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第2章 幼年編
521 地道な努力
しおりを挟む「みんないい?今日からこのノートに毎日書いていくわよ。絵でも字でもいいからね。
メルルお姉ちゃんも一緒にやるからアレクお兄ちゃんにやり方をきこうか」
「「「はーい」」」
メルル先輩が肩の力も抜けてすごく良くなったんだ。子どもたちの信頼度も高くなったよ。サラさんやメアリさんたち先生との間でいい緩衝材的な役割を果たしてくれているよ。
青雲館で宿泊する子どもたちも20人を超えたんだ。少しずつ少しずつ。この学び舎に慣れていくのは子どもたちも俺たちも同じなんだよね。
ノートを1人1冊。
子どもたちには日記をつけるのも習慣づけてもらうんだ。
「何書いてもいいからな。絵でも、字を書けるようになった子は字でもいいぞ。
とにかく毎晩やり続けること。毎日やり続ければ何か変わってくるからな」
「「「はーい」」」
「アレクちゃん何を書いたらいいの?」
「何でもいいぞ。そのうちだんだん慣れてくるから、今日は何をやった、どう思った、明日はどうしたいって書けることがそのうち増えていくようになるぞ」
「「「ふーん」」」
「簡単だろ。俺が3歳からずっとやってる訓練と同じなんだよ。
毎日毎日同じことを繰り返すんだよ。ずっとやり続けていれば、少しずつでも成長してくからな」
「そしたらアレクちゃんみたいに強くなれるの?」
「俺はなったぞ?だったらお前らだってなれるじゃん」
「「「おぉ~!」」」
1日の終わり。就寝前に。誰もが日記を書くんだ。そして、このときだけは遊んだり友だちと話しながらは禁止。部屋の仲間の邪魔をするのも禁止。
わずかな時間を内なる自分とだけ向き合って自分自身の心と共有するんだ。
「それとな。お前らには俺からのプレゼントだ。朝も寝る前も。この魔石をニギニギしろよ。魔力はな‥‥」
買えばそれなりの価格だけど自分で狩ってきたからタダの魔石。この魔石を子どもたちにもプレゼントしたんだ。
「「「アレクちゃんありがとう!」」」
「(サラ先生、メアリ先生‥‥)」
「(アレク君の言葉、深くて意味のある言葉ね)」
「(そうね。単純なことも毎日やり続ける信念っていうのかしら。
3歳のアレク君に聞いてみたいわね。何がそこまでさせたのって)」
「「(そうですね)」」
―――――――――――――――
「ウマッ!」
我ながらバッチリの出来だよ。入手しやすいブッヒーの腸を使ってソーセージを作ったんだ。残ったホルモンもそのまんま炒めれば成人団員の大好きな酒のアテになるみたいだし。
このソーセージもまだ俺が倒れる前、爺ちゃんに教わった作り方なんだ。なにから何まで爺ちゃんのおかげだよ。
燻したソーセージを軽くボイルし直して試食してもらったんだ。
「どう?ドン、おギン?アリサ、コウメ、ハチ?」
「「「うま~い!」」」
「団長めっちゃうまいです!」
「団長すごいわ!」
「お兄ちゃん天才!」
「団長とっても美味しい!」
「うますぎるっす!金の匂いしかしないっす!」
天然のブッヒーの腸で作ったソーセージ。ソーセージは加工してから燻すから、生肉より断然日持ちもいいんだよね。魔獣肉でもできるから、ツクネ(ハンバーグ)と同じで買ったりするよりはるかに安くできるし。
このソーセージはもちろんそのまま炙ったり茹でて食ってもうまいし、朝ごはんのスープに入れてもうまい。
コッペパンの中にサンドしたら最高だよ。
パン工房の第2弾は惣菜パンを考えてるから、ソーセージパンをその目玉にするんだ。てか、やっぱハム工房を建てるべきだよな、これは。
「てことで、パン工房の隣にハム工房を建てようかと思うんだけどどうかな?」
「「「いいですね!」」」
「「「賛成!」」」
「「「俺(私)覚えたい」」」
「金の匂いしかしないっす!」
ハチ……。
「えらいぞ団長!」
おギンが俺の頭を撫でてくれる。くそーっ。アザとかわいいな。
「えへへへへ~っ‥‥」
「お兄ちゃんまた変な顔になってるわよ!おギン先輩もお兄ちゃん撫でたらダメだよ!」
「いいじゃんアリサちゃん。団長喜んでるし」
「だからダメなの!」
「いいじゃん!」
「ダメ!」
「いいじゃん!」
なぜか最近おギンとアリサが張り合うようになったけど。なんでだろう?
まあみんな仲良いからいいかな。
試食第2弾はソーセージパンだよ。
カレー味の刻みキャベツを炒めてソーセージと一緒にコッペパンにはさむ。
たったこれだけで絶品の惣菜パンの完成なんだ。
刻みキャベツのカレー味。第1弾は揚げパンだったよね。カレー味は‥‥そう第3弾への布石になるよ。第3弾も大成功しかないな。
「「団長なんですか?この味?」」
「「1度食べたら忘れられない、やめられない味だわ」」
「お兄ちゃんカレーもこんなふうになるの?」
「「アリサちゃんカレーって?」」
「うん。お兄ちゃんが作るこの味をカレーって言うの」
「「「かれえ?」」」
「うん。今家で植えてる稲が4、5年したら帝国中で栽培できるんだって。
その稲の実、ご飯で作るカレーライスは最強だってお兄ちゃんが言ってた」
「「「かれえらいす‥‥最強‥‥」」」
「「「ゴクンッ」」」
「「「このパンでもすごいのに‥‥」」」
王国から1、2年は遅れるけど早くみんなに米を食ってもらいたいな。
「まあとにかくだ。ソーセージ工房もパン工房の横に作るぞ」
「「「賛成!」」」
▼
いきなり。浮浪児、2、3歳の人族の女の子が1人で青雲館にやってきたんだ。
「どうしたの?」
「あのね、お母さんもお兄ちゃんもいなくなって、怖いおじさんがお家にやってきたの。お前はどれいだって。そしたら身体中にお絵描きのあるお兄ちゃんが怖いおじさんを追い払ってくれて、ここに行けって。途中まで連れてきてくれたの」
「‥‥そっか。よく来たね。名前は?いくつ?」
「あのね、マリンっていうの。2歳よ」
マリンと名乗るその子は貧民街特有のすえた糞尿の匂いがした。
「じゃあマリン、お兄ちゃんと狸さんと3人でお風呂に行こう」
「おふろ?」
「ああ。気持ちいいぞ。狸さんも一緒だから安心だろ」
「うん。狸さんといっしょー」
「(団長‥‥僕、なんか複雑っす)」
「(いいんだよお前はそのまんまで)」
そっか。この子寄越してくれたのはゼンジー一家のキュウとかいう入れ墨野郎だな。
これは手土産持ってお礼に行かなきゃな。
「ドン明日の昼からゼンジー一家のとこに案内してくれよ」
「わかりました団長」
大きな事件や問題のないうちに。毎日をちゃんと過ごさなきゃな。
―――――――――――――――
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