アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

517 共済の実現について

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 共済保険の構想は大人の間でも大反響だったんだ。


 狂犬団の本部、青雲館の大会議室で。

 円卓に並ぶのは……。

 ジン・マッカーシー(帝国のご意見番。コウメの爺ちゃん)、前々皇帝の爺ちゃん(前々ロイズ帝)、オヤジ(前ロイズ帝)、ペイズリーさん(前帝都騎士団長)、イーゼル艦長(元海軍大将)、ノーツ学園長、テーラー冒険者ギルド顧問、現魔法省長官、現大蔵大臣、現商業ギルド長、ミカサ商会帝都店店主カクサーン(ハチの父ちゃん)、あと賢人会で見覚えのあるおっさん、おばさん、爺ちゃん、ばあちゃんたち。
 円卓の後ろには文官も多数。


ん?1人すんげぇ魔力量のおっさんがいるな。2.0メルのオヤジをひと回り小さくした感じ?
 あーこのおっさんもオヤジと同じゴリラだよ。前々ロイズ皇帝の爺ちゃんだろ、オヤジだろ、このおっさんだろ……。あっ、ゴリラ3兄弟だ!

 「「「‥‥」」」















 ワハハハハハ
 がははははは
 わははははは
 ガハハハハハ

 「ったく……。お前は相変わらず遠慮しねぇよな。一歩間違えたら首が飛ぶぞ。オラオラオラ‥‥」

 「痛い痛い痛い。頭ぐりぐりしないで!オヤジ痛いよ!」

 「「「‥‥」」」






















 ワハハハハハ
 がははははは
 わははははは
 ガハハハハハ

 「賢人会のときと同じじゃの。相変わらず面白いのアレク坊は」

 「皇帝の爺ちゃん、息子ゴリラの暴力をやめさせて!」

 「オメーちぃとは遠慮しろよ!オラオラオラ‥‥」

 「痛い痛い痛い痛いっ!」

 ワハハハハハ
 がははははは
 わははははは
 ガハハハハハ


 「相変わらず面白いガキンチョじゃわい」

 「「「ほんにのぉ」」」

 と、さっきから気になっていた3代めの息子ゴリラが口を開いたんだ。

 「おやっさんが息子みたく接しているガキ‥‥お前さんが王都から来たっていうアレクかい?」

 「は、はい」

 「俺は現ロイズ帝のアーサー・ロイズだ」

 背丈は1.8メル強と2.0メルのオヤジよりはひと回り小さいけど、すごい存在感のあるおっさんだよ。まるで小さな岩だな。めちゃくちゃ強い筋肉ダルマだよ。
 ロジャーのおっさんと同じ徒手タイプかな。

 「あっどうも。王国ヴィンサンダー領生まれ、ヴィヨルド領から来た農民のせがれアレクです」

 「よろしくな」

 「よろしくお願いします」

 現ロイズ帝のアーサーさんが差し出した手を握る俺。うん、ここはつつみ隠さずだな。

 ギュッ
 ギュッ

 すげぇなこの人の魔力量は。

 「クックックッ。なるほどな」

 そんなことを言いながら笑う現ロイズ帝のアーサーさん。

 「アレク、帝国に留学を決めた理由はなんだ?」

 「強くなりたいから」

 「ん?」

 「だって中原最強の武は帝国だから」

 「なるほどな。で、この2月3月で成果はあったかい?」

 「はい。俺、帝国に来て良かったです!」

 「そうか。んじゃ春まで楽しんでってくれよ。
 爺ちゃん、おやっさんに次ぐゴリラ3代めの当主もお前を認めるからな」

 「あざーす」

 「「「よう言ったアーサー!」」」

 ワハハハハハ
 がははははは
 わははははは
 ガハハハハハ


 さすが大国ロイズ帝国の君主だよな。懐がとんでもなく広いよ。

 





 「アレク坊よ、この建物はお主が1人土魔法で発現したのかい?」

 「そーだよ(前々皇帝の)爺ちゃん」

 「なっ、魔法省の。言ったとおりじゃろうが」

 「し、信じられん‥‥これはダルク大国が欲しがるはずだ」

 現魔法省長官が呆然としてたらしいよ。

 「して。賢人会とは違う場所になるが、今回は前皇帝の『息子』アレク君が発現した建屋で会議をするかの」

!!!

 あ~まただよ。ただの好好爺たちが一瞬で戦人の顔になったよ。
 だから怖いって!爺ちゃんたちのその顔は……。

 「「「怖いかアレク坊」」」


 ワハハハハハ
 がははははは
 わははははは
 ガハハハハハ


 「言うまでもないがここにおる者は皆、我が国、帝国に生命を捧げた者ばかりじゃろ?」

 当然とばかり、誰もがコウメの爺ちゃんの視線を真っ直ぐ受け止める。

 ぞわっ!

 鳥肌が立つじゃねぇかよ!なんだよ爺ちゃんたち!カッコ良すぎるだろ!


 「今日の主役アレク君に関しては‥‥他言は厳に慎むようにな。
 我がロイズ帝国とダルク大国、エルフォニア、法国の4強が声をかけた中、我が帝国を留学先に選んでくれたのじゃからな。裏切る真似をしたら信義に悖るわい」

 「「「当然じゃ!」」」

 「アレク坊、わしの孫娘を紹介しようかの?お主より少し歳上の17じゃが歳上は良いと言うからの」

 「ワシの孫娘は15になりたてのべっぴんじゃぞ?」

 「私の孫はアレク坊と同い年じゃよ」

 「あー前も言ったがコイツはな‥‥」

 「「「そうだった!幼児好きの変態だった!」」」

 「ちげぇーよ!」



 ワハハハハハ
 がははははは
 わははははは
 ガハハハハハ


 ▼


 アリサやおギン、その他の女子団員たちが湯茶と茶菓子を供していく。もちろん帰るときに持ってってもらう手土産の準備もしてあるんだ。日持ちのする焼菓子ならではの良さだよ。

 「失礼します」

 「よろしければお茶をどうぞ」

 「おや?アリサちゃんじゃないかい」

 「はい!」

 「ありがとうねアリサちゃん」

 「ごゆっくりなさってくださいね」

 アリサを含めて、このへんのことはみんなができるようになってるからね。


 「アレク坊、こないだの賢人会でお主が用意してくれた焼き菓子。あれはうまかったぞ」

 「もろた手土産。孫たちも大喜びじゃったわ」

 「「「ほうじゃほうじゃ」」」

 「今日のはこないだとは違う焼菓子だよ。甘くないし、硬くないから子どもにはイマイチかな。
 爺ちゃん婆ちゃん用に作ったんだ。あとお酒にも合うようにってね」

 今回は塩味のクッキーやチーズ味の焼菓子ばかりを用意したんだ。お酒にも合うだろうかなってね。


 「ポリポリポリ。これはまた‥‥美味いのぉ」

 「ぽりぽりぽり。たしかに酒がほしくなるの」

 「カリカリカリ。大人向けじゃがええ味じゃわい」

 「「「美味いの」」」

 「「「ああ」」」

 ぽりぽりぽりぽり
 カリカリカリカリ


 ロイズ帝国新旧の施政者が揃ってポリポリやっている。


 そんなおっさんや爺ちゃんたちを見ながら俺、羨ましくなったんだ。

 ヴィヨルドもそうだけど、帝国はさらにすげぇよな。みんなが国のために集まって、ことを成そうとしてるんだもん。

 うまいもんには周囲を気にせずにうまい顔をしてうまいって言葉に出して評価してくれるし。
 
 でも、あそこじゃ‥‥絶対ムリだ。あそこは何より自分たちの利益を最優先する人たちだもんな。



 居並ぶ大人を前にコウメの爺ちゃん、ジンさんが今日の議題を軽くおさらいしてくれたんだ。

 「して。認識票のことはわかった。
 実はな、わしもこの認識票は帝国の軍隊でも、冒険者の間でもやるべきじゃと思っていたんじゃよ」

 「老師そりゃなぜだい?」

 現皇帝のアーサーさんが聞いたんだ。

 「認識票があれば、戦場で不幸にして亡くなっても仲間の遺骸の代わりに連れて帰れるだろう。あとその場では行方不明になっても亡くなったという事実も、残った認識票でいずれは明らかになるからの」

 「そりゃ確かにな」

 「皆の衆どうじゃ?」

 「「「良いの」」」

 「アーサー帝?」

 「こいつは帰ったらすぐに審議にかけて実現に向けて動きだすよ」

 「テーラー、冒険者ギルドはどうだ?」

 「わしらもさっそく参加しようかの」

 「よかろう。それでは認識票については採用ということじゃの。
 して……。本題の共済保険じゃアレク君」

 「はい」

 「アレク君、帝国では建国以来300年、1代限りの貴族制を施行しておるのは聞いておろうな」

 「はい」

 「これも1つの保険、年金という考えなんじゃな」

 「ですよね」

 「国に対して功績のあった者に爵位を授け、その者の存命中はその功績に報いるというものじゃな」

 「1代限りとしたところに帝国の聡明さがわかりますよね」

 「そうじゃろ」

 「はい。ここにいる爺ちゃんたちみたいに国に多大な功績のあった人には、引退後の爺ちゃんの生活に報いるのは国が当然すべきことなんですよ。

 だけど、それが延々と続いていくと‥‥何もできないくせにいばり散らかす貴族を生み出すだけですからね。
 俺、帝国のこの1代限りって制度はすごいって思いますよ」

 「そうじゃろそうじゃろ。わしら帝国が中原の他国に自信を持って誇れる制度なんじゃよ。
 ああアレク君、どっかの王国には絶対にやらんがな。ワハハハハハ」

 「あはは。ですね」

 「してアレク君、その共済、保険という考えはわしらの1代限りの爵位という考えをさらに上いく斬新な考えよの。
ワハハハハハ。さすがはテンプルの愛弟子よ」

 「でな、せっかくじゃからアレク君、お主も知っておる今日の面々も加えてその保険の基本的な考え、大まかな枠組みの認識を説明してくれるかの」

 「アレク坊は老師と同じ、古文書の知識が豊富じゃのぉ」

 「あはははは」



 「俺、帝都学園でこの共済保険をやろうと思ったんですよ」

 「それはなぜかの?」

 「教会の初級学校なら無料だけど、帝都学園は有料でしょ。まして遠方の学園生は宿舎の費用もかかりますよね」

 「「「うんうん」」」

 「じゃあ不幸にして父ちゃんが死んだら、母ちゃんが死んだら。授業料が払えなくなるかもしれないでしょ」

 「なるほどの」



 【  6年10組side  】

 帝都学園6年10組席次48位49位50位の男女が踏み入れたのは人目も少ない倉庫街に近いあたり。
 そこは南区から新興区として認められたばかりの港区だった。

 新興区ゆえに。港区のその内情は貧民街と変わらないスラム街ともいえた。
 スラム街には最下層の獣人族のみで営まれる、獣人族による獣人族のためのスラム街もあった。

 よって。
 このエリアだけに関して言えば、その覇者は紛れもなく獣人族であった。
 そしてそれを人族の3人はまるで理解していなかった。


 「おーい、そこの犬っころ」

 「えっ?!」

 歳の頃は7、8歳。ピンと伸びた耳に短めで巻毛の尻尾。すっとした面長の顔だちは西洋犬そのものの。
かわいい見た目の犬獣人の女の子だった。

 「ヒッッ!」

 「ちょっくら俺らと遊ぼうか」

 「嫌っ!」

 あきらかに難癖をつけてきた見知らぬ人族の男女から逃げようと後ろを向いて走り去ろうとしたところで。

 ギュッ!

 「あっっ!」

 「おいおい誰が逃げていいって言ったんだよ」

 その尻尾を踏みつけてからさらに掴んで、強引に持ち上げようとする若い男。

 「痛い痛い痛い‥‥やめてよっ!」

 グルングルングルンッ‥

 その身体を左右にふって若い男からの拘束から逃れようとする犬獣人の女の子。

 「あら犬のくせに服なんか着たりしちゃって」

 その服に触ろうと不用意に近づいてきた若い人族の女も不用意だった。

 ザッッ!

 「痛いっ!」

 犬獣人の女の子の右手の爪が人族の女の手のひらを軽く引っ掻いたのだ。

 じわわゎゎゎゎゎっっ‥

 即座に赤い腫れとなる若い女の手のひら。

 「何すんだよ!テメー!犬ころの分際で!」

 パアアァァァンッッッ!

 犬獣人の女の子の頬を思いきり引っ叩く若い女。

 「イテェだろうが!」

 「おいおいおい、犬っころとはいえかわいそうだろうがクックックッ」

 3人めの若い男が犬獣人の女の子の髪を無遠慮につかみ上げてその顔を晒す。

 「い、痛い……。やめてよ……」

 「お前躾がなってねぇなぁ。うん。顔はなかなか、身体もいいな。ヨシ‥‥」

 そう言うや否や、犬獣人の女の子の服を引きちぎるもう1人の若い男。

 ビリビリビリビリッ

 犬獣人の女の子の上半身が顕になる。

 「キャャャァァァーーーッッ!」

 「へへっ。さすが犬っころだな。育ちが早いじゃねぇか」

 犬獣人の女の子の胸元を無遠慮に弄る若い男。

 「おいおいまたお前が最初かよ」

 尻尾を掴んでいる男がもう1人の男に笑いかける。

 「へへっ。何でもなぁ早いもん勝ちっていうだろうが」

 「まあすぐに変わるからよ」

 「おおよ、早めに頼むわ」

 「あんたたち懲りないねぇ。それこそ盛りのついた犬じゃない」

 「クックック」

 「「間違っちゃいねぇな」」

 「ちょうどいいや。この倉庫ん中に連れ込もうぜ」

 犬獣人の女の子を連れて倉庫の中に入った3人組。少し離れた場所に座って興味なさげに男たちを見る女子生徒。
 
 「いやっ!やめてよ!やめて!」

 抗う獣人の女の子をものともせず、強引に衣服を脱がして組み伏せる男たち。
 腰に下げた刀を放り捨てるように下に置いて。自らの下半身も脱ごうとしたそのときだった。

 サッッ!
 サササッッ!

 「えっ?!」

 「「俺の刀が‥‥」」

 音もなく刀に近づいた鼠獣人の男が2人の刀を手に逃げ去っていた。
 ズボンを脱ぐか脱がぬかの最中とあってどこまでも無防備な男たちの前に。
 いつのまにか獣人たちが3人を取り囲んでいた。

 「刀を手離したらダメだな学生さんよ」

 わははははは
 アハハハハハ
 ガハハハハハ

 「いかに強い帝都学園の生徒さんといえど刀がなきゃあな。ただの弱っちい人族のガキンチョよ」

 「「「違いねぇ」」」

 わははははは
 アハハハハハ
 ガハハハハハ

 「犬の子。早く行きな」

 コクコクコク‥‥

 涙目の犬獣人の女の子が衣服も着ずに逃げ去っていく。

 「お頭ーやっぱ俺たち同じ獣人にも怖がられてるぞー」

 「そりゃそうだ。だってたまたま人族がいたんだからな。あの犬の子1人なら‥‥」

 「「「ヘッヘッヘッ‥‥」」」

 「そりゃ今晩寝れねぇわなぁ」

 ガハハハハハ
 ワハハハハハ

 「お、お、お前ら‥‥」

 「獣人の分際で‥‥」

 「ど、ど、どうすんのよ!」

 「どうすんのよってオンナ、まさかこのまま済むわけゃねぇわな」

 「ガキンチョ2人もな」

 「さぁどうしたよ?学生さん。かかってこいよ」

 「う、う、うう‥‥」

 20人ほどの獣人の男たち。猿人、キツネ獣人、鼠獣人、牛獣人、蛇獣人‥‥

 「鼠以外は無駄に力も有り余ってっからな。オンナ、長い夜になるぜヒャッヒャッヒャ‥‥」

 「とりあえずガキンチョ2人は楽しく武闘の稽古かなっと」

 ブンッッッ!

 2メル近い大男の猿獣人が右手を力まかせに。未だ下半身を出したままの男の頭をぶん殴った。

 ゴキッ!

 「あ~オメーいきなりやり過ぎだっつーの」

 「だから猿は力だけは強いんだよな」

 ゲハハハハハ
 ガハハハハハ

 「まぁあれだ。殺すつもりはなかったけどな。1人やっちまった以上はオメーらも運が悪かったと思ってあきらめな」

 「う、うそ‥‥」

 「ま、マジか‥‥」

 「なぁ、た、助けてくれよ」

 「金なら家帰っていくらでももってくるから」

 「許して‥‥」

 「学生さんよ。学のねぇスラムの俺たちでさえ知ってんぞ。こういうときの言葉」

 「狐センセー教えてくれよ!」

 「そりゃオメーあれだ」







 






 『自業自得ってな』

 「キャーーーッッ」

 「助けてくれーーー!」



―――――――――――――――


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