アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

544 串刺公ツェペシュ

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 3人を瞬殺した男の細いレイピアがアリアナ姫に向かったんだ。
 だけどこれを両手剣の大刀で薙ぎ払うコジローさん。

 カーーーンッッ!

 「テメーなにしやがる⁈」

 それなのに。
 払われたレイピアはその流れの先で剣先をデーツの胸元に変えたんだ。勢いそのままに放たれるレイピア。

 シュッッ!

 ダメだ!間に合わない!

 デーツの胸元を狙ったレイピアの剣先が寸分違わず放たれたんだ。

 シュッッ!

 ザクッッッ!




























 それはデーツの胸の手前。貫いたのはレベちゃんの掌だった。レベちゃんの掌を貫いた剣先はデーツの胸元をわずか0.1セルテをチクッと刺した。

 「ヒッ⁈」

 驚愕のままドーンッとそのまま後ろに尻もちをつくデーツ。

 カチャッッ!
 カチャッッ!

 クナイ片手に飛びだそうとするドン。背中の刀に手を遣り飛びだそうとする俺。
 俺たち2人が飛び出さんばかりになったんだけど……。

 ダメよと目配せをしたレベちゃんにドンも俺も従ったんだ。

 掌にレイピアが刺さったままのレベちゃんが平然と1歩2歩と男の前に出た。

 「久しぶりねツェペシュ。いきなり挨拶じゃなくって?」

 「ん?狐仮面ばかりで誰だかわかんなかったわ。その声はレベラオスね 」

 「嘘おっしゃい!あんた知ってて姫を狙ったわね」

 「姫?誰よそれ。てか知らなかったわ。まさかデグーの姫様がこんなとこにいるなんてね」

 「ふーん、そうかしら」

 この人‥‥レベちゃんと同じ口調じゃん。まさか……。

 「てかレベラオス、アンタついさっき海洋諸国の国旗を揚げたでしょ。それじゃあこの3人と同じ盗っ人じゃないかしら」

 「あらいきなり殺しといて。3人は犯罪者扱いなのね」

 男は狐仮面のコジローさんを向いて話を続けたんだ。

 「あの剣捌き。あなたはデグーのコジローね」

 「俺はあんたとは初対面のはずなんだがな、串刺公のダンナ」

 「フッ、いけすかないけどいい男ね」

 「そりゃどうも」

 尚も刀を下ろさないコジローさんはジリジリと男との間合いに入ろうとしていたんだ。

 「レベラオス、いい加減その掌に刺さったアタシのレイピアを抜いてくれないかしら?
 でないと私コジローに斬られちゃうわ。
 それと掌のチカラだけでレイピアを止めるなんざ、中原広しといえどアンタくらいじゃないの?」

 そう言いながら男はさっきまで全身に纏っていた魔力をすうっと解放したんだ。それはまるで、もう何もしないよというように。

 「あら残念。この距離ならあんたも私の胸の中で永遠の眠りにつけたのに」

 「フフフ。またの機会にしてもらおうかしら。まぁそれまでレベラオス、アンタがくたばらなきゃね」

 「言うわねあんた。それより説明してくれるかしらツェペシュ?」

 「説明もなにもないじゃない。王国の旗を揚げてた不埒者を懲らしめるためにアタシたちは来ただけよ。まさかそこにアンタたち海洋諸国人がいるとは驚きね」

 「ふーん。ほとんどの不埒者は魔獣にヤラれちゃうし、唯一私たちが助けた3人もあんたが殺したから死人に口なしってわけね」

 「フフ。私たちもなにがなんだかわからないのよ」

 「ツェペシュ。あんたずいぶん口が上手くなったわね」

 「フン。アンタたちみんなして狐の仮面被ってるけどこの中に‥‥まあいいわ。いずれどこかで会うんでしょうから」

 そう言った男は確かに俺の顔をじっと見つめていたんだ。

 「じゃあゴミも降ろしたし、用も済んだでしょレベラオス。とっとと帰っていいわよ」

 「いいわツェペシュ。帰ってあげる」

 「ねえレベラオス。1つだけ教えてくれないかしら?」

 「なにツェペシュ?」

 「ロイズ帝国、ダルク大国、カザール法国、エルファニア。そんな国を繋げる芸当‥‥アンタたちデグーにあったかしら?」

 「あらなんのこと?乙女は1晩経てば進化するものよ」

 「フフフ。アンタって相変わらず食えないわね。じゃあね」

 そう言った男を先頭にして騎士団員たちは帰っていったんだ。


 「レベちゃん誰なのアイツ?」

 「王国の貴族。ツェペシュ・バラキア。2つ名は串刺公よ」

 「串刺公?」

 「ええ。彼女には残忍極まりない趣味があるのよ」

 彼女かい?!

 「レベラオスさん。俺それ聞いたことあります」

 「まっ!ドンちゃん違うわ!お姉さんはレベラオスじゃなくってレベちゃんよ!」

 「は、はい‥‥」

 「でもまあそうよね。残忍な海洋諸国人でさえしないのが死者への冒とくだもの。
 彼女はね、生きたままの人間をお尻から口まで、文字どおり串刺しにしてそれを見て愉しむっていう悪趣味の持ち主なのよ。
 だから付いた2つ名が串刺公。そんなことしたら、聞きだす前に死んじゃうから海洋諸国人は絶対しないでしょ。でも彼女は文字どおりの変態なのよ!」

 え~っ!?お前が言うかい変態って。

 「はぁ?なにか言ったかしら狐ちゃん?」

 「いえ!なにも言ってません!」

 「ただ覚えておいて。レイピアを持った彼女の戦闘の才は抜群よ。戦闘となったら躊躇うことなく相手の急所を突いてくるわ」

 「よかったなデーツ。レベちゃんがお前の生命の恩人だぞ」

 コクコク  コクコク

 まだ顔が真っ青なデーツがコクコク頷いた。

 「ツェペシュが出てきたってことはもう黒幕が決まったも同然よね」

 「そうね‥‥」

 「だからこそ‥‥列強の思惑は正直思うところはなきにしもあらずだけど。ここはありがたく受け取らなきゃね」

 「そうだぞ姫」

 「そうじゃの姫様」

 「そうよぉ姫」

 ん?
 

 


 






 「なぁ姫、列強の思惑ってなんだ?帝国、大国、法国、エルファニアがなんかすんの?」

 「そうね狐ちゃん、なんかするのかしらね?」

 姫が俺の頭をぐしゃぐしゃっと撫でたんだ。なんで?でもなんか知らないけど嬉しいからいいか。


―――――――――――――――


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