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第2章 幼年編
530 警ら
しおりを挟む「じゃあ教会ごと建替えるからね。祭壇から卓椅子、什器、使える木製品は全部出してあるんだよね?沈めるよ?」
「いいわよ」
アリアナ姫が声を上げる。姫はキム先輩たちがいない、ここグランドで1番偉い決定権者なんだ。
「「「いつでもいいよー狐仮面!」」」
「「「どんとこーい狐仮面!」」」
手伝いにきてくれてる元デグー一族の大人100人はいつでもいいぞと準備万端だ。
俺が新教会を発現したら、後は祭壇から諸々をすぐに配置して元通りの教会活動もできるようになるんだよね。
でも実際の神父様とシスターには教会の改築に時間がかかるからと、王都の教会へ教義の研鑽に充ててほしいと1か月ほどを不在にしてもらっているんだ。俺のグランド行きが決まったすぐにね。
その理由は、神父様とシスターが海洋諸国人じゃないからなんだ。
グランドの住民(デグー一族)が決して神父様たちを信用してないわけじゃないんだよ。不信感も持っていないどころか親しく付き合っているんだからね。
だけど帝都には悪党神父もいたからね。だから決して疑ってはいないんだけど、狐仮面の土魔法によって1夜にして教会が建て替わったなんてことを知られてはマズいだろうと、姫やマル爺、コジローさんたちの考えで少し不在にしてもらったんだ。
だからここにいる100人はみんなデグー一族。身内ばかりなんだよね。
1年ダンジョンで連夜の野営食堂の発現から、俺の大規模建築の発現もすっかり慣れたよ。
ヴィンサンダー領での教会の時計台も(大)(中)(小)の3パターンも発現してきてるから、もう余裕かな。
今日はうちのデニーホッパー村と同じ札幌の時計台、(大)パターンの発現。
収容人数500人が可能な石造りの高床式倉庫みたいな仕様。
ここのグランドは数年に1度の大水で沈むことがあるから、家屋はみんな高床式倉庫みたいなんだよね。
だから元の教会も木柱で地面から1.5メルほど上げてあるんだ。
俺はもう少し高く2.5メルくらい嵩上げして、石柱で発現しようと思ってるんだ。
そしたら、普段は床下にあたる1階部分も風通しもいいし、何か活用できるかもしれないもんね。
前日のうちに土塀で覆って観光客さんの人目にもふれないようにしてあるよ。
これで一晩で教会が建て替わってもバレないだろうって思ってるんだけどね。
そうそう、姫とマル爺、コジローさんとレベちゃんだけには万が一用の「仕掛け」は話してあるよ。使うことがないのが1番だけど。
「ノーム頼むよー」
「「「おいさ おいさ」」」
「じゃあ沈めるからねー」
ズズズーーッッ!
「「「おぉ~!」」」
「「「マジか‥‥」」」
教会が蟻地獄に引き摺り込まれるように消えていったよ。
「次、新教会建てるよー。ノームも行くよー。新教会カモーン!」
ズズッ ズズズーーーーッッ!
―――――――――――――――
「姫、お願いがあるんだ」
「なに?狐ちゃん」
「ゴームの木のことだよ」
「ゴームのなに?
狐ちゃんに言ったように、ゴム工房はものすぐ順調なんだから」
「うん。それは嬉しいよ。
でもさ‥‥たぶん、もうすでに他国や王国のどっかの領からのスパイや盗賊団、草はけっこう入ってきてるよね?」
「そんなことないわ」
アリアナ姫はそう言ったけど、目が泳いでたのは俺でさえもわかったよ。
「だってピーちゃんもいるんですもん」
「うん。俺もピーちゃんに送ってもらったとき、ピーちゃんはこれから河賊をオヤツに食べるって言ってたよ」
「でしょ」
「‥‥俺に言いたくないっていうか、俺を巻き込みたくないって思ってくれてる姫やキム先輩たちの気持ちは十分ありがたいよ」
「‥‥」
「だけどさ、ゴムの需要は俺が考えてたよりもずっとあるんだってわかったんだ。
だってね、グランドから離れてる帝国でさえ戦闘靴を欲しいって人は信じられないくらいいっぱいいるよ?」
「いっぱい売れるからうれしいわ狐ちゃん」
「‥‥だからね姫、言い出した俺にも責任はあるって思ってるんだよ。
去年の冬休みだってベルーシュの船が襲ってきたとき、俺が雷魔法を発現した後、キム先輩は下に行って見なくていいって言ってくれたんだよね」
「‥‥」
「俺ね‥‥姫やキム先輩たちが言ってくれた意味もわかってたんだ。俺自身の甘さも充分にね……」
「だからさ、この夏休み、観光地で明るい雰囲気のグランドと、目に見えないけどいろいろある難しい部分も見なくちゃいけない、知らなきゃいけないって思ってこの夏休みにやってきたんだ」
「狐ちゃん‥‥」
「いずれ俺も姫たちと同じ立場になると思うんだ。だからさ、島の警らに俺も同行させてよ」
「わかったわ。正直に言うとね、河賊はとても増えたわ。ゴームなのかグランドそのものなのかわからないけど、明らかに狙ってくる賊ばかりが増えたのよね」
「やっぱり‥‥」
「今のところ、デグー一族からの死者はで出てないけど‥‥たぶん遅かれ早かれ被害者も出ると思うわ」
「じゃあさ、やれること、防げることも考えていこうよ。ガキの俺が言うことなんか大したことないけど」
「ありがとうね狐ちゃん‥‥お礼にチューしてあげたいけどキムに怒られるから妹を抱っこさせたげるね。てかレベちゃんのチューのがいいかしら」
「なんの罰ゲームだよ!」
フフフフフフ
あははははは
▼
「狐仮面君よろしくね」
「「「よろしく!」」」
そう言って握手をしたのは猫の仮面を付けた女の人を頭のデグーの草の人たちだった。
なんかいい匂いがする女の人だな。
「今夜は深夜2点鐘が干潮なのよ。満月だから灯りも必要ないから賊は必ずやってくるわ。私たちの担当はグランドの南端よ」
グランドへの上陸は東西南北4方向の港と北端、南端の浅瀬。
疾しい人は北端、南端の浅瀬からやってくることが多いんだって。
「捕獲、尋問ののち先方から賠償金が出る奴は釈放してるわ」
「出ない奴は?」
「ふふふ」
猫仮面の女の人が妖艶な声を上げたんだ。
コワッ!
「じゃあ狐ちゃん行くわよ」
「うん」
―――――――――――――――
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