アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

499 ヴァンドルフ

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 鍛冶屋街は南区の貧民街に隣り合わせであった。差別の少ない帝国といえ、その場所からは決して待遇が良いとは言えないんだよな。てかどこにいっても差別する奴がいるんだろうな。


 中原にいる最大多数を占める人族は自分たちが1番だと思い込んでいる節があるんだ。

 そして人族の下にドワーフ族、獣人族がいるって思い込んでいる。エルフ族は人族と同等もしくは人族の上って思ってる節があるのは数は少ないけど優れてた容姿を持つエルフ族だからだろうな。

 実際のエルフ族は自分たちだけが優れているという選民思想が強く、他人種を劣ったものとしているっていうんだけど、なんだかなぁ。


 俺が1年世話になる帝国は、王国のヴィヨルド領のお手本というか先生的存在なんだ。だからドワーフ族、獣人族の差別はかなり少ないよ。それでもさ。貧民街の隣ってのが嫌だな。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥‥

 今日はようやく到着した時計をリアカーに積んで持ってきたんだ。


 橋を越えて鍛冶屋街に入った。

 ギャッギャッギャッギャッ‥

あーガッツリ鍛冶屋街だ。トカゲ(サラマンダー)がそこらじゅうにいるよ。

 「ようトカゲ」

 「ん?珍しいなヒューマンか?ヒューマンと話すのは300年ぶりだぞギャッギャッ」

 「なあヴァンドルフさんの工房ってどこよ?」

 「ああヴァンんとこか。そのまま真っ直ぐ、突き当たりの家だぞ」

 「ありがとな」

 「やめとけヒューマン。あいつは変わりもんだぞ」

 「いや逆に変わりもんじゃないドワーフなんているのかよ!」

 「ちげぇねえやギャッギャッギャ」


 ヴァンドルフさんはヴァルカンさんとミューレさん兄妹の従兄弟なんだ。やっぱり帝国の至宝とか2つ名があるんだろうな。


 「ごめんくださーい。おじゃましまーす」

 ギャッギャッギャッギャッ‥
 ギャッギャッギャッギャッ‥
 ギャッギャッギャッギャッ‥
 ギャッギャッギャッギャッ‥

 「ヒッ!!」

 なんだよお前ら!?
いきなりトカゲが4匹並んで俺を待ち受けているんだもん。

 「「「やっと来たかアレク。ギャッギャッ」」」

 その中のリーダーらしいトカゲが言ったんだ。

 「5月になればお前が来るってヴァルカンから手紙が来てたのにお前ぜんぜんこねぇじゃないか!」

 「「「遅いんだよ!テメーはよぉ」」」

 「「「ほんとだぜ!ギャッギャッ」」」

 「すんません。遅くなりました‥‥」

 なんで俺が謝らなきゃいけないんだよ!

 「だってサラマンダーじゃん!ドワーフじゃん!口が悪いのはふつうじゃん」

 ああそうでした。たしかにシルフィの言うとおりだ。

 「「「行くぞアレク!」」」

 「「「ヴァンが待ちくたびれてんだぞ!」」」

 「は、はいトカゲさん‥‥」

 ギャッギャッギャッギャッ‥

 トカゲに連れられて階下の工房に向かう。どこも変わらない薄暗い鍛治工房だ。

 「相変わらず汚ないわね。ミューレの工房だったら入れるけど、これは私はムリ。
 アレク私先に帰ってメルティーと遊んでるわよ」

 「うん」

 シルフィがそう言って帰っていった。俺は小汚いのには慣れてるからね。てかヴィヨルドのマーレさんの工房が綺麗なほうが不思議なんだよ。

 ヴァンドルフさんとお弟子さん3人がいる鍛治工房の中に入った。

 「おうアレク来たか」

 「遅くなりました」

 「俺がヴァンだ。よろしくな」

 「よろしくお願いします」
 

 うーんヴァンさんってヴァルカンさんに似てるっていえば似てるよな。
俺と変わらない背丈のビア樽体型。毛むくじゃらなのはイメージどおりのドワーフだな。

 パチパチパチパチパチ‥‥

 「「「待ってたぞー(待っとったぞー)」」」

 お弟子さんたちが拍手で迎えてくれる。ん?俺歓迎されてる?


 「「「おぉーこれが時計か!!」」」

 なんだよ!歓迎してたのは俺じゃないんかい!
 挨拶もそこそこに俺が持ってきた時計に群がるドワーフ4人。

 こうなったら止まらない。キラキラした目線を時計に注ぎああだこうだとやり出した。

 あーやっぱドワーフだよ。モノづくりと酒にしか興味がないんだよな……。


 「アレクこいつはバラしてもいいのか?」

 ヴァンさん(ヴァンドルフさん)がキラキラした眼差しを俺に向けて言った。

 「いいよ」

 俺はもういくつも発現したから、時計の構造から全部覚えたんだよね。

 「でこの時計を作ればいいんじゃな」

 「うん。話が早くて助かるよ」

 「帝都から商業ギルドに、金も振り込まれてるからな」

 「ふーん」

 話の流れから、当然今から時計をバラすところから始まるって思うよね?でも違ったんだ。

 「「「そろそろか」」」

 「「「ああ」」」

 ゴーン  ゴーン  ゴーン‥

 微かに鐘の音が聞こえる。

 「「「ヨシ5点鐘だ。帰るぞ」」」

 えっ?お弟子さんたち3人のドワーフたちが帰り支度を始めたんだ。

 「「「親方お疲れーっす」」」

 「ああお疲れさん」

 「「「アレクまたなー」」」

 えっ?!えーーっ?!
 あっという間にお弟子さんたちが帰っていった。

 「えっ?!」

 どういうことだよ?何が起こった?

 「びっくりしたかアレク」

 「うん。まだ仕事中だよね?てかまだ仕事終わってないじゃん」

 「ああ」

 「じゃあなんで帰るんだよ!?」

 「それはな、帝国のドワーフ議会で決まったからなんだよ」

 「何を?」

 「午後の5点鐘が鳴っ
たら終わりってな」

 はあ?なんだよそれ?向こうの世界の話かよ? 
 

 「「「遅くなりましたー!親方ちーす」」」

 今度はなんだよ?

 「「「お前がアレクだな。よく来た!おぉー時計が来たぞ!」」」

 はっ?

 「今度は夜勤だよ」

 




 「どういうこと?」

 「帝国だけじゃねぇぞ。いずれは王国も、いや中原全土でもそうなるだろうな。働く者の権利を守れってな」

 「マジ?」

 「ああマジだ」

 「まあ帝国はお前らの王国の2、30年は先にいってるからな。
 そんでも帝国のこの流れはいずれ王国にもいくぞ」

 「ええー?!」

 定時の労働かよ。

 「いつかは世の中平和になるんだろうな。
 そんときはどんな世の中になってるんだろうな」

 「ヴァンさんはどうなると思う?」

 「そりゃ平和がいいに決まってる。だから鍛治の刀も人や魔獣を斬るだけに特化したもんじゃないものを作りたいよな」

 「人を斬る以外?」

 「たとえば料理の刀とかな。対象を問わず斬るということのみを追求した技術、あるいはお前が持ってきてくれた時計みたいにヴァルカンやマーレと技術力そのものを競っていきたい世の中よな」


 いずれくる平和な世界か。どんなだろう。


 「じゃあヴァンさんまた来るよ」

 「おぉいつでも来い」

 ヴァンさんは俺が持ってきた土産の酒もめちゃくちゃ喜んでくれた。夜に1人で飲むんだって。でも信じられないけどヴァンさんは人族並で酒が弱いんだって。


 「ヴァルカンやマーレからは信じられねぇだろうがな、『酒飲みに行くぞ』なんて誘っても今の奴らは平気で断ってくるからな。まっ、時代なんだろうな」

 少し寂しそうな顔をしてヴァンさんが言ったのが印象的だったんだ。


時計は帝都学園に1つ、4つの教会に4つと合計5つにかかる費用は帝国側からギルドを通してヴァンさんたちに支払われるそうだよ。






 「団長、商業ギルドから連絡がありましたよ。学校の先生をやってもいいって人が3人揃ったんですって」

 「そっか。じゃサラさんと商業ギルドに行くから時間決めといて」

 「わかったっす」


―――――――――――――――


 いつもこんな平和な話だといいんですが。
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