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第2章 幼年編
540 水中開放
しおりを挟む水中に魔獣はほとんどいなくなった。残ったガタロは皆船上へと上がっていったからだ。
「じゃあジョング、穴を開けるよ。このへんでいいんだよね?」
「ああ、このへんだ」
「「「ジョング様?」」」
「アレクが今からここに穴を開けるそうだ」
「穴を開ける?船底の木は硬くてすぐには切れませんよ。まして水中では‥‥」
「「アレク様‥‥」」
「あー心配しなくていいからね。それよか穴が開いたら水が一気に入りこむからね。焦って入ってっちゃダメだよ。流れが止まってから中に入ってよ」
「「「‥‥わかりましたアレク様」」」
「アレク、穴を開けても牢には鍵がかかっているんだぞ?本当に大丈夫なのか?」
「いいのいいの。それよか子どもたちは呼吸できるんだよね?」
「もちろんだ。海人族は鰓があるから子どもでも水の中でふつうにいられるよ」
「「「アレク様‥‥鍵がなければ牢は開きません!」」」
「「「アレク様!長!」」」
「アレク‥‥」
「心配しなくていいよ。絶対にみんな助けるから!」
「頼むアレク!どうか子どもたちを助けてくれ!」
「わかってるって。じゃあ穴開けるよ」
船底に手を当てて指先からジェット水流を放出していく。
ギュィィィーーーンッッ!
「「アレク様の指が‥‥!」」
「「こ、これは魔法なのか!」」
高圧の水は金属だって切れるからね。名づけて‥‥。
「高圧水ケルピャァァァーーー!」
「アレク、勝手に使ったらダメなんじゃろ!言いつけてやるじゃろ!」
「あははは‥‥」
なんかシルフィのノリがときどき怖いよ。でもさ、シルフィとあおちゃんと3人でこんなバカ話をしながら旅をしたいな。そしたら毎日笑いが絶えないんだろうな。
そのためにも俺はもっともっと強くならなきゃ。
ギュィィィーーーンッッ!
ジュュュュュッッッッッ!
船底にマンホールサイズで丸く円を描いていく。よし、繋がった。これでいいかな。
「じゃあいくよ」
「「「頼みますアレク様」」」
足で蹴って。
ドンッ!
ギュュュュュンッッッッッ!
一気に水が流入していくよ。
ザッパアァァァーーーッッッ!
あっという間に浸水していく船内。
やがて内と外の水圧差もなくなったようだ。
「みんな入って!」
「「「はい!」」」
海人族のみんなに続いて俺も船内に侵入する。と‥‥‥‥
いた。
「「「お父さーん!」」」
「「「父ちゃーん!」」」
鉄の牢の中に海人族の子どもたちが10人閉じ込められていたよ。
みんな怯えてはいたけど、外傷はないみたいだ。よかった。
「アレク早くしてくれ!船が沈む!」
「「「アレク様!」」」
「「「早く!このままだと船が‥‥!」」」
「大丈夫だよジョング。ほら」
グニャッ グニャッ グニャッ‥‥
「「「えっ?!」」」
俺が触った鉄の牢屋はまるでロープの紐のようにグニャグニャっと曲がったんだ。
「さあみんな出て!」
「「「お父さん!」」」
「「「父ちゃん!」」」
父ちゃんと抱きあう子どもたち。
海人族の子どもは柴犬くらいのサイズなんだ。ころころとしてかわいいな。あの子たちのお腹はどんな匂いかな?
「おい変態!これで匂いを嗅いだら絶対引かれるぞ!」
「あ、あ、当たり前じゃん!わ、わ、わかってるよ!」
「絶対すんじゃねえぞ!」
「さあジョング、みんなを外へ連れてって」
「あ、ああ‥‥」
――――――――――
【 王弟side 】
王都では。王でさえも知らない情報が王弟にだけはいち早くもたらされていた。
「ドクトル様、彼奴らの船が魔獣に襲われて沈んだそうです!」
「誰ぞ生き残りは?」
「いえ、グランドの海洋諸国人どもが助けに入ったものの船もろとも……。生存者数名とのことです」
「数名?全滅でないのか」
「どうやらそのようです」
「そうか。では全滅してもらうかの。公を遣わせ」
「クックック。それは間違いないでしょうな」
「公に伝えよ。好きにしてよいと」
「はは」
――――――――――
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