアで避けきれない火の玉は火傷しながら手で叩き消し、身体に移ったものは地面に転がって消す。長く美しいブロンドの髪に燃え移る火もあった。
「「フリージア‥‥」」
フリージアは泥だらけ、煤だらけ、血だらけになりながら必死に足掻いていたんだ。その姿はとても美しいとさえ思ったよ。
地面に這いつくばって愚直なまでに抗うフリージアとただ空に浮くキキ。
1点鐘ひたすら続いた地味な闘いも終わりが近づいたんだ。
「くっ‥‥しぶといわね」
炎弾を当てても当てて立ち上がるフリージア。
苦痛に顔を歪めたキキが地上に降り立ったところで。魔力の尽きたキキが自分の口で告げたんだ。
「私の負けよ」
「「よくやった!フリージア!」」
ダッッ!
ダッッ!
ヒール水をかける俺の横でジーンがフリージアの髪をカットし始めたんだ。
「いいわねフリージア?」
「できるのジーン?」
「まあね」
「じゃあお願い。バッサリやって」
「ええ」
流れるような手つきでジーンが焼け焦げたフリージアの長髪にハサミをいれたんだ。
「すげぇ!手つきがいいなジーン」
「ふふ。ヘアカットは趣味なのよ。友だちの髪も私がカットしてるわ」
「へぇー」
「できたわ。ショートも似合うじゃないフリージア」
手鏡をもったジーンがフリージアに言う。
「ありがとうジーン。さっぱりしたわ」
ショートボブのフリージアもとっても似合っててめっちゃきれいだった。ほへぇー。
「なによアレク君!フリージア見て紅くなって!」
「あわわわ。な、なってねぇし」
なんでジーンに怒られるんだよ?!
フフフフ
ふふふふ
あははは
「明日の準決勝はメヒコ君対カラス君の勝者対フリージアさんです。明日の‥‥」
「(フリージア、明日の準決勝、胸あてを着けてくれよ)」
「(どうして?)」
「(あのメヒコはフリージアに合わせて必ずレイピアで来ると思う。胸を守ってたら不測の事態は避けられるからな)」
「(嫌よ。それじゃあまるで私が負けるって言うの?!)」
「(‥‥頼むよ)」
「(嫌よ)」
「(頼むよフリージア)」
「(絶対嫌)」
「(頼むフリージア!)」
「(‥‥わかったわ)」
ニッコリとフリージアは笑ったんだ。だから俺は勝手に安心したんだよね。
翌日
制服で見えなかったけどフリージアは胸あてを着けてくれてるもんだって思ってたよ。
フリージアが胸あてを着けてなかったことは試合開始直後に終了知ったんだ。
カラスは負けるどころか‥‥
そんな犠牲に始まって。
そして悪夢が始まったんだ。
――――――――――
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