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第2章 幼年編
566 キザエモン
しおりを挟む未成年者武闘祭が開催される前。
騎士団養成校の生徒たちを前に、フリージアの壮行会が開かれた。
「建国以来伝統のある帝都騎士団の名に恥じない試合をすることをみなさんに誓ってお礼の言葉とします」
ワーワーわーわー
わーわーワーワー
制服。騎士団員との唯一の違いは胸元の5本線。
(1年生は1本線。6年生まで1本ずつ増えていく)
正装に身を纏ったフリージアの姿は、輝くブロンドの髪と端正な顔立ちもあって、目を見張るほどの美しさがあった。
「「「フリージアがんばれよ!」」」
「「「期待してるぞフリージア!」」」
養成校の期待を一心に集めて。フリージアは闘いの場に向かう。
―――――――――――――――
壮行会は帝都学園でも開かれた。
「ではアレク君挨拶を」
ガタッ !
ガタッ !
ガタッ !
ガタッ !
ガタッ !
ガタッ !
ガタッ !
ガタッ !
ガタッ !
ガタッ !
ガタッ !
ガタッ !
学園生全員が自主的に立ち上がる。
ガクガクガクッ‥‥ガクガクガクッ‥‥
(お兄ちゃんちゃんと歩いてよ!)
(((もう何やってんのよ団長は‥‥)))
(((団長産まれたての仔鹿じゃないんだから‥‥)))
「み、み、みなさん。こ、こ、こんにたったった‥‥痛ぇ舌噛んだ‥‥」
「「「あーもう‥‥」」」
(((ヘタレだ‥‥)))
「決勝リーグ。期間中は授業もなしです。皆さんアレク君の応援に行きましょう!」
「「「やったー!さすが学園長!」」」
―――――――――――――――
学園のみんなが応援に来てくれてるよ。やっぱ制服だから目立つよね。でもさ‥‥
「「「狂犬、変態、狂犬、変態、狂犬、変態、狂犬、変態‥‥」」」
「「「ウオオォォーーッ!」」」
これ絶対に声援じゃないと思う。ディすってるだけじゃん……。
「帝都学園史上最強の呼び声も高い帝都学園アレク君に対するのは奥深いアンデト山脈麓に独自の文化を営むティンギュー村のティンギュー学園キザエモン選手だー」
オオオオォォーーーーーッッ!?
キザエモンを見た観客席から驚きのような歓声が巻き起こる。
相撲取りのような大きなガタイ。顔には白地に赤い隈取り。まんま歌舞伎レスラーじゃん!
ときどき思うんだよね。この世界ってこれまでにも何人もの日本人が転生してるんじゃないかなって。
名前もまんま古い日本人ネームのキザエモン。容姿だけじゃなくって、手にする武器も独特なものだったんだ。
「帝都で1番の帝都学園のアレク関と闘れることに感謝するでごわす。最初から金星でごわすなぁ。ガハハハハハ‥‥」
関ってなによ‥‥?
「すげぇ!キザエモンこれ鎖鎌じゃん!」
「ん?鎖鎌を知ってるでごわすか?予選の間、帝都では誰も知らなかったでごわすよ!」
「あははは」
ブルンブルンって鎖を回すキザエモン。先端には分銅のような鉄の塊が付いてるから遠心力で相手の武具を絡めとってから引き寄せて、最後は鎌で仕留めるんだろうな。
「アレク関を捕まえさえすればおいどんの勝ちでごわす」
疑うことも一切なく、そう信じこんだキザエモンが言ったんだ。
でもなんの問題もないよ。だって俺のほうが断然速いからね。
しかも金属の鎖だから‥‥キザエモンはびっくりするだろうな。しっしっし。
「両者互いに礼」
ぺこり
ぺこり
「始め!」
鎌を片手に頭上でブルンブルンっと鎖を回すキザエモン。
よーし!キザエモンがやりやすいように少し刀を立ててあげようかな。
シュッ!
鎖鎌の分銅が飛んできた。
ガシャッ!
グルングルングルンッ‥‥!
飛んできた分銅が刀を基点にぐるぐると絡まる。あっという間に刀は鎖でぐるぐる巻きになったんだ。
「ガハハハハハ。おいどんの勝ちでごわす!」
ニヤリと笑うキザエモン。
ぴーんと張った鎖を手繰り寄せようと鎌を大きく身構えるキザエモンに対抗すべく……。
「金剛!」
俺は両脚に魔力を纏い、全力でその場に踏んばる。
グンッッッ!
グンッッッ!
「ふんんっっ!アレク関、お主なかなか力があるでごわすな」
「そりゃありがとうなキザエモン。
でもさ、この分銅は当たると痛いし、鎖は刃こぼれすると嫌だから落としとくぞ」
「はっ?何を言ってるでごわす?」
刀に巻きつく分銅に手をやる俺。
そのまま上から下まで刀に巻きつく鎖も全体を撫でていく。
ぼろぼろぼろっ‥‥
ポロンと落ちる分銅と、ぼろぼろと崩れ落ちる鎖。
先端だけ右手で鎖を掴んだよ。
「な、な、なにが起こったでごわす!?」
「金属だからさ、俺自在にできるんだよね」
「アレク関は金属魔法を‥‥!」
驚愕のあまり、目を剥くキザエモン。
「それでもこのまま手繰り寄せればおいの勝ちでごわす!」
グググググーーーーーッッッ!
片手で手繰り寄せようとするキザエモン。
グググググーーーーーッッッ!
金剛も合わせて両手で引っ張る俺。
グググググーーーーーッッッ!
グググググーーーーーッッッ!
グググググーーーーーッッッ!
真っ赤な顔になるキザエモン。そろそろかな。
パッ!
鎖を手放す俺。
「ワワワワワッッ!」
後ろ向きに倒れそうになるキザエモン。
ダンッッ!
「俺の勝ちだキザエモン」
尻もちをつくキザエモンの首すじに脇差の切っ先をつける俺。
「‥‥‥‥おいどんの負けでごわす」
うわああぁぁぁーーーーーっっ!
ウオオオォォォォォーーーーーッッ!
狙いどおりだね。
「ア、アレク関‥‥すごい!すごいでごわす!おいどんの完敗でごわす!」
キザエモンと向き合って握手を交わしたんだ。これぞスポーツマンシップだよね!
闘い終わればダチなんだよ!
ウオオオォォォォォーーーーーッッ!
「すごいでごわす!」
えっ?
ウオオオォォォォォーーーーーッッ!
なに?
「すごいでごわす!」
ウオオオォォォォォーーーーーッッ!
なぜ抱えられる?
「すごいでごわす!」
ウオオオォォォォォーーーーーッッ!
いつのまにかキザエモンに抱き抱えられていたんだ。
ハグ?いや違うなレベちゃんが胸板に押さえつけるのと変わんないよ。ベアハックだよこれ……。
「い、痛いよキザエモン‥‥」
「む、胸汗でベタベタじゃん‥‥」
「わ、脇汗で臭いから‥‥」
「い、意識が‥‥」
ウオオオォォォォォーーーーーッッ!
「「「狂犬、変態、狂犬、変態、狂犬、変態、狂犬、変態‥‥」」」
ウオオォォーーッ!
白目を剥いて意識を手放した俺だったけど、周囲からは恍惚の人に見えたらしいんだ……。
フリージア、おギン、アリサ、そして狂犬団の幹部連。
親しい仲間たちには脱力して白目を剥いたその姿が、裸の男と戯れる俺にしか見えなかったらしい。
「アレク君‥‥」
「団長‥‥」
「お兄ちゃん‥‥」
「「「裸なら誰でもいいのね」」」
「「「やっぱり‥‥変態だわ」」」
なんかシルフィのやつ、ずーっとおかしいんだよね。いつものシルフィならキザエモンに抱きつかれる俺になんか言うのにさ。さっきからぜんぜん他ごと考えてるし……。
▼
「決勝リーグ。第3試合は陸軍兵学校のランディ君対東の辺境ティティカカのティティカカ学園メヒコ君です」
ワーワーワーワー
わーわーわーわー
「アレクどっちが勝つと思う?」
「えっ?どう見てとランディの圧勝じゃん。てかその絵しか見えないじゃん」
明確に身体中に魔力を纏っているランディとまったく魔力が見えないメヒコ。どっちが勝つなんて闘る前からわかるよ。
「そう思うよね。メヒコって子、魔力は表に出てないでしょ」
「うん漏れてないどころか魔力0だね」
「でもね、このメヒコって子‥‥これから、学園ダンジョンのときに闇堕ちしたアレクと同じ状態なるんだよ」
「えっ?!」
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