アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

531 海人族

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 「姫、刺さると色が消えない毒矢ってあるよね?」

 「あるわよ。狐ちゃんがゾンビみたいな色になったまま、1か月は洗っても色が消えなくなる毒矢が」

 「その毒、少しちょうだい」

 「いいわよ。でも自分で試しちゃダメよ。解毒剤はないんだから」

 「試さねぇーわ!」

 フフフフフフ

 「あっ!でもさ、ピンク色とかはないの?ピンク色だったらピーちゃんもかわいくなるかも!」

 「あ~言ってやろピーちゃんに。狐ちゃんがいじわる言ったって」

 「や、や、やめてくれよ!」

 フフフフフフ
 あははははは



 ▼



 「ドン、デーツ、今夜は俺草さんの警らに付き合うから夜は先に寝ててくれ」

 「わかったよ」

 即答のデーツは予想通りだな。

 「団長俺も‥‥」

 「ドン、夏休みの終わり、もう少し魔力がうまく使えるようになったら一緒に行こうぜ。でも今は無理だ。デグーに迷惑をかけたくないからな」

 「くっ‥‥わかりました」

 「ごめんなドン」

 「いえ、俺まだまだですから‥‥」

 ついてきたいって言ってくれるドンには申し訳ないけど、やっぱ今のドンには少しキツいからな。

 てか、なんか良くないことがある気がするんだよ俺。ヤバいことがある気がするんだ。だから……。

 「ヘタレのアレクにしてはいい判断だよ。昔私が言ったこと覚えてるのね」

 「うん。シルフィやニャンタおじさんがよく言ってたもんね。直勘を、自分の勘を信じろみたいなことだよね」

 「そうよ。昔‥‥そう大昔私が憑いたエルフに未来予知のできる子がいたわ。ひょっとするとあんたもそこまでいけるかもね」

 「おぉ~!未来予知はすげぇなぁ」

 「ええ。だって変態になって出血多量で死ぬリスクを回避できるもんね」

 「なんだよその理由は!」

 「フフフ」

 (でもねホークとシルキーも期待してるのよ、あんたならほんの数秒先を見えるようになれるかもって)


 ―――――――――――――――


 月夜

 ロナウの大河にも丸い月がゆらゆらと映っている。

 手のひらに水を掬って映った月を‥‥どうするんだっけ?あれ、手のひらじゃなくって盃だったっけ。なんの古典にあったっけ。覚えてないや。

 「アレクのアーカイブは漏れだらけね!」

 何だよシルフィ、アーカイブって!精霊が言うセリフじゃねぇわ、怖いわ!



 グランド南端の浅瀬。ゴームの木が密集する中の陸地。泥土に身を屈めて待機する俺と猫仮面のお姉さんを隊長とするグランドの草さんたち(警ら隊)。

 干潮時間ともあって、ロナウの大河も流れが緩やかになっている。

 「(来ましたぜ姐御)」

 「(見えてるよ)」

 大河の沖合から近づいてくる一艘の船。
 それはしばらくすると、裸眼でもかなり見えるようになった。
 魔力を目に込めると視力も上がってますますよく見えるんだよな。
 ひーふーみー‥‥14人かな。


 ▼


 「(狐仮面君来たわよ)」

 ギーッッ  ギーッッ    ギーッッ‥‥

 大型の手漕ぎボートが一艘近づいてきた。
 その距離30メル。
 
 そこから500メルほど沖合には大きな船が係留しているから、ボートはこの船から来たのかな。

 手漕ぎボートの14人の構成もわかってきた。屈強な漕ぎ手が4人。別に10人が乗船している。
 2人が刀を持ってるいるけど、あとは皆ナタと大きな麻袋持参の男たちだ。

 「(あのナタでゴームを刈るんだろうね。で、どうするの?)」

 「(いつもとおりよ。接近してくる賊を毒の吹き矢で動きを止める。あとは捕縛して尋問ね)」

 猫仮面のお姉さん隊長からの指示を待つまでもなく、淡々と待機をするデグーの草さんたち。こちらの草も10人だから油断しなきゃ大丈夫だよな。

 「ほかに怪しいことはない?」

 「ええ。あの14人だけよ」























 「アレク‥‥」

 「うん。いざとなったら俺たちが動けばいいよ」

 「そうね」

 目に見える14人以外の怪しい気配に気づいているのは残念ながら俺とシルフィだけだった。

 「こいつらってダンジョン‥‥」

 「ええ。大海続きのロナウ河だからいるんでしょうよ」

 「だね‥‥」

 「(予定外の事態にならない限り、狐君は見ててくれるだけでいいからね)」

 「(はい。猫のお姉さん)」

 「(じゃあ俺離れたところから見守ります)」

 「(えっ、狐‥)」

 ダッッ!

 その場を離れ、気配を消したまま全体が見れる位置どりに構える。ここならみんなを守れるな。


 ザバツッ!ザバツッ!ザバツッ‥‥

 手漕ぎボートから降りた10人が、膝まで水に浸かりながら近づいてくる。

 明るいとはいっても月夜の明るさだからこちらの動きは悟られていないよ。
 そろそろ吹き矢の射程距離だな。

 フッッ!
 フッッ!
 フッッ!
 フッッ!
 フッッ!
 フッッ!
 フッッ!
 フッッ!
 フッッ!
 フッッ!

 侵入者に向けてデグーの草さんから毒矢が一斉に放たれた。

 ザクッ!
 ザクッ!
 ザクッ!
 ザクッ!
 「ぐはっ!」  ザバーーンッッ!
 ザクッ!
 「ガハッ!」  ザバーーンッッ!
 ザクッ!
 「ぐはっ!」  ザバーーンッッ!
 ザクッ!

 吹き矢に命中して倒れたのはたった3人。
 予想してたかのか、残りの7人は麻袋を盾に毒矢を躱したんだ。

 「「「なんで‥‥?」」」

 デグー一族側の動揺がみてとれる。

 ザザザザザザッッ

 麻袋を盾にした7人のうち、さらに刀を持った男2人を囲む陣形になったんだ。この2人が指示役かな。

 「危ない危ない。デグーの毒矢は怖えーな」

 刀を持った男の1人が言ったんだ。もう1人も。

 「今夜はゴームの木を刈ってくついでに邪魔するテメーらも刈らせてもらう予定だからな。
 首だけこの袋に詰めて交渉材料に使ってやるよ」

 「なめんじゃないよ!盗っ人風情が!」

 「おっ!女がいるのか。海洋諸国人なら草とはいえ別嬪なんだろうな。お前だけは少しだけ長生きさせてやるよ」

 「クックック。少しといっても朝までだがな」

 「アニキ、壊す前に俺にも味わせてくれよ。ガハハハハハ」

 「寝言は寝てお言い!」

 「いいねぇその啖呵」

 わはははは
 ガハハハハ
 ははははは

 ザクッ
 ザクッ
 ザクッ‥‥

 対峙するように、猫仮面のお姉さんとデグーの草もみんなが立ち上がったんだ。

 「ちょっとばかり痛い目にあってもらうよ」

 そう猫仮面のお姉さんが言った矢先だった。

 ザバーーンッッ!
 ザバーーンッッ!
 ザバーーンッッ!
 ザバーーンッッ!
 ザバーーンッッ!

 河の中から30人ほどの小柄な男たちが、突然浮上したんだ。

 「えっ!?うそ!?コイツらひょっとして‥‥」

 「「「あ、姐御‥‥」」」

 「「「マジか‥‥」」」

 「ガハハハハッハ!びっくりしたか。テメーら海洋諸国人には同じようにヤバい奴らをぶつけるんことにしたんだよ。
 傭兵っていうの?気づかなかっただろ。コイツら水中で待機させてたんだよ」

 「バカやろー。傭兵じゃねぇだろ。傭・魔獣だろ」

 「ハッハッハッ。アニキの言うとおりで違いねぇや。海人族なんて言うがなんのこたぁない海のゴブリン、ガタロだもんな」

 「まあどっちでもいいが、テメーら海洋諸国人には天敵の海人族だよ」

 知らなかったよ。海洋諸国人に海人族(ガタロ)って天敵なんだ。てかガタロって海人族っていうの?知らんかった。

 「「「‥‥」」」
 「「「‥‥」」」
 「「「‥‥」」」

 無言のまま小刀みたいなものを持って草さんたちに向かってくるのはやっぱりガタロだよ。
 そんなガタロ(海人族)が30人、少しずつ近寄ってきたんだ。

 「ヤバいねシルフィ。数も多いし、さすがの草さんたちも水の中に入って闘ったら何人かはヤラれるな‥‥」

 「アレク離れててよかったじゃん。あんたの存在はバレてないのよ」

 「へへっ。じゃあ草さんたちが水の中に入る前にやるか」




















 「スパーク!」
 

 ―――――――――――――――


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