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第2章 幼年編
553 思惑
しおりを挟む【 港区獣人side 】
「アレク工房だってよ」
「なんだそりゃ?」
「街の連中が喜ぶ商会らしいぞ」
「じゃあよ、金もたくさん持ってるし、きれいな女もいるんじゃないか?」
「だろうな」
ヘッヘッヘッ
ヘッヘッヘッ
ヘッヘッヘッ
「でもよ、騎士団の警護もあるんじゃねぇか?」
「「「だろうな」」」
「騎士団に気づかれないようにしなきゃな」
「「「ああ」」」
ヘッヘッヘッ
ヘッヘッヘッ
ヘッヘッヘッ
――――――――――
【 テーラー・ウムラウトside 】
「テーラー団長、アレク坊は武闘祭に出るんだろ?どうだい?やっぱり強いかい?」
賢人会の帰り、ローズがわしに話しかけてきた。
ローズはわしの後を継いで帝国初の女性騎士団長になった女傑ではある。が、最近は孫娘のフリージアを猫可愛がりしておるというからの。
わしら年寄りは広く後進を育てなければならんというのに。
「フリージアか?」
「ええ。武闘祭、騎士団からはフリージアを出すみたいね」
「それでアレク君ということか?」
「ええ。で、どうなの団長?」
ローズは未だにわしを団長と呼ぶ。たしかに昔は私とディルの懐刀ではあったのだがな。
「強いかだと?ローズもわかるだろうに。アレク君は冒険者の最上級鉄級という銀級に1番近い鉄級じゃ。
未成年でそんな子どもなど見たことも聞いたこともないだろう」
「そうよね」
「未成年武闘祭、孫のフリージアには悪いがあまりに分が悪いわい。実力が違い過ぎるかの」
「いえ団長。私はそのほうがいいのよ」
「ん?どういう意味じゃ?」
「そのまんまよ。フリージアは自分より強い男しか見向きもしないわ。たしかにあの子は同年代相手なら相当やるとは思うけどね」
「『ブロンドの戦姫』が丹精こめて育てた孫娘じゃからの」
「フフフ。やめてよ団長。そんな大昔の2つ名なんて」
「事実じゃろうが」
「ただね、フリージアの周りにはもう相手になる子がいないのよ。だから自然とね……。慢心してるわ」
「それでかローズ」
「ええ。実際アレク坊は私も気に入ってるからね。だからアレク坊がフリージアをこてんぱんに負かしたあとは‥‥フリージアのハニートラップを仕込めば‥‥」
「女子の考えることは怖いのぉ」
「フフフ。どう団長?」
「‥‥それならわしも大賛成じゃよ。ディルには悪いが、このままじゃアレク君は春に王国に帰ってしまうからの」
「ディル副団長には悪いんだけどね」
「ローズ、お前の策略にわしも乗ろうかの」
フフフフフ
わはははは
――――――――――
【 ローズside 】
「アレク坊、シュークリームはとても美味しかったよ」
「よかったよローズ婆ちゃん」
「米も美味しかったよ」
「へへっ。だろう婆ちゃん」
アレク坊はあっという間に私たち賢人会の年寄りの心を掴んだわ。確かな才を示しつつも媚びない姿勢は好感しかないわ。
だからね、他の年寄りどもの奸計に引っかかる前にね……。
「アレク坊、もうじき未成年者武闘祭だね」
「そうだね」
「勝てるかい?」
「必ず勝つよ。といっても油断はしないけどね」
「私の孫娘のフリージアも出るんだよ」
「へぇー知らなかったよ」
身長165セルテ。均整のとれた肢体に長く伸びたブロンドの髪が映える美少女。どこに出しても恥ずかしくない可愛いフリージア。
孫娘を猫可愛がりしてるなんて外野の声も聞こえてくるけど、あの子はまさしく今戦姫ね。
「お孫さんはどこの学校なの?」
「騎士団養成よ。私の後を継ぎたいって言ってるわ」
「へぇー。ローズ婆ちゃんの血を受け継いでるんなら絶対強いな」
「フフフ。どうかしらね」
「強い奴は大歓迎だよ婆ちゃん。俺の勉強になるから」
フフフフフ
わはははは
――――――――――
【 フリージアside 】
「ローズお婆ちゃんお帰り!」
やった!ローズお婆ちゃんが何か手に持ってるわ!
「ただいま。フリージアが待ってたのはお菓子でしょうに」
「エヘヘ。バレたかぁ」
シュークリームはびっくりするくらい美味しかったわ。
ローズお婆ちゃんが推しのアレク坊がどんな子か知らないけど、お菓子のおいしさは本物ね。
いつか私が騎士団長になったらアレク坊を専属の司厨長として雇ってあげてもいいくらいよ。
「フリージア、シュークリームもだけど、お米もおいしかったわ」
おこめ?なんだろう?それも美味しいのね!
「そうなのね。お米のお土産はないの?」
「お米はまだ数がぜんぜん足りないのよ」
「そう。じゃ仕方ないか」
「いいえ。フリージア。あなたがアレク坊を負かせたらこの婆がアレク坊に頼んでやるよ」
「そっか。じゃあますますお婆ちゃんのお気に入りのアレク坊に勝たなきゃね」
「フフフ。そうね」
ローズお婆ちゃんには悪いけど、武闘祭であたったらアレク坊は瞬殺ね。
あっ!ケーキを作る手は傷つけないようにしてあげなきゃね。
――――――――――
【 チューラットside 】
「チューラットさんどうですか?」
「はい。たしかにぜんぜん味が違います。お、俺、ああ私はびっくりしました」
「でしょ。チューラット君は仕事が丁寧だからきっと美味しいスープが炊けますよ」
「はい先生!」
ブッヒーの骨を炊いたスープ。炊く前にしっかりと汚れを落とした骨と、適当な骨の2種を味くらべしたんだ。
そしたら確かに味がぜんぜん違ったんだ。スッキリとしてコクのあるスープと雑味のあるスープ。正直こんなに違うのかって驚いたよ。
「いつもまじめに丁寧な仕事を心がけてくださいよチューラット君」
「はい先生!」
ようやく本格的な指導も始まったんだ。
どこかの有名店で働いてたって先生が俺たち8人を教えてくれてるよ。
すごい腕を持ってる先生でさえアレクさんを「しぇふ」って呼んで尊敬してるんだ。
俺もそんなしぇふに認められるように頑張らないとな!
――――――――――
――――――――――
――――――――――
「邪魔するぜ」
「「!!」」
「ネズミ、最近オメーがあんまりつきあい悪いからよぉ。心配して見にきてやったんだぜ?」
「サル、ウマ‥‥!?」
――――――――――
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