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第2章 幼年編
569 カラス(人)
しおりを挟む「珍しいよな。武闘祭とはいえ未成年者の行事に国のトップが2人も揃うなんて」
「ああ。こんなこと滅多にないんじゃないか」
「だよな‥‥」
この日円形闘技場の貴賓席には現皇帝と前皇帝。ロイズ帝国現最強と前最強の2強が並び座った。当然のようにその横には老師と呼ばれる男も。
「(おやっさん、あのガキですな?)」
「(アイツだな老師?)」
「(そうじゃよ)」
「(なるほどな。微かだがこんな波長を出すんだな)」
「(よし覚えたぞ老師)」
その目はランディとの1戦を終えたメヒコに注がれていた。
――――――――――
「ありがとうねアレク君。ふんだっ!」
なぜか白い目で見られながらもフリージアへの回復水魔法&ドライヤーもかけ終わった。なので、そのまま今日最後の試合を観戦していくことになったんだ。
「帝都学園アポロ校6年ジャスティス君対北の辺境コート学園6年のカラス君の1戦です」
「互いに礼」
ぺこり
ペコリ
帝都学校、通称アポロ校は帝都学園に入学できなかった生徒が主に入学するとされる学校だ。何くそとした反骨精神が校風でもあり、1番の売りでもあるという。
シュッ シュッ
直前まで身体を解しながら、シャドーをするジャスティス。
170セルテの中肉中背。赤毛のくせっ毛にそばかすだらけの童顔は‥‥うん、親近感が沸くよ。俺と同じモブ系だよね。
武器は片手剣。手脚に纏う魔力もけっこう高め。ジャスティスは正統派の剣士だな。
対するは北の辺境コートのコート学園6年のカラス。
北の辺境は文字どおり帝国の北端。ふだんから紛争の絶えないという辺境だ。
てか北の辺境にはダンジョンが多いらしいんだよね。俺、日帰りダンジョンにしか行ったことがないまま帝国留学も終わりそうなんだ。だから1回くらい泊まりがけでダンジョン探索もしてみたかったな。
「あの人、人族?それとも獣人?」
「だよなフリージア」
カラスは名前からしてカラスだったんだ。
つまりね、まんまカラス人間?
中肉中背。真っ黒な鳥の羽根のコート。この羽根はカラスの羽根なのかな。顔にもカラスのお面をつけてるし。獣人なのか?単なる衣装なのかな。わかんねぇ。
でも手には魔石が嵌まった杖をもってるから獣人じゃなさそうだし。だいたい獣人なら魔法は発現しないもんな。
魔法石が嵌まった杖を持っている姿がしっくりくるし、全身に纏う魔力は剣術や体術でなく魔法使い(魔法士)みたいだし。てか俺、北の辺境の知り合いなんて1人もねぇし。
「あのねアレク君北の辺境では魔法使いを魔導師って言うんだよ。あとカラスは鳥獣人の父親と人族の母親のミックスなんだよ」
「へぇー。知らんかったー」
なぜか俺の左横にくっついて腕を絡めながら解説してくれるのはジーンだ。腕を絡めてくるのはアブルサムの風習なのかな。めっちゃ嬉しいけど。
「ふんっ!」
右横のフリージアはなぜかずっと機嫌が悪いけど。
「ぐぎぎぎぎっ!」
この様子を観客席から歯ぎしりしながら見つめるのはフリージアの祖母ローズ。そして隣の冒険者ギルド顧問のテーラーに非難の言葉を続ける。
「どうしてよテーラー!共闘するって言ったよね!?」
「ローズ‥‥お主の仕掛けが遅いからじゃ。こんなことでは機会を逸するからな。幸いわしの遠縁の娘がおったでな」
「ぐぎぎぎぎっ!」
「そんなことよりもじゃ。ほれ見てみい。あそこの老師とゴリラ兄弟が気になるの」
「ええ。まさかアレク君の応援にあの3人が来るわけないでしょうに」
「ローズ‥‥あの子だろ」
「メヒコ君ね‥‥」
「わしも少し気になるの‥‥」
「ええ私も‥‥」
――――――――――
「どんな闘いになるのかしら」
「フリージアは魔導士と闘ったことある?」
「ないわ。なんでもできるアレク君にはいろいろ教わったけど」
「いろいろ?アレク君は回復以外に何を発現できるの?」
「あははは。いろいろ?」
「そう!いろいろなのね!すごいわ!」
「あはははは」
「何ニヤけてるのよ!」
「‥‥さーせん」
なんで怒られるんだよ?てか俺そんなにニヤけてたのかな?
――――――――――
「始め!」の合図とともに片手剣を振り翳したジャスティスと、即座に対応したカラス。
カンカンカンカンッッ!
ジャスティスの片手剣の連撃を杖で受けるカラス。
けっこう力あるよ!てか杖?金属製のメイスじゃね?
魔石付いてるから杖には違いないとは思うけど。いったいどんな魔法を発現するのかなぁ。
カンカンカンカンッッ!
愚直なまでに真っ直ぐ剣を振るうジャスティスに、こちらも真正面から受けて立つカラス。
てかカラスってけっこう力もあるじゃん!やっぱ杖はなんか違うな。
「さすがアレク君ね。あの杖はメイスの役割も果たしてるのよ」
「へぇー」
「ちょっとジーン!離れなさいよ!」
「あら。アレク君はまんざらでもない顔してるわよ?」
(でへへへぇぇぇ)
「ちょっとアレク君!」
ガーンッ!
「さーせん‥‥」
(なんでだよ‥‥)
いつしか剣とメイスの闘いになったんだ。どちらも真正面からのぶつかり合う闘いに。
カンカンカンカンッッ!
ガンガンッッ!
ガンッッッ!
ジャスティスが攻めてカラスが受ける。カラスが攻めてジャスティスが受ける。
おおー。見応えあるよなぁ。これぞ男と男の闘いだよ!かっけぇー!
そんな2人のがっぷり4つの闘いは1点鐘近くも続いたんだ。体力もすごいな、この2人。
そして。
ジャスティスもカラスも阿吽の呼吸で双方が距離をとった。お互い‥‥決めるな。
「いくぞカラス!」
「こいジャスティス!」
ダッッ!
ダッッ!
ジャスティスが渾身の突きを放つ。
カラスも渾身のメイスの打突を放つ。
と、そのときだった。
バサバサバサバサバサバサバサバサ‥‥
カーカーカーカーカー‥‥
カーカーカーカーカー‥‥
カーカーカーカーカー‥‥
カラスのコートからいきなり何10羽のカラスが現れてジャスティスを急襲したんだ。
そりゃ目の前にいきなりカラスが現れたら‥‥驚くしかないよ。
「俺の負けだカラス」
カラスのメイスがジャスティスの目の前にあった。
ウオオオォォーーーーーッ!
うおおおぉぉーーーーーっ!
大歓声の円形闘技場の中、俺も自然、2人の元に走っていたんだ。
「ジャスティス、カラスお前らすげぇよ!ナイスファイト!」
「「お、おおっ。ありがとな」」
「なぁ教えてくれよカラス」
「ん、なんだ?」
「最後ジャスティスが刺突にかかっただろ。あのとき出てきたのって本物のカラスだよな?」
「本物だぞ?」
そう言いながらコートに偽装するカラス(鳥)の羽根を優しげに撫でるカラス(人)がいた。
「まさか‥‥ティムか?」
「そうだよ」
「すげぇー!俺初めて見たよ!」
「俺もだカラス」
ジャスティスも言ったんだ。
「なぁカラス。お前、魔法使いだろ?ああ、北のお前らの領じゃ魔導士だったな。」
「そうだ」
「ならなんでお前は‥‥言い難いな、カラスのお前はなんで鳥のカラスを最後まで出さなかったんだ。お前のメイスの腕に鳥のカラスを出してりゃもっと早く決着しただろ?」
それは俺もそう思う。人と動物の合作で攻撃すればいいのに!
そしたらカラスが思いもかけないを言ったんだ。
「ジャスティス、お前の剣はめちゃくちゃ強いんだよ。そんなところにカラスを出したら死ぬだろ。死んだらかわいそうじゃん」
「「えっ‥‥」」
俺とジャスティスは思わず顔を見合わせて大笑いしたんだ。
わははははは
ワハハハハハ
ジャスティスはもちろんだけどカラスも気持ちのいい男だよ!
「フリージア、ジーンお前らもこっち来いよ」
「「ええ」」
それからはフリージアとジーンも交えてみんなで談笑をしたんだ。楽しかった。
「(おいアレク)」
「(ん?どうしたカラス)」
「(あいつ‥‥メヒコが使役してるカラス‥‥なんとか助けられないか?)」
「(えっ?!使役?!)」
――――――――――
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