アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

559 いつかくる別れ

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 「どうだいフリージア?」

 「な、なによあの魔力量ってか土魔法の完成度は?!」

 「あれがアレク坊よ」

 「なぜローズお婆ちゃん?」

 「なぜとは何?フリージア?」

 「なぜアレク坊は‥‥あんなに優しい顔をしてるの?」

 「なぜかしらね。アレクサンダーやペイズリーたちも口を噤んでるけど、よほどの経験をしてきているらしいわよ。農民の子アレク坊は」

 「‥‥」


―――――――――


 ローズ婆ちゃん家からの帰り道。
 突然立ち止まったアリサがぽつりと呟いたんだ。

 「ねぇアレクお兄ちゃん、春になったら‥‥お兄ちゃんは本当にお家から居なくなるの?」

 「ああ。最初からの予定どおりにな。
 来年の春には王国に帰るぞ。あと5か月ちょいってとこか。
 嫌だろうけど、もうちょっとだけ辛抱してくれよアリサ」

 「‥‥嫌じゃない‥‥‥‥嫌じゃない嫌じゃない嫌じゃないよー!うっうっうっ‥‥うわあぁぁぁーーーんっっ!」

 アリサが急に大泣きしたんだ。ギャン泣き。大号泣。

 「ア、アリサ?な、泣くなよ。た、頼むよ‥‥」

 どうしていいのかわからない俺はただオロオロするばかりだった。

 「うっうっ、やっと‥‥やっと家族みんなが揃ったんだよ?やっとみんなが笑顔になったんだよ?なのに、なのになんでアレクお兄ちゃんは‥‥居なくなるのよ?
 うっうっ‥‥うわあぁぁぁーーーんっっ!」

 「アリサ‥‥」

 それはクロエが泣きじゃくったあの夜と同じだった。
 俺も胸が張り裂けそうだ。だってさ、アリサも今じゃ大切な俺の妹なんだもん。

 「アリサ‥‥こないだも言ったよな。冬の終わりに俺は居なくなる。いずれデーツも居なくなる。どんなに仲の良い家族でもいつかはそれぞれの道を行くもんなんだぞ」

 「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ‥‥うわあぁぁぁーーーんっっ!」

 アリサの両肩に手を乗せてゆっくりと言い聞かせたんだ。

 「そんなに寂しがるなよ。別れるのはまだまだ先、来年の春なんだぜ?
 しかも別れるいっても2度と会えないわけじゃないだろ?
 だいたいお前は俺の大切な妹なんだぞ!
 逆にお前が嫌だっていってもまた会えるってか、俺が会いにくるに決まってるじゃんか」

 「うっうっ‥‥本当アレクお兄ちゃん?」

 「ああ本当だ。だいたい兄ちゃんがお前にウソついたことあるか?」

 「ない……」

 「だろ。しかも何年かしたらお前もクロエも俺の育った村に遊びにくるんだろ」

 コクコク

 「村にはな、お前の妹と弟もいるぞ。あいつらとも仲良くしてやってくれよ。
 小さい村だけどきれいでいいところなんだぞ」

 「うん‥‥」

 「だからなアリサ、なにも寂しがることはないんだよ」

 「‥‥アレクお兄ちゃんもう歩きたくない。おんぶして」

 「フー。すっかり子どもに戻りやがって。クロエに笑われるぞ」

 「いいもん!」

 「仕方ないなぁ。ほら」

 屈んで背中にアリサを乗せる。

 「さあ帰るぞアリサ」

 「うん。アレクお兄ちゃん‥‥お兄ちゃんはあったかいね。








 どこにも行かないでね‥‥」

 「なんも変わんねぇよ。
 朝起きて学校行って。午後は狂犬団の活動して夜ご飯食べて。修練場で魔法発現して弓やって風呂入って。魔石をニギニギして寝る。毎日繰り返しだ」

 「うん!」

 「お前の特性は火魔法だ。火魔法を極めればお前は必ず学園1番になれるんだからな」

 「なれるかな?」

 「ちゃんと修練を続ければ必ずなれる」

 「うん!」

 「今日のフリージアを見てどう思った?」

 「わかんない。でもお兄ちゃんはフリージアさんをいやらしい顔で見てた!」

 「し、し、してねーし!」

 「うそ!ぜったいうそ!」

 「お兄ちゃん、フリージアさんに変なことしちゃダメだよ!
 す、す、好きになったらダメなんだから!」

 「なるわけねぇーわ!てか相手にもされてなかったじゃん」

 「‥‥」

 「そんなことよりフリージアは魔法は纏えるけど発現はできないからな。アリサとは向かう方向が違うんだから比べたりするなよ」

 「でも‥‥でも‥‥フリージアさんきれいだし‥‥」

 「何言ってんだ。アリサのほうがずっとかわいいって!」











 「‥‥イヤだ!お兄ちゃんの変態!」

 ポカポカポカポカ‥‥

 「痛い痛い。頭叩くなよ」













 「よし。アリサもたまには剣の稽古もするか?」

 「えっ?」

 「魔法が使えないときは弓矢、弓矢も使えなくなったら剣で身を守る。そう考えたら俺が腰に下げてる脇差。これを腰の背中向きに挿してたらいいんじゃねぇか?肩から弓矢も下げられるしな」

 「うん」

 「フリージアのレイピアや片手剣はアリサには必要ないからな」

 「わかった」

 「身近にはおギンもいる。おギンが使うクナイの戦闘スタイルは共通も多いからな。おギンからも学ぶといい」

 「お兄ちゃん‥‥ギン先輩もかわいいから好きなんでしょ!」

 「ん?そんなことねぇよ」

 (おギンはかわいいってかエロかわいいよな)

 「もう!お兄ちゃん!」

 「わわわわっ!だからーお前のほうがかわいいって!」

 「‥‥イヤだ!お兄ちゃんの変態!」

 ポカポカポカポカ‥‥

 「痛い痛い。頭叩くなよ」













 「魔法と弓の修練に刀もやるから、今よりもっと忙しくなるぞ。できるかアリサ?」

 「やる!」

 「途中で投げ出すんなら止めたほうがいいぞ?」

 「投げださない。お兄ちゃんみたく地味にちゃんとやる!」

 地味か……。たしかに地味だよな。






 こうしてアリサは短刀の訓練もし始めたんだ。
 でもさ……。















 春にはみんなとお別れなんだよな。


―――――――――


 「締め切ったな。参加校はどうなった?」

 「帝都内はまだしも、国内の各領からは続々と。それこそドラゴンクラスからチューラットクラスまで。
 それはすごいことになっていますよ」

 「「「それはそれは‥‥」」」

 「フッ。帝国中を巻き込んでおるな」

 「次世代の英雄の誕生だからな」

 「「「そうだな(はい)」」」

 「優勝者には爵位か。アレクサンダー前皇帝の指示だけど、まぁ当然だよな」

 「「「そうだな(はい)」」」


 「じゃあ早速案内を出すか」

 「そうだな。未成年者だから1日1日試合。これを2週前の闘いから盛り上がるぞ」

 「「「そうだな」」」

 「決勝トーナメントは特にすごいだろうな」

 「「「だな!」」」








 ロイズ帝国初の未成年者武闘祭。
 会場は帝都スタッズ。250万帝都民、多くの耳目を集める大会予選が始まった。







 「大殿。例のご依頼の件。
 ゴリラ3兄弟の要望とのことで即採択されましたぞ!」

 「ペイズリー、お主も最近誰ぞに似て遠慮しなくなったな。ワハハハハハ」

 「お前もだよイーゼル!」

 わははははは
 ワハハハハハ
 わははははは







 「「「それではどうする?」」」

 「やはり決勝リーグは分けるべきだろう。総合のみではやるまでもない。誰がどうみてもアレク君一択だ」

 「「「そうだな」」」

 「よし」



―――――――――



 帝都南区。
 騎士団本部からは最も遠いエリア。
 とある場末の酒場にて。

 周囲に振りまく殺気を隠そうともせずに。酒を飲る若い男が1人。
 その殺伐とした雰囲気は場末の荒くれ者でさえ近づこうとはしなかった。
 そこへ。

 「お邪魔しますよ」

 音もなく隣に座った紳士が1人。

 「誰だテメー。痛い目に‥」

 スッ!















 酔っているとはいえ。
 つい先程まで帝都騎士団に所属していた男でさえも驚く驚異的な魔力の片鱗が一瞬放たれた。

 「お、お前は‥‥」

 「帝都騎士団のビックスさんですね」

 「お迎えにあがりました」


―――――――――


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