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第2章 幼年編
503 迫り来る悪意
しおりを挟む【 とある犯罪組織side 】
「バァムのおやっさんとこが潰されたってな」
「ああ」
「そりゃお前、エルフを奴隷にしてたのがバレたんだろ」
「あの御仁はやり過ぎたのさ」
「おおよ。エルフなんかを奴隷にしてりゃ国が黙っちゃいねえだろうしな」
「ああ。そりゃそうだ」
「バァムのおやっさんも歳とって詰めが甘くなっていたってことだな」
「そうだな」
「生かさず殺さずがこの世界の鉄則だからな」
「ああ。俺らの仕事は儲けも多いがリスクもデカいからな」
「なんせ捕まりゃよくて犯罪奴隷。まぁ縛り首の晒しもんが通り相場ってもんよ」
「おおよ」
「『危ない橋は渡るな、ヤバい奴には近付くな』
まぁ昔から言う鉄則どおりだな」
「ああきっちり守ってりゃ長く甘い汁を吸えるってなもんよ」
「だな」
【 別の。とある犯罪組織side 】
「バァムの屋敷跡に何やら新しい教会ができるってか?」
「ああ」
「俺が聞いたのは行く当てのないガキどもの施設らしいぞ」
「ああ俺もそう聞いたな」
「チャンスじゃねぇか?」
「ああバァムんとこには恐ろしい鬼(ナジロー)がいたからな」
「だな。これまでナジローに手出しして何人やられたことか」
「だけど‥‥」
「へへっ。もうおっかねえオーガはいねえよな」
「ってことは」
「あゝ。新しい狩場の誕生だわな」
「バァムの奴はしこたま儲けたからな。こっからは俺らの時代だな」
「んじゃ行ってくるか」
「「「おおよ!」」」
【 さらに別の。とある犯罪組織side 】
「で?」
「へい、おやっさん。あんま関わらねえほうがいいかもしれませんぜ」
「なんでだ?」
「ペイズリーを見た奴もいますし、帝都騎士団も絡んでますぜ」
「でも学園生がたくさんいたんだろ?」
「へい。海洋諸国のガキもいたそうですぜ」
「どこのだ?」
「ガバス一族の双子のガキがいたそうですぜ」
「ガバスならアイランドやベルーシュよりは扱い易いだろうが」
「そうっすね」
「だいたいが筋通してきてりゃあ考えなくもねぇんだよ!
だが海洋諸国が噛んでるなんて話まったく聞いてねえぞ!なあお前ら」
「「「へいおやっさん」」」
「ってことはだ。ちょっくらガバスんとこの双子のガキにゃあ痛い目に遭ってもらわねぇとな」
「「「へい!」」」
「示しがつかねぇってもんよ。そうだろテメーら」
「「「おやっさんの言うとおりでさぁ!」」」
バタバタバタバタ‥
「おやっさん!」
「なんでい?」
「アイランドの草がおやっさんに会いたいと来てますが?」
「なんでい。言ってたハナからきやがったか。狂犬のアイランドか?」
「へい。ベルーシュとガバスの草も一緒でさぁ」
「3族の草が揃って?そいつは珍しい組み合わせだな。通せ」
「お久しぶりです。おやっさん」
「ん?お前‥‥コジローかい?」
「へい。ご無沙汰しております」
「お前デグー一族の嫁もらって肩書きだけの冒険者を辞めてデグー一族に収まったって聞いてたんだが。
なんでお前がアイランドなんだ?」
「へいおやっさん。
話せば長くなるんですが、デグーとアイランドには前々からの約定がありまして」
「約定?」
「へい。この春にデグーの姫がアイランドの若との婚儀がまとまりデグーはアイランドと合流することになりました。
それでこれからはデグーもアイランドを名乗ることになりました」
「ほう。コジロー、お前ほどの男が下るほどかい?アイランドのガキは?えっーとなんだっけか?」
「若ですか。若はキム・アイランドです」
「そうそうキムだ。コジロー、お前やけに‥‥嬉しそうにしてやがるな?」
「そう見えますかい。おやっさん」
「ああ」
「そりゃ嬉しいなぁ」
「で、どうなんだコジローそのキムって野郎は?」
「はい。武力はもちろん統率力、カリスマ性は言うまでもなく極上。海洋諸国ならではの残忍さも申し分なし。
そう遅くなく海洋諸国をまとめること必定ですよ」
「そうかい。
コジローがそこまでべた褒めするとはな‥‥」
「で、元デグーのコジローがアイランドになり、ベルーシュとガバスの3族あわせてなんの用だ?
まさかどっかと戦争おっ始めるつもりじゃねぇだろうな」
「いえいえ滅相もないおやっさん。
1つお願いって言うか、世話になったおやっさんにアドバイスって言うかその‥‥」
「なんでい。もったいぶりやがって?」
「北区教会跡に建った物件。くれぐれも関わりになられぬようお伝えに参りました」
「ん?さすが情報が早い草ではあるな。が‥‥なぜか聞いていいかコジロー?」
「へい。その建屋を仕切るのは帝都学園生の小僧。そいつはうちの若の弟分なんですよ」
「‥‥よくわからんな。ってことはその小僧に手を出すとお前ら3族が相手になるっていうのかい?」
「ハハハハ。なにも海洋諸国が出張るっていうわけじゃないんですよ。逆に手出ししても一切お助けはしませんよっていうことを言いにきました」
「そりゃあどういう意味だコジロー?」
「その坊主、うちの若並、あるいはそれ以上の武力を持ちます。
そいつは手出してした相手を許すなんてことはまったくしません」
「‥‥」
「ああ、ちなみにバァムの館含む全てを壊したのはその弟分の坊主でして」
「なに!?」
「学園生の子分、それもたまたまなのかなんなのか、ガバスの双子の片割れらしいんですがね、捕まったそいつを取り返すついでにバァムの館の用心棒‥‥わかりますよね、鬼と恐れられた男を倒したのもその小僧ですよ」
「ほ、本当か?」
「おやっさんに嘘をつく理由もありませんよ。ガバスの草はその様子を観てたんだろ?」
「コジローさんがおっしゃるとおりです。坊主‥‥アレクさんは次元が違いやす。とてつもなく強いです」
「そんなことあるわけねぇだろ!」
バアアァァァァンンッ!
そのとき。勢いよく扉を開けて中に入ってきた男が叫ぶように言った。
「お前‥‥キュウか?」
「ああ久しぶりだな。コジローの兄貴は嫁もらって腑抜けたんじゃないのかい?
昔の兄貴だったら帝都にいるどんな奴らも片っ端からその大刀の餌にしてたはずだ」
「フッ。小僧だったテメーが随分と大きな口を叩くようになるったな」
「おおよ!いつまでも小僧じゃねぇ!俺も今じゃ若頭筆頭のキュウ様よ」
「でそのキュウ様がなんとする?」
「目障りだったバァムの奴らもいなくなった。あの鬼もいねぇ。
教会かもしんねぇが海洋諸国のガキが噛んでるんなら、うちのそばで好き勝手やられちゃ俺らの立つ瀬がねぇんだよ!」
すかさずガバスの草が言葉を発した。
「若頭、それはガバス一族と敵対するってことですかい?」
「仁義通さなかったのはテメーらだろうが!」
「言いたかなかったがキュウ‥‥」
「なんでい!コジローの兄貴よお!?」
「うちの若の弟分でもあるその坊主。
アレクサンダー前陛下をオヤジと呼んでるぞ?ついでながらペイズリー閣下も可愛がってるらいしぞ?」
「本当かコジロー?」
「はい、おやっさん」
「‥‥」
「キュウ、お前それでも闘るかい?」
「そ、そんなこと知ったこっちゃねぇ!うちに仁義通さねぇガキなんぞその身体でわからすしかねぇだろうが!」
「キュウ‥‥お前のその蛮勇が一家を滅ぼしてもか?」
「そ、そ、そんな馬鹿なことあるか!そいつは未成年なんだろ?
そんなガキを認めるなんざぁコジロー兄貴もすっかり落ちぶれたな!」
「そうか‥‥おやっさん、キュウがうちの若の弟分と闘るってことでいいんだな?」
「コ、コジロー‥‥」
「俺は大恩あるおやっさんに嘘なんかついたことは1度もねぇ。それでもおやっさんは一家上げてキュウが闘るのを認めるのかい?」
「コ、コジロー‥‥わしはどうしたらいい?」
「おやっさん。キュウと坊主が『個人的』に闘るってんなら俺が間に立って話をしますぜ。
もしそこでキュウが勝てばたとえ小僧が死のうが俺は文句を一切言わんし、陛下たちにも何も言わずにいましょう。
逆にキュウが死んでもおやっさんは文句は言わない。それでどうでしょう?」
「‥‥わかった。その小僧が強いかどうかは別として、キュウとその小僧の一戦を組んでくれねぇか。
正直コジロー、お前を敵に回したくはないしな。だいたい皇帝陛下やペイズリーを敵に回したらこの国で生きていけなくなるしな。
この件、すべてコジローに任せる」
「おやっさん、わかってくれましたか。恩にきますぜ。
ガバスの草。悪いがさっそくアレクに言って話をつけてきてくれ。明日の午後こっちで闘るからついてきてくれってな」
「はいコジローさん」
「ああ、そんとき俺の名前を出したらいい。アレクは必ず来るだろうからな」
「了解です」
そう言うなり即座に消えたガバスの草。
「キュウ‥‥お前死ぬぞ」
「未成年の小僧だろ?そんなことあるわけねぇわ!」
「フッ」
「冒険者でも鉄級じゃ2、3人相手にしても素手でも俺は負けねぇんだ!」
「キュウ‥‥まぁいい。
お前1人じゃ話にもならんからな。
何人でもいいから明日までに助っ人を用意しとけ。刀でも矢でも魔法でも毒でもいいからな。
但し‥‥小僧だったお前を可愛がった俺からのせめてもの温情だ。
明日は単に小僧と力比べをしろ。間違っても要らんことを言って小僧を怒らせるなよ。怒らせると俺でも止められないからな。」
「へっ!その小僧は明日手足もいでから土下座させてやるよ!」
そう言ったキュウが入ってきた勢いと同じように荒々しく退室していった。
「コジロー‥‥その小僧はそれほどか?」
「おやっさん言いたかねぇが‥‥本家のおやっさん以下、傘下全員引っ張りだしてもあいつには勝てませんよ。それは俺が確約する」
「キュウは‥‥殺されるのか?」
「怒らせなければ大丈夫でしょう。
ただ‥‥あいつは阿呆だから怒らせなくてもいい奴を怒らせる。下手すりゃおやっさんも危なくなるから、明日は俺が横でおやっさんをお守りしますぜ」
「す、すまねぇ‥‥」
「クックック。ああおやっさん、あいつの2つ名は狂犬でした」
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