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第2章 幼年編
510 パン工房 オープン当日
しおりを挟む『購入は1人2個までですからねー。ここから後ろに並ばれた人は売切れの可能性が高いですよー』
パン工房の一般販売に先だって学園販売。
午後からの購買(コンビニ)販売には4店舗のどの購買にも1列50人の行列が6列以上できたんだ。
購買部4店舗に廻したパンは、ジャムパン、揚げパン、バゲット(大)(小)、ソフトバゲット(大)(小)の各100個。6種類×100個の合計は600個。
1人2個を買ってもらうと300人でいっぱいいっぱいだろうな。
だから50人1列の合計6列がマックスになるはず。
そんなわけで5列め以降の学園生に向けて立て看板を掲げて声かけをするパン工房担当の狂犬団員。
『1人2個までー。これ以降は売切れの可能性が高いですよー』
それでもっていうか、やっぱりっていうか。
パンを求める行列には狂犬団員が危惧していたとおりのことが起こったんだ。
学園内では学年もクラスも関係なく、誰もが整然と並ばざるをえないはずなのに……。
「おいおいなんで俺らが1年のあとに並ぶんだよ!」
「どうして人族の私たちが獣人の後ろなの?」
こんなことを言って不平不満の声を上げているのは狂犬団員以外の人たち。
団員以外の賛助会員にもこんな人たちはいやしないよ。文句たらたらの人たちは間違いなく狂犬団に入ることも賛助することも拒んだ300人なんだ。
でもね、俺はこの300人がいてもいいって思ってるんだ。むしろいてくれてよかったと思ってる。
だって世の中がそうだから。善意の人たちだけじゃないのが現実なんだから。
学園内の誰もが同じ方向を向いてほしいけど、中には違う方向を向く人がいていいと思う。だってそれが人だから。
主義主張も違う学園生3,000人が小さな国であり小さな領なんだからね。
それでもさ。
決まり事を破るのはいただけない。年長者が先って考えも間違ってるし、人族優先で獣人差別なんかはもってのほかなんだ。
「えーっと何年何組の誰さんですか?」
「「なんでだよ(なんでよ)?」」
「なんでってもちろんわかりますよね?」
「「まさか‥‥」」
「ええ、この購買もパンも狂犬団のアレク団長が主宰してるから。団長こういうの1番嫌うんですよね?」
「「わ、わ、悪かった‥‥」」
「「た、頼む内緒にしてくれ‥‥」」
「気に入らないんでしょ?だったら団長に直接言ったらどう?」
「「「わ、わ、悪かったよ。なっ許してくれよ」」」
「アンタたち‥‥クズね」
すごすごと後列に並ぶ不満組だったそうだよ。
じーーーっ
くんかくんか
じーーーっ
パンを手にした学園生の誰もがガン見してから、くんかくんかして、またあらためてじっくりとパンを見つめる。そこから意を決して‥‥
パクっ
「うまっ!」
はむはむはむ‥‥
ゴクンッ
「「「うまああぁぁ~ぃぃっ!」」」
パクパクパクパクッ‥‥
「えっ!?もうなくなっちゃった」
「少ねぇ‥‥」
「足りないわ‥‥」
「「「もっと食べた~~~いっ!」」」
ジャムパンも揚げパンもバゲットも、どのパンを食べた学園生みんなが笑顔いっぱいだったと団員たちが言ってたよ。
「「団長大成功よ!」」
「「すごいわ、すごいわ!」」
パンを食べてくれた学園生みんなの笑顔に自信をつけたパン工房のスタッフだったんだ。
「さぁ次が始まるわよ」
「「そうだね!(そうだな!)」」
「「気合い入れてかなきゃ!」」
「「「おおーっ!」」」
パン工房前の販売所。
初日の今日は女性のみの販売を謳ったんだ。少なくとも大きな混乱にはならないだろうって思ったんだけどね……。
パン工房前の販売所では‥‥幾重にも重なった群衆がいたんだ。
そこには女性のみとは真逆の男性も含めて。わいわいわいわいと喧騒の中の群衆。
「「「まだかーー!」」」
「「「いつまで待たせるんだーー!」」」
「「「早く売ってよーー!」」」
「「「いい加減にしてよーー!」」」
そんな喧騒の中で学園生の呼びかけはまるで通じなかったんだ。
「並んでください!」
「今日は女性のみの販売です!」
「男性には販売しません!」
「うるせぇ学園生!」
「早くパンを寄越しやがれ!」
「早くしねぇと店の中に入るぞ!」
「「「だ、団長‥‥どうしたら‥‥」」」
やっぱりな。みんなは善意を信じてるから‥‥こうなるよな。
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