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第2章 幼年編
539 ピーちゃん師匠
しおりを挟む「はっ?ここは‥‥」
ピーちゃんに丸呑みされたんだ。
頭の中っていうか腹の中には、4.5畳くらいの空間(部屋)が広がっていたんだ。しかもなぜかソファまで置かれていたんだ。これってまんまピノキ夫じゃね?
「なんだよここは!?」
頭に直接ピーちゃんの声が響いてくる。
「シャーーーッッ」
「狐ちゃん大丈夫?って」
「大丈夫だよ。ピーちゃんありがとう!で、ここは?」
「シャーーーッッ」
「私のお腹の中よ。速く移動するときは姫もここに来るのよって」
「へぇー。それでソファがあるんだね。でもなんで明るいの?」
「シャーーーッッ」
「なんでって明るくないと見えないでしょって」
なんでもありなのかよ!
「シャーーーッッ」
「寛いでいってよねって」
「あははは‥‥友だちの家かよピーちゃん」
「シャーーーッッ」
「もちろんそうよって」
「あはは、おじゃまします」
姫といいシルフィといい、どうしてピーちゃん語がわかるんだろう?俺ぜんぜんわかんねぇし。
「だってあんた、あおちゃんと喋れるじゃん。あれだって周りからしたら馬の鳴き声にしか聞こえないのよ」
「へぇーそうなんだ」
「だから、たぶんアレクもある日いきなりピーちゃんの声が聞こえるんじゃないかしら?」
「ふーん」
ピーちゃんのお腹の中はけっこう広い空間だった。
でもさ、やっぱこれってまんまピノキ夫じゃん!クジラの中に飲み込まれるの巻ピーちゃん版だよ。
「シャーーーッッ」
「ピーちゃんが私と魔力を繋げて目をシンクロさせなさいって」
「なんだよシンクロって!?」
「ほら早くやんなさい。ピーちゃんの目と繋がる意識で魔力を接続するのよ」
「うーん。わかんないけどやってみるね」
俺の頭の上にアンテナがあるイメージで魔力を拡散してピーちゃんの魔力をラジオのチューナーで探すように‥‥‥‥あった!これだ。
そのまま線をピーちゃんの目まで持っていき‥‥VRみたく視界に広がる情報を‥‥
おぉ~!
ピーちゃんの視界が俺の頭に入ってきた。
すげえぇぇぇー!
これまんまVRだよ!
「ピーちゃん見えるよ!」
「シャーーーッッ!」
「よかったわ狐ちゃん。じゃあ魔獣を蹴散らすからねって」
「シャーーーッッ!」
ボキボキボキボキボキッッ!
ガブッッ!ガフッッ!ガフッッ!
ぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんっ!
ブシャッッ!プシャッッ!ブシャッッ!
「す、すげぇ‥‥」
それはまるで怪獣大戦争の絵図だった。しかも自分自身がやってるかのような疑似体験。怪獣大戦争でピーちゃんが1人勝ちする蹂躙劇‥‥。
シャーーーッッ!
ガブッッ!
シャーーーッッ!
ボキッッ!
シャーーーッッ!
グシャッ!
ピーちゃん最強かよ!
「シャーーーッッ」
「狐ちゃん、相手は弱いけど、噛まれたり引っ掻かれたりしたら痛いでしょ」
「そりゃそうだよ」
「だからね、この動きはわかるよねって」
ピーちゃんVRからわかるのは、向かってくる魔獣に対して、ときには右に左、上や下と避けてから攻撃を加えるピーちゃんの姿だった。
「シャーーーッッ」
「尻尾や胴体、どこかを常に中心に動くのよ。そうしたら避けながらの攻撃でも威力は落ちないわって」
なるほど、なるほど。それはわかる。やっぱ体幹が大事なんだな。
「ギャッギャャャーーッッ!」
窮鼠猫噛みだな。向かってくる魔獣をスッと避けてからガフッッとやる。
「シャーーーッッ!」
「狐ちゃんのびりびりも同じよって」
「えっ?」
「あのびりびりも真っ直ぐだけじゃなくって曲げられるわよね?って」
「あっ!そりゃそうか!」
実体が無い分、曲げやすいわ!
「ピーちゃんありがとう!めちゃくちゃいいヒントをもらったよ!」
「シャーーーッッ」
「よかったわって」
たしかにこれは気がつかなかったよ。ファイアボールのフォークやカーブ、シュートはわかってたんだけど、魔法の形はいろいろ変化できるよな。直線から左右に分けることだってできるはずだよ。
てことは、雷魔法の変化のバリエーションを豊富にしたら‥‥
「アレク、大きな武器になるわね!」
「うん!」
シャーーーッッ!
ガブッッ!
シャーーーッッ!
ボキッッ!
シャーーーッッ!
グシャッ!
窮鼠猫を噛むなんてよく言ったよな。
ロナウ河最強のピーちゃんだから、相手も必死になるもん。死にものぐるいっていうの?そんな敵魔獣の攻撃にも丁寧に対応してるピーちゃんに、強者の奢りはまったくなかったんだ。
全力で闘い、全力で回避して、全力で反撃して全力で食べる?
「シャーーーッッ」
「狐ちゃん、好き嫌いしてちゃ大きくなれないわよって」
「あははは」
よーし。あとはタコ1体だけだな。
「ピーちゃんありがとう!最後の1匹くらいは俺が倒すよ」
「シャーーーッッ!」
「わかっわ狐ちゃんって」
「シャーーーッッ!」
「外に出したげるねって」
「うん。ありがとうピーちゃん!えっ、えっ?!え~~~っ?!」
「ゲロゲロゲロ‥‥ゲボボオォォォォッッッ!」
水中なのに濁流に乗って外に吐き出されたんだ。
「うわっ!ピーちゃん臭い胃液とぐちゃぐちゃになった内容物と一緒に吐き出さないでよ!」
「シャーーーッッ‥」
「ごめんね。でもこうしないと吐き出せないのよって」
「まさか姫も?」
「シャーーーッッ」
「違うわ。姫は私が口を開けたら自分で歩いて出てくるわって」
「‥‥」
「シャーーーッッ」
「だって吐き出したら姫が汚くなっちゃうでしょって」
「吐き出すなんて言うなよピーちゃん!それじゃあまるで俺がゲロみたいじゃん!」
「シャッシャッシャ」
あーこれぜったい笑ってるよピーちゃん……。
「ん?シルフィどうしたの?」
「臭っ!アレク臭っ!」
「汚ねぇなアレク!あっち行け!」
「ううっ‥‥」
なんでだよ……。しかも汚いって水の中じゃんか。
最後の1体のタコ。
「スパーク!」
「ギユユュュューーッ‥‥」
軽自動車サイズのタコはスパーク1発で難なく倒した。タコ焼き作りたいから足1本もらっておこうかな。
【 船上side 】
そのころ船上では混乱を極めていた。
「「「ギャッギャッギャッ‥‥」」」
「なんなんだよ!このガタロの群れは!」
「「「多すぎるだろ!」」」
「海人族どもは居ないのか!」
「すでに倒されてるよ」
ザスッッッ!
ザクッッッ!
「「ギャーーッッ!」」
「なんだよコイツら。倒しても倒しても上がってきやがる!」
「捕まるなよ。捕まったら終わるぞ!」
「「「くそーっ!」」」
船にいるすべての人がガタロ退治に追われていた。船内の牢屋に閉じ込められた海人族の子どもたち以外は皆、船上にいたのだ。
【 狐仮面軍団side 】
「派手にやってんなぁ。下じゃあアレクとピーちゃんだろ」
「フフフ。魔獣も悪人もみんなかわいそうなくらいよ。じゃあもう少し近づきましょか」
「レベちゃん師匠‥‥オレ‥‥」
「もうデーツちゃんったら。もっと自信をもちなさいよぉ。ガタロや海賊なんてデーツちゃんの足下にも及ばないんだから!」
「デ、デ、デモ‥‥」
「いざとなったらアタシが守ってあげるわん」
「ウウッ‥‥オネガイシマス」
「ドン君は大丈夫かの」
「はい師匠。ガタロや海賊くらいは問題ありません」
「ホッホッホ。さすがよの。それでは、こちらもこれを良い機会にして勉強してもらうかの」
「機会?勉強?」
「そうじゃよ。今ドン君がやっておる魔力操作のな」
「はい師匠‥‥」
(あーマル爺師匠の言ってる意味がわかんねぇよ。どうやって戦闘に魔力操作が結びつくんだ?)」
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