アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

550 ラーメン店採用試験

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 「今度できるアレク工房さんの話、聞いたか?」

 「アレク工房さんって、売るものすべてが大人気の商会さんだろ?」

 「それそれ。そこが新しいことやるんだろ。聞いたか?」

 「聞いた聞いた。らあめん屋っていう食堂なんだってな」

 「「うんうん!」」

 「月に給金50万もくれるってやつだろ」

 「ああ。しかも休養日以外に休みがもらえるんだろ。すげぇよなあ」

 「俺は給金は10万だけど、3年勤めたら店主になれるって話がいいなあ」

 「「だな」」

 「でもよ、試験なんだろ?」

 「ああ。そんでも受かればな。なんせ初級学校だけしか出てなくてもいいし、女でもいいんだとよ。そうだよな?」

 「ああ。俺もそう聞いた。しかも獣人だろうがドワーフだろうが関係ないんだってな」

 「「いい話だよな」」

 「「ああ」」

 「ダメ元で試験だけでも受けるか?」

 「「「だな」」」


―――――――――――――――


 【  チューラットside  】

 「あんた、がんばってね」

 「ああ、とりあえず行ってくるわ」




 らあめん屋で働きたくって、しけんを受けに商業ギルドに来たんだ。
 俺、商業ギルドどころか帝都の商業区アテナに来るのも初めてなんだ。

 なんだよここ!?これが港区と同じ帝都なのか?
 道はきれいだし、歩く人もきれいな服着てるよ!
 だいたい昼間に若い女が1人で歩いてるなんて港区あたりじゃあり得ねぇ。しかも誰も座り込んでねぇや。
 やることのねぇ人間が道に座ってるもんだが、誰もいねぇじゃねぇか。 
 おっ死んでる奴もいねぇし。どこかから聞こえてくる悲鳴や変な音も聞こえねぇな。

 こんなとこ、俺が来ていいのか?あゝもう嫌になってきたよ。
 でもな、惚れた女も生まれたばかりのチュータもいるしな。どうせダメなんだからやるだけやってみるか。


 ここだな。

 ゴクンッ。

 「あのさ‥‥」

 「ラーメン店応募の方ですね?」

 商売ギルドの前で。人族のきれいな服着た姉ちゃんが俺に聞いてきたんだ。

 「あ、ああ‥‥」

 「従業員希望ですか?独立支援制度希望の方ですか?」

 「あ、あの‥‥俺3年働いたら店が持てるって聞いてきたんだ」

 「独立支援制度希望の方ですね。それではこの階段を上がって2階にどうぞ」

 「あ、ああ‥‥」





 「お名前、出身は?」

 「チューラット。港区だ」

 「港区のチューラットさんですね。それではこちらに‥‥」

 広い部屋の椅子に座らせられたんだ。自分の前に机があるって初めてだな。学校ってこんな感じなんだろうか。

 ざわざわ  ざわざわ
 ザワザワ  ザワザワ
 ざわざわ  ざわざわ

 なんだよ!この数は!しかもほとんど人族じゃねぇか!?

 前の奴2人が振り向いて話しかけてきたぞ。

 「くせぇなぁ。テメーひょっとしなくても獣人だな?」

 「しかも港区あたりの貧民街出じゃねぇか」

 「バカじゃねぇか!来るじゃねぇよテメーら獣人なんか!」

 「おいネズミ。そこのテメーのことだよ!耳ねぇのかよ?」

 「‥‥」

 我慢だ。人族から罵倒されるのには慣れてる。気にするな。
 でも今日は‥‥逃げちゃダメだ。

 「おい!耳ねえのかよ!このクソネズミが!」

 「‥‥」

 「チッ!つまんねぇ獣人だぜ」

 我慢我慢って思ってたんだ。

 そしたら‥‥

 大きな部屋の前。壇上に太ったおっさんが立ったんだ。周りには同じ服を来たさっきのお姉さんや男たちもいる。


 「ようこそアレク工房ラーメン屋開店募集にお越しくださいました。ギルド長カサンドラです。
 この部屋にお越しの方は独立支援制度希望の方でいいですね?

 こくこく
 コクコク
 こくこく

 しーんとしているけどみんな俺と同じ、店を持ちたい奴らなんだろうな。

 「では。さっそく試験に入ります」

 そう言ったギルド長のおっさんの雰囲気ががらっと変わったんだ。
 騎士団や冒険者の強い人が持つ雰囲気と同じになったんだ。

 俺、自慢じゃないけど獣人でも特に弱いネズミ獣人だからさ、こんなふうに強い奴の雰囲気がわかるんだよね。

 「ただいまから一切の私語、よそ見は厳禁です。違反者は即時退場していただきます」




















 「(おいなんだよそれ?)」

 「(わからねぇ‥‥)」

 「はい、そちらのお2人。失格です。お引き取りください」

 「「えっ?俺ら?!」」

 「「なんでだよ!?」」

 「先ほど申し上げました。一切の私語は禁ずと。すみやかに退出ください」

 「「くっ!」」

 ギルド長の有無を言わさない強い雰囲気に押されて、2人が退場したんだ。そしたら部屋の中の雰囲気が一気にピリッとしたんだ。

 「皆さんの前に紙1枚と鉛筆を用意しますが、絶対に触らないでくださいよ。触ると退室してもらいますからね」

 あんなことがあったすぐあとだろ。誰も触らないよ。

 てか「かみ」ってなんだ?この白いものか?これって羊皮紙と違うのか?それと「えんぴつ」ってこの細い木の棒のことか?

 「それでは問題を2回読み上げます。よく聞くように」


 『ラーメン屋は誰もが平等にラーメンを食べることができるお店です』

 ギルド長がゆっくりと大きな声で問題を読み上げたんだ。

 「「「‥‥」」」

 「もう1度問題文を読み上げます」

 『ラーメン屋は誰もが平等にラーメンを食べることができるお店です』

 (らあめん屋は誰もがびょうどうに食べられるお店。らあめん屋は誰もがびょうどうに食べられるお店‥‥)

 「それでは問題です。お客様が次の順で店に来ました」

 そしたら壇上にギルド長が言うとおりの人が上がったんだ。

 「獣人、人族の平民、人族の女、貴族、貧民街の子どもが順に店に入りました。ラーメンをお出しする正しい順番を紙に記入してください。

 では紙を裏返してください」

 周りの奴がやるように俺も「かみ」を裏返したんだ。紙にはたぶん獣人、人族の平民、人族の女、貴族、貧民街の子どもって書いてあるんだと思う。だって文字の下にそのとおりの絵が描いてあったから。

 「それではラーメンをお出しする順番を数字で1から5まで書いてください」

 チラッと横の奴を見たらさっきの木の棒を「かみ」の上に押してたよ。
 ヨシ。俺も書いてみるか。字は書けねぇけど数字くらいわかるからな。

 誰もがびょうどうに食べられるお店って言ってたよな。そうしたら店に入ってきた順番が正しいんじゃね?でも貴族は別じゃねぇのかな?あ~わかんねぇ。

 入ってきた順にするか。誰もがびょうどうだから‥‥ヨシ、そのままで書こう。

 「では1次試験の合格者は試験官が肩を叩きますからその場でご起立ください」

 コツコツコツ‥

 後ろから人の気配がする。

 「チューラットさんお立ちください」

 後ろにいたお姉さんが俺の肩を叩いたんだ。

 「えっ?俺合格なのか?」

 「はい。1次試験合格です。お立ちください」

 お姉さんが俺に笑顔で言ったよ。でも……。

 「なんでだよ!?なんでこんな獣人が合格で人族の俺が落ちるんだ?なんでだよ!」

 さっき俺を罵倒した奴が怒鳴りまくっていたけど……。俺もわかんねぇよ。ただギルド長が言ったとおりに書いただけだからな。







 たくさん部屋にいたのに50人くらいしか残らなかったよ。

 「ではそのまま2次試験の実技と面接に移ります。名前を呼ばれたら先の部屋に入ってください」

 

 

 
 
 「チューラットさん」

 「ああ」

 小さな部屋に通されたんだ。机には粉が入った桶と水が入った桶、それと布っ切れが載せられていた。

 「どうぞおかけください」

 「ああ」

 そんなふうに言われて椅子に座ったんだ。

 「ではさっそく問題です。
 2回説明を申し上げたあと、すぐに実技に移ります。質問等は一切受け付けません。よろしいですか」

 「あ、ああ」


 『ラーメン屋は清潔第1です。自分はもちろん、材料から商品、店内に至るまですべてきれいにしなければなりません』

 『ラーメン屋は清潔第1です。自分はもちろん、材料から商品、店内に至るまですべてきれいにしなければなりません』






 「では両手にこちらの小麦粉につけますよ」

 そう言って両手いっぱいに粉をつけられたんだ。

 「では仕事にかかります。手を洗って準備ができたら声をかけてください。どうぞ」

 水が入った桶と手ぬぐいがあるからこれで手を洗えばいいんだな。
 あれ?粉がなかなか落ちねえや。

 ゴシゴシ  ゴシゴシ‥

 まだ落ちねえや。

 ゴシゴシ  ゴシゴシ‥

 俺、手だけはいつもきれいにしてるからさ。なにせ手づかみで物を食うこともあるから、汚れは全部落とさなきゃ気分がわるいからなんだ。

 ゴシゴシ  ゴシゴシ‥

 













 「できたぜ」


―――――――――――――――


 「チューラットさん、次回は休養日明け。午前の10点鐘に来てください。店が決まるまではこちらで毎日研修してもらいます」

 「俺が?本当に俺が合格したのか?」

 「はい。チューラットさんおめでとうございます。なお、お給料は次回から発生しますからね。毎月20日締めの‥‥」

 なんかよ‥‥俺合格したみたいなんだ。なんでかな。
 それと給金までもらえるみたいなんだ。夢じゃないよな?

 「こちらの服が制服になります。毎日これを着て来てください。  
 それとこれがラーメン屋のスープとチャーシューです。鍋に移して温めてご試食ください」
 
 「あ、ああ‥‥」

 制服と手土産までもらったんだ。

 アイツどんな顔するかな。喜んでくれるかな


―――――――――――――――


 「フリージア。作戦を言うぞ」

 「はい副団長」

 「お前の初めての演習だからな。ローズ様に喜んでもらえるようしっかりやれよ」

 「はい副団長。まかせてください!」

 帝都騎士団期待の学生フリージア。祖母は女性初の元騎士団長のローズ。

 ミスリル製のレイピアを十全に扱い、体内魔力も自在に扱うフリージアの技量はすでに成人に近いレベルであった。

 「場合によっては賊を殺すことになるぞ?それでもいいのか?」

 「はい!問題ありません!誰であれ帝都の治安を揺るがす者には正義の刃をお見舞いします」

 ニッコリと笑った姿はまるで何処かのパーティーにでも出るかのような年相応の若い女性の快活な明るさがあった。


―――――――――――――――


 「あんた!うっうっうっ‥‥よかったわ‥‥」

 帰るなり泣き出しちまったぜ。
 俺も‥‥今まで生きてきた中で1番うれしいんだ。

 「ほら、チューラット。あんたも涙を拭いたらフフフ」

 結局、2人して抱き合って泣いたんだ。
 女神様、俺たちも幸せになっていいんだよな?


―――――――――――――――


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