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第2章 幼年編
536 水に遊ぶ
しおりを挟む【 ◯◯◯◯side】
~船にて~
俺たちぺーぺー商人にもついにチャンスが巡ってきたな。
なにせ仕事自体は楽なんだ。雇ったゴロツキどもにゴームの木を刈ってこさせ、持って帰るだけでいいっていうんだからな。
ゴロツキどもはゴロツキどもで、海人族なんていう変な奴らを使役するだけだって言うし。
船員たちも遊びみたいな仕事だって言ってたな。王国旗を船に揚げてるだけでいいんだと。
それで海洋諸国人が船に乗り込んでくるだけで既成事実ができるんだっていうんだよ。既成事実の意味がわかんねぇんだけど。
まっ、いずれにせよ俺らの褒美はこのゴームの交易。分け前は莫大だってことは子どもでも知ってるよ。ゴームが今なかなか手に入らない戦闘靴になるんだろ。
俺たちがミカサ商会の仕事をそのまんま肩代わりできるって聞いてるからな。
しっかし海人族って言うの?ガタロが喋るんだもんな。キショいよなあ。
ああ、ゴロツキどもには言っとかなきゃな。朝までは海人族は船内に入るんじゃねぇって。空気まで汚くなるわ。
【 ジョングside 】
へぇー指の間に膜があんだなあ。かっぱみたいだな。でもジョングの頭にはおさらもついてないし……。
「かっぱ?おさら?なんだアレク?」
「えっ!?な、な、なんでもないよ」
アレクは少し変わった人族の子どもだった。独言なのに大きな声で訳の分からないことを言ってるし、俺たち海人族を差別しないどころか、こうして今も水に入って人の掌や頭をべたべた触りまくっては何か独言を言っている。ひょっとしてアレクは男色なのか。
「ジョング泳ぎを教えてくれよ」
「泳ぎ?」
「今からジョングは俺の泳ぎの師匠だからな」
「あ、ああ」
【 アレクside 】
ジョングの頭にお皿はなかった。やっぱ河童じゃないんだよな。
でもジョングの掌は水かきが付いていたんだ。これはまさに河童だよ。
なるほどなぁ。この掌全体と大きな足で水を捕まえるんだな。
「ジョングこの場でちょっと動いてみせてくれよ」
「あ、ああ」
ジョングは掌を縦横に動かしながら足も尾鰭のように動かしてその場でくるくると泳いでみせてくれた。
「なにそれ、すごい!」
上へ下へ。右へ左へ。水の抵抗をまるで感じさせない自由な動きなんだ。アーティスティックスイミング(シンクロ)だったら文句なしの金メダルだよ!
「速く泳ぐとどうなんだ?」
「こうか?」
ザッパアアァァァンッッッ!
「はえぇぇぇぇ!」
両手を前に出して泳ぐジョングの姿は高速のボートか潜水艦みたいだった。
こうしてみれば丸い形の魚より流線型の青魚のほうがより速い理由がよくわかる、そんな泳ぎ方だったんだ。
「なるほどな。ありがとジョング。じゃあちょっと見ててくれよ。俺の初泳ぎ」
「?」
考えてたんだよ。足の裏から風魔法を発現して推進力を得たらどうかなって。もちろん水魔法で自分の身体の向きはコントロールできるだろうし。水中での呼吸、酸素は身体の周りの空気を魔力で覆う感じでいけるだろうなって。
ゆっくり泳ぐときは空気ボールの中に自分が入るイメージで、速く泳ぐときは身体全体を薄い膜で空気を覆う感じ。そんなイメージでいいはずなんだ。
なんてったってイメージだけは具体的なものを描く自信があるからね。病床で2次元世界の漫画を見まくり、ゲームをやりまくったおかげかな。
「いくよー!」
ザッパアアァァァンッッッ!
潜水艦が進む感じで‥‥
グンッ グググググッッ!
「うおぉォォォォーーーーーーッッ!」
速っ!めっちゃ速っ!気をつけないとぶつかるじゃん!
でも‥‥バッチリ予想通りだよ!
「アレク‥‥お前本当に初めて泳ぐのか?」
「ホントに初めてだよ!」
「しかもお前人族だろ?鰓もないじゃないか?!」
「鰓はないけど空気は魔力で包めることがわかったぞ」
「なんというか‥‥すごいなお前は」
「ジョング師匠のおかげだよ!」
わははははは
ワハハハハハ
▼
「あの海賊船を使って」
「あーこないだ捕まえた海賊の船よね姫?」
「ええ。船はそのまま使えるわ。海賊はみんなレベちゃんが抱きついてどっかにいっちゃったけどね」
「あらやだ、アタシは海賊の頭を潰しただけよぉ。食べたのはピーちゃんなんだから」
フフフフフフ
ふふふふふふ
姫にレベちゃん、2人とも怖いわ!
「それとみんなもこの仮面を被ってね」
「みんな狐ちゃんと同じなのね」
「「「俺たちもな」」」
わははははは
ワハハハハハ
フフフフフフ
摂取した海賊船も準備したし、みんなの狐仮面も用意したんだ。素顔晒したらマズいからね。
「姫、船が動きました!」
「わかったわ。じゃあみんな行くわよ!」
「「「了解!」」」
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