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第2章 幼年編
565 制空権
しおりを挟む「じゃあコウメ、僕すぐに行ってくるっす。ちょっとだけ寂しいけど我慢するっす」
トテトテと駆け出していくハチを尻目に。
「コウメ‥‥シルフィのお姉様どうしたのかしら?」
「わかんないわ‥‥でもあんな顔するシルフィさん、私初めて見た‥‥」
「私もよ」
「「‥‥」」
―――――――――――――――
「「サラ(ウェンディ)‥‥」」
「まさかそんなことって‥‥」
「万が一‥‥子どもたちだけは絶対に守るわよ!」
「ええ、サラ!」
「「アレク君なら‥‥」」
―――――――――――――――
それはクロエに憑くメルティーも。
(まさか。そんなことって。でもクロエだけは‥‥私の生命にかえても‥‥)
―――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――――――
「アラートですな!」
「なんと平和ボケした帝国人にも未だアラートを解する者がおったとはな。
少なくとも2人はおるか。
ふむ……。まだ危険を冒すまでもなかろう。去ぬぞ」
「いや、それでは漸く芽吹いた種が枯れてしまいまするぞ」
「では種を活かしてぬしが死ぬるか。それはそれで吾は一向に構わんがな」
「‥‥わかり申した。それでは◯◯◯様の仰せのままに」
「よいよい。鴉の目よりあらましはわかるでの」
―――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――――――
決勝トーナメント。これは未成年者の安全を守るために1日1戦なんだ。未成年者の身体を配慮したんだよね。
それでも魔法衣は未着用だし、武具も木刀に縛られず、本身もOK。魔法の制限も一切なし。リアルガチの闘いなんだ。
このあたりはさすがというか過激というか。中原の2強ならではなんだよね。
ああ、出場者は誓約書みたいなものに署名したよ。「不幸にして‥‥」ってやつ。
ウオオオォォーーーーーッッ!
円形闘技場全体が生ライブ会場だよ。
「それでは決勝リーグ。第1試合は魔法軍学校キキ選手vs モンク僧養成学校テアトル選手です」
「「「キキーがんばれー!」」」
「「「テアトルがんばれー!」」」
ウオオオォォーーーーーッッ!
両校生徒への応援も熱が入るよ。すげぇや。
魔法軍学校のキキ。
常設の魔法軍があるのは、さすがロイズ帝国なんだよね。中原にはあとたぶんダルク大国だけしかないんじゃないかな。
ロイズ帝国は平時から常設の軍隊を陸軍、海軍、魔法軍、騎士団と大別して持ってるんだよね。それは帝国ならではの先進性なんだと思うよ。
中原のほとんどの国は、職業軍人や軍隊という括りはけっこう曖昧なんだよね。
昔の日本みたいに普段は農民で、戦となると兵士として駆り出されるみたいな感じなのかな。
しかも国の前に領地領国があるから、領地領国に所属する軍隊を幾つも集めて大規模な軍事行動を採るんだ。
だから当然機動性にも劣るし、なにより‥‥弱いよね。
どこの領国もふだんから騎士団に対外の軍事的なことから対内の治安維持までのすべてを任せてるでしょ。
村の駐在さんも自衛隊も同じ扱いなんだよね。
だからすべてが後手後手になるんだよ。
だいたいさ、騎士団が最優先に護る対象は人民じゃないからね。
為政者、つまりピラミッドの頂点の領主や貴族を護るためにある騎士団……。なんか違うよな。
俺、出身のヴィンサンダー領を離れて、ヴィヨルド領やロイズ帝国を外から観てるからさ、余計にそうした国の良さが分かるんだよね。
どっかの領主は中央で遊んでばかり。1度も領地領国を見ずにひたすら増税するしか頭にない……。
ロイズ帝国の魔法軍。もちろん魔導国家のダルク大国に比べれば劣るだろうけど、魔法を武器に闘う軍隊ってどんなのか気になるよ。
キキは魔法軍学校の5年生なんだって。魔法軍20年に1人の逸材らしいんだけど‥‥外観はどうしてもリズ先輩が被るな。小さな幼児体型につばの長いとんがり帽子と黒いローブ。見たまんまの魔法士がキキ。
あっ、そういえば魔法士繋がりでリゼは今ごろ何してるのかな。あいつとは妙にウマが合ったんだよね。ただ、リズ先輩とは比べものにならないくらいポンコツだったけど。
モンク僧養成学校のテアトル。6年生。テアトルもまたモンク僧らしく、坊主頭に長身痩躯。手にする武器はやっぱり棍。脚に纏っている魔力が微かに見えるから、やっぱ強者なんだよ。
ワーワーわーわー
わーわーワーワー
ワーワーわーわー
魔法軍きっての未成年実力者のキキvsモンク僧養成学校きっての未成年者武人の闘い。どうなるのか、これは見ものだよな。
円形闘技場に一瞬静寂が訪れる。
「始め!」
シュッッ!
「フライ!」
テアトルの踏みだす高速の突きと、一気に浮上するキキの魔法がほぼ同時だった。
でもほんの数セルテ。テアトルの突きはキキに届かなかった。
あとは空から見下ろすキキとそれを恨めしげに見上げるテアトルの構図。
「おおー飛んでるよ!なぁシルフィ、俺も飛べたんだよね」
「そうね」
「俺もいつでもガッツリ飛べるようになりたいな。てか飛び方忘れちゃったのかな」
「フフフ。心配しなくていいわ。フライは身体が覚えてるからまたすぐに飛べるようになるわ」
「そっか‥‥」
ああでも嫌なこと思い出したな。飛んだのって学園ダンジョンで俺がみんなに迷惑かけたときだ。あのときはとくにセーラとリズ先輩にめちゃくちゃ迷惑をかけたよな。俺が闇堕ちしたからさ……。
現代の戦争と変わらず。
上空から火魔法を発現するキキに、手が届かないテアトル。それがこの1戦のすべてだった。
「続いて第2試合。
いきなりの登場は帝都学園の覇者、狂犬団の団長アレク選手の登場だー!」
ウオオオォォーーーーーッッ!
狂犬、狂犬、狂犬、狂犬、狂犬‥‥
ウオオオォォーーーーーッッ!
変態、変態、変態、変態、変態‥‥
ウオオオォォーーーーーッッ!
狂犬、変態、狂犬、変態、狂犬、変態、狂犬、変態‥‥
隣にいるフリージアがキョトンとして聞いたんだ。
「ねぇアレク君。狂犬は狂犬団のことでしょ。でもへんたいって何なのかしら?」
傷口に塩付けないで‥‥
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