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第2章 幼年編
563 風雲急を告げる
しおりを挟む「出たら真っ直ぐ真ん中まで進んでくださいね。アレク君にはみんなが期待してるんだからちゃんと大きく手を振って明るくね」
「は、はい。が、がんばります‥‥」
円形闘技場の真ん中をステージに見立てて。紹介された10人が各方向から出てくるって演出みたい。
「アポロ校‥‥君の入場です」
ウオオオォォーーッ!
なにこれ?!
拡声魔法でさえちゃんと聞き取れないくらいだよ。円形闘技場満席のどよめき、75,000人の歓声はまんまフェスじゃん!
「10人の最後を飾るのは帝都学園代表アレク君です」
ウオオオォォーーッ!
そんななか10人のラストに登場する俺……。帝都学園代表の俺は、やっぱりみんなが1番期待してるんだって。
な、な、な、なんだこれ‥‥人、人、人。人しかいねぇじゃん‥‥あっ!手を振らなきゃな。明るくだったよな。
「アリサちゃん、やっぱり団長ってヘタレよね‥‥」
「おギン先輩‥‥右手と右足、左手と左足が一緒に動いてるわ。お兄ちゃん顔が引き攣ってるけど?」
「違うわアリサちゃん。あれ笑ってるのよ、絶対‥‥」
「「あ~‥‥」」
シーーーーーン。
「それでは未成年者武闘祭決勝トーナメントの開催です!」
闘技場場内に響き渡る再びの歓声、歓声、歓声の嵐。
ウオオオォォーーッ!
あれ?
いつもならこんなときはシルフィが励ましてくれない?さっきからなんにも言わねぇじゃん!?
「ちょっと出かけてくるわ。アレクは‥‥うん、大丈夫よね?」
「ちょっ‥」
俺からの返事も関係なく、すぐにシルフィはどこかへ消えていったんだ。なんだよシルフィ!冷たいよなぁ!真面目な顔してたし。
アレクの下から飛び去ったシルフィはそのまま帝都学園の保健室に飛び込んだ。
「コウメ!」
「「あれ?シルフィさん(お姉様)?」」
今まさに立ち上がるばかりだったコウメはニコニコとシルフィに声をかける。
「これから僕も団長の応援に行くところでしたよシルフィさん」
「そうよお姉様。ソニアも一生懸命応援するね!」
そんなコウメたちに対して。シルフィからまるで予想外の言葉が返ってきた。
「コウメ、ジンはどこ?」
「えっ?お爺ちゃん?どこだろ?‥‥帝都のどこかにいるはずだけど‥‥」
「そう。わかった。コウメ、それとソニア。2人とも‥‥何かわかる?」
「「ん?」」
(そうよね。やっぱりわからないわよね‥‥)
「いい?よく聞いて」
初めて目にするシルフィの真剣な表情に思わず真剣になるコウメとソニア。
ゴクンッ
こくこく
コクコク
「すぐに円形闘技場の保健室で待機しなさい。それと闘技場には狂犬団の小ダヌキ君がいるはずだから店に戻ってハイポーションとエリクサーをあるだけ用意させなさい」
(うん。間違いだったら笑い話で済むだけのことよ‥‥)
「小ダヌキ君‥‥ハチですかシルフィさん?」
「ええ」
「コウメ呼んだっすか?」
「「「えっ?!」」」
そこには鼻を膨らませたハチがいた。
(この子いつのまに?てか私、相当テンパってるわね‥‥)
「フッ。ちょうどいいわ。今言ったように小ダヌキ君に伝えなさい。頼んだわよ」
そう言ったままあっという間にいなくなるシルフィ。
「「シルフィさん(お姉様)‥‥」」
その流れのまま、青雲館にも走るシルフィ。
「サラ、ウェンディ!」
「あらシルフィ。アレク君これから試合でしょ?こんなとこに遊びに来てていいの?」
「あーいけないんだーシルフィ。フフフ」
(やっぱり。サラとウェンディも知らないわ‥‥)
「いい2人とも。あとで話すからよく聞いて。&#$*☆#だから」
「「えっ?!」」
「ここで待機してて。もし‥‥万が一のことが起こったら地下のアレに子どもたちを避難させること。じゃあね」
シルフィはさらに教会学校にまで一気に飛ぶ。疾風のような速さこそ風の精霊の面目躍如。
そこには初級学校に学ぶクロエとクロエに憑くウンディーネのメルティーがいた。
「メルティー!」
「あら?こんな時間にどうしたのシルフィ?」
「メルティー。よく聞いて。&#$*だから」
「えっ?!」
「間違いならあとで笑い話にすればいい。でも今はクロエをしっかり守ってて。まだクロエには知られてはいけないからね」
コクコク
そう言ったきり風のように消え去るシルフィ。
「どこよジン?どこよシェール?」
広い帝都。
どこにいるのやら見当もつかないシルフィが独言る。
「仕方ないわね。時間も惜しいし」
そう呟いたシルフィはそのまま浮上。空中20メルほどに立つ。
いつのもシルフィならば。「ふんすと無い胸を張り‥‥」とコミカルな描写となるのだが。
同じような姿勢であっても一目瞭然。そこには大精霊ともいえる存在感のある風の精霊がいた。
「悪いわね動物さんたち。ちょっぴり力を貸してね。♪ €%*×8♪~」
詠唱のように。歌うように何かを呟くシルフィ。
すると‥‥
ブオオオオオッッッ‥
ワオオオオオッッッ‥
ギヤアアアアッッッ‥
ヒヒーーーンッッッ‥
犬も猫もブッヒーもコッケーもカウカウも馬も。250万都市である帝都スタッズに住むほぼすべての動物が一斉に遠吠えを始めた。それは動物だけに限らず獣人の赤ん坊も同じだった。
アラート。緊急警報。
この広い中原で鳴り響くのは実に500年ぶりのことであった。
「チッ!まだいやがったのか‥‥」
(ジン聞こえる?)
(なんとシルフィちゃん、帝都では500年ぶりかの)
(だってジンとシェールがどこにいるのかわからないんだもん)
(して、どこへいけばよいかの?)
(今すぐ円形闘技場に来て)
(わかったわい)
シルフィとジンさんたちの間でそんなやりとりが交わされているのも知らない俺は‥‥
ただただ緊張感でガクブルだった。
そうそう、喧騒の中にあった円形闘技場内からは動物たちの遠吠えなんか少しも聞こえなかったよ。
「(アレク君大丈夫?その脚って産まれたての仔鹿みたいね)」
「(はうっ!な、な、なんでフリージアがお約束の言葉を知ってんだよ)」
「(お約束?)」
「(俺、たくさんの人の前にいると緊張するんだよ‥‥)」
「フフフ」
(あんがいかわいいところもあるのね、アレク君って)
(あー早く終わってくれよー。お腹痛くなってきたよ。トホホ‥‥)
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