アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

526 再びの軍艦乗船

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 「電話ボックス解除!」

 ズズズーーーッッ

 あっという間に土壁の電話ボックスが土の中に沈んでいったんだ。あとにはデーツが1人いるだけに。

 「ウド‥‥」

 「ウドさん‥‥」
















 「「寝てるね(寝てますね)」」

 プッ
 わははははは
 ワハハハハハ


 「ほら起きろ」

 「ん?あ、あれ?アレク?」

 「狐仮面だ!」

 「あっ!ゴメン」

 プッ
 わははははは
 ワハハハハハ





 「ほら頭と顔洗えって」

 「うん。痛っ‥‥」

 ウド(デーツ)の頭に温かいお湯をかけてやったんだ。もちろんヒール効果をプラスして。もちろんウドの額から腫れや傷はすぐに消えたよ。

 「あれ、痛くないや‥‥」

 「だろ。ほらドライヤーだ」

 「あっ、いつもアリサやクロエが喜んでやってもらってる髪の毛を乾かす魔法だ。たしかに気持ちいいなア、ア、あれれ、えーっと狐仮面」

 「ったく……。なんで野郎の髪の毛乾かさなきゃいけないんだよ」

 気持ち良さげにしてるデーツの髪を乾かしてやってる間、ドンが聞いてきたんだ。

 「団長、回復魔法はいつから?」
 
 「ちゃんとしたのは今コウメに教わってるんだよね。ただ、ヒール単体ではうまく発現し難いから水を加えたヒール水みたいなやつなんだけど」

 「教わってできるのがすごいですよね。しかもオリジナルっていうのが団長らしいです」

 「そっかなあ」

 「団長は赤ちゃんのときからそんなにたくさん魔法を発現できたんですか?」

 「俺?俺は3歳までなんも発現できなかったよ」

 「「えっ?!」」

 「魔石触って神父様に適性審査してもらったこともないし」

 「じゃあ団長はいくつのとき‥‥?」

 「ああ俺は4歳のときにね、妹を狙って突進してきた一角うさぎに無我夢中で突っ込んだんだ。
 そしたら、たまたまグンって足が速くなってさ。手にした包丁が一角うさぎに突き刺さったんだよね。

 それで足に魔力を纏えるんだって知ってからかな。練習したら魔法も覚えられるんじゃないかってね」

 「それって‥‥魔法も練習からできるようになったってことですか?」

 「そうだよ。初めてファイアって唱えて指先から火が出たときはうれしかったなぁ。とにかく小さなころは毎日毎日やり続けたよ」

 「それでできちゃうから団長はすごいですよね」

 「だって俺はさ、お前らみたく才能がぜんぜんないわけじゃん。開拓村だから教えてくれる人なんて誰もいないし。
 ああ、剣は教えてもらったけどね。
 だから魔法も自分で1から考えながらやるしかなかったんだよね」

 デーツとドンが2人驚いたように顔を見合わせてたんただ。

 「「それを4歳からずっと‥‥」」

 「うん。時間だけはたっぷりあったから」

 「ひたすらやり続けたと?」

 「できないのに?」

 「そうだよ。だってさ、できなかったらできるまでやるしかないじゃん」

 「「‥‥」」

 「まぁお前らにはグランドで師匠が待ってるからな。ウドにはレベちゃん、チーにはマル爺。
 2人ともお前らの成長に役立つ最高の師匠だぞ」

 コクコク
 こくこく


 「でもその前に。
 ウド、今さっきのお前は何がダメだった?」

 「避け損ねて石が頭を直撃したこと?」

 「そんなのは問題じゃねぇよ」

 「痛くて蹲ったこと?」

 「それも違う」

 「じゃあ何が?」

 「お前、額から流れる血を見てパニくっただろ?」

 「ウ、ウン‥‥」

 「あそこでお前が闇雲に逃げてたらお前が捕まる可能性もあった。最悪死んでた可能性もあった。
 お前を守ろうとチーが先に死んだ可能性もあった。
 いずれにせよ、さっきのお前の行動は仲間を傷つける最悪の行動だ。わかるか?」

 「わかる‥‥俺が悪かった‥‥」

 「‥‥」

 「わかりゃいいんだよ。次は絶対するなよ」

 「許してくれるのか?」

 「許すのなにも。なんせお前は図体だけがデカい俺の弟だからな」

 「ウ、ウン」


 


 「で、アイツらはどこ行ったんだ狐仮面?」

 「ああ逃げてったよ」

 「そっか‥‥」

 「ウドさん大丈夫ですよ。団長があの中の猿の魔力を覚えてますから帰ってきてからまた何かやったら‥‥ですからね」

 「ウン‥‥」

 「ウド。悪い奴は倒さなきゃって思う気持ちもわかる。けど、倒すってことは人が人を屠ることなんだぞ。
 そんなシーンを実際に目にしたらどうだ?ショックだろ?」

 「ウ、ウン‥‥」

 「慣れろとは言わないよ。逆に人を屠ることに慣れたらダメだって思うよ、俺は。

 でもさ、この世界で生きてく以上は嫌でも目にするんだよな。
 悪意を向けてくる奴はふつうにどこにでもいるんだからな」

 「‥‥」

 「それともウドはやっぱマリアンヌ先輩に守ってもらって1日中家の中に閉じこもるか?」

 「違う。俺も‥‥強くなりたい。そして‥‥1日中家で絵を描いててもいい世界に‥‥そんな世界に俺も‥‥するんだ‥‥シタイナ」

 「よく言った!さすが俺の弟だ」

 「だから弟じゃないって!」

 「ハハハハ。俺に勝てたらな、だから俺がいなくなる春までに強くなれウド」

 「うん!」


 ホントはここでウドの頭をぐりぐりと撫でてあげたいんだけどね。俺のほうがまだチビだしね……。


―――――――――――――――


 港区の貧民街を抜けるころには、あの嫌な匂いも消えていたんだ。いつのまにか潮の匂いが漂う港街になっていたよ。

 たくさんの船が係留してるなか、見覚えのある艦船が桟橋に到着してたんだ。
 それは春に帝都まで乗せてもらった帝国の海軍艦船。若い水兵の訓練艦。
 今回も王都までの行き帰りに乗せてもらうお願いは済んでいるよ。


 「「よぉアレク!」」

 「よぉベック、リリアーナ」

 「また世話になるな」

 「「おおよ!(ええ)」」

 「今回は司厨長も元気だからアレクは艦長からしっかり絞られると思うわよ」

 「えっ!?マジ?」

 「「マジ!」」

 「艦長、いっぱい勉強教えるんだって張り切ってたから」

 「お前らなんとかしてくれねぇのか?」

 「ムリよ。ただね、夏の航海は風も良いから5日もあれば王都に着くからね。だから諦めて勉強しなさい」

 「そうだぞ。片道2日も短縮できるんだからな」

 「ううっ‥‥」

 「アレク、こちらの2人は?」

 「ああ。紹介するな、このデカいのはデーツ、こっちはドン。2人とも帝都学園の仲間なんだ」

 「コ、コンニチハ」

 「あーコイツ緊張すると声でなくなるから」

 「俺はベック。水兵見習だ。よろしくな」

 コクコク

 「私はリリアーナ。デーツ君よろしくね」

 コクコク

 「ドン・ガバスです。よろしく」

 2人と握手するドンは挨拶もそつなくこなしていた。


 「じゃあ早速艦長のところに行こうぜ」

 「なぁリリアーナ、司厨長元気なのか?」

 「ええ。元気いっぱいにアレクが来るのを楽しみにしてたわよ」

 「そ、そう‥‥」

 「団長、何か問題でもあるんですか?」

 「あのね、大問題なんだよ。この船の艦長はめちゃくちゃ話好きな人なんだよ。だから勉強しだしたら話は軽く3点鐘や4点鐘は続くんだぜ?!」

 「「えっマジ!?」」

 「そう。残念ながらマジ」





 「こないだの保険の会議以来だなアレク君」

 「はい。イーゼル艦長」

 艦長さんは2メル近くと背も高く白い軍服をしっかりと着こなしたイーゼル・フォンバートさん。

 軍服の上からでもわかる筋骨隆々の鋼の肉体。小麦色に日焼けした肌に金髪の短髪が映える。鋭い眼差しはいかにも歴戦の海の男と思わせる、その人なんだ。
 オヤジ(前皇帝)の両翼。陸の片腕がペイズリーさんで、海の片腕がイーゼルさんなんだ。

 「夏は風もいいから片道1週間と短い船旅だ。昼から夕食まで、アレク君にはみっちり勉強を教えられるな。あとの2人もな」

 「「「ヨーソロー!」」」

 「あはははは‥‥」


 乗船しているのは前回と同じ、商人が10人と帝国新兵が40人。教官が5人。

 「司厨長が今回はアレク君の貴重な時間を無駄にしないと張り切っていたよ。ワハハハハハ」

 「(ドン、こそっと司厨長に吹き矢を撃ってくれよ)」

 「(えーー)」






 海上。
 進路を塞ぐ大イカとの闘い。巨大クジラとの力比べ。半魚人との死闘。その他襲いくる船魔獣との闘い‥‥‥
 そんな敵との戦いは‥‥一切なかった。
 もちろん司厨長はまったくもって元気いっぱいだった……。


 「はぁはぁはぁ‥‥」

 「団長キツいっすね‥‥」

 「勉強キライダ‥‥」

 そんな船上の5日間。午前中に水兵見習いのみんなと甲板で身体を動かしたり、夕食後に弓矢で魚獲りするのが唯一の楽しみだった。




 サンダー王国の王都に着いた。
 やった!やった!

 「では来月8の月、最後の休養日の朝にまたな」

 「「「艦長ありがとうございます」」」




 「「また来月なー」」

 「お前らありがとうな!」

 「「バイバーイ」」







 「狐仮面、グランドへの船は迎えに来てるんだよな。ぴいちゃんごうだったっけ?」

 「そうだよ」

 「どこ?」

 「(あのね‥‥ちょっと離れるな。パニックになるから)」

 「「??」」














 「ピーちゃーん」

 「「えっ‥‥‥‥?」」

















 「「ええーーーーーっっ!?」」

 突如として水中から浮かびあがる巨大なウネウネする大蛇。
 
 そりゃデーツもドンも腰を抜かすくらい驚くよな。

 「シャーーーッッ!」

 「狐仮面久しぶりって」

 通訳は毎度のシルフィさんだ。

 シュルシュルシュルシュルシュル‥‥

 ガジガジガジガジガジガジガジ‥‥

 俺の身体に巻きついて甘噛みをするピーちゃん。

 「痛い痛い痛い!ピーちゃん骨がギシギシ言ってるから!」

 「痛い痛い痛い!頭から血が流れてるから!」

 ひとしきりスキンシップを楽しんだピーちゃんがようやく離れてくれたんだ。











 「おいウド?おいチー?なんで離れる?」

 





 






 「だって団長‥‥」」

 「「臭っ!」」

 ピーちゃんのよだれはめちゃくちゃ生臭かった。

―――――――――――――――


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