アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

568 ビリージーン

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 担架に乗ったランディが運ばれていくのを見ながらシルフィが聞いてきたんだ。

 「どう思ったアレク?」

 「うん‥‥メヒコのあの凶々しい魔力。あれが闇堕ちした者の魔力なんだね」

 「そうよ。あの魔力、波長が認識できればこれからはどこに悪魔がいてもわかるわ」

 「うん。たしかに人や魔獣とは違う魔力
‥‥うん、受け入れたくない波長だよね。でもさシルフィ‥‥悪魔ってそんなにたくさん何人もいるの?」

 「そうね‥‥いるといえばいるし、いないといえばいないわ。そして生涯で1度も会わない人のほうが多いんじゃないかしら」

 「うん」

 「でもね、多くの人が目撃した場合。
 悪魔に出会ったその日がその人たちにとってこの世で最後の日になるわ」

 「そうなんだ‥‥」

 「ええ」

 ランディ対メヒコの闘いの興奮が冷めやらぬうちに次の闘いになったんだ。

 「決勝リーグ、続いては帝都騎士団養成校フリージアさん対自治領アブルサム学校ビリージーンさんです」

 ワーワーワーワー
 わーわーわーわー
 ワーワーワーワー

 女性同士の闘い。しかも美人同士だから会場全体が一層盛り上がってるよ。

 自治領アブルサムは山羊の放牧で生業を立てている領だ。

 フリージアが正統派の美人と表現するとしたらビリージーンは妖艶な美人だった。

 パープルのストレート長髪。スッとした目鼻立ちの美女は、V字の胸元がクッキリと開いたチャイナドレスに太ももまでチラ見できるくらいのスリットが入った民族衣装だった。でこれが実によく映えているよ。
 グランドの女将さんに近い雰囲気かな。妖艶っていうの?これハチあたりだったら釘付けになってるだろうね。

 「お前もだろアレク!」

 「お前言うかシルフィ!ワハハハハ」

 「なに笑ってんのよ!キショいわアレク」

 「だってさ、やっといつものシルフィが戻ったからさ」

 (フフフ。アレクに心配されてるようじゃ私もまだまだ青いわね)


 「互いに礼」

 ぺこり
 ペコリ

 「「よろしく」」

 握手をする2人。

 「あら魔力量はほぼ互角ねフリージアさん」

 「本当ねビリージーンさん」

 「ジーンでいいわ。このあと私が優勝するから、フリージアさんは私(ジーン)と闘ったって後で自慢できるわよ」

 「フフフ。私も呼び捨てでいいわよ。でもジーンの優勝は無理ね」

 「あら。フリージアが優勝するからって言うの?」

 「いいえ、私は準優勝ね。だって優勝はアレク君しかあり得ないもん」

 「アレク君ってあの変態変態って声援受けてた子でしょ?速いには速いって思ったけど‥‥」

 「そうね。ジーンはまだ彼の表面しか見えてないもんね」

 「あら。フリージアはすごくよく知ってるって言うの?もしかしてフリージアの彼氏?」

 「ち、ち、違うわよ!た、た、ただの友だちよ!」

 「あら。あなたおもしろいくらいわかりやすい子ね。
 そっ。じゃあアレク君が優勝でもしたら私がフリージアから奪っちゃおうかしら?」

 「ぜ、絶対やめてよね!アレク君にはジーンみたいなタイプは危険だわ!」

 「フフフ。どうかしら。まずはあなたを倒してから彼の様子を見ようかしら」


 「始め!」

 手にした短めの杖をくるくると自在に振りまわすジーン。
 ジーンが使う武器は鞭杆(ベンガン)だった。

 鞭杆(ベンガン)は120、130セルテの杖を鞭のように振るったり、曲芸のように舞いながら相手を翻弄して闘う武器。
 元の世界では羊飼いの杖から生まれたといわれる中国発祥の棒術だ。こちらの世界でもほぼ同じ。

 「法国の棍とは違うのねジーン」

 「ええ。これは鞭杆。似てるけど少し違うわ」

 「そうよね。ジーンみたいなお色気いっぱいじゃあ女神様も困るわきっと」

 「フフフ。じゃあ帝都の若い女神様にはどう響くかしら」
 
 くるくると回っていた鞭杆が一瞬止まる。そしてその切っ先がフリージアに向いた。

 対するフリージアはいつものレイピアの切っ先をジーンに向けて構えるスタイル。

 もちろん手脚に魔力を纏い、アレクとの修練中から意識するようになった、眼にも魔力を纏わせている。

 「いくわよフリージア」

 「いいわよジーン」

 グルングルン グルングルン ‥‥

 再び回転し出した鞭杆がフリージアとの間合いに入ったと同時。

 カンカンカンカンッッ!

 右へ左へ。鞭杆の左右の腹からフリージアの身体の左右に向けて攻撃に入るジーン。

 対するフリージアは、レイピアの届く範囲に限っては迎撃をする。鞭杆とレイピアが衝突する音が激しく響く。

が、正中以外の腕、左右の太腿から下の脚への攻撃は迎撃を控えて当たるままのフリージアだ。

 バチンッ!
 
 バチンッ !

 バチンッ!
 バチンッ!

 フリージアの腕や足腰に音を立ててあたる鞭杆。

 「けっこう痛いでしょフリージア」

 「くっ‥‥」

 それでも魔力を纏った姿勢のまま微動だにしないフリージア。

 (ま、まだ間合いじゃないわ。あの武器の腹なら打撲だけ。我慢すればいいだけのこと。それよりジーンの間合いから突かれたら負ける‥‥)

 バチンッ!

 バチンッ!

 それは観戦しているアレクの目にも容易に察することができる駆け引き。
 相手のジーンはレイピアの間合いの外からの攻撃でフリージアの攻撃力を少しずつ奪う作戦。

 対するフリージアはレイピアの間合いに入るまでひたすら忍耐……。

 「どう?剣みたいな即効性はないけど打たれ続けたフリージアの手足はだんだん動かなくなってきてるでしょ。
 もうすぐ。あなたの動きが止まったときが終わりよ」

 グッと時おりとジーンに迫る雰囲気を出したフリージアに対しては、スッと距離をとるジーン。
 鞭杆での闘いに慣れた戦巧者の姿であった。

 プルプルプルプル‥‥

 少しずつ手脚の痙攣が始まったフリージア。やがて。

 ガクガクガク  ガクガクガク‥‥

 おそらくは腫れあがった足腰で必死に立つフリージアに向けて、遂に鞭杆での突きが2撃3撃と加えられる。

 ドスッッ!

 ドスッッ!

 「ガハッッ」

 フリージアの口の端から鮮血が滲む。

 ガクガクガク  ガクガクガク‥‥

 「痛くさせてごめんねフリージア。でもこれで終わりよ!」

 グクッ  グクッ!

 もう1歩2歩と踏み出したジーンが大きく鞭杆を後方に引き戻したそのとき。

 (ここっ!)

 ダンンッッッッ!

 刹那、フリージアのレイピアがうっすら光り輝いた。












 

 











 「負けたわフリージア」

 フリージアのレイピアがジーンの喉笛0.1セルテにあった。

 「勝者フリージア」

 名乗りを聞いたフリージアがその場に崩れ落ちた。その姿だけを見れば勝者と敗者は真逆だよ。

 「フリージア!よく耐えた!」

 咄嗟に駆け寄った俺はフリージアの手足にヒール水をかけていく。数分もすれば痛みも皮下出血もひいていくはずだ。

 「へぇーアレク君は回復魔法も発現できるんだ」

 「ひっ!」

 そう言ったジーンがなぜか俺の背中越しに顎を乗せんばかりにしてフリージアが回復する様子を見ていたんだ。

 「あうあうあう‥‥」

 みるみる顔が紅くなるのを実感する俺。でも絶対ジーンの顔は見ないぞ。振り返らないぞ。今それをやったら俺が倒れるのは間違いないからさ。

 南無南無南無南無南無南無南無‥‥












 「アレク君ありがとう。もうすっかり‥‥」















 「「気絶してるわ‥‥」」


――――――――――


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