アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

519 評価

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 「「アレク久しぶりじゃん!」」

 「ベック、リリアーナ!おっすー。お前ら元気かよ」

 「「懐かしい!(懐かしいわ!)」」

 「たった2月前じゃねぇかよ」

 「間違いねぇ」

 「フフフ。そういやそうね」


共済保険の開始に向けて。定期的な会議も始まったんだ。
 会議の場所も持ち回りでね。



 海軍兵学校(海軍省水兵学校)にやってきた俺を迎えたのは水兵見習いのベックとリリアーナだったんだ。

 「今日はなんちゃら会議だって?」

 「バカねベック。なんちゃらじゃなくってきゅうさいほけん?よ」

 「あははは。リリアーナがだいぶ近いな。
 正確は共済保険を作るための会議な」

 「きょーさいほけん?」

 「そう。共済保険だよ」

 「「??」」

 「まぁなんだ。お前のことだから俺らみんなが良くなることを考えてくれてるんだよな」

 「「逃げたなベック!」」





 「でもそんな大したことじゃねぇんだよ」

 「どうだか。なあリリアーナ」

 「フフフ。ベックのいうとおりよね。
 それよかさ、アレク君背が伸びた?」

 「おお!わかる?」

 「うん。ぜったい伸びたよね!」

 「そうなんだよ!船んときもそうだったけど、今さ毎月1セルテずつ伸びてるんだよ」

 「じゃあアレク、お前成長期だよな。そのうち俺に追いつくんじゃねぇか」

 「うん。だといいな。がんばって夜な夜な脚に魔力を巡らせてるよ」

 「いっぱい伸びるといいね!」

 「おおよ!」

 「まぁ共済保険は海軍でもいいふうに考えてくれるだろうから、希望するか希望しないって話が出たら希望するにしとけよ」

 「「わかった」」





 「「「おぉーアレクー!」」」

 「「「久しぶりだなー」」」

 「おっすー!みんなー元気か?」

 「「「おおー!」」」



 水兵見習いのみんなとも久しぶりに会うよ。みんな気持ちいい奴らばかりだよな。
 

 共済保険に関してはベックの反応が如実に表れてるよ。


 『なんかわかんねぇ』


 俺もたぶん、っていうか絶対そうだろうな。
 そしてわからないこと、難しいことは親任せ。他人任せ。

 でもこっちの世界では圧倒的に自分で選択していかなきゃいけないんだよ。
 だから、共済保険についても必要な情報を誰もが判るように提供することも考えなきゃな。





 「ノーツ学園長、最低でも過去10年から、20年、入学した生徒が6年後にどこで何をやっているのかを正確に記録していかないといけないですよね。
 それこそ、生徒が死亡していたのならその理由を含めて」

 「そうだね。ただまだ帝都学園は軍や冒険者よりは正確な記録が取れるからいいよ」

 「さすが学園長です」

 「ペイズリーさんとこの騎士団や、イーゼルさんとこの海軍もきちっとやってるだろうね。
 ただ陸軍と冒険者は‥‥おそらく難儀するだろうね」

 「あはは。やっぱり‥‥」

 「これからは目に見える武力魔力の優劣もだが、正確な統計、いってみれば統計学というのかな。そういったことをきちんとやれる国民が多くいる国は国力も増していくんだろうね」

 「本当にそのとおりだと思います」

 「まあ我が帝都学園はちゃんとしてるよ。
 元々生徒の評価は各学年の先生たちの横の連携が密だったからね。そこから全員の数の把握はできている。それと、年度末の武闘祭のおかげもあるのかな」

 「学園長、言い難いんですけど帝都学園生でさえこれまでに亡くなったり行方不明になったりした生徒の数もゼロじゃないんですよね?」

 「そうだね。病死を筆頭に3,000人もいれば毎年4、5人の生徒は亡くなってるよ」

 ノーツ学園長はそれがさも当然だという顔をして応えたんだ。

 事実、それは致し方ないと思うよ。
 病いによる死というものが日常の生活と隣り合わせにある世界だもん。
 さらに魔獣の被害、犯罪者の横行なども当たり前っていえば当たり前の世界だもん。

 「今後はそれらの死亡理由もちゃんと記録しなきゃいけませんね」

 「考えたくはないが、不正を働く者が現れないとも限らないからね」

 「不正‥‥あり得るでしょうね」

 「残念ながらあるだろうね。
 これからは特に死亡理由はとても大事になってくるよ。学園もだけど軍ではとくに病死なのか、戦死なのか、その他の理由なのか。それを詳らかにしなきゃいけないだろうね。
 場合によっては調査専門の機関を作る必要もあるだろうね。

 だから業務遂行中など正当な理由の下の死亡には、共済保険がしっかりと適用されること。これはすごく大事になってくるんだ」

 そうだよな。元の世界でも保険金殺人なんて言葉は普通に聞かれてたもんな。


ーーーーーーーーーーー

 「改めて数字になると愕然とするよ」

 「うちもです」

 「我々のところもです」

 「「「ですな」」」


 共済保険担当者たちとの打ち合わせの席上。
 とにかくいろいろな事例についての検討がなされたんだ。
 これは保険該当案件なのか、これは保険非該当案件なのか。これは一筋縄ではいかないって担当者みんなが思ったんだ。

 一例をあげるとね。

 『現場で。酔っ払った分隊仲間とふざけて海に入って溺死した。これは保険該当案件なのか?』

 『仕事帰りに喧嘩をして刺されて死んだ。これは保険該当案件なのか?』

 『行方不明。事由を含めて今も不明。これは保険該当案件なのか?』

 『親が犯罪奴隷となって家や資産をすべてを失った。これは保険該当案件なのか?』

 『上官の命令で闇武闘会に参加。負けて死亡した。これは保険該当案件なのか?』




 イーゼル艦長が言ったんだ。

 「これは膨大な資料を紙におこしていく作業をしなければいけないね。該当か非該当なを含めて。検討の過程、先は恐ろしく長いな」

 ペイズリーさんも応えたんだ。

 「それでもやるしかあるまい。
 それと膨大な資料と格闘できる事務能力の高い者も必須となるな」

 ただ担当者を含めてみんなに共通していた認識はこれが形となって共済保険になれば、帝国はますます強くなるということ。


 事務能力の高い人。
 俺はね、最初ちょっぴり不安だったんだ。そんな人っているのかなって。(俺は絶対ムリだから)
 
 でもね。適材適所なんて言うよね。

 そんな膨大な事務作業も厭わない事務方さんは、学園にも軍にも冒険者ギルドにもちゃんといたんだ。だから事務方さんたちが今後は共済保険担当者として形を成してくれるはずだよ。

 俺?俺は‥‥うん、絶対無理だわ。 


 「表計算ソフトがあれば早いのにねアレク」

 「たしかに」

 シルフィがいつものように俺の頭の中を覗いて言ってるけど、たしかに表計算ソフトでもあればかなり楽なんだけどなぁ。


 「その数も精査していくと海と陸でも違うね。
 さらに戦時下では最前線と後方の兵站では死亡率もまるで違いますよ」

 「ということはどうすればいいかな?」

 「まずは、全体の死亡率、部署毎の‥‥」

 打ち合わせの度に事務方さんたちの話の内容、次元が高くなってきたよ。
 そろそろ俺にはわかんなくなってきた。学園側も共済保険担当者に任せようかな。


 「あんたまた丸投げじゃん!」

 「丸投げ言うな丸投げ!」

 「違うのかよ?」

 「すいませんシルフィさん。そのとおりです……」



 そうそう。イーゼル艦長がおもしろいことを言ったんだ。

 「おそらく、将に関しても名将と愚将の評価の見方も変わるだろうね。
 兵士の死亡率の違いも詳らかになるだろうからね。

 名将とされても兵士の死亡率が高い人物。
 愚将とされても兵士の生存率の高い人物。

 もちろんその評価は、次世代のものとなるだろうけどね」


 俺がこの異世界で生かされた理由も次世代の人が評価するんだろうな。
 人の評価はあまりというかぜんぜん気にならないけど、俺自身がもし過去を振り返ることができたら、そのときは自分に恥じない評価を下せるようになりたいな。



―――――――――――――――


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