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第2章 幼年編
554 米の可能性
しおりを挟む「ネズミ、オメーきれいな服着て人族が多くいるほうに歩いてくっていうじゃねぇか?」
「‥‥」
「オメー最近ぜんぜんつきあい悪いよなぁ」
「‥‥」
「しかもなんだ?コイツって俺らがやりまくった人族の女だろ?歯がねぇからすぐにわかったぜヒヒーンッ」
「くっ‥‥」
「なんか言えよネズミ!」
「俺仕事が見つかったんだ」
「「なに?」」
「だからもう遊んでられない」
「テメー裏切るのか!」
「裏切るもなにも俺はいつもパシリだったじゃねぇか!
コイツだってオメーらが飽きたから捨ててこいと言ったよな?」
「なんだネズミ?やけに熱いじゃねぇか。俺たちに突っかかるなんて。正気かよ?」
「ああサル。正気だよ。やっと仕事が見つかったんだ。だからこれからはもうお前らと連んだりはしない」
「テメー!調子に乗りやがって!」
「やめろウマ。ネズミ、本気で俺らの仲間から抜けるんだな?」
「ああ抜ける。本気だよ。今までありがとうなサル」
「テメー!」
「‥‥行くぞウマ」
「いいのかよサル?」
「行くぞウマ!」
「わかったよ。じゃあなネズミ。あばよ!」
「今までありがとうなサル、ウマ」
「あんた‥‥」
「怖い思いさせて悪かったなマイ。
俺早く1人前のラーメン屋の店主になるからな」
「ええ!」
―――――――――――――――
「じゃああらためて説明するよ」
王国の学園ダンジョンで見つけたお米の説明から始めたんだ。
「‥‥で、お米は麦の収穫が終わった春に植えつけるんだ」
「てことはアレク君‥‥」
「ペイズリーさん、そうなんだよ。連作障害もないから麦の収穫と米の収穫、単純に主食の収量が倍になるね」
「それはまたすごいな‥‥」
「今日のご飯会はなにぶん家の庭で収穫しただけだから、少なめだけどね。
ただ、来年の春は俺の村で収穫できた種籾をこっちに送るから、来年はそこそこ収穫できると思うよ。何年か、そうだな10年もしたら帝国中の食を賄うことができるだろうね」
「アレク‥‥お前はそれを‥‥」
「アレク君、君はそれを‥‥」
「ああオヤジ、ペイズリーさん。来年は俺がいないからデーツとマリアンヌ先輩がやるよ。デーツ栽培は大丈夫だよな?」
コクコク コクコク
「マリアンヌ先輩、こいつは抜けてるところがあるから、しっかり教えてやってください」
「フフフ。ええ、わかったわアレク君」
「よかったなデーツ。マリアンヌ先輩がいてくれて」
「ああ、本当だよ」
「「デーツ(マリー)」」
ひしっっ!
はうっ!くそー、デーツめ!弟のくせに堂々とマリアンヌ先輩の腰に手をまわしやがって!
「「アレクお兄ちゃん!」」
アリサとクロエの2人が抱きついてくれたんだ。
「あ、ありがとうなぁアリサ、クロエ。ううっ、お前らだけだよ、お兄ちゃんを癒やしてくれるのは!」
「「キャーお兄ちゃん頭ぐりぐりしないでよー!」」
きゃー
きゃー
「(大殿‥‥)」
「(なにもいうなペイズリー‥‥)」
「もう!お兄ちゃんクロエのお腹の匂いを嗅がないでよ!クロエは赤ちゃんじゃないのよ!」
「す、すまんクロエ。つい、その‥‥」
「お、お兄ちゃん、わ、わた、私のおなか‥‥」
「ん?なんだアリサ」
「なんでもないわよ!この変態お兄ちゃん!」
バシッッ!
はうっ!
アリサに殴られた。
目の前ではデーツのリア充を見せつけられ、妹たちには変態扱いされて‥‥
トホホだよ……。
「(旦那様、アレクは‥‥)」
「(バブーシュカ。皆まで言うな‥‥)」
「(ヒッヒッヒッ)」
▼
「みんなにはまず稲の実、米を炊いた白ご飯から食べてもらうよ。米を炊いたものをご飯って言うんだ。だから食事のことをご飯って言うようになったのはこの言葉からみたいだね。
じゃあゆっくり噛んで食べてみて」
「「「いただきます」」」
モグモグモグ‥‥
モグモグモグ‥‥
「へぇ歯ごたえもいいわね」
ペイズリーさんの奥さんエリザベスさんが感心して言う。
「噛めば噛むほど甘くなるわ。ねぇ母様」
マリアンヌ先輩も好感触だな。
「米がすごいのはおかずとの相乗効果なんだよ。だからこの白ご飯の上に肉を乗っけて食べてみて。すごく美味しいよ」
オーク肉のステーキを白ご飯に乗っけて食べてもらったよ。ステーキ丼だね。もちろん隠し味は醤油だよ。
「こりゃまた‥‥米が肉の旨さを引き立てるな!」
「なんだこれ!アレク、肉もご飯もうますぎるよ!」
ガツガツ バクバク‥‥
オヤジもデーツも大喜びだよ。
「肉もご飯も双方の旨さが倍増しますな大殿」
「こりゃ‥‥次の‥‥考えねばのぉ、ペイズリー」
「ですな大殿」
なんだ?
「「お兄ちゃん美味しい!」」
「アレク、これは昔のお貴族様の食べ物かえ?」
アリサもクロエもバブ婆ちゃんも大喜びだよ。
「次はカレーだよ」
「おぉーここでカレーだなアレク君」
「父様?」
「ああマリー。王国ヴィヨルドでこのカレーが出たときの驚きといったらなかったんだよ。中原中の皆の度肝を抜いたんだよ」
「今日はようやくカレーライスを食べてもらうからね」
カレー鍋の蓋を開けたと同時に、あのスパイシーな香りが部屋中に立ち込めたんだ。
「あら、すごく特徴的香りね。香草かしら?」
さすがお料理好きなエリザベスさんだな。
「今日はまだいくつか続くからほんの少しにしといてよ」
モグモグモグ‥‥
モグモグモグ‥‥
「「カレー最強かよ!」」
オヤジとデーツが吠えた。
「イーゼルに聞いたが、海軍でこのカレーは金曜日に出す料理になったらしいなアレク」
「うん。過去の文献でも海軍は金曜をカレーの日にしてたらしいよ」
「こりゃ軍属なら大喜びの味だなぁ」
「もう1つ最強を食べてもらうよ。これがカツ丼」
オーク肉を揚げたカツをコッケーの卵で溶いたカツ丼はタマネギーも美味しいんだよね。少量にしたけどもちろん汁だく仕様だよ。
モグモグモグ‥‥
モグモグモグ‥‥
モグモグモグ‥‥
「「「カツ丼最強かよ!」」」
オヤジ、ペイズリーさん、デーツ、バブ婆ちゃんが吠えた。
「最強のさらに最強が卵かけご飯。生のコッケーの卵と俺が作った特製調味料の醤油をかけてまぜまぜして食べてみて。料理のできないデーツでもできるだろ」
コクコク コクコク
「これは炊きたてのご飯との相性が最高なんだぜ」
モグモグモグ‥‥
モグモグモグ‥‥
モグモグモグ‥‥
「「「卵かけご飯最強かよ!」」」
「あら私ったら!」
「まぁ母様!」
フフフフフ
ついには全員が吠えたよ。エリザベスさんが吠えるのは初めて見たよ。
「まだまだたくさんの米料理があるけど、最後は漬物と一緒にお茶漬けで。これも料理のできないオヤジやデーツでもできる料理だよ。
漬物は米の外皮部分を塩で混ぜた糠漬けだよ」
「外皮なの?」
「そうなんだよエリザベスさん。米は外皮を含めて捨てるところがないんだよね」
「それはすごいわ。でもそんなすごいお米をあなたは‥‥」
「さあ食べてみて」
ぽりぽりぽり‥‥
「このつけもの?うまいさねアレク」
「だろバブ婆ちゃん。最後はこのお茶をかけてお茶漬けにして食べて。これならオヤジでもできるだろ」
「だな」
「サラサラとどれだけでも食べられるわ」
「これはこれは‥‥意外な旨さがあるなぁ」
糠漬けと米の相性の良さは言うまでもないからね。
「なあアレク」
デーツが怒ったように、紅潮した顔で言ったんだ。
「アレク、お前アレク工房もあるんだろ?!」
「あ、ああ?」
「金持ちなんだろ?!」
「金?いくらあるか知らねぇよ。てか魔獣獲ってくれば金なんかなくても毎日暮らせるじゃん」
「クッ。だったら米もアレク工房から売ればいいじゃんか。そしたらもっともっと大金持ちになれるだろ?
魔獣狩らなくても一生遊んで暮らせるじゃんか!なんで米も売らないんだよ?!」
あっ!こいつ、俺の応えがわかって言ってるな。
「なんでってなぁデーツ。お前、米うまくなかったのか?」
「めちゃくちゃうまいよ!」
「お前なぁデーツ。クロエの嬉しそうな顔見てみろよ」
「‥‥」
「アリサの嬉しそうな顔見てみろよ」
「オヤジの顔、バブ婆ちゃんの顔‥‥それとデーツもちろんお前の顔もだ」
「オヤジのだらしない顔見てみろよ」
「オヤジ、口の端に米ついてるぞ!」
「あ、ああすまん‥‥」
「なぁデーツ。夏のグランドの修行行ってよかったよな。お前も少しずつ変わってきてるんだぞ」
コクコク
「もう俺の答えなんか要らないのはデーツ、お前が1番わかるだろ。だよな?」
「ああ」
ニカッとデーツが笑ったんだ。
「みんな笑顔じゃん。家族が笑顔で暮らせることが何より幸せなんだよ」
「そうだなアレク」
「デーツそうよ。私もデーツと一緒で‥‥また前みたいにみんなが仲良くなって‥‥心から幸せなのよ」
「マリー‥‥」
「もうデーツったら。あなたもお口の端にご飯が付いてるわよ」
そう言って指先で米粒を摘んだマリアンヌ先輩がぺろっと米粒を食べたんだ。
ひしっっ!
「うっ、うっ‥‥」
「(あなた、アレク君が泣いてるわ‥‥)」
「(見なかったことにしてやれ‥‥」)」
「泣くなアレク。わしの顔の米粒食うか?」
「アレク、婆が抱いてやろうかえ?なんなら風呂に入ってやろうかえ?」
「2人ともなんの罰ゲームなんだよ!」
わははははは
がははははは
ヒッヒッヒッ
「アレク、今度の賢人会。この米を出せないか?」
「もちろんだすよオヤジ」
「そうか!クックック。ジジババどもの驚く顔が浮かぶぞ!なあペイズリー」
「ですな大殿」
ワハハハハハ
わははははは
―――――――――――――――
「チューラット君毎日頑張ってるね」
「はいカサンドラギルド長」
「この調子で頑張ってくれよ。期待してるからね」
「はい!」
▼
「ただいまー」
「お帰りなさいチューラット」
マイ、北区の貧民街に家賃の安いところを見つけたんだ。引っ越さないか?
「チューラット!」
「マイ!」
―――――――――――――――
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