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第2章 幼年編
523 夏休み 出発前
しおりを挟む「じゃあ来週からの夏休み、幹部連のみんなには迷惑かけるけど、あとのこと(青雲館を)よろしく頼むね」
「「「了解です!」」」
夏休みは凡そ2ヶ月。このあたりは元の世界と同じなんだよね。
ただ、圧倒的に違うのが夏休みの過ごし方なんだ。それはね、まずお盆休みじゃないから、遠方からの寮生が帰省する以外、3世代が揃うとか、家族旅行とかの帰省を兼ねて旅行する習慣がないんだよね。もちろん故人を偲んで家族が揃って墓参りもないんだ。
だからせっかくの夏休みなのに多くの生徒は家でだらだら‥‥違った、のんびり過ごしてるんだよね。なんかもったいないよね。
夏休みに入ったら俺はデーツをグランドに連れていくんだ。
グランドには体術の達人レベちゃんがいるから。
何度かみんなには告げてだけど、食事中に改めて夏休みの予定をみんなに告げたんだ。
「わかったなデーツ」
「あ、ああ。でもさアレク、レベちゃんって?」
「ああ。お前の師匠はレベちゃん、レベラオスだよ。オヤジは知ってるのか?」
「レベラオス‥‥体術では帝国にまでその名は知られてるぞ」
「やっぱり!デーツはそのレベちゃんに修行をつけてもらうんだよ」
「あ、ああ、うん‥‥」
オヤジが速攻で俺に聞いたんだ。
「アレク、お前ひょっとしてレベラオスと闘ったのか?」
「ああ‥‥そりゃもちろん雷魔法で瞬殺したよ」
「な、なるほどな‥‥俺デモ闘リタクナイワ」
オヤジが微妙な顔をしてデーツを見たんだ。
「だ、大丈夫か、デーツは?」
「そ、そんなに強いのか父さん?」
「あ、ああ……。いろんな意味でな」
これ以上オヤジに喋らすとマズいな。
「まあとにかくだ。デーツの修行で夏休みはグランドに行ってくるからな。みんなは家で待っててくれよ」
デーツの修行には俺より体格も大きくて体術に圧倒的に優るレベちゃんに任せたほうがいい。
この夏休み、ひょっとしてデーツも覚醒できるかもしれないからね。
▼
自家製冷凍庫にたくさんのご飯を作って保存したんだ。クロエが水魔法を使えるようになったから、俺がいなくてもわが家の冷凍庫は年中絶賛稼働中になったからね。
スライム袋(アレク袋)に入ったデリカ。リズ鍋で湯煎したら、温めるだけで食べられるようになるからね。
「アリサが料理を作るんだぞ。といっても湯煎するだけだからな」
「うん。わかったけど‥‥」
「クロエはお庭の花にお水をあげたり、稲の生育をみてくれよ」
「うん。わかったけど‥‥」
「バブ婆ちゃんは変わらずに掃除に洗濯だ」
「あいよ。わかったさね」
「オヤジは‥‥まぁみんなの邪魔すんなよ」
「いや!俺だってメシぐらい‥」
「「「だめ!(やめろ!)」」」
「ったく!オヤジはかわいい娘たちを殺す気か!」
「そこまで言わなくってもいいじゃねぇか‥‥」
オヤジが作るメシは冒険者レベルだからな。野菜に干し肉をぶちこんで塩を適当に入れただけのものになるのは目に見えてるからな。
「「アレクお兄ちゃん!デーツお兄ちゃん!」」
アリサもクロエもすごく不安そうにしているよ。
「たった2ヶ月にも満たない夏休みだ。すぐに帰ってくるよ」
「「だって‥‥」」
アリサもクロエも半泣きになったんだ。
「いいか、来年の春には俺はいなくなる。
デーツも卒業したら家を出るだろ。だからいずれはこの形が自然の流れなんだよ」
「「‥‥」」
「それとな、デーツ。ここからはデーツがよく聞けよ」
「えっ?俺?」
「ああ。デーツお前だよ」
「オヤジ、もしデーツがヤバい奴らに捕まったとしたら、或いは俺が旅の途中に行方知れずになったとしたら‥‥オヤジは帝都騎士団を動かすか?」
「‥‥‥‥」
「正直に答えてくれ」
「家庭の事情で騎士団を動かすことなど‥‥できまい‥‥」
「「「えっ?!」」」
途端にアリサとクロエが何か言いたそうな顔をしたんだ。もちろんデーツもびっくりしている。
「いや、オヤジは何も間違えてない。圧倒的にオヤジが正しい」
「「「‥‥」」」
「そういうことだデーツ。もし、悪い奴らや魔獣が襲ってきたら。デーツ、お前は自分の身は自分で守れよ」
「それってアレク?」
「ああ。できるだけは俺がお前を守る。だが俺に余裕がなくなればデーツ、自分の身は自分で守れ。
そして万が一、最悪なことが起こってもそれは恨みっこなしだ。それでもお前はついてくるか?それとも修行に出るのをやめるか?」
「行くよ」
「「よく言ったデーツ!」」
「じゃあデーツ、明日は早起きして出発するからな。今日は修行もいいからすぐに寝ろよ」
「う、うん。オヤスミナサイ‥」
「声小さいぞ!」
「おやすみなさい!」
「「「おやすみなさい」」」
▼
「じゃあ俺はいつもと一緒だ。ちょっと走ってくるわ。みんな寝ててくれよ。じゃあな」
「「アレクお兄ちゃん!」」
「2人とも早く寝ろよ」
「「お兄ちゃん!?」」
「「父様?」」
「心配するな。あれはデーツに発破をかけるためにアレクが言ったんだよ」
「「でも父様?」」
「クロエ、ここにはお前に憑く精霊がいるんだろ?精霊は何って言ってる?」
「メルティーちゃんは全然心配要らないって。アレクお兄ちゃんは誰よりも強いって笑ってるよ」
「だろ。アリサ、あいつはな、帝国の大人でももう相手になる奴は数えるくらいしかいないぞ。まして雷魔法を使ったら‥‥俺でも‥‥な。だから安心して明日は送ってやれ」
「「‥‥‥‥うん!」」
翌朝。出発前に。
マリアンヌ先輩が見送りに来ていた。
な、な、なんとデーツと抱き合ってチューしていた。
くそーっ!うらやまだぜ!
「アレク、婆がチュウしてやろうか?」
「なんの罰ゲームなんだよバブ婆ちゃん!」
ヒッヒッヒッ
ワハハハハハ
わははははは
「じゃあクロエがお兄ちゃんにチューしてあげる」
そう言ったクロエが俺の右頬にチューきてくれたんだ。
「あ、ありがとうなクロエ」
「わ、わたしだって!」
アリサも左頬に一瞬チューしてくれたんだ。
「ありがとうなアリサ」
「お前らにチューしてもらったから元気100倍だよ!」
「「気をつけてねお兄ちゃん!」」
2人の頭をぐりぐり撫でて抱きしめる。
「ああ。土産はグランド名物の蟹を持って帰るからな。めちゃくちゃうまい蟹だぞ」
「「うん!」」
「グランドにはどうやって行くのお兄ちゃん?」
「帝国からの船で王都サンディアゴの港まで行くんだよ。連絡してあるからそこからは最速の船が待ってるからな」
「「「最速?」」」
「ああ。帝国のどの船よりも速い船が待ってるんだよ」
「アレク、なんだその船って?イーゼルは知ってるのか?」
「いや知らないね。これは秘密の船、ピーちゃん号だから詳しくは俺も言えないな」
「デーツ帰ったらどんな船か教えてくれ」
「はい、父上」
船じゃないんだなぁ。これが。デーツは腰抜かさないかな。
「じゃあ行ってくるよ」
「行ってきます」
「「「いってらっしゃい!」」」
みんなに見送られて出発したんだ。
持ち物?いつもと同じだよ。俺は背の刀に腰の脇差とアレク塩。これだけだよ。
デーツは今回の旅用に仕立てた革製のランドセル型リュックサック。中には筆や絵の具が入ってるんだって。
「じゃあ行くぞデーツ」
「あ、ああ」
「ドン?!」
家の外にドンが待っていたんだ。
「団長、俺も連れてってください」
「ドン‥‥お前‥‥」
「‥‥」
ドンの顔見てたら断ることなんて出来なかったよ。
「ヨシ。じゃあ行くかドン」
「はい団長!」
「改めて紹介するな。こいつはデーツ。5年1組。俺の弟だ」
「3年1組のドン・ガバスです。海洋諸国からの留学生です。団長のお兄さん?弟さん?よろしくお願いします」
「よろしく。兄のデーツだ」
「デーツお前はまだ俺に勝てないから弟なの」
「チキショー」
そして2人が握手したんだ。
「わかるか?デーツ」
「えっ?なにが?」
「わかるか?ドン」
「はい。少しくらいは」
「じゃあお前らは帰りにもう1度握手しろよ。そのときにお前らの修行の成果が出るからな」
「?」
「はい!」
▼
「まず帝国の船に乗せてもらって王国の港まで行くからな。だいたい5日前後だ。船旅だけで往復10日はかかる。グランドの修行は1ヶ月少ししかないから、船でも修行するぞ」
「うん」
「はい!」
「そんで王都の港からは最速の船が待ってるからな」
「アレク、さっきも言ってたけど最速の船ってなんだ?ぴいちゃんごうだっけ?」
「ああ。めちゃくちゃデカくて早い船だからな。楽しみにしてろよ」
「「?」」
楽しみだなぁ。久しぶりのグランド行き。
「団長、港に行くんですよね?」
「そうだよ」
「だったら南区の教会経由で新設の港に入りませんか?」
「なぜ?」
「ちょっと言いにくいんですけど‥‥新設の港区、治安が良くないんですよ。それはその‥‥団長が影響してるんです」
「えっ?俺のせい?」
マジかよ?俺のせいって何よ?
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