アレク・プランタン

かえるまる

文字の大きさ
上 下
564 / 722
第2章 幼年編

565 制空権

しおりを挟む


 「じゃあコウメ、僕すぐに行ってくるっす。ちょっとだけ寂しいけど我慢するっす」

 トテトテと駆け出していくハチを尻目に。

 「コウメ‥‥シルフィのお姉様どうしたのかしら?」

 「わかんないわ‥‥でもあんな顔するシルフィさん、私初めて見た‥‥」

 「私もよ」

 「「‥‥」」


―――――――――――――――


 「「サラ(ウェンディ)‥‥」」

 「まさかそんなことって‥‥」

 「万が一‥‥子どもたちだけは絶対に守るわよ!」

 「ええ、サラ!」

 「「アレク君なら‥‥」」


―――――――――――――――

 
 それはクロエに憑くメルティーも。

 (まさか。そんなことって。でもクロエだけは‥‥私の生命にかえても‥‥)

 
―――――――――――――――


―――――――――――――――


―――――――――――――――


 「アラートですな!」

 「なんと平和ボケした帝国人にも未だアラートを解する者がおったとはな。
 少なくとも2人はおるか。
 ふむ……。まだ危険を冒すまでもなかろう。去ぬぞ」

 「いや、それでは漸く芽吹いた種が枯れてしまいまするぞ」

 「では種を活かしてぬしが死ぬるか。それはそれで吾は一向に構わんがな」

 「‥‥わかり申した。それでは◯◯◯様の仰せのままに」

 「よいよい。鴉の目よりあらましはわかるでの」


―――――――――――――――


―――――――――――――――


―――――――――――――――


 決勝トーナメント。これは未成年者の安全を守るために1日1戦なんだ。未成年者の身体を配慮したんだよね。

 それでも魔法衣は未着用だし、武具も木刀に縛られず、本身もOK。魔法の制限も一切なし。リアルガチの闘いなんだ。
 このあたりはさすがというか過激というか。中原の2強ならではなんだよね。

 ああ、出場者は誓約書みたいなものに署名したよ。「不幸にして‥‥」ってやつ。


 ウオオオォォーーーーーッッ!

 円形闘技場全体が生ライブ会場だよ。

 「それでは決勝リーグ。第1試合は魔法軍学校キキ選手vs モンク僧養成学校テアトル選手です」

 「「「キキーがんばれー!」」」

 「「「テアトルがんばれー!」」」

 ウオオオォォーーーーーッッ!

 両校生徒への応援も熱が入るよ。すげぇや。


 魔法軍学校のキキ。
 常設の魔法軍があるのは、さすがロイズ帝国なんだよね。中原にはあとたぶんダルク大国だけしかないんじゃないかな。

 ロイズ帝国は平時から常設の軍隊を陸軍、海軍、魔法軍、騎士団と大別して持ってるんだよね。それは帝国ならではの先進性なんだと思うよ。
 
 中原のほとんどの国は、職業軍人や軍隊という括りはけっこう曖昧なんだよね。
 昔の日本みたいに普段は農民で、戦となると兵士として駆り出されるみたいな感じなのかな。

 しかも国の前に領地領国があるから、領地領国に所属する軍隊を幾つも集めて大規模な軍事行動を採るんだ。
 だから当然機動性にも劣るし、なにより‥‥弱いよね。

 どこの領国もふだんから騎士団に対外の軍事的なことから対内の治安維持までのすべてを任せてるでしょ。
 村の駐在さんも自衛隊も同じ扱いなんだよね。
 だからすべてが後手後手になるんだよ。

 だいたいさ、騎士団が最優先に護る対象は人民じゃないからね。
 為政者、つまりピラミッドの頂点の領主や貴族を護るためにある騎士団……。なんか違うよな。

 俺、出身のヴィンサンダー領を離れて、ヴィヨルド領やロイズ帝国を外から観てるからさ、余計にそうした国の良さが分かるんだよね。

 どっかの領主は中央で遊んでばかり。1度も領地領国を見ずにひたすら増税するしか頭にない……。


 ロイズ帝国の魔法軍。もちろん魔導国家のダルク大国に比べれば劣るだろうけど、魔法を武器に闘う軍隊ってどんなのか気になるよ。

 キキは魔法軍学校の5年生なんだって。魔法軍20年に1人の逸材らしいんだけど‥‥外観はどうしてもリズ先輩が被るな。小さな幼児体型につばの長いとんがり帽子と黒いローブ。見たまんまの魔法士がキキ。

 あっ、そういえば魔法士繋がりでリゼは今ごろ何してるのかな。あいつとは妙にウマが合ったんだよね。ただ、リズ先輩とは比べものにならないくらいポンコツだったけど。


 モンク僧養成学校のテアトル。6年生。テアトルもまたモンク僧らしく、坊主頭に長身痩躯。手にする武器はやっぱり棍。脚に纏っている魔力が微かに見えるから、やっぱ強者なんだよ。

 ワーワーわーわー
 わーわーワーワー
 ワーワーわーわー

 魔法軍きっての未成年実力者のキキvsモンク僧養成学校きっての未成年者武人の闘い。どうなるのか、これは見ものだよな。

 円形闘技場に一瞬静寂が訪れる。

 「始め!」
 
 シュッッ!

 「フライ!」

 テアトルの踏みだす高速の突きと、一気に浮上するキキの魔法がほぼ同時だった。

 でもほんの数セルテ。テアトルの突きはキキに届かなかった。
 あとは空から見下ろすキキとそれを恨めしげに見上げるテアトルの構図。

 「おおー飛んでるよ!なぁシルフィ、俺も飛べたんだよね」

 「そうね」

 「俺もいつでもガッツリ飛べるようになりたいな。てか飛び方忘れちゃったのかな」

 「フフフ。心配しなくていいわ。フライは身体が覚えてるからまたすぐに飛べるようになるわ」

 「そっか‥‥」

 ああでも嫌なこと思い出したな。飛んだのって学園ダンジョンで俺がみんなに迷惑かけたときだ。あのときはとくにセーラとリズ先輩にめちゃくちゃ迷惑をかけたよな。俺が闇堕ちしたからさ……。

 
 現代の戦争と変わらず。
 上空から火魔法を発現するキキに、手が届かないテアトル。それがこの1戦のすべてだった。


 「続いて第2試合。
 いきなりの登場は帝都学園の覇者、狂犬団の団長アレク選手の登場だー!」

 ウオオオォォーーーーーッッ!

 狂犬、狂犬、狂犬、狂犬、狂犬‥‥

 ウオオオォォーーーーーッッ!

 変態、変態、変態、変態、変態‥‥

 ウオオオォォーーーーーッッ!

 狂犬、変態、狂犬、変態、狂犬、変態、狂犬、変態‥‥

 隣にいるフリージアがキョトンとして聞いたんだ。

 「ねぇアレク君。狂犬は狂犬団のことでしょ。でもへんたいって何なのかしら?」




















 傷口に塩付けないで‥‥


―――――――――――――――


いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。 広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。 ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。 彼の名はレッド=カーマイン。 最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。 ※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...